第73回西日本脊椎研究会  抄録 (脊椎外傷(頸椎) )

1.当院における上位頸椎の治療成績

 

神戸赤十字病院 整形外科 

 

○森田卓也(もりたたくや)、伊藤康夫、越宗幸一郎、水野正一郎

 

【目的】当院における上位頚椎損傷の治療成績について報告する。
【対象】2003年10月から2009年12月までに当院及び災害医療センターで治療を行った上位頚椎損傷の33例を対象とした。男性17例,女性16例,受傷時平均年齢61歳(17〜89歳)であった。

【検討項目】受傷機転,ASIA impairment scale(AIS),骨折型,手術法,合併損傷,合併症,転帰等について検討した。
【結果】受傷機転は交通事故20例,高所転落7例,転倒6例であった。受傷時AISはA2例,Bl例,C4例,D3例,E20例であり,最終診察時のAISはAl例,Bl例,C4例,D4例,E20例であった。骨折型はJefferson骨折1例,Hangman骨折7例,歯突起骨折12例,環軸椎複合骨折1例,回旋位固定1例,環軸椎亜脱臼2例,その他9例であった。手術法は25例に後方固定術を,歯突起骨折の4例に歯突起screwによる固定術を,2例に骨接合術を,2例にハローベスト固定を行った。合併損傷は胸腹部臓器損傷17例,他部位の脊椎損傷5例,頭部外傷5例,四肢骨折11例,骨盤骨折5例,椎骨動脈損傷による脳梗塞1例であった。転帰は,自宅退院15例,転院18例であった。

2.軸椎歯突起骨折に対する環軸椎後方固定術での仮骨不良例の経験

 

熊本大学大学院生命科学研究部運動骨格病態学分野  

○藤本 徹(ふじもととおる)、瀬井 章、谷脇琢也

【目的】軸椎歯突起骨折に対する観血的治療は前方スクリユー固定術が一般的だが、整復不良例や高齢者の場合は環軸椎後方固定術が選択される。今回後方固定術を施行した5例のうち2例にC1後弓・C2椎弓間の骨癒合不全を認めたので報告する。
【対象】 2005年4月以降に環軸椎後方固定術を施行した男性2例・女性3例,受傷時年齢は平均69歳(56〜77歳)で,経過観察期間は平均32カ月(24〜40ケ月)であった。術式はMagerl & Brooks法1例, Harms 法2例, Hemilateral Harms & Brooks法2例,Crossing C2 laminar screws法1例である。
【結果】全例歯突起の骨癒合は良好で,環軸椎アライメントも維持されていた。 75歳女性のHemilateral Harms & Brooks法と77歳女性のC2 laminar screws法の2例に於いて,スクリューのルーズニングとC1後弓・C2椎弓間の移植骨の吸収を認めたが、日常生活に支障は無かった。
【考察】 High riding VAの為に片側固定やC2laminar screwを用いたが,ルーズニングと仮骨不良例を経験した。高齢女性の骨粗鬆症に伴うスクリューの固定不足と考えられるが, Magerl法は固定性が高くHigh ridingVA の存在下でも刺入可能だとする報告もあり,高齢者の場合は検討すべきだと考える。

3.非常に稀な第2頚椎前方脱臼の1例

 

大分整形外科病院*、自衛隊別府病院**

○酒井 翼(さかいつばさ)、大田秀樹*、松本佳之*、中山美数*、木田浩隆*、竹光義治*、巽 政人**

【抄録】
我々は非常に稀とされる第2頚椎前方脱臼を経験したので報告する。症例は75歳男性、2008年4月夜中に自宅でうがいをする際、バランスを崩して後方に転倒し、敷居で後頭部を打撲した。頚部痛が強く、近医に救急搬送され、上記診断をうけ、直ちに当院に転院した。入院時右頚部の痺れ、腫脹、疼痛が強かったが明らかな神経脱落症状は認めなかった。単純X線とCTでは明らかな骨折は認めなかったが、第2頚椎が前方に10mm 脱臼しており右側椎間関節嵌合型であった。MRIでは後方の軟部組織に出血と思われる信号強度変化を認め、第2頚椎の椎弓前面と第3頚椎椎体後縁の間で脊髄が圧迫されていた。受傷翌日に全身麻酔下で後方より手術を行った。術中所見は、傍脊柱筋は広範囲に損傷をうけ出血しており、第2第3頚椎棘突起間は開大し、右椎間関節は嵌合し、左は亜脱臼位を呈していた。これらを整復して腸骨からの半層骨移植と棘突起間ワイヤリング固定を行った。術後疼痛は改善し、整復位での骨癒合が得られ、神経脱落症状も認めなかった。

4.脊髄損傷を免れた第6頸椎脱臼骨折の1例

 

鳥取県立中央病院整形外科

○村田雅明(むらたまさあき)

【抄録】第6頸椎の脱臼骨折で、椎弓骨折をともなったために脊髄損傷を免れた1例を経験したので報告する。
【症例】49歳男性。コンバインで作業中、バックしていて後頭部より転落した。受傷直後は全身に痛みが走り、両肩痛、両上肢脱力、右下肢痛、左下肢脱力が出現し当院に救急搬送されたが、搬送中に下肢症状は消失した。来院時神経学的には両側C7,8領域に3から4程度の筋力低下を認めた。下肢は知覚・筋力正常、腱反射の亢進も認めなかった。体動時に左頚部から肩甲部に激痛を認めた。画像ではレントゲン、 CTでC6/7椎間関節の両側脱臼、 C7上関節突起骨折、 C6椎体の約60%の前方転位を認めた。しかしC6椎弓の両側に骨折をともなっていたため、 MRIでは脊髄の圧迫はほとんど認められず、中央部に軽度の輝度変化を認めるのみであった。翌日後方よりC6椎弓切除し脱臼整復、局所骨と外側塊プレートを用いたC6-7後方固定を行い、腸骨を用いたC6-7前方固定術を追加した。術直後より左頚部から肩甲骨の痛みは消失し、上肢の麻痺は術後約1ケ月でほぼ軽快した。術後6ケ月のレントゲンで頸椎のアライメントは良好に保たれていた。

5.絞首による頚椎脱臼骨折後に救命した一例

 

北海道中央労災病院せき損センター

○森平 泰(もりだいらひろし)、須田浩太、揖野知道、笹沢史生、上田明希、中尾弥起、東條泰明

【症例】56歳、女性。自宅内にて成人男性による絞首によって受傷した。早期に発見され三次救急病院にて救命処置をうけた。低酸素脳症は認めなかったが、完全四肢麻痺があり、自発呼吸微弱のため気管内挿管された状態にて、受傷翌日に当院に紹介された。頚椎はC3/4レベルにおいて強い不安定性を伴って脱臼転位していた。MRl上、椎間板は破断し、棘上棘間靭帯、椎間関節の離開を認めた。また同部において、脊髄の広範な髄内信号変化を認め、頚髄損傷による完全四肢麻痺と診断した。同日、緊急手術を施行した。 C3にて左側の外側塊骨折を認めたため、C2〜5の右側の椎弓根スクリュー固定と棘突起ワイヤリングを併用して整復固定した。同時に気管切開を行った。術後気道管理ならびに早期より肺理学療法を行い、合併症もなく経過している。受傷後2ケ月の現在、四肢完全麻痺であるが、日中のみ人工呼吸器を離脱している。 
【考察】紋首による前方より後方にむかう強い、鈍的な外力が加わり、上位頚椎で屈曲しながら脱臼転位し頚髄損傷を生じたと考える。