第77回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題7)

29.強直股における腰椎変形(冠状面アライメント)の検討

 

佐賀大学 整形外科

 

○森本忠嗣(もりもと ただつぐ)、釘崎 創、塚本正紹、吉原智仁

 

【目的】強直股における冠状面の脊柱変形について調査すること。

【方法】人工股関節全置換術を行った片側の強直股症例52例(自然強直24例、固定術後28例)を対象とした。男性19例、女性33例、平均年齢65歳であった。術前の股関節と腰椎の立位単純X線正面像から股関節内外転角、骨盤傾斜角(涙痕間線と水平面のなす角)、腰椎Cobb角(L1-5)を調査した。ピアソンの相関係数を求め、各測定角度の相関関係について検討した。

【結果】股関節内外転角と骨盤傾斜角、股関節内外転角とCobb角、骨盤傾斜角とCobb角、の間には、 いずれも有意に正の相関関係を認めた(相関係数:0.364〜0.772)。 すなわち、強直股の外転角が大きくなれば強直側方向へ骨盤傾斜角やCobb角は増加し、内転角が大きければ非強直側方向へ骨盤傾斜角および Cobb角は増加していた。

【考察】 強直股において股関節内外転肢位と腰椎側弯の方向には有意に正の相関関係が認められた。強直股の固定肢位が腰椎骨盤の冠状面アライメントに影響していた。

30.変性側弯症における側方すべりによる神経根症の病態

 

浜脇整形外科病院

 

○大石陽介(おおいし ようすけ)、村瀬正昭、林義裕、古賀陽一、浜脇純一

 

変性側弯症において、側方すべりは頻繁に認められ、神経根症発生に関係すると考えられている。今回、変性側弯症に伴う側方すべりの神経圧迫に関する病態について分析したので報告する。

【方法】L2/3、3/4、4/5のいずれかに狭窄があって手術をした立位Cobb角10度以上の変性側弯症69名でX線上側方すべり(5mm以上)を示す102椎間を対象とした。 側方すべりの症状発生には何が関与するか 症状発生が側方すべり側と反対側では何が違うかについて分析した。

【結果】 1)側方すべり椎間のうち、有症状は42椎間、無症状は61椎間であった。有症状椎間では前方すべりと片側下関節亜脱臼の合併が多かった。

2)18椎間に変性すべり側で症状が発生し、16椎間に反対側で発生した。後者は側方すべり側が楔状変形の凸側と一致することが多く、片側下関節亜脱臼の合併も多かった。前者は主に突出した上関節突起で、後者は主に亜脱臼した下関節突起で神経が圧迫されていた。

31.当科における腰椎変性側弯症の治療

 

久留米大学 整形外科*1

済生会二日市病院 整形外科*2

 

○脇岡 徹(わきおか とおる)*1、佐藤公昭*1、密川 守*2、山田 圭*1、吉松弘喜*1、佐々木威治*1、猿渡敦子*1、永田見生*1

 

高齢化社会に伴い、腰椎変性疾患が近年増加傾向にある。その代表的な疾患である腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal stenosis:LSS)、および腰椎変性側弯症(degenerative lumbar scoliosis:DLS)による痛みやしびれ、歩行障害は、著しくADLとQOLを低下させる。

DLSの治療に対して当科では、責任病巣の除圧術を原則とし、不安定椎間があれば、矯正を行わず固定術を追加してきた(西日本脊椎研究会誌、2006)。それらにて術後成績が良好な症例もあるが、側弯や回旋、不安定性の強い症例に対しては治療の限界がある。

インストルメンテーションの進歩により、当科にても以前より積極的に固定・矯正術を併用するようになった。過去に本研究会誌で報告した前述の症例に、最近の症例を加味し、治療成績と術式選択につき考察した。

DLSは脊柱管狭窄だけでなく、腰椎の構造学的 な問題があり、病態と治療に関して統一した見解が得られていない。今回の結果と諸家の報告とを踏まえ、当科における治療方針の検討を行った。

32.腰椎変性側弯症に対する手術療法の問題点

 

大分整形外科病院 整形外科  

 

○大田秀樹(おおた ひでき)松本佳之、中山美数、酒井 翼、小林達樹、木田浩隆、竹光義治

 

【目的】腰椎変性側弯症の病態は複雑であり治療法に難渋する。我々は全脊柱のバランスが良好な症例には神経障害部だけのshort fusionを、不良例にはlong fusionを原則としている。当院の手術成績 を調査し問題点を検討した。

【方法】対象は術後3年以上経過し直接検診し得た33例(follow up率84.6%)である。年齢は平均69.6歳。4例は除圧のみ、24例は除圧+short fusion、3例は除圧+long fusionを行った。固定椎間数は1椎間3例、2椎間16例、3椎間5例、4椎間3例、5椎間2例であった。

【結果】除圧術4例は再悪化のため固定術を追加した。全症例のCobb角は術前18.9°が術後5.9°となり、JOA scoreは術前10.5が23.6となった(平林の改善率70.8%)。隣接障害の発生率は20.8%、偽関節の発生率は28.6%、再手術率36.4%であった。

【考察】回旋不安定性を伴うこの疾患は何らかの固定を必要とすると思われるが、神経障害部だけのshort fusionでは隣接障害が問題となり、側彎部位全てを固定するlong fusionでは特にL5/S1の偽関節が問題となった。

【結語】腰椎変性側弯症に対する固定術は全体のバランスを見て決定するべきであるが、まだまだ問題が山積している。

33.変性側弯を伴う腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術の中長期的検討

 

公立学校共済組合九州中央病院 整形外科  

 

○有薗 剛(ありぞの たけし)、井口明彦、濱田貴広、嘉村聡志、今村隆太、大崎幹仁、牛尾哲郎

 

【目的】変性側弯を伴う腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術の中長期成績を検討し、この病態に対する除圧術の限界について検討したので報告する。

【対象及び方法】対象は2005年4月から2009年3月までに当院にて腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術を受けた110例中、術前立位前後像にてCobb角が10度以上であった24例である。圧迫骨折のある症例やSimmonsらのtypeUに分類される症例は除外した。術前の臥位と立位のCobb角、disc indexなどのレントゲン像の指標、除圧レベル数、術後のレントゲン像の変化と臨床症状の変化について検討した。臨床評価は旧JOA score、visual analog scale、Roland-Morris Disability Questionnaireを用いた。

【結果及び考察】今回の検討では術前のCobb角が30度を超える症例は無く、術後著しく変形や症状が悪化した症例は認められなかった。除圧術で対応困難な症例の更なる検討が必要であると思われた。

34.腰椎変性側弯に対するshort segmental fusionの術援短期成績と問題点

 

九州厚生年金病院 整形外科  

 

○土屋邦喜(つちや くによし)、宿利知之、黒瀬 圭

 

腰椎変性側弯に対するshort segmental fusion(2椎間以下)の術後成績と問題点を検討した。 対象:術前20度以上の側弯に対し1椎間または2椎間の固定術を施行した症例は6例で年齢は平均70.8歳であった。固定椎間はL4/5の1椎間が1例、他はL3-5レベルの2椎間固定であった。経過観察期間は平均14ヶ月であった。

【結果】側弯は術前平均28.8度が術後15.5度となり平均矯正率は46%であった。下肢症状は全例改善した。固定範囲の骨癒合は全例獲得されImplant failureは認めなかった。L4/5の1椎間固定を施行した症例で術後早期から固定上位での側弯変形が悪化し、術後3年4ヶ月で固定延長を施行した。

【考察】腰椎変性側弯は骨粗鬆、多発性の椎間板変性等で固定範囲の決定には難渋することが多い。変性側弯に対しL3-5固定を行った症例の短期臨床経過は比較的良好であった。今後長期経過は必要であるが、変性側弯に対してのshort segmental fusionは一つの選択肢と考えられた。

35.腰椎変性側弯症に対する多椎間PLIFによる矯正固定術の術後成績

 

徳島市民病院 整形外科  

 

○千川隆志(ちかわ たかし)、遠藤 哲、中川偉文、中村 勝、中野俊次、島川建明

 

【目的】腰椎変性側弯症(degenerative lumbar scoliosis,以下DLS)に対する多椎間後方矯正固定術の治療成績をretrospectiveに調査した。

【対象および方法】2007年から2011年までに、Cobb角10°以上のDSLに対して3椎間以上の後方椎体間固定(以下PLIF)と、固定椎間に後側方固定(以下 PLF)を施行した35例(男11例、女22例)を対象とした。全例PLIFには局所骨を、PLFには局所骨+同種骨+人工骨を骨移植した。固定範囲は、固定頭尾側椎体はlateral tiltが2°以下の椎体を選択し、固定椎間数は平均3.6椎間(3〜6椎間)であった。手術時年齢は平均70.1歳で、術後調査期間は平均26.7ヶ月であった。検討項目は、手術時間、術中出血量、輸血の有無、術後合併症(深部感染・下肢筋力低下)、術前後のJOA score(29点満点)、平林法による改善率、X線評価として、Cobb角の推移、Screw周囲のclear zone、骨癒合とした。

【結果および考察】手術時間は平均440.6分、1椎間あたり124.1分、術中出血量は平均1150.1ml1椎間あたり324.0ml、全例術前貯血・セルセーバー回収血による自己血輸血を行ったが、輸血を要した症例は7例で残りの26例は自己血輸血で回避できた。術後合併症では、一過性下肢筋力低下を8例に認めた。初期の片側群6例、両側群2例に認めた。2009年7月以降、PLIF時に上関節突起を完全に切除し、Exiting nerve rootを確認してからは 、 認めていない。JOA scoreは、術前7.5点が術後18.8点に改善し、平林法による改善率は53.1%であった。Cobb角の推移は、術前16.2°、術直後8.8°、最終観察時10.2°だった。術後深部感染は2例にみられ、早期に病巣郭清、持続洗浄を行い、内固定材を抜去せず、鎮静化し骨癒合が得られた。Screw周囲のclear zoneは17例に術後3〜6ヶ月で出現し、片側群に11例、両側群に6例で有意差があった。最終観察時までclear zoneの進行はなく、骨癒合が得られた後は、clear zoneの安定化と考える透亮像の不明瞭化がみられた。全例骨癒合が得られ、PLIFにPLFも追加した360°fusionが有用であった。