第72回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題T)

1.見逃された腰椎外側病変

*大分整形外科病院 
**自衛隊別府病院整形外科

 

○*ファンジョージ、*大田秀樹、*松本佳之、*森下雄一郎、**巽 政人、*竹光義治、*木田浩隆

 

はじめに
腰椎椎間孔狭窄は診断に難渋することが多く、すべての腰椎変性疾患に合併し得るため、腰椎変性疾患の治療の際には、常にその存在の可能性を考慮しなくてはならない。今回我々は、追加再手術を要した見逃された腰椎椎間孔狭窄の2例を経験したので報告する。

症例
症例は77歳女性と53歳女性。前者は前医にて腰部脊柱管狭窄症の診断にてL3 – 4−5 laminotomyを施行、後者は右L4-5MED後の再狭窄およびL4変性辷り症に対しL4-5 TLIFを施行した。術後、両例とも下肢痛(L5根症状)の残存を認め、保存治療に抵抗を示したJOA scoreは9点および3点であった。

結果
画像にて両例ともL5 -S椎間孔での狭窄所見を認め、前者は更にL4変性辷り症とL2-3椎間の狭窄所見を認めた。前者はL2-3 laminotomyとL4 -SPSF、L5 -S TLIFを、後者はL5-S TLIFを追加施行した。術後両例とも下肢症状の軽快を認め、術後早期でJOA score 24点および23点まで改善した。

まとめ
腰部脊柱管狭窄症の診断の際、脊柱管内病変に意識が集中し、外側病変を見逃すことがある。診断の際は、脊柱管内のみならず、椎間孔内病変についても十分に吟味する必要がある。

 

2.巨大L5横突起基部にて椎間孔外で神経根障害を来した1例

 

独立行政法人国立病院機構呉医療センター 

 

○濱崎貴彦(はまさきたかひこ)、倉都滋之、安本正徳、信貴経夫、蜂須賀裕己、仁井谷学、伊村慶紀、杉田憲彦、杉  田 孝


【症例】60歳女性。これまで腰痛・左下肢痛が3度出現したが、1週間くらいで軽快していた。 2009年3月疼痛再燃し、徐々に増強して歩行困難となった。左L5神経根支配領域の疼痛により座位、立位が難しく、左母趾伸筋腱MMTは4、 Kemp徴候は左で陽性、 JOAスコアは4点/29、VAS1OOであった。腰椎レントゲン正面像にてL5椎体より腸骨にむけて約6cm伸び、腸骨稜と関節を形成する巨大な左L5横突起を認めた。MRI・脊髄造影後CTでL4- 5高位で軽度の脊柱管狭窄、左L5神経根造影では椎間孔外で途絶し脊柱管内に流入しない像が確認された。神経根ブロックは1時間ほど著効したが、その後まもなく疼痛再燃したため、手術施行(L4-5左脊柱管内開窓術+L5-S 左外側開窓術)した。左L5神経根は脊柱管内では所見を認めず、左L5横突起、左L5-S椎間関節を指標に外側開窓していったところ、左L5横突起と仙骨の間に存在する靭帯(lumbosacralligament)により絞扼されていた。術直後より疼痛は軽快し、退院時JOAスコアは17点/29、VAS25であった。

 

3.腰椎椎間孔狭窄における圧迫因子の検討〜椎間孔ヘルニアとの比較検討〜

 

総合せき損センター 整形外科1)
下関市立中央病院 整形外科2)

 

○林哲生(はやしてつお)1)、白澤建蔵2)、山下彰久2)、植田尊善1)、前田 健1)、森 英治1)、弓削 至1)、河野 修1)、芝啓一郎1)

 

目的:椎間孔部での神経根障害の病態を臨床所見や画像所見から検討することである。

対象および方法:腰椎椎間孔狭窄もしくは椎間孔ヘルニアの診断にて1椎間のみの手術を施行した34例を対象とした。臨床症状は安静時痛・腰椎手術既往・JOAスコアを検討し、単純]線はCobb角・障害椎間のdisc wedge angle・側方すべり・前後すべりを計測し、CT横断像では椎体回旋度および椎間関節の亜脱臼を調査した。椎間孔狭窄群(以下FS群) 17例と椎間孔ヘルニア群(以下FH群) 17例との2群に分類し比較検討した。

結果:安静時痛は19/34例(56%)、腰椎手術の既往は9/34例(27%)に認められた。Cobb角はFS群11.3°/FH群3.2°、 Disc wedge angleはFS群5.2°/FH群0.4° 、側方すべりはFS群3.0mm/ FH群0.2mm、椎体回旋はFS群3.4°/FH群0.1° 、椎間関節亜脱臼はFS群7例/FH群0例であった。Cobb角・Disc wedge angle・側方すべり・椎体回旋・椎間関節亜脱臼はいずれの項目もFS群が有意に大きかった(p<0.05)。

考察:椎間孔狭窄は変性側等症に多く、障害側のwedgingや側方すべりに加え、肥厚した椎間関節の回旋性すべりや不安定性が原因となる症例が多かった。

 

4.腰椎椎間板外側ヘルニアの検討(術中所見を中心に)

 

佐田厚生会佐田病院 整形外科 

 

○藤原将巳(ふじわらまさみ)、井口明彦

 

秋山とおる整形外科 
  秋山 徹

 

【はじめに】当院では、椎間板性腰痛及び不安定性の無い腰椎椎間板外側ヘルニア症例に対して、主に顕微鏡下外側開窓+ヘルニア摘出術をおこなってきた。術中所見(ヘルニアタイプ、圧迫方向、神経根発赤等の有無)と臨床所見との関連について検討を加えたので報告する。

【症例】 H17年1月以降H21年8月までに当院での外側型ヘルニア手術症例40例(男性23例 女性17例)、手術時年齢は45歳〜84歳(平均67.2歳)であった。ヘルニアはcontained type,non-contained typeに分け、占拠部位(椎間孔内、外、内外)、他の圧迫因子(上関節突起など)の有無、神経根の圧迫方向(尾側、腹側直下)について調査した。

【結果】神経根を腹側直下から圧迫するヘルニア症例、神経根の発赤が認められた症例で術前旧JOAscoreが低かった。また直下型で、神経根が扁平化された症例では、除圧時に慎重操作を要する。

 

 

5.腰椎椎間孔外狭窄症におけるL5神経根ブロックの役割

 

荒尾市民病院 整形外科 

 

○前田勇一(まえだゆういち)

 

(はじめに) L5神経椎間孔外狭窄症の報告は、以前より散見される。その診断法についても、最近いろいろと報告されているが、神経根ブロックの有用性以上の確かさについては現在のところ不明である。 L5神経根ブロックを行った自験例につき報告する。

(症例)腰椎椎間孔外狭窄症は3例であり、いずれも保存療法が無効で腰椎椎間孔外のL 5神経後方除圧術(主として腰仙靱帯・仙骨翼部分切除術)で症状が消失したと思われる者達であった。

(結果)腰椎椎間孔外狭窄症と診断された症例のL5神経根ブロック像では、全例にL5/Slでの狭窄像が見受けられた。

(考察)腰椎椎間孔外狭窄症についての認知度は、近年高まっており、各施設の症例数も増えた。しかし、その診断になると、いまだに神経根ブロックしかないため新たな検査法である3D-MRIや浅腓骨神経SNAPが期待された。当科でも双方を施行したが、診断の有力な拠り所というよりあくまでも補助診断としての価値が高いという印象を受けた。このため、現在のところ、神経根ブロックが唯一の確実な検査法であると思われた。

 

6.腰椎外側開窓術後に生ずるRSD様下肢痛

 

島原整形外科 西村クリニック  

 

○西村行政(にしむらゆきまさ)

 

【目的】腰椎部の外側神経障害に対する外側開窓術は有用な術式であるが、稀に術後一過性に強い下肢痛をきたす例がある。今回腰椎外側開窓術後にRSD様下肢痛を生じた例を検討した。

【対象】腰椎外側開窓術を行った例は161例あり、外側ヘルニア119例、外側根障害42例で、そのうちL5/Slレベルが76例で、これらを対象とした。

【結果】 RSD様下肢痛を生じた例は161例中4例(2.5%)であり、 4例ともL5/Slレベル(L5/Sl例のうちの5.3%)であった。男性3例、女性1例で、術後より、下腿外側から足背のビリビリした激しい痛みとシビレを訴えた。術後10日から1カ月間ほど坐薬やペンタジンの使用を要し、2例で神経根ブロックを行った。 4例とも術後2カ月から8カ月で、症状は改善した。

【考察】このように、特にL5/Slレベルの外側除圧術後にはRSD様下肢痛を生じる例があり注意を要する。特徴として、殿部や大腿部痛は消失しても下腿外側から母趾にかけてのビリビリした激しい痛みが生じ、夜間に痛みが強かった。