第76回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題2)

7.腰椎椎弓根スクリュー挿入時に腰動脈損傷を生じた2例

 

岡山大学 整形外科

 

○杉本佳久(すぎもとよしひさ)、田中雅人、三澤治夫、瀧川朋亨、鉄永倫子

 

腰椎椎弓根スクリュー挿入時の合併症として、腰動脈損傷が報告されている。腰動脈損傷は、適切な対応がなされなければ時に致死的な経過をとる可能性がある。今回我々は,比較的まれなスクリュー挿入時の腰動脈損傷2例を経験したので報告する。  

 

(症例1)65歳男性。L1破裂骨折に対して、Thl2-L2の後方固定を施行した。術中に右L2椎弓根にTapを挿入した際に、横突起の基部から動脈性の出血を認めた。術後2日目の採血で貧血が進行しており造影CTを撮像したところ、右大腰筋内に血腫があり、腰動脈からのextravasationを認めた。直ちにembolizationを施行した。   

 

(症例2)82歳男性。L4変性すべり症に対して、L4/5PLIFを施行。術中のX線像で,左L4椎弓根スクリューが外側に逸脱しており、スクリューを抜去した時点で、動脈性の出血を認めた。貧血が進行したため、選択的動脈造影施行したところ、腰動脈からの出血を認め、embolizationを施行した。腰動脈損傷は、術後しばらくたって、貧血の進行やショック状態となり発見される事もあるため、注意が必要である。

8.椎弓根スクリュー逸脱例の原因の検討と予防策

 

愛媛大学医学部附属病院 脊椎センター*1

愛媛大学大学院 運動器学*2 

 

○堀内秀樹(ほりうちひでき)*1、尾形直則*1、森野忠夫*1、山岡豪大朗*1、三浦裕正*2

 

椎弓根スクリュー(PS)の登場以来、脊椎固定術の技術は格段に向上したが、PSによる神経や血管の損傷事例の報告も後を絶たない。今回我々は最近8年間の当大学で胸腰椎に挿入したPSに対して術後CTを用いて逸脱の有無と程度、矢状面に対する挿入の角度について調査し、逸脱の原因について検討を行ったので報告する。PS1117本のうち3.7%(41本)の逸脱を認めた。逸脱数は年ごとに減少し、2007年以後は1%以下となっていた。逸脱スクリューの設置角度の検討では、PSが椎弓根内に収まっていた1076本のそれぞれの椎体での設置角度の平均より10°以内であったものを、挿入角度の許容範囲と考えると、10本が平均より10度以上の角度の違いがあり、刺入角度を誤ったと考えられた。残り31本の誤刺入の原因はエントリーポイントの誤認であろうと考えられた。我々はエントリーポイントの誤認を防止する目的で、2007年以後はイメージで椎弓根を確認しながら挿入してうる。これによりPS逸脱数が減少したのであろうと考えられた。

9.腰椎椎弓根スクリウによる神経合併症の検討

 

九州厚生年金病院 整形外科  

 

○土屋邦喜(つちやくによし)、宿利知之、黒瀬 圭

 

目的:腰椎椎弓根スクリウ使用に伴う神経障害の発生率、発生要因、対応を検討する。

 

対象および方法:2006年以降当科で施行された腰椎固定術は196例で、術後神経障害を3例(1.5%)に認めた。

 

症例1:53歳、男性。血液透析患者のDSA に対する3椎間固定。術後右腸腰筋の筋力低下出現。右L3、L4のスクリウ再設置を施行し筋力低下は回復した。

 

症例2:73歳、女性。L3/4PLF・術後左大腿部痛が出現。左L4スクリウの再設置にて疼痛は軽減した。

 

症例3:77歳、女性。L4/5PLIF・左L4スクリウの逸脱。スクリウの再設置を行い疼痛は軽減した。

 

考察:椎弓根スクリウの逸脱は時に重大な合併症を起こすため、逸脱の可能性がある場合は術後の症状経過、画像等に十分注意を払い必要であれば適宜再設置が必要である。今回の3症例はいずれもスクリウ再設置にて完全回復が得られた。変性の高度な症例、透析、高齢女性等ではスクリウ逸脱は起こりやすい。スクリウ逸脱による症状は術後早期より出現し、その後増強傾向となることが多かった。

10.後方経路腰椎椎体間固定術の術後感染の治療経験

 

国立病院機構 岡山医療センター  

 

○橋本敏行(はしもととしゆき)、中原進之介、竹内一裕、高橋雅也

 

2007年4月1日から2011年3月31日の間、後方経路腰椎椎体間固定術(以下PLIF)の術後感染を5例経験したので報告する。同期間におけるPLIF施行例は535例であるので発生率は0.93%であった。性別は男性3例、女性2例。発症時年齢は、44〜78歳、平均年齢66であった。起因菌は、MSSAが2例、Staphylococcus capitisが2例、MRSEが1例であった。既往症は、糖尿病が2例、透析が1例、狭心症が1例であった。手術後から感染と判断した期間は平均33.6日であった。全例再手術が行われたが、後方部のデブリードマンのみが2例、それに加え一部または全部の椎弓根スクリューを抜去したのが2例、前方からもデブリードマンと固定術を行ったものが1例であった。再手術までの期間は、平均62日であった。術後感染と診断してから、CRPがはじめて陰性化するまでの平均期間は65.2日であった。CRPの陰性が持続するまでの平均期間は131.8日であった。

抗生剤が著効し早期にCRPが陰性化した1例と前方手術を行った1例は、治療後のCRPは落ち着いているが、その他の3例は、時々CRPが軽度陽性化が続くことがあり、感染の再燃を疑わせ頻回の検査を要することがある。

11.当院におけるinstrumentation surgeryの術後深部感染発生率

 

三豊総合病院 整形外科  

 

○長町彰弘(ながまちあきひろ)、土岐俊一、米津浩、阿達啓介、井上和正、遠藤 哲

 

【目的】当院におけるinstrumentation surgeryの術後深部感染発生率を明らかにすること。

 

【対象および方法】1997年5月から2011年4月までの14年間に当院で行われたInstrumentation surgery(以下IS)の455件と、decompressive surgery(以下DS)の719件合計1174件の脊椎手術を対象とした。頚椎 ではIS291件、DS25件、胸椎ではIS49件DS33 件、腰椎ではIS125件DS651件であった。                            

 

【結果】頚椎ではISに2件、DSに0件、胸椎ではISに1件、DSに0件、腰椎ではISに3 件、DSに3件発生していた。ISでの術後深部 感染発生率は1.32%、DSでは0.42%であり、ISの術後深部感染発生率はDSの約3倍であった。起炎菌は頚椎前方固定術後に表皮ブドウ球菌により発生した1例を除き、全てMRSAであ った。ISの深部感染発生例全例に病巣郭清を行 い、腰椎では持続洗浄を行ったが、implantの 抜去を免れたのは1例にとどまった。

12.当科における脊椎インストルメントサージヤリーの術後感染対策

 

久留米大学 整形外科 

 

○山田 圭(やまだけい)、佐藤公昭、密川 守、吉松弘喜、吉本如良、木内正太郎、佐々木威治、

 猿渡敦子、永田見生

 

【はじめに】脊椎インストルメントサージヤリーの術後感染対策の効果を検討した。

 

【対象と方法】対象は2005年5月から2011年3月まで脊椎インストルメントサージャリーを施行した220例(男99例、女121例)であった。2005年5月から2007年9月まで(第1期;87例)は抗菌薬の予防投与期間を短縮(2〜3日)、2007年10月から2009年4月まで(第2期;47例)は更に術直前に術野を石鹸で洗浄した。2009年5月から2010年10月まで(第3期;68例)は救命センター経由の症例に周術期バンコマイシン(VCM)予防投与を加え、2010年11月から2011年3月まで(第4期;18例)はVCM予防投与を中止した。この4期間の術後感染の発生率を調査した。

 

【結果】術後深部感染は第1期で4例(4.6%)、第2期は2例(4.4%)、第3期は2例(2.9%)、第4期は1例(5.5%)であった。

 

【考察】救命センター経由の脊椎インストルメンテーションサージャリーに周術期VCM予防投与は有効な可能性がある。