第80回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題1)

1.本学医学生の横断的腰痛調査


久留米大学医学部 整形外科

 

山田圭(やまだ けい)、佐藤公昭、脇岡徹、吉松弘喜、溝田敦子、志波直人

 

【はじめに】 医学生は座学の時間も多く、腰痛が多いと指摘さ れている。本学医学生の腰痛の調査を行った。

【対象と方法】対象は本学医学部医学科の 2年生、 3年生、 4年生、 5年生 349名(男 260名、女 89名)で年齢は平均 23.5歳 (19〜39歳)であった。講義終了後にアンケート調査を行い、腰痛の既往、調査時腰痛の有無、運動部所属の有無を調査し各学年で比較した。また講義時間数、実習時間数について調査した。

【結果】腰痛の既往を 2年生で 77名 (65.8%)、3年生で 34名 (40.5%)、4年生で 50名 (66.7%)、5年生で 48名 (65.8%)に認めた。調査時腰痛は 2年生で 70名 (59.8%)、3年生で 40名 (47.6%)、 4年生で 33名 (44%)、5年生で 35名 (47.9%)に認めた。運動部に所属する学生の割合には各学年で差はなかった。前年度の講義時間数は 3年生が最も少なかった。

【考察】青年期には運動が腰痛の危険因子と指摘する報告 も多いが、座学の時聞が腰痛を引き起こす要因となっている可能性もある。

2.JOABPEQを用いた介護施設での腰痛検診

 

香川大学整形外科

 

亀山真一郎(かめやま しんいちろう)、有馬信男、小松原悟史、山上佳樹、高田成基、山本哲司

 

介護施設での腰痛健診に JOABPEQを用いたので報告する。

【対象および方法】介護施設職員の35名(男 15名、女 13名)で、介護職員 28名(男 15名、女 13名および)看護職員7名(男 1名、女6名)であった。これらに対し検診時で初回とその1年後の2回とも JOABPEQが回収できたものについて検討した。

【結果】 JOABPEQの腰痛 VASが0のものを腰痛なし、 VASが0以外を腰痛ありとすると、初回検診時で腰痛ありが 22名 (63%)、1年後検診時で腰痛ありが17名 (48%)で、あった。また 2回検診時とも腰痛ありが 15名 (43%)で腰痛なしが 11名 (31 %)であった。 JOABPEQは2回検診時とも腰痛ありが歩行機能障害のみ中央値が 100点であり、腰痛なしは心理的障害以外の項目の中央値がすべて 100点であった。 JOABPEQ因子で歩行機能障害は腰痛あり、なしの2群で2回検診時とも差がなかった。 2回検診時とも腰痛ありの1 5名中8名は疼痛関連障害点数の変動が20点以上であった。

【まとめ】検診時の介護作業従事の腰痛有訴者は 40%以上で、 JOABPEQの歩行機能障害点数は低くなかった。

3.BDI(Beck Depression Inventory)と腰痛の関与

 

鹿児島大学整形外科


冨永博之(とみなが ひろゆき)、田邊史、d松昌彦、山元拓哉、永吉隆作、米和徳、小宮節郎

 

【はじめに】腰痛は他の身体痛と比べて心理因子が関与しており、抑鬱傾向が強い場合腰痛の訴えが強く治療効果が低いとされている。今回我々は精神科、心療内科領域で抑鬱傾向の指標として使用されている BDI(Beck Depression Inventory)に着目し、術前の腰痛、術後成績との関与を検討したので報告する。

【対象】手術を行った腰椎疾患35 例で、年齢平均64.5歳、男 27名女 8名

【方法】抑鬱傾向とされる BDI11以上の群(鬱群)と BDI10以下の群(正常群)でや術前腰痛について比較した。また JOABPEQ術後改善度20点以下を効果なし群として beck scoreとの関係を検討した。

【結果】鬱群は 35名中 15名 (42.9%)にみられ、腰痛 VAS正常群、鬱群 51.1、63.1 (p=0.15)と鬱群で VASが高い傾向にあったが両群間に有意差はみられなかった。また効果なし群でbeck scoreが高い傾向にあったのは、疼痛因子と歩行因子であったが有意差はみられなかった。

【考察】今回の精査で高度鬱状態の症例は含まれておらず、また鬱状態が腰椎症状を起こすのか、その逆かは不明である。術前と術後の心理的障害度と身体的障害度の相関関係を調査することが必要である。

4.術前腰椎傍脊柱筋評価は大切であるー腰椎後方固定術後成績不良にてPSO施行した 1症例の反省からー

 

大分整形外科病院整形外科

 

大田秀樹(おおた ひでき)、松本佳之、中山美数、酒井翼、井口洋平、清田光一、木田浩隆、竹光義治

 

腰部脊柱管狭窄症の手術療法に於いては狭窄の程度、不安定性などを評価して術式を決めるが、傍脊柱筋の評価は疎かになり易い。今回、われわれは間欠性跛行を呈する腹部脊柱管狭窄症の患者に後方除圧固定術を施行したが、傍脊柱筋の評価が疎かだったため患者の本当の愁訴を見落とし、後日PSOを追加せざるを得なかった症例を経験したので報告する。

症例は 80歳女性。 100mの腰痛、下肢痛による間歇性跛行を呈していた。画像的には L4/5の狭窄、L5/S1の椎間孔狭窄があり、L4/5-L5/S1の除圧と L5/S1のTLIFを行った。術後下肢痛は軽減したものの、腰曲り歩行が続き、本人の希望にてPSOによる後彎矯正を行った。術後の経過は良好で本人の満足度は初回手術に比し格段に高かった。

腰部脊柱管狭窄症による間欠性跛行は腰椎を前屈すると軽減するので、画像的に狭窄があれば、そのための前屈歩行と決めてかかりがちである。しかし、傍脊柱筋の委縮による所謂 LDKでも前屈歩行となるため、両者を術前に的確に把握しておくことが重要である。

5.変形性股関節症患者の腰痛

 

佐賀大学附属病院整形外科

 

森本忠嗣(もりもと ただつぐ)吉原智仁、塚本正紹、園畑素樹、馬渡正明

 

【目的】変形性股関節症の腰痛の特徴を明らかにすること。

【対象と方法】初回人工股関節全置換術を行った進行期・末期の片側性の変形性股関節症266例(年齢37−89(平均62)才、男性35例、女性231例)を対象とし、腰椎や股関節の手術・外傷歴のある症例は除外した。調査項目は、過去一ヶ月間の腰痛の有無(頻度)、程度、部位である。腰痛の強度は股関節痛を10とした場合の数値とNRSで求め、自覚的腰痛部位は、腰部と殿部と両部位である腰殿部に分類した。

【結果】腰痛の頻度は57%であった。平均NRSは3.0であり、股関節痛と同等以上の腰痛を自覚する症例を12%に認めた。部位別の頻度は腰部53%、殿部36%、腰殿部11%であった。

【考察】変形性股関節症患者の腰痛有訴率は57%であり、そのうち、12%が股関節と同等以上の腰痛を自覚していた。また、殿部痛を腰痛として表現する症例も少なくはなかった。腰椎疾患の診療における鑑別疾患として股関節疾患が重要であると示唆する結果であった。