第75回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題V)

12.80歳以上の頚髄症の神経学的所見下肢深部腱反射を中心とした前向き研究

 

国立病院機構呉医療センター 整形外科

 

○濱崎貴彦(はまさきたかひこ)、濱田宜和、安本正徳、蜂須賀裕己、泉田泰典、仁井谷学、好川真弘、杉田 孝

 

【目的】80歳以上の頚髄症の神経学的所見を、下肢深部腱反射を中心に検討した。


【方法】頚髄症と診断し手術施行した50例を、@80歳以上21例A70歳台14例B69歳以下15例の三群に分け、神経学的所見は一検者により前向きに検証し、腰椎脊髄造影正面像で造影剤欠損の有無、糖尿病の有無も検討した。


【結果】膝蓋腱反射は@80歳以上11例(52%)A70歳台10例(71%)B69歳以下14例(93%)で、アキレス腱反射は@
80歳以上8例(38%)A70歳台7例(50%)B69歳以下11例(73%)で亢進し、年齢の上昇に伴い亢進陽性率は低下した。80歳以上で腰椎脊髄造影正面像での造影剤欠損は15例あり、膝蓋腱反射亢進例11例中8例、非亢進例10例中7例、アキレス腱反射亢進例8例中5例、非亢進例13例中10例だった。糖尿病は4例認めその全例で膝蓋腱反射、アキレス腱反射とも非亢進例だった。


【考察】特に80歳以上の頚髄症では必ずしも下肢深部腱反射は亢進せず、だからと言って頚髄症を否定する根拠とはなり得ず、他の神経学的所見、画像所見を総合的に加味して診断する必要があると思われた。

13.80歳以上の高齢者頚髄症に対する治療戦略 ―運動誘発電位による術前機能評価―

 

広島大学大学院 整形外科*1

厚生連廣島総合病院 整形外科*2

 

○田中信弘(たなかのぶひろ)*1、中西一義*1、亀井直輔*1、中前稔生*1、

  泉文一郎*1、大田 亮*1、藤岡悠樹*1、藤本吉範*2、越智光夫*1

 

【目的】高齢者では頚椎以外の神経障害や関節痛が存在し正確な脊髄症の評価が困難である。我々は80歳以上の頚髄症例に対し、頭蓋磁気刺激運動誘発電位(MEP)による術前脊髄機能評価を行い、手術を施行したので報告する。


【対象と方法】頚髄症と診断された80歳以上の超高齢者57例(男26例、女31例、平均年齢83歳)を対象とした。経頭蓋磁気刺激により小指外転筋、母趾外転筋から導出したMEP潜時ならびに末梢神経電気刺激による同筋からのM波・F波潜時を測定し中枢運動伝導時間(CMCT)を算出した。


【結果】37例(65%)においてMEP上の異常所見を認め、その内手術に同意が得られた35例に手術用顕微鏡視下の椎弓形成術を施行した。JOAスコアは術前平均8.6点(3〜12.5点)から調査時平均12.6点(6〜14.5点)に改善し、改善率は平均45%であった。


【考察】電気生理学的検査による脊髄機能評価により症例を適切に選択すれば80歳以上の超高齢者においても満足すべき手術成績 が期待できる。

14.80歳以上の頸椎症性脊髄症手術症例の検討      

 

山口大学大学院医学系研究科 整形外科

 

○寒竹 つかさ(かんちくつかさ)、田口敏彦、加藤圭彦、今城靖明、鈴木秀典

 

【目的】高齢化に伴い高齢者の頸椎症性脊髄症(以下CSM)の手術も増加傾向にある。今回は80歳以上のCSM手術例の臨床的特徴と術後成績について検討した。


【対象と方法】対象は2000年以降に手術を行ったCSM 20例(男性10、女性10、平均年齢83歳)とした。術式は椎弓形成(C3-7)13例、選択的椎弓形成(障害椎間2椎弓)5例、前方固定2例であった。選択的椎弓形成は2005年以降に、術前の臨床所見と術中の脊髄誘発電位の障害高位が一致した単一椎間障害例に施行した。これらの症例の臨床像、手術成績について検討した。


【結果と考察】術前の旧JOAは平均7点で、6点以下が7例と重症例が多く、全例に何らかの術前合併症を認めた。術中脊髄誘発電位による障害高位診断では、上位椎間(C3/4、4/5)が14例(70%)で、上位椎間での障害例が多かった。術後成績は概ね良好であったが、術後C5麻痺を合併した1例で悪化を認めた。選択的椎弓形成の短期成績は従来法と遜色なく、症例を選べば低侵襲でよい術式であると考える。

15.80歳以上の頸椎症性脊髄症の特徴と治療戦略

 

高知大学 整形外科

 

○田所伸朗(たどころのぶあき)、木田和伸、川崎元敬、武政龍一、谷 俊一

 

【目的】80歳以上の頸椎症性脊髄症(超高齢者CSM)の特徴と手術成績を検討した。


【方法】過去10年間のCSM初回手術症例122例のうち、術後1年以上追跡可能であった超高齢者CSM27例を対象に、80歳未満のCSM症例と比較検討した。

 

【結果】年齢と術前JOAスコアは負の相関関係(|r|=0.52,p<0.001)を認め、超高齢者CSMでは2mm以上の椎体すべりが有意に高頻度(60%;p<0.001)であった。手術は、前方除圧固定術(ACDF)15例(単椎間13例、2椎間2例)、椎弓形成術(LP)12例であった。術前JOAスコアは両群で差が無く(ACDF 8.1vs LP 7.8;P=0.7)、術後1年時JOAスコア(改
善率)は13(49%)vs 11(31%)で有意差があった(P=0.02(P=0.04))。


【考察】超高齢者CSMの特徴はC3/4またはC4/5の頚推すべりが高率に認められ、すべり椎間が責任高位となり、下肢運動機能重症例が多い。すべり椎間の単椎間ACDFは有用な選択肢と考えられる。

16.80歳以上の頚椎症性脊髄症患者の特徴と手術成績 ―後ろ向き多施設研究―

 

鳥取大学 整形外科*1

鳥取県立中央病院 整形外科*2

鳥取市立病院 整形外科*3

鳥取赤十字病院 整形外科*4

三朝温泉病院 整形外科*5

山陰労災病院 整形外科*6

益田赤十字病院 整形外科*7

 

○谷田 敦(たにだあつし)*1、永島英樹*1、楠城誉朗*1、土海敏幸*1、村田雅明*2、森下嗣威*3、山根弘次*4、         高橋敏明*4、森尾泰夫*5、石井博之*5、谷島伸二*5、橋口浩一*6、片江祐二*6、亀山康弘*7、豊島良太*1

 

【目的】80歳以上の頚椎症性脊髄症患者に対する手術成績を調査し、その妥当性を検討することを目的とした。


【対象および方法】5年間に8施設で手術を行い、6か月以上経過観察可能であった頚椎症性脊髄症患者161例を対象とし、80歳以上の37例(A群)と80歳未満の124例(B群)の2群に分け、罹病期間、責任高位、術前後の日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア)、改善率、併存疾患、術後合併症について検討した。


【結果】罹病開聞はA群が有意に短かった。責任高位は両群ともにC3/4の頻度が最も高かった。平均JOAスコアは術前、術後ともにA群が有意に低かったが、改善率は両群間に有意差を認めなかった。併存疾患を有する患者の割合はA群で多く認められたが、術後合併症の頻度に差はなかった。


【考察】80歳以上の頚椎症性脊髄症患者は、術前の罹病期間が短く、機能障害が重度であるが、改善率と術後合併症の頻度は80歳未満の症例と差はないため、時期を逸することなく手術を行うことが望ましい。

17.80歳以上の頚髄症に対する治療戦略

 

久留米大学 整形外科

 

○山田 圭(やまだ けい)、佐藤公昭、密川 守、吉松弘喜、佐々木威治、猿渡敦子、永田見生

 

【はじめに】当科では80歳以上の頚髄症に積極的に手術を行っている。今回、手術の意義について検討した。


【対象と方法】対象は当科で頚髄症の手術治療を行った45例(男18例、女27例、平均82.6歳)であった。 44例に頚椎椎弓形成術を、1例に前方固定術を施行した。そして初診時の歩行状態、術前・退院時・最終観察時のJOAスコア、術後合併症と生存の有無を調査した。


【結果】初診時は21例が車いす、11例が支持歩行であった。JOAスコアは術前聊均8点(3〜12点)、退院時平均10.2点(4.5 〜15点)、最終観察時9.7点(4〜15点)であった。術後10例に譫妄、3例に周術期感染、2例に一過性の意識障害を認めた。最終観察時7例が手術に関連しない原因で平均術後25.4か月(4〜60か月)で死亡していた。


【考察】80歳以トでは半数が歩行不能となりADLの低下が著明である。手術は術後合併症のリスク、経過観察中の死亡例の存在を考えると、短期間の効果になる可能性はあるが、選択してよい治療法である。

18.80歳以上の頸髄症に対する手術的治療

 

大分整形外科病院 

 

○中山美数(なかやまよしかず)、大田秀樹、松本佳之、酒井 翼、木田浩隆、竹光義治

 

今回我々は過去6年間に行った頸髄症手 術症例のうち高齢者80歳以上の手術成績を 調査したので報告する。
対象は31例で男性20例、女性11例で 年齢は80〜87歳(平均82.4歳)であった。疾患は頸椎症性脊髄症22例、OPLL6
例であった。術式は黒川式椎弓形成術27例、宮崎法が1例、前方除圧固定術が2例、椎弓切除+後方固定術が1例であった。術前JOAスコアは3.5〜15点(平均8.9点)で最終観察時JOAスコアは4.5〜16.5点(平均12.0点)で、平林法改善率では38.4%であった。術前合併症高血圧21例、他の脊椎疾患14例、前立腺疾患11例、脳疾患6例、心疾患8例、下肢関節疾患7例の順に多かった。
術後合併症はC5麻痺が2例、術後肺炎が2例、術後血腫、急性脳梗塞、術後せん妄、老人性うつ病、眩暈・耳鳴り、褥瘡、手術創離開か各1例、軸性疼痛が6例であった。80歳以上の高齢者では術前様々な合併症を有していることが多いが、周術期管理をしっかり行えば比較的安全に手術を行うことができる。 ADL向上のためにも適応があれば積極的に手術を行う必要がある。

19.当科における超高齢者の頚椎手術の術後成績

 

宮崎大学 整形外科

 

○濱中秀昭(はまなかひであき)、黒木浩史、猪俣尚規、増田 寛、黒木修司、菅田 耕、樋口誠二、川野啓介

  帖佐悦男

 

近年、高齢者手術は増加傾向にあり、当院においても同様の傾向を認める。今回われわれは当科における超高齢者(85歳以上)の頚椎椎弓形成術症例の術後成績を検討したので報告する。

対象は2004年1月より2010年12月まで当科にて施行した85歳以上の頚椎手術10例、男性6名女性4名、平均年齢は87.8歳である。術前診断は頚椎症性脊髄瘤症9例(その内腰部脊柱管狭窄症の合併を2例合む)、後縦靭帯骨化症1例
であった。術前の平均罹病期間は約9.3ケ月で術後平均経過観察期間492日、日本整形外科学会頸髄症治療成績判定基準(以下JOA score)の平均値は術前8.40から最終観察時12.85と改善を認め、全ての症例で麻痺の悪化や予後不良となる重大な術後合併症を認めなかった。超高齢者であっても術前の全身評価と観血的治療の適応を十分検討すれば、有用な治療法と考える。

20.頚椎椎弓形成術を行った80歳以上の頚髄症患者

 

三豊総合病院 整形外科

 

○土岐俊一(ときしゅんいち)、長町顕弘、米津 浩、阿達啓介、井上和正、遠藤 哲

 

【目的】椎弓形成術を行った80歳以上の頚髄症患者の特徴を明らかにすること。


【対象および方法】過去5年間に椎弓形成術を行った9例を対象とした。男性5例、女性4例、平均年齢は82歳であった。疾患の内訳は、頚椎症性脊髄症8例、後縦靭帯骨化症1例であった。


【結果】心エコーでの平均駆出率は68%と良好であった。腎機能は、eGFRで平均49.3と中等度低下していた。平均%VCは81.4%、平均1秒率は77.4%と、良好な呼吸機能を有していた。権前後JOA score はそれぞれ6.1、8.5であった。術前歩行不能であった症例が6例、歩行器歩行が2例、杖歩行1例であった。1例が麻酔覚醒不全のため帰室後心肺停止に陥ったが、蘇生でき独歩退院した。術後感染はなかった。平均在院日数は26日と比較的長かった。


【考察】手術に至った主因は歩行能力の急激な低下であった。全例歩行可能になったが、改善率は低値にとどまった。比較的全身状態の良好な高齢者に手術を行ったが、心肺停止に至った症例もあり、注意を要すると考えられた。

21.当院における高齢者頚髄症の治療成績

 

長崎大学 整形外科

 

○日浦 健(ひうらたけし)、馬場秀夫、田上敦士、安達信二、依田 周

 

当院での80歳以上の頚椎症性脊髄症症例の画像所見と手術成績を調査したので報告する。


【対象】2003年4月〜2011年3月までに手術を行った80歳以上の頚髄症27例を対象とした。男性14例、女性13例、平均年齢は82.9歳であった。手術は全例、棘突起縦割法を用いた。


【方法】術前後のJOA score とX線側面像における脊柱管前後径と機能写でのC2〜7間での2mm以上のすべりの有無を調べた。MRIでは片椎間のmyelomalaciaの有無を調べた。


【結果】JOA score は術前平均7.2点、術後平均11.1点であり、平林法による改善率は平均33.3%であった。脊柱管前後径は平均14.4mmであった。すべりはC3:11例、C4:10 例とC3・10に多かった。MyelomalaciaはC3/4:14 例、C4/5:9例、
C5/6:3例であった。


【考察】C3/4椎間でのすべりや狭窄による頚髄の圧迫病変が多かった。高齢者であっても改善率は比較的良好であり、全身状態に問題が無ければ手術を行なうべきと考えられた。

22.80才以上に施行した頚椎椎弓形成術症例の術後成績

 

九州大学医学部 整形外科

 

○松本嘉寛(まつもとよしひろ)、播广谷勝三、川口謙一、岩本幸英

 

【目的】近年高齢者の頚椎手術の適応は拡大しているが80才以上の高齢者における圧迫性脊髄症に対する頚椎椎弓形成術の手術成績に関する報告は少ない。


【対象と方法】手術時年齢が80才以上で椎弓形成術(桐田宮崎変法)を行った症例11症例(男性5名女性6名、平均82.5才)を対象とした。術前後のJOAスコアおよび改善率、頸部痛、単純X側面像でC2-7角、可動域、不安定性の有無などについて検討した。


【結果】平均JOAスコアは術前8.7点、最終経過観察時11.6点、平均改善率(平林法)35.5%であった。軽度の頸部痛を3例に認めた。術前後でC2-7角は17゜から11゜可動域は32゜から30°へと変化した。3例に椎体前方すべりを認めた。


【考察】高齢者の定義、対照群の設定などにより正確な評価は困難であるが、高齢者頸髄症の手術成績は若年者と比較して不良な例が多いと報告されている。今回の検討でも、特に不安定性の出現を認めた症例で改善率が不良であり、選択的椎弓切除術などによる後方支持組織に対する低侵襲化も考慮すべきと考えられた。