第81回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題3)

11. 椎間関節性腰痛に対する経皮的電気焼灼術の治療成績


山口大学 整形外科

 

今城靖明、寒竹 司、鈴木秀典、吉田佑一郎、西田周泰、田口敏彦

 

【目的】我々は椎間関節性腰痛に対して経皮的電位焼灼術を行ってきた。その治療成績について報告する。

【対象】椎間関節性腰痛と診断した70例(男39、女31)で、年齢は平均62歳(19-78)、経過観察期間は平均2年4ヵ月である。

【方法】記録電極は傍脊柱筋筋腹に関電極、腸骨稜に不関電極をはり、棘突起間には23G針を挿入し刺激陽性電極とした。焼灼針をX線透視下に椎間関節の頭尾側の乳様突起と副突起の間に刺入し、まず刺激陰性電極として用いた。刺激は持続時間0.2ms、強度1-4mAとし、傍脊柱管(多裂筋)から複合筋活動電位を記録した。電気焼灼は、静脈麻酔下に電気メスを用い10W、20秒間を2〜5回行った。評価は日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準29点満点で行った。改善率は平林法に準じ、改善率70%をexcellent、40%以上70%未満をgood、40%未満をpoorとした。治療成績は改善率が40%以下になることをend point としてKaplan-Meier法で累積成功率を計算した。

【結果】術直後、good以上であった症例は51例(72.9%)でpoorであった症例19例(27.1%)であった。術後12ヵ月以上治療効果が認められたのは67%(34/51例)であった。再焼灼を施行した症例は5例であったが、再度同一高位を焼灼した症例は1例のみであった。合併症はなかった。焼灼後に手術治療に移行した症例は新たに下肢症状を呈した3例であった。

【考察】経皮的電気焼灼術は合併症が少なく、治療成績も安定しており有用な術式である。椎間関節性腰痛は病歴や理学所見から正確に診断することは困難であり、椎間関節ブロックあるいは後枝内側枝ブロックによって最終的に診断される。そのため、電気焼灼の適応は、どの高位の椎間関節が疼痛源となっているかをブロックによって十分確認し検討することが重要である。

12. 腰椎椎間板ヘルニアに対するMED法における椎間関節間距離の与える影響

 

福岡志恩病院 

 

園田康男、小橋芳浩、石谷栄一、志田義輝

 

【目的】腰椎椎間板ヘルニアに対してMED法を行った場合、しばしば手術難渋する。その一つの原因として椎間関節間距離が狭いことが挙げられる。今回、椎間関節間距離がMED法に与える影響について調査報告する。

【対象】2011年5月〜2013年12月までに術前MEDを予定した128症例、平均年齢48.1歳、観察期間9.7ヵ月であった。手術高位はL1/2:1例、L2/3:4例、L3/4:6例、L4/5:55例、L5/S1:62例であった。

【方法】手術高位の椎間関節間距離を測定、以下の5群間に分けた。1)30mm≦、2)25≦ <30、3)20≦ <25、4)15≦ <20、5)<15。更に手術高位、術中術式変更症例数、手術時年齢、手術時間、出血量、JOA score、合併症を調査し比較検討した。使用したtubular retractor (以下:TR)は18mmを使用した。

【結果】症例数はそれぞれの群で19、37、44、25,3例であった。1・2群では下位腰椎に4・5群では上位腰椎で多く上位にて椎間関節間距離は短くなり、手術時平均年齢はそれぞれ、41.7、42.2、52.2、52.9、62.0歳と高齢で短い傾向にあった。出血量は、30、39、38、59、183gであり、手術時間は65、78、77,97,142分と椎間関節間距離が4・5群で優位に増加した。JOA scoreは全症例にて術前後で改善を認め、明らかな合併症は認めなかった。

【考察】椎間関節間距離は、高位レベル、高齢で短い傾向にあることは想像できる。しかしながら具体的な数値となる指標はない。今回の調査にて椎間関節間距離20mmが一つの指標となると考えられた。理由としてTRの中央設置が困難となり手術時間の延長、操作スペース制限による止血が不十分であったことが挙げられる。今後の課題として16mmのTRの導入、手術適応についても再考する余地がある。

13. 腰部脊柱管狭窄症に対する後方除圧術における出血量(true loss)の比較検討

 

鳥取大学 整形外科 


谷島伸二、三原徳満、吉田匡希、永島英樹

 

【目的】棘突起縦割式椎弓切除術は比較的傍脊柱筋の侵襲が少ないとされている。しかし、低侵襲の手術では術中に計測できない出血、いわゆるhidden lossが多く、出血量が過小評価されていると報告されている。今回我々はSehatらの提案した計算式を用いて予測出血量(true loss)の算出を行い、棘突起還納式椎弓切除術と比較検討した。

【方法】腰部脊柱管狭窄症に対して棘突起縦割式椎弓切除術(縦割群)を行った30例と棘突起還納式椎弓切除術(還納群)を行った27例を対象とした。実測出血量は術中の出血量と術後ドレーンへの出血量の合計とした。True lossはNadlerの式から得られた循環血漿量と、術前後のヘマトクリット値を用いたGrossの式から算出した。 Hidden lossはtrue lossと実測出血量の差とした。これらの結果を比較検討した。

【結果】縦割群の実測出血量は364±96.1ml、true lossは698.4±1318.3ml、hidden lossは221.5±251mlであった。有意にtrue lossが実測出血量を上回っていた(P<0.01) 還納群の実測出血量は508.9±166.8ml、true lossは651.7±299.6ml、hidden lossは142.8±269.4ml、であった。有意にtrue lossが実測出血量を上回っていた(P=0.013) True lossにhidden lossの占める割合は縦割群で31.7%、還納群で21.9%であった。有意差はないが、縦割群にhidden lossが多い傾向にあった。(P=0.06)

【考察】縦割群では死腔が少ないためドレーンへの出血量が少ない可能性、筋肉が温存されるため術中出血が脊柱起立筋群内に進入し、計測できなかった可能性がある。

【結論】棘突起縦割式椎弓切除術ではhidden lossが多い傾向にあった。

14. 腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎後方低侵襲除圧術の生体力学的評価 屍体標本を用いた検討ー

 

国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター 整形外科*1Emory Spine Center, VA medical center, Atlanta GA*2

 

濱崎貴彦*1.2 濱田宜和*1 松尾俊宏*1 蜂須賀裕己*1 泉田泰典*1 仁井谷 学*1 大川新吾*1 原田崇弘*1 杉田 孝*1 WilliamC Hutton*2

 

【目的】腰部脊柱管狭窄症に対し従来より内側椎間関節切除術が行われてきたが、最近では顕微鏡や内視鏡を用いた腰椎後方低侵襲除圧術が行われるようになってきている。従来の内側椎間関節切除術と比較して腰椎後方低侵襲除圧術の利点の一つに、椎間関節を可能な限り温存できることも挙げられる。術後の椎間不安定性の予防には術中の椎間関節の温存が重要といわれ、Abumiら(1990)は、椎間関節内側1/3程度を削開した内側椎間関節切除術では椎間不安定性に影響を与えないが、片側でも椎間関節を全切除すると椎間不安定性が出現すると報告した。しかしそれは20年以上前の報告で、顕微鏡や内視鏡の使用を前提とした報告はない。そこで本研究の目的は腰椎後方低侵襲除圧術と従来の内側椎間関節切除術の生体力学的変化を、屍体標本を用いて評価することである。

【方法】8新鮮屍体標本(L2-3高位4椎体、L4-5高位4椎体)を使用した。これらの標本に、1)方側開窓術(左側)、2)片側進入両側除圧術(左側)、3)内側椎間関節切除術、4)全椎間関節切除術を順次施行し、A)軸圧、B)屈曲、C)伸展、D)左右側屈、E)左右回旋の運動方向について検討した。それぞれの運動方向に対して、施行前の状態との弾性係数を比較した。

【結果】片側開窓術と片側進入両側除圧術は、施行前の状態と比較して80%以上の弾性を保持し、それぞれの術式の間に有意差は認めなかった。一方で片側進入両側除圧術は内側椎間関節切除術と比較して、伸展と左右回旋で優位に弾性が保たれていた。L4-5高位では全運動方向で両術式間に有意差を認めなかったが、L2-3高位では片側進入両側除圧術は内側椎間関節切除術と比較して左右回旋の運動方向で弾性係数に有意差を認めた。

【考察】片側進入両側除圧術を代表とする腰椎後方低侵襲除圧術は、従来の内側椎間関節切除術と比較して、椎間関節を温存することで術後の椎間不安定性を予防できる可能性がある。

15. 黄色靭帯付着部の解剖から検討した内視鏡下椎弓切除術の手技

 

九州記念病院 脊椎外科 

 

吉田正一

 

【目的】内視鏡下椎弓切除術(MEL)では神経損傷とdisorientationが手技上の課題となるため、黄色靭帯(LF)を硬膜の防御をしつつ付着部で切除し一塊として摘出する方法が推奨される。外科的視点からLF付着部の解剖を観察しMELの手技を検討した。

【方法】Cadever9体から摘出した腰椎を椎弓根で切離氏腹側からLFを観察した。軟部組織を郭清して撮影したCTからもLF付着部を観察した。これらの結果からMELに際してのポイントを考察した。

【結果】LFを腹側から観察すると蝶が羽ばたいた形状で、頭側椎弓では正中は付着部でも両側にはLFが拡がっていた。取り残しは除圧不足の原因になるので注意が必要である。この傾向は頭側のレベルほど顕著だった。外側のCapsular portionは関節包に移行するため、LF付着部の骨切除では椎間関節を必要以上に切削してしまう。因って必ず離断する必要がある。尾側椎弓へは正中の棘突起基部から両側の椎間孔入口部まで椎弓上縁に沿って付着しており、正中から外側へLF付着部で骨切除すれば椎間孔まで開放される。この際、椎間孔入口部では神経根の直上をdrillingすることになるので注意が必要である。

【考察】必要十分かつ最小限の除圧は釣鐘型とされる。LFを指標に考えると、その頂点が頭側の付着部で、底辺が尾側での椎間孔開放の幅で決まる。最初に頭側でLFの正中付着部を確認し、次に尾側で椎間孔を開放するまで横幅を拡げ椎弓根内縁の位置を確認する。そうすれば頭側から上関節突起先端に向けて釣鐘の肩を描くように除圧ラインを決めることができる。このラインでトランペット状にLF付着部に沿ってdrillingを進めれば、神経根の外側で安全に骨切除を終了できる。

【結論】MELではLF付着部を指標にすることで、硬膜損傷を防ぎorientationも容易になると考えられた。

16.腰椎後方除圧術術後の椎間関節嚢腫

 

高知大学 整形外科 

 

喜安克仁、武政龍一、木田和伸、公文雅士、田所伸朗、谷 俊一

 

【目的】我々は椎間不安定性の少ない腰部脊柱管狭窄症に対して、MILD法に準じた低侵襲手術での除圧を行っている。近年、術後のMRIにおいて椎間関節嚢腫を認める症例を散見する。今回亜腰椎除圧術術後の椎間関節嚢腫に関して検討した。

【方法】腰椎除圧手術を施行し、術後3〜6カ月時に腰椎MRIを撮影した76例(男40例、女36例)を対象とした。手術時平均年齢69.5歳、総除圧椎間数133椎間であった。術後椎間関節嚢腫の発生率、発生因子(術後椎間可動角、すべり程度)を検討した。

【結果】椎間関節嚢腫発生率は24/133椎間(18.0%)、20/76例(26.3%)であった。症状を認めた症例は7/76例(9.2%)(男6例、女1例)であった。7例中5例が下肢痛、2例が臀部痛であった。嚢腫もあり症例と発生なし症例との比較では、椎間可動角やすべりの進行などは有意差を認めなかった。

【考察】腰椎除圧術後の椎間関節嚢腫の発生は稀ではなく、有症状の嚢腫は男性に多かった。椎間関節嚢腫は術後症状悪化の原因の一つとして考慮する病態である。