第75回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題U)

4.超高齢者における頚部外傷の検討

 

久留米大学 整形外科*1

聖マリア病院 整形外科*2、救急科*3、放射線科*4

 

○吉松弘喜(よしまつひろき)*1、吉田健治*2、山下 寿*3、神保幸太郎*2、石岡久和*4、

  鳥井芳邦*4、渡邊琢也*1、山田 圭*1、密川 守*1、佐藤公昭*1、永田見生*1

 

【目的】超高齢者の頚部外傷に関しての報告はごく少なく、不明な点が多い。今回超高齢者頚部外傷例を調査し、その特徴を検討した。


【対象と方法】救急外来を受診した頚部外傷8120例中、80歳以上の317例を対象とした。受傷原因、意識障害、頭部外傷、四肢骨盤骨折の有無などについて調査し、統計学的検討を行った。また、65歳未満の非高齢者と比較検討した。


【結果】頚椎・頚髄損傷を26例(8.2%)に認めた。意識障害28%、重症頭部外傷16%四肢骨盤骨折17%であり、受傷原因は転倒41%であった。頚椎・頚髄損傷との関連では交通外傷、意識障害、他部位の脊椎骨折において有意差を認めた。また非高齢者との比較では、頚椎・頚髄損傷の発生率、他部位の損傷の合併率、受傷原因などに差を認めた。


【考察】超高齢者の診療に際し、身体的脆弱性、基礎疾患、投薬による影響などを考慮しなければならない。Ngoらは頚椎損傷の発生率が高いと報告しており、今回の調査でも同様の結果となった。有意な因子に関しては特に注意が必要である。

5.80歳以上の頚髄損傷患者の臨床像(60歳代、70歳代患者との比較)

 

山口労災病院 整形外科

 

○片岡秀雄(かたおかひでお)、富永俊克、城戸研二

 

【目的】長寿化による高齢者の増加に伴い、高齢者の頚髄損傷患者も増加していると考えられる。 80歳以上の頚髄損傷患者の臨床 像を60歳代、70歳代患者と比較し検討した。【対象と方法】対象は2000年から2010年までの間に、頚髄損傷に対する治療を受傷後3日以内より当院で行った52例とした。60-69歳は24例(平均66歳)、70-79歳は19例(平均76歳)、80歳以上は9例(平均84歳)であった。


【結果】受傷原因における転倒の割合は、60歳代21%、70歳代26%、80歳以上78%で、80歳以上で高かった。骨傷性損傷の割合は、60歳代36%、70歳代26%、80歳以上22%と高齢化が進むと低下傾向にあった。入退院時のFrankel分類による麻痺の程度は3群間で有意差は見られなかった。入院時に合併症を持つ割合は、60歳代38%、70歳代53%、80歳以上89%で、80歳以上の3例(33%)が入院後6-15回目に死亡していた。


【考察】以上の結果について文献的考察も含て報告する。

6.80歳以上の高齢者頚椎頚髄損傷の治療成績      

 

高知医療センター 整形外科

 

○時岡孝光(ときおかたかみつ)、土井英之

 

2005年3月から2011年2月の間に当院で治療した頚椎頚髄損傷は147例で、そのうち80歳以上の高齢者は19例(12.9%)であった。損傷高位は上位頚椎が7例(歯突起骨折4例、Jefferson骨折1例、Hangman骨折1例、偽腫瘍1例)、中下位損傷が12例(非骨傷性7例、亜脱臼5例)であり、麻痺の程度はFrankel A3例、B1例、C3例、D6例、E4例であった。


【結果】非骨傷性頚損は全例保存的に治療し、92歳Frankel Aの1例は死亡、その他はFrankel C2 例、D4例であった。亜脱臼の5例は、前方固定が2例、後方固定が3例で、術後麻痺の悪化が3例に認められた。歯突起骨折では前方screw 固定の1列は癒合不全で後方より Magerl 法で再手術し、その他は後頭頚椎後方固定を行った。Hangman 骨
折、Jefferson 骨折も後方固定を行った。急性期に人工呼吸、気管切開を要したものが6例(31.6%)あり、麻痺がなくても肺合併症を起こす傾向があった。

7.高齢者骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節に対する手術成績

 

総合せき損センター

 

○松下昌史(まつしたあきのぶ)、前田 健、森 英治、弓削 至、河野 修、

  高尾恒彰、 坂井宏旭、益田宗彰、林 哲生、 植田尊善、芝啓一郎

 

【はじめに】近年、高齢化に伴い骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節に対する手術が増加してきている。当院で80歳以上の高齢者に対して行った骨粗鬆症性椎体骨折後偽閲節の手術成績について報告する。


【対象と方法】2001年1月から2010年12月の10年間に骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節と診断を受け手術を施行された33例(男性12例、女性21例)の高齢症例を対象とした。これらの症例において手術方法、術前後のJOAスコア、ADLを検討した。


【結果】手術術式は後方固定6例、後側方固定・部分椎弓切除14例、後方固定・vertebroplasty 10例、後側方固定・部分椎弓切除・vertebroplasty2例、前方固定1例であった。術後JOAスコア、ADLは有意に改善した。術後、スクリューのバックアウトにより再手術を要した症例が1例あった。


【まとめ】高齢の骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節症例に対する積極的外科的治療にて良好な成績が得られ、ADLの向上を認めた。これらの症例に行った手術術式の選択について考察する。

8.高齢者の骨粗鬆症椎体骨折後偽関節に対する経皮的椎体形成術の有用性と限界

 

JA 広島総合病院 整形外科

 

○高澤篤之(たかざわあつし)、藤本吉範、高田治彦、山田清貴、平松 武、橋本貴士、宇治郷諭、清水 良、住吉範彦

 

【目的】高齢者の骨粗鬆症椎体骨折後偽関節に対する経皮的椎体形成術(percutaneous vertebroplasty, PVP)の有用性と限界を検討する。

 

【対象・方法】過去6年間にPVPを施行した438例のうち、80歳以上の153例(平均84歳)を対象とし、VASとODIを評価
した。このうち、遅発性神経障害合併例を12個(平均84歳)については、術前後のFrankel分類の推移と術前X線学的因子を検討した。


【結果】平均VAS,0DIは術前8.8,64%、最終調査時3.4,39%で有意に改善したが、術後隣接椎体骨折を35個(22.8%)に認めた。遅発性神経障害を合併した12例中11例は椎体不安定性を安定化することで神経症状が有意に改善したが、椎体不安定性が軽度で脊柱管占拠率が高度な1例では神経症状改善はなかった。神経症状が改善した11例中3例は術後隣接椎体骨折により神経症状が再発した。


【結論】PVPは除痛効果に優れ、遅発性神経障害合併例にも応用可能であった。

9.80歳以上の胸腰椎疾患に対する手術の成績

 

医療法人 菅整形外科病院 整形外科

 

○菅 尚義(すが たかよし)、宮崎昌利、吉田省二、福田泰子、金出政人、三原 茂

 

80歳以上の高齢者の脊椎手術を総験したので報告する。症例は脊柱管狭窄症が13例21椎間(女10例男3例、平均年齢は82.9歳)、椎間板ヘルニアが2例(男女とも1例、81,5歳)、そして圧迫骨折が13例(女12例、男1例、82.9歳)、うち遅発性脊髄麻痺の合併が3例あり歩行不能であった。脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアに対しては、円筒型レトラクターを用いた顕微鏡下手術(TR法)を行い、それぞれ平均手術時間は104.2分、135分、出血量は9.4ml、13.5mlであっ
た。圧迫骨折に対してはセラミックアパタイト顆粒を用いた経皮的経椎弓根的椎体形成術(TPVP)を行った。遅発麻痺を合併した3例にはTPVPとTR法の合併手術を行い2例は杖歩行、1例は歩行器歩行可能となった。平均手術時間,出血量はTPVPでは51.2分、2.1ml、追加手術のTR法では119分、11.3mlであった。術後は硬性コルセットを使用した。金属による内固定は行わず、十分な外固定と薬物療法、早期の歩行器での歩行重要視している。

10.高齢者(80歳以上)の脊椎感染症の動向とその特徴

 

鳥取大学 整形外科

 

○土海敏幸(どかいとしゆき)、永島英樹、楠城誉朗、谷田 敦、豊島良太

 

【目的】80歳以上の脊椎感染症の動向とその特徴について調査した。


【方法】2001年から2010年の10年間に脊椎感染症で入院治療を行った101例を対象とした。前半5年間(A群)と後半5年間(B群)の2群に分け、80歳以上の症例の推移を調査した。また80歳以上(H群)と80歳未満(L群)の2群に分け、患者背景、病原菌、死亡率について調査した。


【結果】病原菌検出率は79%であった。A群は47例、B群は54例であった。80歳以上の症例は、A群は4例(9%)、B群は16例(30%)であり、有意差を認めた。H群は20例、L群は81例であった。易感染性宿主は、H群は13例(65%)、L群は47例(58%)だった。耐性菌(MRSA/MRSE)による感染は、H群は9例(45%)、L群は21例(26%)だった。死亡例は、H群は3例(15%)、L群は9例(11%)だった。


【結語】80歳以上の脊椎感染症は増加している。H群はL群と比較して耐性菌が病原菌である割合が1.7倍と高いので、治療には注意が必要である。

11.高齢者 RA 患者に対する頚椎手術の意義

 

鹿児島脊椎研究班  

 

○坂本 光(さかもとひかる)、武富栄二、廣田仁志、井尻幸成、小宮節郎

 

【目的】高齢者RA患者に対する頚椎手術の意義を明らかにすることを目的に、RA頚椎病変に対し手術治療をおこなった症例について、年齢と術前のADL,患者を取り巻く社会・家族環境、術前合併症と術後合併症、術後成績などをretrospectiveに調査した。


【対象】1999年以降、RA頚椎病変に対し後方頚椎再建術を施行した108例を対象とした。性別は男性20名、女性88名であり、手術時平均年齢は63.0歳で、70歳未満が77例、70歳以上は31名であり、2群に分け比較・検討した。


【結果】術前59名(54.6%)に計80件の術前合併症を認めた。術前の居住環境は、70歳未満では単身世帯と夫婦のみ世帯は49.4%であったが、70歳以上では、単身世帯、夫婦のみ世帯は80.6%と有意に高率であった。術前の日常生活の障害度は、外出が困難な例が、70歳未満で21.1%であったのに対し、70歳以上の高齢者では51.6%と、日常生活の自立度が有意に低かった。