第79西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題3) |
10.少年サッカー選手の慢性脊髄損傷の1例
山口大学医学部附属病院 整形外科*1 山口リハビリテーション病院*2
【はじめに】サッカーのヘディングが原因と考えられた。稀な頸髄損傷症例を経験したので報告する。 【症例】17歳男性。12歳からサッカーを始めた。半年前から左手痺れ感が出現、徐々に頸部痛と右下肢痺れも出現したため、近医受診。MRI上髄内に高信号域を認めたため、当院紹介。筋力正常、左前腕・両大腿以下知覚鈍麻、右下肢深部腱反射亢進を認めた。X線上 C3/4の局所後弯、MRI上両後索を中心にT2強調像にて高信号域を認めた。髄内腫瘍、サルコイドーシス、多発性硬化症などを鑑別に挙げ精査を行った。 【結果】すべて除外され、頸髄損傷と結論づけた。局所安静により徐々に改善した。 【考察】脊椎に生じるスポーツ外傷は決して稀ではなく、米国では全脊椎脊髄外傷の約10%、本邦でも約6%と報告されている。その内、頸椎・頸髄損傷はラグビー、アメリカンフットボール、柔道における急性の頸椎・頸髄損傷は報告が多い。しかし、本症例のように明らかな不安定性や外傷歴がなく、頻回なヘディングによると考えられる頸髄損傷例も存在するため、注意が必要である。 |
11.当科におけるスポーツに関連した頚椎頚髄損傷の検討
宮崎大学 整形外科
比嘉 聖(ひが きよし)、黒木浩史、濱中秀昭、猪俣尚規、帖佐悦男
【目的】スポーツに起因する頚椎頚髄損傷(頚損)について調査しその傾向と対策について検討した。 【対象と方法】平成13年1月から平成23年12月の11年間に当科で治療をした中心性を除く頚損患者71例のうちスポーツが原因であった6例(8.5%)を対象とした。以上について性別、年齢、受傷スポーツ、診断、麻痺レベル(Frankel分類)、治療法、予後について調査した。 【結果】スポーツが原因の頚損6例(男5例、女1例、平均年齢23.5歳)はその他の頚損65例(男48例、女17例、平均年齢58.0歳)に比較し若年の割合が多かった。受傷スポーツはラグビー、柔道、体操、スノーボードなど全て転倒や接触を伴う競技であった。受傷時の麻痺レベルはB2例、E4例で、C1骨折、C2骨折、非骨傷例の3例には保存療法を、C1/2脱臼骨折、C4破裂骨折、C5/6脱臼骨折の3例には手術療法を選択した。最終観察時の麻痺レベルは全症例D以上に回復していた。 【結論】スポーツによる重度頚損も稀ながら認められ、その対策として啓発活動、メディカルチェック、競技会での医療支援体制の整備などが重要である。 |
12.スキー・スノーボードによる脊椎外傷の特徴
鳥取大学 整形外科
【はじめに】当院は大山スキー場の麓に位置するため、スキー場から脊椎・脊髄損傷を疑う患者のほとんどが搬送される。 【目的】これらの脊椎・脊髄損傷患者の特徴を明らかにすることである。 【対象】2004年〜2013年の間に大山スキー場から搬送されたスキー(A群)・スノーボード(B群)による脊椎・脊髄損傷の9例である。 【結果】性別は男性:8例、女性:1例で年齢は平均37.8歳(13〜63歳)でA群が5例、B群が4例であった。受傷機序はA群では前方に顔面から転倒が4例で1例は不明であった。B群はジャンプ台から着地ミスが4例であった。損傷高位はA群はすべて頚椎でB群は頚椎が1例、胸腰椎が3例であった。手術療法が必要であった症例は3例でいずれもB群であり、頚椎の脱臼骨折が1例、胸腰椎の脱臼骨折が2例であった。術前後のAISは E → E、C → D、A→Aであった。 【考察】A群では顔面から転倒することにより頚椎の過伸展損傷が多いと考えられた。B群ではジャンプ台による高エネルギー外傷が多いため、損傷の程度も大きく手術が必要であった。 |
13.コンタクトスポーツによる頚髄損傷における脊柱管狭窄の関連 特に非骨傷性頚髄損傷について
総合せき損センター 整形外科*1九州大学 整形外科*2中部労災病院 整形外科*3
高尾恒彰(たかおつねあき)*1、森下雄一郎*1、前田 健*1、植田尊善*1、森 英治*1、弓削 至*1、河野 修*1、坂井宏旭*1、芝啓一郎*1、岡田誠司*2、加藤文彦*3
1979年の開設以来 2005年までに入院加療を行った脊椎、脊髄損傷1822例のうち、受傷機転がスポーツによるものは111例 (6.1%)であり、そのうちコンタクトスポーツは16例であった。コンタクトスポーツによる頚髄損傷の危険因子として脊柱管狭窄が指摘されている。非骨傷性頚髄損傷を対象とし、脊柱管狭窄の関連について検討した。2005年から2009年において、受傷後2日以内に当センターを受診した非骨傷性頚髄損傷のうち、初診時MRIが得られた 50歳以上の男性43例、女性4例、平均68歳を対象とした。MRI矢状断像にて硬膜管前後径を測定した。以前共同演者が報告した50歳以上の正常人607例の硬膜管前後径と比べ、頚髄損傷群の方が各椎間において有意に狭かった。非骨傷性頚髄損傷の発症において、脊髄の狭窄が認められる群は、脊髄狭窄がない群に対する相対リスクが125倍と驚くべき高値を示したものの、もともとの非骨傷性頸髄損傷の発症リスクが0.00003と極めて低く、絶対リスクは0.00017であった。予防的手術は絶対リスクが高い場合のみに考慮されるべきであり、脊髄前後径が狭いと脊髄損傷の相対リスクが高い、という見かけ上の理由のみで予防的に除圧手術を施行することは合理性が低いと結論づけられた。 |
14.スポーツによる脊椎・脊髄損傷〜その傾向と問題点〜
総合せき損センター 整形外科
坂井宏旭(さかい ひろあき)、河野 修、出田良輔、前田 健、植田尊善、芝啓一郎
【はじめに】脊椎・脊髄損傷 (脊損)は外傷の中でも最も重症度が高いもののひとつである。一方、スポーツによる脊損は、脊髄障害医学会のキャンペーンにより学生の飛び込みによる脊損が激減し、功を奏したという実績がある。このように新規脊損の発生防止には疫学調査を行い、その対策を立てることが非常に重要である。今回、我々は現在当院で行っている各種データベース(DB)を用い、スポーツによる脊損の傾向と問題点の解析を行った。 【方法】当院急患DB(1979年〜)、脊髄損傷DB(2005年〜)、福岡県脊登録管理事務局DB(2006年〜)、全国労災病院DB(1989年〜)から、脊損患者数、性別、年齢、原因スポーツ等について比較検討を行った。 【結果】当院において1979年の開院以来2010年12月末までに、2276例の脊損患者の入院があり、スポーツによる脊損は152例(6.6%)であった(男性138例、女性14例)。年齢分布は10代の63例をピークに年齢とともにその患者数は減少していた。最も多い原因は、飛び込みに伴う脊損で60例であったが、福岡県において10代の発生数は減少傾向にあった。また、近年、他院で初期治療を行ったスポーツによる脊損患者の入院が増加傾向にあり、遠方からの患者及び家族の負担が増大していることが問題点として明らかになった。 |