第73回西日本脊椎研究会  抄録 (パネル)

25.有限要素法を用いた非骨傷性頚髄損傷発生メカニズムの解明 (健常者モデルと椎間板変性モデル)

 

山口大学大学院整形外科 

○今城(いまじょう)靖(やす)明(あき)、柊  軍、加藤圭彦、寒竹 司、鈴木秀典、田口敏彦

 

【目的】非骨傷性頚髄損傷発生に椎間関節の形態と椎間板の変性が影響することを有限要素法(finiteelement method以下FEM)を用いて検討した。
【対象と方法】健常な29歳男性の頚椎CT写真からC3-C4の健常FEMモデルを作成した。椎間関節の形態による影響を比較するため、facet joint inclinationが30°,45°,60°の3種類のモデルを作成した。椎間板変性モデルは健常モデルの椎間板から髄核を取り除き作成した。C4椎体下面を不動としC3椎体上面に73.6Nのpreloadと1.800Nmmの伸展モーメントを加え、 C3椎体の伸展角度、 C3椎体後下線からC4椎弓上縁までの距離(以下d)を計算した。
【結果および考察】伸展角度は両者ともに60°モデルが最大であった。dは両者ともに60°モ デルが最小であった。変性モデルが健常モデルより伸展し、d値が小さい傾向にあった。中高齢者を想定した椎間板変性60°モデルは頚椎伸展に伴う非骨傷性頚髄損傷を起こし易しいと推察した。

26.非骨傷性頚髄損傷における軟部組織損傷

 

総合せき損センター 整形外科・リハビリテーション科* 

○前田 健(まえだたけし)、植田尊善、森 英治、弓削 至、河野 修、高尾恒彰、坂井宏旭、出田良輔*、芝啓一郎

【はじめに】非骨優性頚損における軟部組織外傷を、MRI (ALL断裂、椎間板損傷、椎体前方の浮腫状変化)にて評価し、さらにXp上の当該椎間不安定性との関連を評価した。また、 ASIA motor scoreで示される麻痺重傷度との関連についても検討を行った。
【対象】1998〜2009間、受傷後2日以内に当センターを受珍し、 MRIや機能撮影が得られた88例(平均64歳)を対象とした。前方脱臼の自然整復例などは除外した。
【結果】 MRI上、ALL断裂:44例、椎間板損傷:37例、椎体前方の浮腫状変化: 76例であった。それぞれXp上の椎間不安定性と有意に相関していた。また、これらの所見はASIA motor scoreとも有意に相関していた。
【結語】非骨傷性頚損といえども、初期の椎間不安定性と関連した軟部組織損傷が高頻度に認められる。

27.非骨傷性頚髄損傷の臨床疫学的特徴一全国労災病院脊髄損傷データベースの検討から一

 

山口労災病院整形外科1)、
関西労災病院リハビリテーション科2)

 

○富永俊克(とみながとしかつ)1)、黒川陽子1)、屋良貴宏1)、片岡秀雄1)、城戸研二1)、住田幹男2)

 

【はじめに】非骨傷性頚髄損傷はこれまでに、高齢者が、比較的軽微な損傷で、しばしば中心性頚髄損傷を呈し、比較的に予後良好といった臨床的な側面が明らかにされてきた。しかしながら、転帰も含めた大規模調査は少なかった。
【対象と方法】そこで、今回、全国労災病院脊髄損傷データベース(1996年度〜2007年度に退院した3007名)のうち、頚髄損傷で、受傷から2ケ月以内入院例で、性差、年齢、受傷原因、転帰、合併症の有無、麻痺の推移、転帰などが明らかな1316名を対象に、これを非骨傷性712名と骨傷性604名に分類して比較検討した。
【結果】非骨傷性頚髄損傷は平均年齢61歳であり、骨傷性の50歳に比べ高齢であった。最頻機能レベルはC4であった。 ASIA機能尺度では完全麻痺Aが入院時で15%、退院時で10%に認めた。経年的に増加傾向を認めた。全体の半数以上は歩行可能となり家庭復帰できていたが重度麻痺を残し転院する例も多かった。
【考察】様々な病態を含んだ疾患概念と考えられる。

28.当院における非骨傷性頚髄損傷の検討      

 

長崎大学整形外科

○日浦 健(ひうらたけし)、馬場秀夫、田上敦士、安達信二


【はじめに】当院における非骨傷性頚髄損傷を前半と後半に分けて検討したので報告する。 【対象と方法】 2003年5月以降に当院で初期治療を行った非骨傷性頚髄損傷患者は40人であり、2006年12月までの19人を前期群、それ以降の21人を後期群とし、年齢・初診時Frankel分類・OPLL合併率・最終診察時の改善率を比較検討した。
【結果】平均年齢は、前期群が67歳、後期群が66歳であった。初診時Frankel分類は前期群でA:2例、B:1例、C:6例、D:10例であった。後期群ではA:5例、B:4例、C:6例、D:6例であった。完全運動麻痺であるFrankel : A・Bは前期群が3例(15%)であるのに対し後期群は9例(43%)と麻痺が高度である傾向があった。OPLL合併率は両群とも7例であった。最終診察時にFrankel : A-CがD以上に改善したものは早期群で33%、後期群で26%であった。
【考察】年齢・OPLL合併率・改善率に差は無かった。受傷時のFrankel分類が後期群で悪い傾向にあった。

29.若年者の非骨傷性頸髄損傷について 

 

総合せき損センター 整形外科  

○高尾(たかお)恒(つね)彰(あき)、弓削 至、芝 啓一郎、植田尊善、前田 健、森 英治、河野 修、坂井宏旭、益田宗彰、宿利知之、林 哲生 

【はじめに】非骨傷性頸髄損傷は高齢者に多いが若年者にも見られる。
【対象および結果】40歳未満の若年者30例と、麻痺レベルを一致させた70歳以上の30例を対象とした。改良Frankel分類での入院時麻痺と転帰、合併症、頸椎症性変化の有無、損傷高位を調査した。損傷高位はC3/4が最多で、脊椎症性変化は若年群で中等度以上は見られず、高齢群で中等度以上が66.7%と全例に見られた。若年群でC3/4損傷16例中同部に脊椎症性変化を認めたのは18.7%、 C4/5以下にも75%は脊椎症性変化はみられなかった。高齢群ではC3/4損傷17例中同部に脊椎症性変化を認めたのは41.2%、 C4/5以下には全例に見られた。 【考察】 C4/5以下の脊椎症性変化で可動性が悪くなり、過伸展外力がC3/4に集中するた めC3/4高位損傷が多いとの報告がある。特に若年者では同部での脊椎症性変化は18.7%と直接的な関与は少ない上に、C4/5以下にも75%は脊椎症性変化はみられなかったことより間接的な関与も否定的であり今後の研究課題である。

30.非骨傷性頚髄損傷例に対する手術的治療の適応とその有用性

 

おか整形・リハビリクリニック1)
香川大学医学部整形外科2)

○岡 史朗(おかしろう)、有馬信男、渋谷 整、小松原悟史

 

【目的】非骨傷性頚髄損傷例に対する手術的治療の適応と、その有用性について検討した。【対象】対象は、受傷後1年以上追跡可能であった59例(男51例、女8例)で、受傷時年齢は平均57.2歳である。手術的治療を27例に、保存的治療を32例(回復良好例19例、回復不良例13例)に行った。追跡期間は、平均5年である。
【結果】受傷後1カ月の平均JOA scoreは、保存群の回復良好例13.5点、回復不良例6.4点、手術群5.3点であったが、最終追跡時の平均改善率は、それぞれ40.9%、16.8%、31.1%で、手術群は保存群の回復不良例より回復は良好であった(p < 0.05) 。最終追跡時のASIAの手指筋力点数( C8、Thlの合計20点)は、手術群の回復不良例12.3、手術群12.9と差は認めなかったが、下肢筋力点数(合計50点)は、それぞれ37.1 、41.3と手術群が回復良好であった(p<0.05 )。
【結論】非骨傷性頚髄損傷例に対しては、適応を選べば手術による麻痺回復の上乗せ効果が期待できる。

31.非骨傷性頚髄損傷に対する急性期の治療

 

山口労災病院 整形外科  

○片岡秀雄(かたおかひでお)、富永俊克、城戸研二

 

【目的】非骨傷性頚髄損傷に対する急性期の治療を検討した。
【対象と方法】対象は2000年から2009年まで非骨傷性頚髄損傷に対する治療を急性期に行った45例とした。全例、受傷から4日以内に入院していた。男性38例、女性7例で、平均年齢は64歳(29〜91歳)であった。
【結果】入院時の麻痺は、Frankel分類にてA:8例、B;2例、C:18例、D:17例、E:0例で、退院時はA:3例、B:1例、C:12例、D:20例、E:9例であった。平均入院日数は56日(3〜170日)であった。ステロイド大量療法は45例中31例に行われていた。手術的治療を行ったのは8例で、受傷から10〜29日後(平均20日後)に手術(椎弓形成術)が行われており、7例が改善し、1例が不変であった。保存的治療を行った37例では、70%の症例がFrankel分類でDまたはEとなり麻痺が改善し退院した。受傷機転としては交通事故15例、転落15例、転倒15例であった。
【考察】以上の結果について文献的考察も含めて報告する。

32.当院での非骨傷性頚髄損傷の治療成練      

 

山口県立総合医療センター 整形外科 

○末冨 裕(すえとみゆたか)、豊田耕一郎

 

岩国市医療センター医師会病院整形外科 

 

貴船雅夫

 

【目的】当院で過去20年間に治療した非骨傷性頚髄損傷の治療成練を検討した。
【対象・方揺】 1983年から2009年までに当院で治療した非骨傷性頚髄損傷157例(男性115例、女性42例)を対象とした。受傷時年齢平均56.2歳、受傷原因は転倒28例、転落44例、交通事故60例、その他8例であり、 20例に飲酒が関与していた。受傷機転は伸展損傷97例、屈曲損傷15例、不明45例であった。手術は22例に施行した。症例を頸椎X線学的所見に基づいて、正常群、OPLL群、頚椎症群、小骨傷群(棘突起骨折や椎体前縁剥離骨折例)の4群に分類した。治療成境をJOAスコア改善率、および改良Frankel分類の推移などから分類型別に評価し、年齢、脊柱管前後径、神経学的損傷高位、MRl信号変化との関連性について検討した。最近5年間とそれ以前の症例との比較も行った。
【結果】近年高齢者の転倒による過伸展損傷が増加傾向にあり、高齢(70歳以上)、OPLL合併、脊柱管前後径100mm以下で成練不良であった。

33.非骨傷性頚髄損傷治療に関する前向き研究            I       

 

神戸赤十字病院整形外科

○伊藤康夫(いとうやすお)、馬崎哲朗、越宗幸一郎、森田卓也、水野正一郎

【目的】非骨傷性頚髄損傷患者について,手術的治療及び保存的治療を交互に施行し前向き研究を行ったので報告する。
【対象および方洩】 2007年4月から2009年5月の間に当院に搬送された,AIS C以上の麻痺を有しMRI上脊柱管狭窄を認める非骨傷性頚髄損傷患者、各群11例を対象とした。性別は両群ともに男性8例,女性3例であり,平均年齢はO群62歳,C群63歳であった。OPLLの合併を0群8例、 C群1例に認めた。手術は平林法に基づいた椎弓形成術を行った。各群で神経症状の変化および合併症について調査した。
【結果】 AISで1段階以上の改善を認めたのは0群5例,C群7例であった。合併症は,0群で尿路感染症7例,肺炎4例,褥創1例,せん妄1例,なし2例,C群でせん妄3例,肺炎3例,尿路感染症,腸閉塞,脳梗塞が各々1例,なし6例であった。MSでは両群とも受傷時平均42点で,受傷3か月後の平均は0ぜ59点,C群65点であった。

34.非骨傷性頚髄損傷の治療方針と今後の課題

 

総合せき損センター

○河野 修(かわのおさむ)、植田尊善、前田 健、森 英治、弓削 至、高尾恒彰、坂井宏旭、益田宗彰、宿利知之、林 哲生、芝 啓一郎

 

【目的】近年、高齢者の非骨傷性頚髄損傷が増加傾向にあるが、受傷以前から無症候性の脊髄圧迫を有している例も少なくない。我々が行った多施設による共同研究(手術群と保存群における麻痺回復の比較)の結果を報告し、今後の課題について検討した。
【対象と方法】 ASIA B, Cの不全麻痩例で、変性による既存の脊髄圧迫が20%存在するが受傷前には脊髄障害を呈していなかった症例を対象とした。34例を無作為に振り分け(保存治療群と除圧手術群)、受傷後1年間の麻痺の推移を観察した。
【結果】麻痺の回復は両群ともほとんど同じ経過をたどり、有意差は無かった。さらに、麻痺の程度がASIA B,Cで、脊髄庄迫が20%未満の例においても麻痺の回復は同等であった。【考察】この研究の結果から、非骨傷性頚髄損傷において麻痺に関する手術効果は無いことが明らかとなったため、当センターでは保存的治療を行っている。しかしながら50%以上の高度圧迫例や24時間以内の超早期の除圧効果などRCTが国難な課題や、診断に関する諸問題など解決すべき点は多い。