第81回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題2

6.ASHを合併した胸腰椎椎体骨折に対する最少侵襲多椎間制動術の検討


下関市立市民病院 整形外科

 

山下彰久、渡邊哲也、白澤建藏

 

【はじめに】強直性脊椎骨増殖症(ankylosing spinal hyperostosis:ASH)を伴った椎体骨折は癒合不全、遅発性神経障害などの合併症を来しやすい。われわれはASHに合併した胸腰椎椎体骨折に対し経皮的椎弓根スクリュウを使用した最少侵襲多椎間制動術(minimally invasive spinal stabilization:MISt)を行っておりその有用性を検討した。

【対象】対象は2012年8月以降、ASHを伴う胸腰椎椎体骨折で除圧の必要がない症例に対してMIStを施行した7例(男5、女2)で、平均年齢は82歳(73〜87歳)であった。骨折の特徴、手術侵襲や術後成績を調査しMIStの有用性を検討した。

【結果】受傷椎体はTh11:1,Th12:1,L1:2,L2:2,L3:1例であった。制動範囲は全例4椎間であった。1例に椎体形成を加えた。手術時間は平均160.3分(72〜226分)、術中出血量は平均65.7g(20〜150g)であった。術後感染やインプラントフェイラーなど重篤な合併症はなかった。レントゲン的には骨折椎体の安定性良好で骨癒合が確認できた症例もあった。

【考察】ASHに伴う胸腰椎椎体骨折は不安定骨折であり癒合不全や遅発性神経障害を招来する可能性がある。従来はオープンによる後方固定術を施行していたが周術期の出血や術後感染など合併症が懸念された。最近は本骨折に対して比較的早期にMIStを積極的に行っている。最少侵襲の手術で骨折部を安定化し離床を促進することが可能と考えられている。しかしながら、本骨折は骨脆弱性が高度であることが多く、スクリュウのトラジェクトリーを工夫しないと固定性が不良となり、ロッド連結の際にスクリュウがバックアウトしてしまうなどピットフォールも存在する。

【まとめ】ASHを合併した胸腰椎椎体骨折に対するMIStは低侵襲であり骨折部に安定性を付与し神経障害を予防しうる有用な方法であることが示唆された。

7. 不安定型胸腰椎骨折に対する経皮的後方固定術の小経験

 

宮崎大学 整形外科*1、国立病院機構宮崎東病院*2

 

永井琢哉*1、比嘉 聖*1、猪俣尚規*1、濱中秀昭*1、黒木浩史*2、帖佐悦男*1

 

【目的】不安定型胸腰椎骨折に対し、経皮的後方固定術を施行した8例について文献的考察を含め報告する。

【方法】2012年8月から2014年2月までに経皮的椎弓根スクリューを使用し後方固定術を施行した8例において、手術時間・出血量・局所後弯角の矯正率・合併症・術後ADLの検討を行った。

【結果】年齢は平均63.8歳(36-82歳)、男性7例、女性1例であった。骨折型は破裂骨折4例、Chance骨折4例であった。術前脊髄損傷程度の分類はFrankel Aが4例、Frankel Eが4例であった。手術時間は平均2時間10分(1時間14分-3時間44分)、出血量は平均60ml(10-120ml)であり、輸血を要する症例はなかった。破裂骨折の局所後弯角は術前平均10.5度から術後平均3.9度と改善し、一年以上経過観察できた2例では最終観察時、矯正損失やスクリューのlooseningは認めなかった。全例術翌日からbed upが可能であり、Frankel Eの症例では術後平均5日目には歩行が可能であった。周術期合併症としてスクリューの椎弓根逸脱例や神経・血管損傷は認めなかった。

【考察】経皮的椎弓根スクリューを使用した後方固定術は、傍脊柱筋の広範な展開が不要で低侵襲な治療法であり近年報告が増加してきている。当科でも Chance骨折や破裂骨折などの不安定型胸腰椎骨折に対し、経皮的後方固定を施行し良好な短期成績を得ることができた。Without fusion のため抜釘することで可動域が温存できる反面、抜釘後の矯正損失の報告もされており今後のさらなる検討が必要であると考える。

【結論】除圧を必要としない不安定型胸腰椎骨折に対する経皮的後方固定術は短期的ではあるが低侵襲で有用な選択肢の一つと考えられた。

8. 当院における外傷性胸腰椎損傷治療 従来法と経皮的後方固定法の比較

 

高知医療センター


林 隆宏、時岡孝光、小松原 将、井上智雄、阿部光伸、沼本邦彦、筒井貴彦、土井英之、大森貴夫、松本俊之、福田昇司

 

【目的】当院で2005年3月から2013年12月において外傷性胸腰椎損傷に対して行った後方固定術を従来群(open群)と経皮的固定群(PPS群)にわけ、TLIS score、ISS、術中出血、手術時間、椎体楔状角、局所後弯角、脊柱管狭窄率について評価した。

【対象】open群44例 PPS群21例、追跡期間は当院で6ヵ月以上のレントゲンフォローを行えた症例であり、平均追跡期間はopen群15ヵ月 PPS群12ヵ月であった。

【方法】open群は骨移植を行っており、PPS群は骨移植は行っていない。椎体の圧潰の程度に応じて、open群、PPS群とも椎体内にHAブロックを充填し椎体形成を行った。

【結果】出血量はopen群590cc、PPS群90cc、手術時間はopen群156分 PPS群130分と、出血量、手術時間とも有意にPPS群が少なかった。椎体楔状角、局所後弯角、脊柱管狭窄率は、術前後と追跡期間における比較(矯正損失)で有意差は認めなかった。

【結語】PPS群は、手術が適応する症例において、open群と比較すると、出血量、手術時間が有意に少なかった。固定性はopen群と比較して同等の結果を得ることができた。外傷性胸腰椎損傷に対する経皮的後方固定は有用な方法であると思われる。今後は、PPS群に抜釘の是非、矯正損失など長期的な経過を検討する必要がある。

9. 胸腰椎破裂骨折に対するTrio Trauma を用いた手術治療の経験

 

神戸赤十字病院 

 

菊池 剛、伊藤康夫

 

胸腰椎破裂骨折に対する手術術式は諸家により見解が一致しておらず、前方法、後方法、前後合併手術法のいずれもが施行されているが、本外傷は多発外傷となりやすく救命並びに合併損傷治療も行う必要もあり、神経除圧と脊柱再建を可能ならしめる、より低侵襲な手術術式が理想的である。Trio Trauma が2013年11月より我が国での臨床使用が可能となった。本システムによる手術経験を、問題点を含めて報告する。対象は6例(男3例、女3例)で受傷時年齢は平均51歳、受傷高位はTh12からL4までの胸腰椎、手術時間は59分から126分(平均97分)、出血量は少量から140ml(平均70ml)であった。従来の経皮的椎弓根スクリューシステムでの欠点であった、後弯の矯正と椎体高の整復については良好であったが、整復の保持については今後の経過観察が必要である。

10. 胸腰椎破折骨折に対する胸腔鏡を用いた前方低侵襲手術の意義

 

岡山医療センター 整形外科 

 

山田和希、竹内一裕、中原進之介、三澤治夫、高畑智宏、寺本亜留美

 

【目的】胸腰椎破裂骨折に対する胸腔鏡視下手術(VATS)の有用性を明らかにすることである。

【対象と方法】対象は1996年から2011年に手術を施行した胸腰椎破裂骨折63例の内、AO分類A3.2(burst-split)で、70才未満かつ術後1年以上経過観察しえた8例(平均年齢40.4歳、観察期間3.7年)とした。損傷椎体上位終板は固定し下位終板を温存したmono-segment fusion 5例(M群)を、椎体置換(bisegment fusion)3例(B群)と比較した。X線学的評価として、Cobb角による局所後弯の経時的変化、最終診察時における温存椎間板の可動域および不安定性の有無、隣接障害の有無を検討した。臨床評価として、JOAスコアとFrankel分類による評価を行った。

【結果】局所後弯はM群で10.6°から4°へ、B群で21.9°〜14.8°へ矯正されていた。矯正損失はM群で4.4°、B群で3.6°であった。M群の温存椎間板可動域は平均で3.5°であり不安定は認めなかった。隣接障害はM群で認めなかったが、B群で2例認めた。最終調査時のJOAスコアはM群27点、B群18点であった。Frankel分類は全例術前Dから術後Eに改善していた。

【考察】VATS併用前方固定術は、小切開で低侵襲な手技が可能となり、整容性や術後疼痛軽減の点で有効である。また前方から刺入したscrewによる下位終板の安定化は、mono-segment fusion を可能とし、損傷椎体下位椎間板の可動性温存と隣接障害予防に寄与していると考えられる。

【結論】VATSを用いた前方再建は、低侵襲性のみならず、mobile segment の温存を可能とする有効な選択肢の一つであると考えられる。