第73回西日本脊椎研究会  抄録 (基礎)

35.ラット脊髄損傷後の機能的電気刺激治療モデルの確立
Estabhshment of functional neuromuscular stimulation therapy model after spinal cord injury on rats

 

1山口大学大学院整形外科
2アリゾナ州立大学

○寒竹 司(かんちくつかさ)1 田口敏彦1 加藤圭彦1 鈴木秀典1 今城靖明1 守屋淳詞1 Ranu Jung2

 

【目的】有効なリハビリテーションは脊髄再生治療後の神経機能の再構築を促す治療として期待されている。機能的神経筋電気刺激(FNS)治療の有効性は,臨床的にも報告されているが,詳細な機能改善メカニズムは不明である。私たちはその解析,さらに脊髄再生治療との併用療法の効果について検討するため,ラットFNS治療モデルの確立を目指している。今回は脊髄再生治療後に併用可能な低侵襲なモデルを考案し,三次元動作解析による評価を行った。
【方法】成熟雌Fischerラット5匹を用いた。刺激電極には針電極を使用し,刺激筋には前脛骨筋と腓腹筋を選択した。針電極の至適位置確認のため,強さ時間曲線を作成して評価した。次に過去の実験データを基に左右各筋を歩行リズムで15分間刺激し,三次元動作解析(KinemaTracer :Kissei Comtec CO.,Ltd)を行って関節可動域(ROM)を算出した。
【結果と考察】強さ時間曲線から,刺激電極が適切な位置に挿入されていることが確認できた。三次元動作解析から,経時的なROM減少を認めたが,FNS中のリズミックな足関節運動を確認できた。

36.ラット脊椎・脊髄短縮モデルにコラーゲンフィラメントを用いた脊髄再生の試み
-慢性期脊髄損傷における索路機能の再建を目指して一   
             

〇光市立光総合病院整形外科  加藤秀豊(かとうひでとよ) 
山口労災病院整形外科    片岡秀雄 
周東総合病院整形外科    吉田佑一郎 
山口大学整形外科      加藤圭彦 田口敏彦                

【目的】我々は慢性期脊髄損傷における索路機能の再建を目指して、胸椎・胸髄短縮手術の開発を行っている。脊椎・脊髄短縮モデルに加えて、コラーゲン・フィラメント(以下CF)を吻合部に挿入し脊髄の再生を試みたので報告する。
【方法】10〜12週の雌WISTER STラットを用いて脊椎・脊髄短縮モデルを作成した。脊髄断端が接合するようにした群とギャップにコラーゲンフィラメントを移植した群を作成し運動、組織評価を行った。【結果】作成したモデルは良好な固定性が得られ、ラットの長期生存が可能であった。CF移植群では頭蓋刺激による脊髄誘発電位が有意に記録された。下肢運動機能では有意差を認めなかった。
【考察】脊髄損傷後の完全麻痺の治療を考えた場合、瘢痕化した損傷脊髄部を除去しその頭尾側の脊髄間に神経軸索の接合が部分的に起これば機能が回復する可能性があると考えられる。今回の実験ではCFで脊髄切断部を架橋することにより再生環境を整えれば、脊髄再生に有利になると考えられた。

37.脊髄損傷後の炎症細胞浸潤と病態形成の解析

 

九州大学整形外科 

○幸 博和(さいわいひろかず)、岡田誠司、熊丸浩仁、久保田健介、岩本幸英

 

【目的と方法】中枢神経外傷時の炎症反応は必発であるが、その生理的意義に関しては明らかではない。その解明には炎症機構の詳細な解析が重要であるが、従来の組織切片解析
では十分な解析が不可能であり、個々の炎症胞浸潤の経過や役割に関しては多くの不明
な点が残されていた。今回我々は、フローサイトメトリーの手法を用いて脊髄損傷後の浸潤好中球、マクロファージ、マイクログリアの経過を明らかにし、さらにこれらをセルソーターにより選択的に採取することで、それぞれの活性化された炎症細胞の液性因子発現プロファイルを解析した。
【結果】マウス胸髄圧挫損傷モデルに於ける好中球およびマクロファージの浸潤は外傷後12時間がピークであり、採取した浸潤炎症細胞に於いては末血中の状態に比してIL-6、IL-1 β、TNFa、 FasLなどの炎症性サイトカイン並びにアポトーシス誘導因子の発現が有意に上昇しており、損傷脊髄に於いても多数のニューロンおよびオリゴデンドロサイトのァポトーシスが観察された。主要な好中球誘導因子であるIeukotrieneB4の受容体欠損マウス及び拮抗阻害剤ON0-4057を用いて、炎症反応制御が脊髄損傷の病態に与える影響を解析した結果、損傷後の好中球浸潤が有意に抑制され、炎症性サイトカインならびにケモカインの発現低下と、有意に良好な下肢運動機能回復や神経伝導速度の回復が観察された。
【考察】脊髄損傷治療のためには詳細な病態理解が必須であるが、以上の結果は、脊髄損傷の病態においてLTB4が好中球浸潤および炎症反応を制御し、損傷後早期のアポトーシスに関与していることを示している。