第72回西日本脊椎研究会  抄録 (合併症等)

38.頸椎脱臼骨折に対して後方整復固定術施行後にC6以下完全運動麻痺を認め、前方固定術を施行した1例

 

広島市立安佐市民病院 整形外科 

○土井一義(どいかずよし)、住田忠幸、真鍋英喜、小林健二、宮内 晃、藤原 靖、住吉範彦、力田高

 

【はじめに】頸椎脱臼骨折に対して当科では基本的に後方アプローチで脱臼整復,後方固定術を施行している。今回我々はC6/7高位での脱臼骨折に対して後方固定術を施行後にC6以下完全運動麻痺を認め,前方アプローチでヘルニア摘出,前方固定術を追加した1例を経験したので報告する。【症例】66歳男性。2.5mの高さの梯子から転落して後頭部を打撲して受傷。四肢不全麻痺を認め,近医受診後に当科へ転入院となった来院時は両上肢にMMT3-4レぺ゙ルの筋力低下を認めるも,両上肢の自動運動,両下肢膝立て,SLR可能な四肢不全麻痺であった。画像上C6/7高位での脱臼骨折を認めた。ステロイド大量療法,直達牽引を行ったが脱臼整復は得られず,受傷5日目にC6/7整復C5-7後方固定術を施行した。
術後C6以下完全運動麻痺となりMRI精査を行った。 C6/7高位でのヘルニアを認め,後方固定術後4時間半で前方固定術を施行した。
術後徐々に麻痺は改善し,術後2カ月で立位訓練開始,術後5カ月で自力での食事,伝い歩き可能となり退院とした。術後7年の現在,杖歩行で自力生活可能となっている。

39.観血的整復固定術直後に硬膜外血腫により完全麻痺を生じた頚椎脱臼骨折の1例

 

愛媛県立中央病院 整形外科 

○和田英路(わだえいじ)、玉井貴之、長井 巌、村上貴文、日根野 翔、福田高彦、小西義克、森信幹彦、椿 崇仁、日浅浩成、井上正史

 

【目的】手術直後に硬膜外血腫により完全麻痺をきたした頚椎脱臼骨折の1例を報告する。 【症例】 65歳、女性、交通事故で受傷。第6・7頚椎脱臼骨折、両側腎損傷、多発肋骨骨折、血気胸の診断で、当院に搬送された。初診時の神経症状はFrankel C、ASIA Motor Score 54点であった。頭蓋直達牽引で整復は得られず、受傷後3日目に観血的整復固定術を行った。椎間関節を一部切除し脱臼を整復し、アリゲータープレートで棘突起間を固定した。覚醒時、両下肢完全麻痺の状態であり、脊髄腔造影検査の所見はC6〜C7椎体高位で後方からの圧迫要素による完全ブロックであった。緊急後方除圧術を行い、C6〜C7にかけて硬膜の背側に母指頭大の血腫の存在を確認した。脱臼整復から脊能除圧まで推定7時間であった。術後36日目の現在、ASIA Motor Score 64点と神経症状は回復中である。
【結論】今後は、硬膜外血腫も、頚椎脱臼骨折整復時の神経症状悪化の原因となりうることを念頭に置いて、画像診断や治療法の選択を行うことが重要と思われた。

40.重篤な脊髄損傷を伴う頸椎脱臼骨折例における早期離床と外固定について      

 

荒尾市民病院 整形外科 

○前田勇一(まえだゆういち)、二山勝也、松元健一郎

 

【目的】当科における重篤な脊髄損傷を伴う頸椎脱臼骨折例に対し、外固定と離床期間を検討し、その結果報告を行う。
【症例】平成3年以後の6名(Cl・C4・C6:各1,C5 : 3)。初診時は、全例Frankel grade Aであった。 5例に手術が施行された。スクリユー法以外では、Rogers法が3例に行われた。
【結果】椎弓根スクリユーとRogers法に前方プレートを併用しなかった4症例には、Halo-vestを併用した。これらは皆、肺炎と腹満の合併症があった。また、発症より患部の固定に時間が掛かった例では、麻痺レベルの上行が認められた。
【考察】重篤な脊髄損傷を伴う頸椎脱臼骨折例の初期治療は、生命・麻痺の予後を左右する。生命予後については、肺炎の予防が重点課題である。このためには、頸椎カラー程度の外固定でも充分可能である強固な内固定を行い、排痰行為をたやすく行えるようにすべきである。また、患部の早期固定は、麻痺の悪化を防ぐためにも重要である。   
【まとめ】重篤な麻痺を伴う頸椎脱臼骨折例では、頸椎カラーのみでの早期離床を目指した強固な内固定を早期に行い、合併症を防ぐべきであると考える。

41.高位頚髄損傷に対するNPPV (非侵襲的陽圧換気)の試み

 

総合せき損センター 整形外科*1、
リハビリテーション科*2

○益田宗彰(ますだむねあき)*1、芝啓一郎*1、植田尊善*1*2、坂井宏旭*1、須尭敦史*2

 

【はじめに】従来、高位頚髄損傷に伴う呼吸麻痺に対する管理方法としては、気管切開下
での人工呼吸が唯一無二の手段であったが、今一部のリハビリ医により、これらに対する非侵襲的陽圧換気(以下NPPV)の適応拡大がなされつつある。今回2名の患者に対しNPPVを導入したので報告する。
【症例1】48歳男性。C1/2脱臼骨折、Frankel B2。前医より気管切開下の人工呼吸管理。当初は人工呼吸器からの離脱を図るも、完全離脱が困難であり、NPPVに方針を変更。約6か月で移行完了となった。 
【症例2】20歳男性。Cl/2脱臼骨折、FrankelA。症例1と同様、前医より気管切開下の人工呼吸管理。頚部筋まで完全麻痺の状態であり、当初よりNPPV移行を検討、約3か月で移行完了となった。 
【考察】NPPVのメリットとして、発声が可能、カニューレ交換・吸引が不要になるなどがある。今回の2例においても、移行後の患者・家族の満足度は非常に高かった。今後も本法は高位頚髄損傷に対する治療のオプションとして極めて有用と考える。

42.脊髄損傷に伴う麻痺域の痛み
−全国労災病院脊髄損傷データベースの分析から−

 

山口労災病院整形外科1)、
関西労災病院リハビリテーション科2)

○富永俊克(とみながとしかつ)1)、黒川陽子1)、屋良貴宏1)、片岡秀雄1)、城戸研二1)、住田幹男2)

 

【はじめに】脊髄損傷に認める麻痺域の痛みは、その治療に難渋することも多く、しばしば患者のQOL低下の主要な因子である。今回、そのリスクファクターを明らかにした。
【対象と方法】平成21年度までに集計された全国労災病院脊髄損傷データベース3006名のうち、性差、年齢、受傷原因、転帰、合併症の有無、麻痺の推移、転帰などの変数データを十分に備えた2860名を今回の分析対象とした。なお、痛みの有無は“リハビリテーション治療上の支障度があるかないのか”の視点で専門職によって判定されたものである。
【結果】麻痺域の痛みは約75%と多くの脊髄損傷者に認められ、そのリスクファクターは壮年、不全四肢麻痺であった。痙縮、自律神経性過反射、尿路感染症を合併する傾向を認めた。神経機能の改善度や身体的な自立度とは必ずしも関連していなかった。
【考察】脊髄損傷者の痛みの発現の背景に社会心理的国子の影響を推察する。

43.脊髄損傷に伴う神経因性疼痛に対するリドカインの使用経験

 

愛媛大学 脊椎センター  

○山岡豪大朗(やまおかごうたろう)、尾形直則、森野忠夫、鴨川淳二、堀内秀樹、森実圭

 

【緒言】脊髄損傷後のいわゆる神経因性疼痛の管理には、難渋することがあるが現在のところ確立された治療法はない。我々はナトリウムチャネルブロッカーであるリドカインの静脈内投与を6症例に行った。
【方法】キシロカイン静注用2%を1.5mg/kg で静注し、効果を認めればオリベス1%を1〜4mg/分で持続投与した。
【対象】急性期頚髄損傷患者で耐え難い神経因性疼痛を訴える6例に対し投与を行った。平均年齢は68.7歳で全例男性であった。Frankel分類はA:1例、B:2例、D:3例であった。
【結果】効果判定可能であった5症例(1例は投与後に鎮静を要したため効果判定不能)中4例で直ちに疼痛の軽減を認めた。効果を認めた症例に対する平均投与期間は4.5日間(2日〜7日)で、それらの患者では、その後も痛みの再燃は生じなかった。
【考察】リドカインの利点として速効性があること、何れのレベルの神経損傷においても鎮痛作用が期待できることがあり、問題点として中毒症状に注意が必要で入院を要すること、長期投与ができないことなどが上げられる。