第81回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題7)

33. 腰椎経皮的椎弓根スクリュー手技の関連合併症について


香川労災病院 整形外科

 

生熊久敬、上甲良二、石橋勝彦

 

【はじめに】当院では、腰椎疾患に対して経皮的椎弓根スクリュー(以下PPS)を使用している。今回、これまでに経験したPPS手技の関連合併症について報告する。

【対象と方法】2010年から2013年に透視装置を用いてPPSを使用した、腰椎疾患95例。疾患の内訳は、変性疾患82例、外傷性疾患8例、感染性疾患3例、転移性腫瘍2例であった。これらの症例について、PPS手技に関連すると考えられた術中トラブルについて検討した。

【結果】術中トラブルは95例中5例に生じた(5.3%)。以下は、その内訳である。症例1、セットスクリューを締める際に、スクリューから外れ後腹膜腔へ押し込みドライバーからはずれ遺残するも、後方からペアンで術中回収できた。症例2、骨粗鬆症例で、ガイドワイヤーが椎体から前方に穿破し後腹膜腔に逸脱するも、術直後の造影CTでは明らかな出血はなく術後経過にも問題は生じなかった。症例3、PPSが脊柱管内に逸脱し、神経根痛のため入れ替えを要した。症例4、PPS刺入で両側椎弓根骨折を生じ最終的に当該椎体の圧迫骨折を生じた。症例5、椎間関節の変性肥厚が著しくロッド挿入時に干渉し難渋、ノミで切除しPPSとロッドの締結が可能になった。

【考察】PPSを使用した固定術は、Open手術に比べて低侵襲で大きなメリットがあるが、その裏にはPPS特有の合併症が存在する。PPSを使用するにあたり、今回我々が経験したようなOpen手術のPS刺入では無かった様な不具合を生じる可能性があることを周知しておく必要がある。

34. 脊椎内視鏡手術の合併症、特に硬膜損傷の発生要因に関して

 

九州厚生年金病院 整形外科

 

土屋邦喜、宿利知之

 

【目的】脊椎内視鏡手術に伴う合併症の発生率、特に硬膜損傷の発生要因を検討した。

【対象および方法】当科で脊椎内視鏡手術を施行された392例を対象とした。使用器材はすべてMETRxシステムを用いた。内訳は腰椎358例、頚椎34例であった。

【結果】顕微鏡手術へのconversionは24例ですべて腰椎例であった。硬膜損傷は16例(4.1%)で、4例は局所止血剤、脂肪組織等を置き通常どおり手術を施行した。1例で内視鏡下に硬膜縫合を行った。11例は顕微鏡手術への変更を行い10例で顕微鏡下に硬膜縫合を施行した。術後創部血腫を2例に認めた。1例で術後創部からの持続性出血に対し術当日止血のため創部の追加縫合を要した。頚部脊髄症の1例で術後運動障害の増悪を認め初回術後2ヶ月で前方からの再手術を施行した。腰椎椎間板ヘルニアの1例に術後下肢筋力低下を来したが自然回復した。

【考察】内視鏡手術にともなう合併症としては全国統計でみても硬膜損傷が圧倒的に多い。今回硬膜損傷の発生要因を分類すると、ケリソン鉗子によると思われるもの5例、癒着の高度な症例で神経根剥離操作によるものと思われるもの4例、鋭匙操作によるものと思われる神経根肩部の損傷3例、正中付近での硬膜損傷が2例、エアドリルによるもの1例であった。1例が画像記録の不備により原因が特定できなかった。内視鏡は明るい視野が得られるが、ワーキングスペースの制限により神経剥離操作には熟練を要し、特に圧迫や神経根周辺の癒着が強い症例では留意が必要である。狭いtubular retractor内の空間では内視鏡の特性を理解した安全な器具操作が重要と思われた。 【結論】内視鏡下での硬膜損傷はさまざまな器具で起こっており、器具操作には十分習熟が必要である。

35. ナビゲーションシステムを併用した腰椎内視鏡下手術の検討

 

広島大学 整形外科


力田高徳、田中信弘、中西一義、亀井直輔、平松 武、宇治郷諭、住吉範彦、越智光夫

 

【目的】当科では、腰部脊柱管狭窄症に対して椎間関節等の後方支持組織を温存しつつ選択的除圧を行っている。内視鏡下椎弓切除術は低侵襲な術式であるが、限られた視野の中での除圧操作を必要とするため、オリエンテーション不全に陥りやすく、除圧不足あるいは椎弓・椎間関節の過切除による術後の不安定性増強などの危険性がある。我々はナビゲーションシステムを用いて病巣部の空間的広がりを三次元的に把握することで、安全かつ正確な手術操作を行っている。本研究の目的は、腰部脊柱管狭窄症に対し内視鏡下椎弓切除術を施行した症例につき検討を行うことである。

【対象及び方法】当科にてナビゲーションシステムを併用して内視鏡下椎弓切除術を施行した22例を対象とした。手術時間、出血量、術後消炎鎮痛剤の使用状況、術後採血における炎症所見の推移、周術期合併症につき検討を行った。

【結果】平均手術時間は104分であった。平均出血量は22mlであり、輸血を必要とした症例はなかった。術後CRPは術後1週で3例を除き0.5r/dl未満となった。消炎鎮痛剤の使用については、2例で本人の希望により術翌日より消炎鎮痛剤の定期内服を行ったが、その他の症例では座薬、内服の使用回数が一日3回以上となった症例はなかった。術中のオリエンテーション不全に陥った症例はなく、硬膜損傷や術後感染を来した症例もなかった。術後の単純レントゲン写真において、術後の不安定性の出現や増強を来した症例はなく、術後CTにて椎間関節の明らかな過切除を認めた症例はなかった。

【考察】ナビゲーションシステムを併用した内視鏡下椎弓切除術は最少侵襲で有用な方法であった。ナビゲーションシステムを併用することで、限られた視野の中でオリエンテーション不全に陥ることなく安全かつ正確な除圧操作が可能であった。

36. C-arm free MIStの試み

 

岡山大学 整形外科 

 

山根健太郎、田中雅人、杉本佳久、荒瀧慎也、瀧川朋亭、鉄永倫子、篠原健介、渡邉典行、魚谷浩二、尾ア敏文

 

【目的】小侵襲脊椎安定術(以下MISt)では、正確かつ安全に手術を行うため術中イメージによる透視画像が必要不可欠である。Navigation system使用は、安全性を向上させ、放射線被曝を減らす効果も期待できる。我々はO armの特性を生かしつつ、手術手技に工夫を加えることで、術中被曝をさらに減少させうる手術方法を開始している。本研究の目的はその手術手技について紹介し、有用性について検討することである。

【対象と方法】対象は本法を用いてMIStを施行した6症例である。施行可能な手術手技を以下に示す。方法@:経皮的椎弓根スクリュー挿入(6例)。本法を使用すればguide wireが不要であり、椎体前面へ突出するリスクはゼロとなる。A椎体間ケージ挿入(3例)。ケージ挿入時に位置や深さをNavigation画面で確認しながら施行可能である。Bsextant systemと@Aを組み合わせることによりMIS-PLIFをイメージフリーで行うことが可能となる。現在までに本法を用いたMIS-PLIFを3例に施行した。

【結果】術中・術後合併症は認めなかった。

【考察】現段階で本法が施行可能となりうるのは、経皮的椎弓根スクリュー挿入、椎体間ケージ挿入、ロッド挿入(曲がっていないものに限定)などである。現時点ではsextant systemを利用することによりMIS-PLIF手術中のイメージ使用は、古典的なオープン法の時と同様に不必要と考えることも可能である。しかしながら、安全を以下に担保にするかが重要であり、本法の適応については慎重に検討していく必要がある。

37. 骨粗鬆症性腰椎椎体骨折に対する最少侵襲脊椎制動固定術の短期成績

 

岩国医療センター 整形外科 

 

中原啓行、土居克三、生田陽彦、安光正治

 

【目的】骨粗鬆症圧迫骨折は高齢者や合併症を持った患者がほとんどでありよく低侵襲な手術が求められる。近年Minimally invasive spine stabilization(MISt)手術の適応が広がってきているが、骨粗鬆症性椎体骨折に対する報告は少ない。胸腰椎圧迫骨折後偽関節例やDISHの胸腰椎骨折例に対し経皮的椎弓根スクリュー挿入(PPS)によるMIStの短期成績を報告する。

【対象と方法】2012年6月から2013年12月までにPPSを用いたMIStを施行した20例を対象とした。性別は男性8例、女性12例、手術時年齢は平均77.0±6.5歳、罹病期間は平均35.8±55.5日であった。受傷原因は転倒11例、軽微な交通事故2例、重労働1例、不明4例であった。併存症は19例に認めた。全例多椎間固定を施行し、17例に椎体形成を併用した。これらの症例において手術時間、出血量、合併症の有無、矯正損失、腰背部痛VAS、離床までの期間、PSの逸脱率・ゆるみについて検討した。

【結果】手術時間は平均147.3±36.1分、出血量は平均94.2±96.9ml、合併症は5例に認め、肺炎、皮膚壊死、術後せん妄、横紋筋融解症、出血性貧血各1例であった。矯正損失は2.3±1.6度、腰椎のVASは術前平均6.9±2.8、術後1カ月で1.2±1.7であった。神経症状は全例で改善を認めた。PSは7例でG1の逸脱を認め、逸脱率は4.6±4.9%であった。6例で経過中にPSのゆるみを認めた。

【考察】骨粗鬆症性椎体骨折はしばしば脊柱再建が必要となる。PPS用いたMIStは椎体形成を併用することで脊柱アライメントの改善が得られかつ良好な安定性を得ることで骨折部の骨癒合が期待できる。手術侵襲は少なく、短期成績は良好であり、合併症の多い高齢者の骨粗鬆症性椎体骨折の有用な手術方法の一つである。

38. 最少侵襲脊椎制動固定術(Minimally invasive spine stabilization : MISt)による転移性脊椎腫瘍の治療成績

 

川崎医科大学 脊椎・災害整形外科 

 

加納健司、中西一夫、長谷川徹

 

【目的】転移性脊椎腫瘍は、麻痺などの重篤な骨関連事象(SRE;Skeletal Related Event)が起こってから対応しても成績は良くないことから、われわれは骨転移cancer boardにて早期発見早期治療の試みを行っている。一方で、患者の全身状態や生命予後などによっては、低侵襲な姑息的手術を選択しなければならないことも多く、最少侵襲脊椎制動固定術(Minimally invasive spine stabilization: MISt)は適した術式であると考える。今回、転移性脊椎腫瘍に対するMIStの有用性について検討した。

【方法】18例の患者(男性11例、女性7例、平均年齢は57歳)に手術を行った。原発巣は乳癌3例、前立腺癌3例、甲状腺癌3例、その他9例で、術前の徳橋スコアは平均83.6点、富田分類は平均5.2点であった。全例小皮切のMIStで手術を行い、脊柱の支持性の獲得を目的とした。

【結果】固定椎間数は平均5.6椎間で、7例に除圧術を追加し、4例に術後に放射線治療を追加した。平均手術時間は183分、平均出血量は150gで、離床までの期間は平均4.8日であった。術後平均経過観察期間は5.9ヶ月で、経過中に18例中8例が亡くなった。術後早期に放射線治療を行ったが合併症は無かった。1例で術後麻痺が悪化、術後FrankelAの患者は術後も変わらず、1例は他科の手術後離床出来ないまま亡くなったが、その他の15例は同等もしくは1段階以上の麻痺の改善を認めた。

【考察】骨転移cancer boardにより、多職種チームで早期発見、早期治療を行うことは、患者のQOLを維持するのに必要である。MISt手技は、予後の限られた転移性脊椎腫瘍の患者において、低侵襲で早期離床ができ、QOLの維持ができ、全身状態が許せば有用な治療法であると考えられる。

39. 成人脊柱変形に対する低侵襲矯正手術としてのharmonious flat back という考え方

 

医療法人オアシス 福岡志恩病院  

 

小橋芳浩、園田康男、石谷栄一、志田輝義

 

【目的】成人脊柱変性に対する手術において、術後の良好なglobal balanceの獲得が臨床成績を向上させる上で重要であると言われている。今回我々は、胸椎、骨盤の術前柔軟性を計測し、術後の矢状面バランスへの影響を調査したので報告する。

【対象・方法】腰椎後弯変形の診断にて、2012.4~2014.4に当院で後方矯正手術を行った。36症例を対象とした。術式は、腰椎での椎体間矯正固定を施行した症例とした。矯正力の大きいPSO、VCR症例は対象から除外した。術前座位前後屈レントゲンにて胸椎後彎角の差を胸椎柔軟性とした。また、矢状面パラメーター、Sagittal vertical axis(SVA)、骨盤パラメーター、Pelvic tilt(PT)、Pelvic incidence(PI)を計測し、術後のパラメーターの改善率と胸椎の柔軟性との関係を検討した。

【結果】胸椎柔軟性20°以上をA群、10°以下をB群とした。10°から20°の中間の群は対象から外した。SVAの平均値はA群16症例で術前106mm、術後60mm、B群11症例で142mm、81mmでありA群が改善されやすい傾向であった。

【考察】SchwabやRoseらが示した良好な矢状面バランスの指標を目標に手術が行われている。しかし、PSOやVCRのような侵襲の大きい手術をしなくても、体幹、骨盤、下肢の柔軟性を考慮に入れることで、harmonious flat backという形態でglobal balanceを獲得できる症例があるのではないかと思われた。今回胸椎の柔軟性が高い症例は、SVAの改善率が高かった。つまり腰椎の矯正がSchwabらの示した指標以下でも他の因子でglobal balanceがとれる可能性がある。術前、体幹、骨盤および下肢のストレッチを十分に行い、その改善が得られてから、手術の術式を決めていくことも考えていくべきではないだろうか。