第74回西日本脊椎研究会  抄録 (電気診断・外傷)

1.脊柱靭帯骨化症疾患特異的タンパク質の発見からの創薬研究

 

久留米大学整形外科、厚生労働科学研究脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班

○津留美智代(つるみちよ)、佐藤公昭、永田見生

 

【目的】脊柱靭帯骨化症疾患特異的タンパク質を同定し、遺伝子レベルの発症メカニズムの解明と靭帯骨化分子標的医薬品候補化合物のドラックデザインを行い、トランスレーショナルリサーチを行う。
【方法】追跡期間2000年〜2009年OPLL血液92検体、靭帯骨化組織24検体の疾患プロテオミクスより、疾患特異的なタンパク質を同定した。このタンパク質の発現には遺伝子の関与が示され、発症メカニズム解明を行っている。また、このタンパク質の分子立体構造から医薬品設計を行い、患者に副作用のリスクをなくし、靭帯骨化のみを標的とするドラックデザインを行っている。
【結果】OPLLの患者血液には、健常者と比較し、明らかなタンパク質の発現異常があった。このタンパク質のアミノ酸解析、遺伝子レベルの発症メカニズムの解明を行い、現在、ターゲットタンパク質の立体構造に基づいた医薬品設計を開始した。
【考察】マトリックス質量分析を使ったプロテオミクスとiPS細胞、タンパク質一化学物質相互作用の物理関数を利用し、副作用を回避した、安全な医薬品を近い将来、提供する。

2.脊髄誘発電位を用いた頚椎後縦靭帯骨化症の障害高位と骨化形態の検討

 

山口大学大学院医学系研究科整形外科

○船場真裕(ふなばまさひろ)、加藤圭彦、寒竹 司、 今城靖明、鈴木秀典、田口敏彦

 

【目的】後縦靭帯骨化症(以下OPLL)の骨化形態が脊髄症の発症に関与することが多い。脊髄誘発電位から判定した障害高位が骨化形態に関係するか検討した。
【対象と方法】1997年以降頚椎OPLLに椎弓形成術を施行し脊髄誘発電位から障害高位を判定した47例を対象とした。男性35例女性12例で手術時平均64歳(42-78歳)であった。骨化形態はCT画像で判定した。
【結果】術中脊髄誘発電位では単椎間障害は39例(C3/4:17例、C4/5:15例、C5/6:7例)、2椎間障害は8例(全例C4/5,C5/6)であった。最狭窄高位に可動性が残存する症例は障害高位と一致するものが多かった。しかし可動性のない最狭窄部が障害高位をとる症例も存在し、その場合脊髄余裕空間径が狭い傾向であった。
【考察】頚椎OPLLの脊髄症発症には動的因子が重要と考えられる。しかし静的因子も脊髄症発症に関わる場合があり、可動性が残存しなくとも脊髄余裕空間が狭い場合は障害高位となる可能性があり、術式選択の際には注意が必要と考えられた。

3.OPLLに伴う脊髄症における経頭蓋電気刺激による誘発筋電位を用いた術中脊髄モニタリングの検討

 

高知大学医学部 整形外科

○田所伸朗(たどころのぶあき)、谷口愼一郎、武政龍一、川崎元敬、南場寛文、葛西雄介、谷 俊一

 

【目的】近年、術中脊髄モニタリングの方法として経頭蓋電気刺激により四肢筋から筋活動電位(muscleMEP)を記録する方法が普及しつつある。その利点は、硬膜外電極を設置する必要がなくしかも臨床的に最も重要な運動機能を高感度でモニターできることであるが、欠点として麻酔方法が制約され、記録電位が不安定でアラームポイントの設定が難しいなどの問題点がある。今回、15例のOPLL手術におけるmuscleMEPによるモニターの結果を分析した。
【方法】モニター法として、(1)除圧操作前の各基準電位からの振幅変化をモーターする一般的な方法を7例に、(2)各MEPの刺激閾値の変化をモニターする悶値レベル法を6例に行い、(3)2例では三角筋からのMEPのみをモニターした。
【結果】術後に下肢麻痺が悪化した症例はなかったが、片側の三角筋筋力が低下した2症例(前方1例、後方1例)と回内筋筋力が低下した症例が1症例(前方1例)ずつあった。この3症例における電位変化や術中MEPの変動とBISモニターとの関連などにつき検討する。

4.頚椎後縦靭帯骨化を伴う高齢者頚椎外傷の検討

 

薩摩郡医師会病院 整形外科*1、 聖マリア病院 整形外科*2、 救急科*3、放射線科*4、久留米整形外科*5
○吉松弘喜*1(よしまつひろき)、吉田健治*2、山下 寿*3、 神保幸太郎*2、石岡久和*4、鳥井芳邦*4、 山田 圭*5、

  密川 守*5、 佐藤公昭*5、  永田見生*5

 

【目的】頚椎後縦靭帯骨化症診療ガイドラインでは、頚椎OPLLを有する慰者が外傷により脊髄損傷となる可能性は正常群よりやや高い可能性があるとしている。今回、頚椎OPLLを有する高齢者を調査し、外傷の関与を検討した。
【対象および方法】救急外来を受診した65歳以上の高齢者頚椎外傷1000例中、頚椎OPLLを認めた57例を対象とした。検討項目は、骨化形態、受傷原因、最小有効脊柱管
前後径などである。
【結果】骨化形態は連続型16例、分節型20例、混合型18例であった。受傷前病状は脊髄症状なし35例、脊髄症状あり17例、脊髄症にて手術歴有り5例であった。頚椎・頚髄損傷を17例(30%)に認め、特に脊髄症を有した17例では9例(53%)が症状悪化を生じており、混合型、分節型で割合が高かった。

【考察】松永らは頚椎OPLLを有する頚部外傷患者の43%が脊髄症状を発症したと報告し、外傷の関与の重要性を指摘している。今回の調査においても外傷により脊髄損傷となる危険性が高く、転倒転落予防に関する生活指導と脊髄症状を有する患者に対しての除圧術の必要性が示唆された。

5.後縦靭帯骨化を伴う非骨傷性頚髄損傷

 

総合せき損センター 整形外科

○河野 修(かわのおさむ)、前田 健、森 英治、 弓削 至、高尾恒彰、坂井宏旭、 益田宗彰、宿利知之、林 哲生、

  椛田尊善、芝啓一郎

 

【はじめに】非骨傷性頚髄損傷は近年増加傾向にあり、特に高齢者で脊柱管狭窄を伴うものが多く見られる。脊社管狭窄の原因として、 後縦靭帯骨化は少なくはなく、受傷以前から高度な脊髄圧迫を呈している例も珍しくない。 今回我々は、後縦靭帯骨化を伴う非骨傷性頚髄損傷の特徴について検討した。
【対象と方紘】最近5年間に当センターで治療した非骨傷性頚髄損傷は175例であり、後縦靭帯骨化を伴うものは49例であった。前回の本研究会で報告したように、当センターにおける非骨傷性頚髄損傷の治療方針は、全例保存的治療としているため、後縦靭帯骨化による脊髄への圧迫が大きくても急性期における除圧手術は行わず、数週間の頚椎カラー固定による保存的治療を行った。
【検討項目】骨化の大きさ(脊髄圧迫)や骨化の形態(連続型、分節型)と損傷高位や麻痺の程度、および麻痺の回復の程度について、検討を行い報告する。

6.頚椎後縦靭帯骨化症を合併した非骨傷性系髄損傷の予後について

 

愛媛県立中央病院 整形外科

○和田英路(わだえいじ)

 

【目的】頚椎後縦靭帯骨化症を合併した非骨傷性頚髄損傷の予後について検討したので報告する。
【対象】2000年〜2006年に急性期治療を行った、頚椎後縦靭帯骨化症を合併した非骨傷性頚髄損傷患者26名(OPLL群)の退院時の神経症状と頚髄損傷高位での有効脊柱管前後径について、頚椎後縦靭帯骨化症を合併していない147名(非OPLL群)と比較検討した。神経症状はFrankel分類法に基づいて調査した。
【結果】1)退院時の神経従状は、OPLL群ではFrankel A:3例、Frankel B:4例、Frankel C:12例、Frankel D:7例であった。非OPLL群では、Frankel A:12例、Frankel B:8例、Frankel C:16例、Frankel D:110例であった。退院時歩行可能(Frankel D以上)であった症例は、非OPLL群では146例中110例であるのに対して、OPLL群では26例中7例であった(X2;P<0.0001)。2)頚髄損傷高位での有効脊柱管前後径は、OPLL群が平均7.4mm、非OPLL群が平均12.3mmであった(Mann、‐Whitney;P<0.0001)。

【考察と結語】頚椎後縦靭帯骨化症を合併した非骨傷性頚髄損傷の予後は不良であった。無症候性OPLLに関しても、有効脊柱管前後径で基準を設けるなどして、予防的手術を検討してもよいものと思われた。