第75回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題Y)

39.安全に手術に臨むための術前管理対策 ―入院コーディネーターの協力を得て―

 

長崎三菱病院 整形外科

 

○津田圭一(つだけいいち)、矢部嘉浩、北原博之、宮路剛史、金丸由美子

 

【緒言】高齢者手術例では全身合併症を伴っていることが多く周術期管理や術後合併症に難渋することもまれではない。安全かつ円滑に手術に臨めるように入院コーディネーター(以下HC)の協力を得て行っており、当院での術前管理とHCの役割について紹介する。


【内容】入院手術が決定後、全麻検査を外来で行う。HCの業務内容は、@全麻検査チェック、入院日調整、A心電図異常例は、心エコーを行い、状況によって循環器科紹介、B呼吸機能障害、喘息例は呼吸器科紹介、C糖尿病は血糖値やHbA1 c 高値があれば内科紹介、場合によって手術日1〜2週前に入院とし厳密な食事療法、投薬、インスリン治療、術前内科入院、D他内科疾患や内服状況を詳しく情報収集、E抗凝固剤使用例では術前中止の手配などである。


【方法、結果】HCを導入したH20年4月から1年間の80歳以上の脊椎手術は34例あった。手術延期や術後合併症を生じた例はなかった。


【結語】内科疾患を有した高齢者例でも術前に分身状態把握、コントロールを行うことによって、安全に手術に臨めた。また、HCの協力により円滑に周術期管理が行えた。

40.高齢者脊椎手術後の合併症 〜手術侵襲の安全域を示す sliding scale の作成〜

 

大分大学 整形外科

 

○吉岩豊三(よしいわとよみ)、宮崎正志、小寺隆三、津村 弘

 

【はじめに】高齢者では全身的予備能が低下しており、加える手術の侵襲においては限界がある。高齢者の安全域を知ることは重要であり、今回われわれは脊椎手術の術後合併症の評価を行い、安全域を示すsliding scaleを作成したので報告する。


【対象と方法】2006年〜2010年に60歳以上の脊椎instrumentation手術を受けた92症例を対象とし術後合併症の有無を調査した。合併症の有無と年齢、手術時間、麻酔時間や出血量との関係について統計学的検討を加えた。また、手術時間等の因子に関してsliding scale を作成した。


【結果】80歳以上は19.6%であった。術後合併症は、せん妄14例、食欲不振9例などを含めると30.4%にみられた。術後合併症有群では平均年齢76.1歳、合併症無群は71.8歳であり有意差を認めた(P<0.01)。Sliding scaleにて80歳の脊椎手術における安全域を検討すると、手術時間は175分以下であった。


【考察】高齢者の手術侵襲に対する予備能はその年齢に大きく左右される。今回の検討において、合併症有群では有意に年齢が高く、高齢者では注意が必要であることが裏付けられた。また、sliding scaleを今後活用し検討する必要がある。

41.当院での80歳以上の脊椎手術症例における術前、術後の合併症     

 

岡山大学 整形外科 

 

○塩崎泰之(しおざきやすゆき)、三澤治夫、杉本佳久、馬崎哲朗、尾崎修平、瀧川朋亨、田中雅人、尾崎敏文

 

【症例と方法】2006年1月から2011年2月までに当院で手術加療を行った、80歳以上の脊椎手術例での内科合併症を検計した。


【結果】症例は、50例で平均年齢は82歳であった。疾患は、化膿性脊椎炎が2例、環軸椎関節亜脱臼が3例、圧迫骨折偽関節が2例、頸椎症性脊髄症が10例、腰部脊柱間狭窄症が29例、脊髄腫瘍が3例、その他が5例であり、頸椎症性脊髄症と腰部脊柱間狭窄症の合併を4例に認めた。術前の合併症は、高血圧が21例、糖尿病が16例、心疾患が13例、悪性腫瘍の既往が4例、リウマチ・膠原病が3例、消化性潰瘍が3例、脳梗塞が3例、その他が3例であり、50例中39例(単複あり)に認めた。術後に発生した合併症は、せん妄が4例、褥創、消化性潰瘍が1例であり、6例に認めた。


【考察とまとめ】術前より専門科と協力した詳細な術前評価と術後管理により、高齢者の術後に懸念される肺炎等の呼吸器合併症は今回の検討では認めなかった。今後さらに高齢化が進むため安全な治療を行うには、 専門科との協力が不可欠である。

42.80歳以上の脊椎手術における合併症の検討

 

愛媛大学医学部付属病院脊椎センター*1

愛媛大学大学院運動器学*2

 

○堀内秀樹(ほりうちひでき)*1、尾形直則*1、森野忠夫*1、森実 圭*1、山岡豪大朗*1、三浦裕正*2

 

高齢者の脊椎疾患は近年増加し、80歳以上の患者の手術を行う機会も増加してきているが、高齢者では併存疾患や術後合併症の問題が危惧される。今回、2003年から2010年の8年間に当院で脊椎手術を行った症例のうち、80歳以上の患者99例について調査し、高齢者手術における安全対策について検討した。80歳以上の手術件数は脊椎手術全体の9.6%であった。除圧術が73例、固足術が26例であり、固定術の46%は骨粗鬆性圧迫骨折後偽関節に対する手術であった。術前併存疾患のある症例は71.7%と脊椎手術全体(55%)と比較しても高く、循環器系疾患(高血圧、心疾患)
の割合が高いことが特徴であった。術後合併症は18%に認められ、脊椎手術全体(16%)と差は無かったが、術後せん妄が術後合併症の半数を占めた。循環器系疾患を伴っている患者に対しては循環器受診を含め、術前の評価と周術期の安全対策が重要であり、術後せん妄の予防についてはメジャートランキライザーの使用や、術後酸素投与期間
の延長などが対策案として挙げられる。

43.80歳以上の脊椎手術 ―周術期合併症と術後成績―

 

徳島市民病院 整形外科

 

○千川隆志(ちかわたかし)、中川偉文、遠藤 哲、中村 勝、中野俊次、島川建明

 

【目的】今回、80歳以上の脊椎手術の周術期合併症と術後成績について後ろ向きに検討した。


【方法】2006年から2010年に行った脊椎手術874例中、80歳以上であった73例を対象とし、術前内科的合併症、手術時間、出血量、輸血の有無、周術期合併症と術前・術後JOA score を調査した。

 

【結果】術前内科的合併症は、重篤な呼吸器疾患は含まなかったが、心筋梗塞、狭心症などの心疾患14例、脳梗塞6例、糖尿病23例、抗凝固療法9例であった。手術時年齢は平均82.6歳であり、頚椎手術34例(うち固定2例)、胸椎手術1例、腰椎手術38例(うち固定9例)で手術時間は平均2時間23分、術中出血量は平均236mlであった。自己血輸血を13例に行い、輸血を4例に有した。治療を要した周術期合併症は、深部感染1例、電解質異常2例、術後3週目に心肺停止した死亡例1例であった。頚椎例は術前JOA score が平均8.0点、改善率が29.5%、腰椎例は術前JOA score が平均9.6 点、改善率49.6%であった。

44.当科における超高齢者の術後全身合併症の検討

 

熊本大学 整形外科

 

○岡田龍哉(おかだたつや)、谷脇琢也、藤本 徹、瀬井 章

 

【目的】脊椎手術患者の高齢化に伴い、肺炎などの全身合併症の管理がより重要となっている。我々は、当科における全脊椎手術症例の術後全身合併症の発生を、一般的に高齢者とされている65歳以上および80歳以上の超高齢者について検討した。


【方法】対象は2005年1月より2009年12月までに当科にて施行した全脊椎手術601例、男性327例、反性274例、平均年
齢58.7歳である。65-79歳までの225例(37.4%)を高齢者群、80歳以上の57例(9.5%)を超高齢者群とした。各群の術後
合併症の発生を統計学的に解析した。


【結果】術後合併症の発生は33例(5.5%)であった。80歳以上とそれ未満において合併症の発生に有意な差は認めなかったが、65歳以上とそれ未満において有意な差を認めた(p<0.01)。超高齢者群と高齢者群間において合併症の発症に有意な差は認めなかった。


【考察】80歳以上という年齢でなく、患者個人の十分な術前評価と適応の検討により、手術の可否を選択すべきと思われる。

45.70才以上の高齢者における脊椎手術の合併症

 

鹿児島脊椎研究班  

○宮口文宏(みやぐちくにひろ)、海江田光祥、堀川良治、東福勝宏、古賀公明、松永俊二、今給黎尚典、廣田仁志

  坂本 光、武富栄二、石堂康弘、山元拓哉、井尻幸政、米 和徳、小宮節郎

 

【はじめに】脊椎手術の需要が増加し、手術時年齢も徐々に高齢となりつつある。今回我々は70才以上の高齢者に対する脊椎固定手術を92例経験したのでここに報告する。


【対象と方法】H15年6月1日からH21年12月31日まで当院にて脊椎固定術を施行した症例365例中70才台の症例64例と80才以上の症例27例を手術時間、術中出血量、術後感染、認知症から比較検討した。


【結果】平均手術時間は70才台が3時間46分、80才以上が3時間54分で、術中平均出血量は803gと1120gであった。感染率は70才台で7.1%、80才以上で11.1%であった。認知症の悪化例が70才台で6.2%で80才以上で11.1%であった。


【考察】当院での80歳以上の手術頻度はH17年4.6%H19年5.8%H21年9.7%と増加しつつある。脊椎の手術年齢が高齢になるとそれに付随する麻酔時間、術中出血量、術後合併症が術後の予後に多大に影響する。今回手術時間、術中出血量、感染率はともに80才台以上が高かった。感染に対してはH19年6月以降粉末状VCMをコーテイングしたフィブリンシーラントを始めてから術後感染の症例はゼロである。早期退院のためには感染を予防し、低侵襲手術も術式
の1つと考える。


【まとめ】1.70歳以上の脊椎固定術例92例を経験した。2.感染予防にフィブリンシーラントを施行した。3.認知症を悪化
させないために感染予防、早期退院が重要である。

46.高齢者に対する頚椎・腰椎同時手術例の検討

 

熊本労災病院 整形外科  

○池田天史(いけだたかし)、宮崎真一、大山哲寛、土田 徹、川添泰弘、武藤和彦、舛田哲朗、白石大偉輔

 

【目的】症状を有する頚椎・腰椎変性疾患例に対して、頚椎・腰椎同時手術を施行した高齢者(手術時年齢70歳以上)症例の臨床成績を検討する。対象および方法:18例(男が13例、女5例)、手術時年齢70〜85歳(平均76.6歳)、経過観察期間6〜48か月(平均22.3か月)疾患は頚椎症性脊髄症と腰部脊柱管狭窄症の合併例18例で1例は胸椎OYLも合併、手術法は頚椎椎弓形成術15例、頚椎椎弓切除3例、腰椎椎弓切除18例、胸椎OYL 切除1例。結果:手術時間71〜
191分(平均116分)、術中出血量50〜610 g(平均234 g)術中合併症なく、術後合併症3例(感染、創?開、十二指腸潰
瘍)あるも治癒した。離床期間平均1.7日、入院期間平均27.3日、JOAスコア(頚髄症)術前10.0点から経過観察時14.2点(改善率47.7%)、JOAスコア(腰痛疾患)術前10.5点から経過観察時20.3点(改善率48.8%)。


【考察】同時手術にても耐えうる手術侵襲・術後経過であり、より良い改善を得るためには可能であれば高齢者であっても頚椎・ 腰椎同時手術を選択して良い。