第80回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題5)

20.当科における腰痛に対するオピオイドの使用状況


鹿児島共済会 南風病院

 

鮫島浩司(さめじま こうじ)、川内義久

 

【はじめに】昨今、NSAIDSの長期使用による副作用(消化器障害、腎障害など)が問題視され、慢性疼痛に対する薬物治療は激変している。特にオピオイドは最近、適応が認可され、日常診療での投与が増加している。当院における腰痛に対するオピオイドの処方状況を調査した。

【方法】当科において平成25年4月度に腰痛に対しオピオイド2種類(トラムセット配合錠あるいはノルスパンテープ)が処方された52症例について、対象疾患、効果、副作用等について検討した。

【結果】トラムセットの全処方中62例中腰痛に対する処方は45例(69.2%)に達し、内訳は腰椎手術後の遺残症状に対し29例(64.4%)、椎体骨折9例(20%)などであった。ノルスパンテープ全処方12例中の腰痛に対する処方は7例(58.3%)で、腰椎手術後の遺残症状3例(42.9%)であった。ノルスパンテープ処方7例中3例(42.9%)は透析患者であった。両薬剤とも有効例は60%を越え、副作用も吐き気、便秘等オピオイド特有のもの以外重篤なものはなかった。

21.腰背部痛を伴う骨粗鬆症椎体骨折遷延癒合に対するテリパラチドの効果

 

山口大学整形外科

 

吉田佑一郎(よしだ ゆういちろう)、寒竹司、今城靖明、西田周泰、田口敏彦

 

【目的】腰背部痛を伴う骨粗鬆性椎体骨折遷延癒合例に対するテリパラチドの腰背部痛・QOL改善効果を検討する。

【対象】3ヶ月以上持続する腰背部痛を有する骨粗鬆患者18例(男性3例、女性15例)。全例1椎体以上の陳旧性椎体骨折を有し、11例は遷延癒合を伴っていた。遷延癒合の定義は、MRIで新鮮骨折と診断後6か月以上経過し、Xp仰臥位・座位側面像で椎体不安定性残存とした。

【方法】テリパラチド導入前、導入後1.3.6か月での腰背部痛VAS、JOABPEQを用いて評価し、遷延癒合例11例とその他7例で比較検討した。遷延癒合例では、Xp仰臥位・座位側面像で椎体不安定性の変化を検討した。

【結果】テリパラチド導入後、1ヶ月目から両群とも腰背部痛VAS値の低下を認めた。VAS変化量は、遷延癒合例で有意に低下していた。椎体不安定性も改善していたが、大きなcleftを有する例では癒合には至らなかった。

【考察】テリパラチドは、骨粗鬆患者の腰背部痛を軽減させる効果があり、特に遷延癒合を有する例に有効である。

22.岡山大学病院における難治性慢性腰痛患者に対する集学的治療

 

岡山大学病院整形外科*1、麻酔科蘇生科*2、歯科麻酔科*3、精神科神経科*4、総合リハビリテーション部*5


鉄永倫子(てつなが ともこ)*1、田中雅人*1、杉本佳久*1、荒瀧慎也*1、瀧川朋亨*1、尾崎敏文*1、西江宏行*2、石川慎一*2、小幡典彦*2、宮脇卓也*3、井上真一郎*4、小田幸治*4、流王雄太*4、太田晴之*5

 

【【目的】2012年4月より岡山大学病院で行っている痛みの集学的治療を目指した難治性慢性痛に対する多角的集学的外来(痛みリエゾン外来)の治療成績を慢性腰痛患者で検討すること。

【対象と方法】2012年4月〜12月までに岡山大学病院痛みリエゾン外来を受診した慢性痛患者56例(男性20例、女性36例)のうち腰痛を訴えた34例(男性16例、女性18例)を対象とした。週に1度複数の専門家(整形外科、麻酔科、精神科、臨床心理士、理学療法士、看護師)による診察およびカンファレンスを行い、身体的原因の検索、精神的問題、生活上、社会的な問題などを検討し、治療方針を決定した。治療前後で、Pain Disability Assessment Scale(PDAS)、Pain Catastrophizing Scale(PCS)、Hospital Anxiety Depression Scale(HADS)、Oswestry Disability Index(ODI)、日本整形外科学会腰痛疾患質問票(JOABPEQ)を検討した。

【結果】PDASは有意な変化を認めなかったが、PCSは有意に低下した。HADSの抑うつは有意な変化はなかったが、不安は有意に低下した。ODIは有意な変化は認めなかったが、JOABPEQは腰椎機能障害が有意に改善していた。

【結論】痛みリエゾン外来により、既存の治療に抵抗性の腰椎機能障害及び不安が軽減していた。

23.鼠径部痛を有する腰痛患者に対する神経根ブロックの有効性

 

独立行政法人 国立病院機構米子医療センター整形外科

 

土海敏幸(どかい としゆき)、山家健作、吉川尚秀、南崎剛

 

【はじめに】鼠径部痛を有する腰椎患者に対して行った神経根ブロックについて検討したので報告する。

【対象と方法】2012年10月〜2013年7月の間に治療を行った鼠径部痛を有する腰痛患者は4例であった。このうち初診時に股関節の精査で大腿骨頭下骨折と診断された1例を除外した3例を対象とした。脊椎MRIで下肢痛の領域と一致する神経根に圧迫を確認した後、神経根ブロックを行った。ブロックによる放散痛と再現性、治療効果について検討した。

【結果】男が2例、女が1例で、年齢は40〜57歳であった。全症例で下肢痛領域に一致する放散痛を認めたが、鼠径部への再現痛を認めなかった。神経根ブロックのみで治療できた症例は1例だった。他の2例は急性破壊性股間節症と梨状筋症候群であり、それぞれ人工骨頭置換術と梨状筋ブロックで鼠径部痛と腰痛は消失した。

【結語】神経根ブロックでは鼠径部への再現痛がなくても鼠径部痛は消失した。腰痛は原因疾患を治療することで軽快した。

24.愛媛県内の医療機関(整形外科)における腰痛症保存的治療の実態調査―2年間で腰痛治療方針が変わったか?―

 

愛媛大学医学部附属病院脊椎センター*1 愛媛大学大学院整形外科学*2

 

山岡慎大朗(やまおか しんたろう)*1、尾形直則*1、森野忠夫*1、堀内秀樹*1、三浦祐正*2

 

【目的】プレガバリンや弱オピオイドなど整形外科疾患の病名でも使用できる新しい鎮痛薬の登場により整形外科の痛み治療は変化しつつある。本研究の目的は腰痛症保存的治療の現状を把握することである。

【対象と方法】2010年、2012年の2回にわたり、県内の医療機関で整形外科医として診療に従事している医師を対象にアンケート調査を行った。医師の勤務先は診療所62人、病院82人であった。アンケートでの「腰痛症」の定義は「症状の主なものが腰痛であり、下肢の症状は特別な治療を必要としない患者」とした。治療方針は急性腰痛(発症後4週間以内)と慢性腰痛(発症後3ヶ月以後)に分けて、処方頻度を90%以上、70%-90%、30%-70%、10%-30%、10%以下、絶対処方しない、の6段階のどれに当たるかを答えていただいた。

【結果と考察】両アンケートを通して90%以上に処方と答えた人が一番多かったのは急性腰痛症に対するNSAIDs内服とNSAIDs湿布であり、次いで70%-90%に処方と答えた人が一番多かったのは急性・慢性腰痛に対する腰痛指導と慢性腰痛に対するNSAIDs湿布であった。2012年のアンケートで2010年と比較し、変化していたのは急性腰痛に対する低周波、SSPの処方増加と、急性・慢性を通してのNSAIDs座薬の使用の減少であった。 2012年のアンケートで追加された治療は弱オピオイド、プレガバリン、アセトアミノフェン、ブプレノルフィン貼付剤の4項目であるが、アセトアミノフェンとブプレノルフィン貼付剤は急性・慢性ともに10%以下の使用頻度がほとんどであった。弱オピオイドとプレガバリンは急性腰痛では10%以下の使用頻度であったが、慢性腰痛ではどちらの薬剤も使用頻度は30%-70%、10%-30%、10%以下の3つのグループに均等に分布しており、これらが慢性腰痛の治療薬として認知されつつある状況が伺えた。