第81回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題5)

21. 脊髄損傷患者の褥瘡に合併した化膿性脊椎炎の1例―PPSを用いた後方固定術と前方固定術の併用―


聖マリア病院 整形外科

 

神保幸太郎、塚本祐也、下河辺久雄、江崎佑平、重留広輔、吉田史郎、加藤田倫宏、坂井健介、田中憲治、吉田健治、後藤琢也

 

【目的】経皮的椎弓根スクリューを用いた後方固定術は従来の方法よりも低侵襲で全身状態不良な症例に有効である。転移性骨腫瘍、化膿性脊椎炎などに対して適応が広がりつつある。今回我々は脊髄損傷患者の褥瘡に合併した化膿性脊椎炎に対して経皮的椎弓根スクリューを用いた後方固定術と前方固定術の併用が有効であった1例を経験したので報告する。

【症例】43歳、男性。16歳時に交通事故によるTh5脱臼骨折に対し固定術施行。Th5以下完全麻痺残存したが車椅子にて社会生活(デスクワーク)していた。3年前より車椅子の背もたれが当たる腰部に褥瘡形成、悪化し当院形成外科入院。画像検査にて化膿性脊椎炎と診断、当科紹介。自覚症状は無かった。WBC12500、好中球77%、CRP15.6と炎症反応高値。造影CTにてL1/2椎体破壊、椎体周囲広範囲に腫瘍形成を認め、褥瘡部と一致していた。抗生剤投与、高圧酸素療法を3か月行ったが、炎症反応改善しなかった。椎体破壊進行し高度不安定性を認めたため、経皮的椎弓根スクリューを用いた後方固定術(5椎間)および2週間後に前方固定術(1椎間)行った。術後より炎症反応の改善を認め、褥瘡も治癒し2か月で自宅生活可能となった。

【考察】化膿性脊椎炎に対する治療は抗生剤、コルセット、高圧酸素などによる保存治療が原則であるが、今回の症例は高度骨破壊による不安定性、保存治療抵抗性があるために手術を選択した。骨破壊高度で前方法のみでは不安があるために後方法を併用した。しかし褥瘡部と連続した化膿性脊椎炎であるために、従来の開創による方法では感染がインストゥルメント周囲に波及する恐れがあるために経皮的椎弓根スクリューを用いた後方固定術を行った。

【結論】脊髄損傷患者の褥瘡に合併した化膿性脊椎炎に対して経皮的椎弓根スクリューを用いた後方固定術と前方固定術を併用し良好な結果を得た。

22. 化膿性脊椎炎に対する経皮的病巣掻爬ドレナージ

 

佐賀大学 整形外科 

 

森本忠嗣、吉原智仁、塚本正紹、園畑素樹、馬渡正明

 

【目的】化膿性脊椎炎(椎間板炎)に対する経皮的椎間板ドレナージ(PSAD)の短期治療成績について検討すること。

【方法】2011年以降に当科でのPSAD実施例(男性7例、女性6例、平均年齢70歳)を対象とした。罹患椎は胸椎1例、腰椎11例であった。基礎疾患は、糖尿病3例、悪性疾患2例、潰瘍性大腸炎による長期ステロイド内服1例、透析例2例であり、62%が易感染性宿主であった。腰椎例は全例X線透視下に、胸椎例は多軸C-arm(Artis Zeego)下に行った。起炎菌の同定率と菌種を調査し、術後経過はNagataらの評価に従い、ADL障害と疼痛と炎症反応が還延した不可と、それ以外の優良可に分けた。

【結果】起炎菌の同定率はPSADのみで54%であったが、血液培養等の結果も含めると全体では92%であり、菌種はMSSA3例、MRSA2例、大腸菌5例、MRS1例、カンジダ1例であった。術後、全例早期に疼痛の改善がえられたが、不可3例に対して、病巣掻爬・椎体固定術などの追加手術を要した。

【考察】高齢者の化膿性脊椎炎(椎間板炎)の治療では、全身合併症も多く術前術後管理に難渋し、さらに、重篤な合併症に悩まされることも稀ではない。そのため、本疾患の治療は、早期診断・早期治療(低侵襲)が肝要である。PSADの利点は、1)起炎菌の同定に寄与する、2)排膿による早期の除痛、3)椎間板血流上昇による局所の抗生物質の濃度を高める、4)低侵襲性から非適応例が少ない、などが挙げられ、早期診断・治療(低侵襲)に寄与する有効な手技である。また、6秒で3次元CT画像が作成でき透視機能を備えている多軸C-armCTガイド下に、下位胸椎レベルでも簡便かつ安全に本手技を行えた。

【結論】化膿性脊椎炎(椎間板炎)に対するPSADは局所麻酔下に早期診断・治療が行える有用な低侵襲手技である。

23. 化膿性脊椎炎の低侵襲手術―経皮的病巣掻爬ドレナージの位置づけ―

 

久留米大学 整形外科*1、社会保険第一病院 整形外科*2 


山田 圭、佐藤公昭*1安藤則行*2、吉松弘喜*1、井上英豪*1、溝田敦子*1、永田見生*1、志波直人*1

 

【目的】化膿性脊椎炎は増加しているが、易感染宿主例が多いため、前方固定術など侵襲の大きな手術は適応が困難である。易感染性宿主の化膿性脊椎炎に対して我々は経皮的病巣掻爬ドレナージ(PSAD)を行ってきたが治療不良例も多い。今回、化膿性脊椎炎におけるPSADの位置づけについて検討した。

【方法】1997年1月1日から2014年1月31日まで久留米大学整形外科で化膿性脊椎炎の診断でPSADを行った78例(男43例、女36例)を対象とした。年齢は平均68.1歳(13〜89歳)であった。罹患高位は胸椎が25例、腰椎が48例、多発例が5例であった。これらの症例の基礎疾患、起因菌、MRI画像所見、臨床成績について調査した。MRI画像の評価はUchidaらの分類を使用しstageIV以上を炎症拡大例とした。臨床成績はNagataらの分類を使用した。

【結果】65例(83.3%)で糖尿病、悪性腫瘍や膠原病などの基礎疾患を合併していた。起因菌は黄色ブドウ球菌が36例(46.2%)と最も多く、23例では検出できなかった。MAASなどの薬剤感受性菌が30例、MRSAなどの耐性菌が25例であった。MRI画像では炎症が硬膜外、傍脊柱筋に及んだ(Uchidaの分類のW以上)が39例あった。臨床成績では優が22例、良が28例、可が11例、不可が17例であった。MRIのstage分類の炎症拡大例と非拡大例では臨床成績の有意差はなく、起因菌が耐性菌であるほうが有意に臨床成績は劣っていた。

【考察】炎症が硬膜外や腸腰筋に波及していてもPSADで臨床成績が落ちるわけでもなかった。耐性菌では成績が落ちており、耐性菌の場合、MRIで評価できない脊柱の不安定性を引き起こしている可能性がある。

【結論】PSADは易感染性宿主の化膿性脊椎炎の初期手術として有効だが脊椎不安定性のある例では脊椎固定術の検討が必要である

24. 化膿性脊椎炎の低侵襲治療を目指す

 

荒尾市民病院 整形外科

 

前田勇一

 

【はじめに】現在、化膿性脊椎炎治療は、保存療法が原則であるのはいうまでもないが、いたずらな観血療法の報告も散在する。筆者も、一般的な手術療法を行っていたが、十分な成果を上げられなかった。これらに対する反省から、可及的保存療法を主体とし、数少ない観血療法適応例に対しては、出来るかぎり低侵襲な方法でと試行錯誤してみた。

【方法】確定診断検査時にGdMRIにて低輝度領野{Gd(-)}を示す椎間板部分・他を経皮的に可及的な切除を行う。抗菌剤終了直後に撮影したGdMRIにて低輝度領域{Gd(-)}があれば、再検時そこの掻爬も行う。掻爬術式は、以下の通りとした。広汎な掻爬が必要なら、Tube retractorを用い、イメージ下に操作を行う。小さい部分の掻爬なら、土方式椎間板切除器ガイドチューブ大を用い、小さい特殊鋭匙などでイメージ下に操作を行う。

【結果】対象症例数は23例であった。このうち、抗菌剤投与中止時のGdMRIにてRim enhanceを伴う低輝度領野{Gd(-)}を認めたもの5例に対して手術を行った。低侵襲手術は、このうち4例に行われた。抗菌剤投与中止2年以上経過したが、再発はない(1例のみ1年半経過)

【考察】化膿性脊椎炎の治療は、1:起因菌の同定と感受性のある抗菌剤の投与 2:患者の栄養管理 3:患部の安静が基本であることはいうまでもない。ここに手術療法が介入できる事項は、抗菌剤が移行しにくい組織(虚血・無血管組織)を機械的に掻爬し減量させることである。当科では、その存在情報を以前よりGdMRIによって得ている。 当科では抗菌剤開始及び抗菌剤終了時に椎間板の採取を行っている。その際に、Gd(-)(低輝度領野)が患部椎体にあれば、その部の除去もあわせ行うようにしている。除去法は、なるべく低侵襲な方が患者様にとっても有益と思われるので、工夫をして行っている。

25. 感染性脊椎炎に対する経皮的挿入椎弓根スクリューを用いた後方前方手術成績の検討

 

鹿児島大学 整形外科*1、鹿児島赤十字病院 整形外科*2、南風病院 整形外科*3

 

田邊 史*1、山元拓哉*1、永吉隆作*1、d松昌彦*1、冨永博之*1、武富栄二*2、川内義久*3、富村奈津子*3、米 和徳*1、小宮節郎*1

 

【目的】感染性脊椎炎に対するinstrument併用手術は未だ一致した見解は得られていないが、近年有用との報告が散見される。われわれは、2006年以降、早期離床を目的に罹患椎間を避けて椎弓根スクリュー(PS)を用いた後方手術後、前方掻爬腸骨移植術を施行してきた。2010年以降は、経皮的挿入椎弓根スクリュー(PPS)を用いている。今回、感染性脊椎炎に対し、従来のPS(PS群)とPPS(PPS群)を用いた後方前方手術について後向きに比較検討を行った。

【方法】対象は2006年以降、感染性脊椎炎に対し後方前方手術を施行して1年以上追跡調査可能であった20例(男10例、女10例、平均年齢68.9歳)で、罹患高位は胸腰椎移行部7例、腰椎13例である。PS群が13例、PPS群が7例で、検討項目は、手術時間、出血量、周術期合併症、離床までの期間、CRP陰性化までの期間、固定椎間数、最終調査時矯正損失とした。

【結果】平均手術時間はPS群;後方211分、PPS群;後方87分で、平均術中出血量はPS群;後方541g、PPS群;後方44gで、PPS群で有意に後方手術の手術時間の短縮、出血量減少を認めた。周術期合併症として、PS群で創部癒合不全2例、PS緩み1例、PPS群でPS緩み1例、一過性の神経根障害1例に認めた。離床までの期間はPS群10.5日、PPS群8.6日で差を認めず、CRP陰性化までの期間はPS群20.2日、PPS群10.5日で、PPS群で有意にCRPは早期に陰性化した。固定椎間数はPS群3.0、PPS群3.1、最終調査時の矯正損失は、PS群5.2度、PPS群3.0度で、差は認めなかった。

【考察】PPSは、傍脊柱筋群への影響や感染波及リスクが低く、低侵襲で施行でき、また抜釘によりmotion segmentの温存が可能であり、感染性脊椎炎に対する後方instrumentとして適していると考えられ、本研究でも、PPSを用いた手術は、従来のPSを用いた手術よりも有用であった。

26. 感染性脊椎炎(圧迫骨折後遅発性麻痺を含む)に対するMIS治療の経験

 

呉共済病院 整形外科*1、岡山大学病院 整形外科*2

 

越宗 幸一郎*1、寺元秀文*1、内田圭治*1、金子真也*1、山根健太郎*2

 

【目的】近年高齢化が急速に進んでおり、感染性脊椎炎などの病態が多くみられるようになった。感染性脊椎炎はしばしばその治療に難渋することが多い。感染のコントロールには、菌の同定、抗生剤などの薬物治療、安静臥床(ギプス)などの保存的治療が優先される。しかし、昨今インプラントの進化や高齢者の長期臥床による廃用性症候群などの懸念もあり、しばしば早期に観血的治療が行われるようになってきた。我々は、経皮的脊椎後方固定術後、病巣掻爬及び、脊柱再建を行ってきた。その治療経験を紹介する。

【方法】2013年4月から2013年12月までに当院で手術加療を行った感染性脊椎炎3例、胸椎圧迫骨折後遅発性麻痺1例(男性1例、女性3例、79~86歳平均年齢82.5歳)、化膿性脊椎炎(疑いを含む)2例、結核性脊椎炎1例であった。まずCTガイド下生検(ドレナージ)、抗菌薬投与を行い、手術を行っている。手術は、経皮的脊椎後方固定術施行後、前方病巣掻爬、脊柱再建(胸腔鏡下)を行っている。

【結果】手術時間190分~385分(平均手術時間278分)、術中出血量170~500ml(平均術中出血量307ml)であった。抗生剤(抗結核薬)の投与を併用した感染は鎮痛化し得た。術後早期から離床開始となり、全例でADLの改善が得られた。

【考察並びに結語】感染性脊椎炎は、全身状態不良が多く、その治療に難渋することが少なくない。軟部組織の展開を最小限に抑え、強固な初期固定と手術侵襲の低侵襲化の両立が可能である本方法は有用であると考える。胸腰椎に対しては、経皮的脊椎後方固定術+前方病巣掻爬、脊柱再建(胸腔鏡下)有用であると考える。