第82回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題1)

1.環軸関節障害に伴う頸部痛の手術治療経験


大分整形外科病院

 

井口 洋平(いぐち ようへい)、大田 秀樹、松本 佳之、中山 美数、酒井 翼、清田 光一、巽 政人、竹光 義治、木田 浩隆

 

頸部痛の原因として中下位頸椎病変の他に環軸関節障害が隠れていることは見逃しやすい病態である。環軸関節に伴う痛みは耳介後方部にあるといわれ、C2神経根障害を合併することも多い。当院で環軸関節障害に伴う頸部痛と判断し手術加療を行った症例について調査した。

対象は当院で2005年以来、環軸関節の固定手術を行った症例は21例である。臨床症状は脊髄症と頸部痛の合併であり、頸部痛を伴うものは16例であった。そのうち関節リウマチによる環軸椎亜脱臼を除外すると11例であった。

基礎疾患としては、脳性麻痺2例、歯突起骨2例、突起すべき基礎疾患のないものが7例であった。すべての症例で外側環軸関節の変性や亜脱臼を認めた。頸部痛部位は、片側の耳介後方を中心に頭頸部に広がるものが多く8例であった。頸椎全体に痛みを訴えで耳介後方に限局しない症例は3例存在した。手術は11例中9例がC1/2 transarticular screwで、2例が後頭骨からの固定であった。術後、耳介後部痛は概ね改善していた。

耳介後方の痛みを自覚する患者には上位頸椎疾患を疑うことが重要と考える。

2. 環軸椎亜脱臼を伴う頸椎症性脊髄症に 対する椎弓形成術

 

唐津赤十字病院 整形外科 

 

生田 光(いくた こう)、増田 圭吾

 

【目的】環軸椎亜脱臼(AAS)を伴った頸椎症性脊髄症(CSM)に対する椎弓形成術の治療成績を検討すること。

【対象と方法】AASを伴ったCSMに対してC1を含めた棘突起縦割式椎弓形成術を施行した5例を対象とした。性別は全例男性、手術時年齢は平均73.2歳(67?83歳)であり、術前ADIは平均5.5mm(動態変化域:2mm以内)であった。手術高位はC1〜6:1例、C1・3〜5:1例、C1・3〜6:3例であった。臨床成績はJOAスコアとJOACMEQを用いて評価した。術後観察期間は平均25ヶ月であった。

【結果】JOAスコアの平均値は術前10.3が術後1年時13.5に改善、平均改善率51.6%であった。頭部回旋を含めた頸椎可動域は術後に若干減少していた。術後2年で頚髄症の再増悪を認めた1例に再手術を施行、脳梗塞を発症した1例で成績低下を認めた。

【結語】高度な不安定性を認めないAASを伴うCSM例に対する手術治療においてC1を含めた椎弓形成術は有用な選択肢になると考えられた。

3.上位頚椎疾患に対する除圧術症例の検討

 

鹿児島共済会 南風病院 整形外科


廣田 仁志(ひろた ひとし)、川内 義久

 

【目的】上位頸椎は頭部の支持のみならず、回旋・屈曲・伸展運動を靱帯・関節にておこなっている。よって上位頸椎の病変は重大な不安定性を生じやすく、固定術が行われることが多い。しかし当院では透析患者が多く、手術侵襲を考慮し除圧術のみで対応することもある。今回上位頚椎疾患に除圧術のみ行った症例を検討した。

【対象】症例は、男性9例、女性2例の計11例で平均年齢70.3歳であった。原因疾患は頚椎後縦靭帯骨化症が4例、頚椎症性脊髄症が3例、環軸椎脱臼が3例、歯突起偽腫瘍が1例であった。全例C1椎弓切除を行い、必要によってC2椎弓切除および下位頚椎の除圧術を追加した。手術成績および合併症について検討した。

【結果】手術成績はおおむね良好で、大きな術後合併症も認めなかった。いまのところ固定術の追加を必要とする症例も認めなかった。

【結語】上位頸椎疾患であっても安定性やアライメントを考慮し、除圧術のみで対応できる症例もある。

4. 関節リウマチを除く上位頚椎疾患に対する治療成績

 

岡山医療センター 整形外科

 

高畑 智宏(たかはた ともひろ)、竹内 一裕、三澤 治夫、寺本 亜留美、中原 進之介

 

【目的】関節リウマチを除く上位頚椎疾患の病態および治療成績を検討することを目的とした。

【方法】当科にて手術を施行した関節リウマチを除く上位頚椎疾患31例を対象とした。男性18例、女性13例、手術時平均年齢は63歳、術後平均観察期間は32ヵ月であった。疾患の内訳は環軸椎亜脱臼26例、歯突起形成不全または歯突起骨折後偽関節5例であった。術前後の画像所見、臨床成績について検討した。

【結果】環軸椎亜脱臼例の術前ADI(屈曲位)は平均8.6mmであった。歯突起後方偽腫瘍は環軸椎亜脱臼26例中11例(42%)に認められたが、歯突起形成不全や歯突起骨折後偽関節例では1例も認められなかった。術前の症状は頚部痛が31例中27例(87%)に認められた。手術はC1/2固定が22例、O-C2固定が8例、O-C3固定が1例であった。JOAスコアは術前平均12.0点、術後平均13.6点であり、改善16例、不変12例、悪化3例であった。

【考察】上位頚椎不安定性に対する固定術は良好な成績であった。

*5. アテトーゼ脳性麻痺における上位頚髄障害-中下位頚椎除圧固定術の功罪-

 

総合せき損センター 整形外科

 

益田 宗彰(ますだ むねあき)、弓削 至、植田 尊善、芝 啓一郎

 

【目的】アテトーゼ脳性麻痺に伴う頚椎症性脊髄症(以下CP-CSM)に対する後方除圧固定術後から長期を経過し、新たに発生した上位頚髄障害に対する治療を行った2例を経験したので報告する。

【症例1】61歳男性。45歳時、C2-Th1除圧固定術(LMP)施行。術後16年目に四肢脱力、呼吸苦出現。C1/2亜脱臼とC2椎体後方の偽腫瘍による脊髄圧迫を認めた。術前にハローベスト装着、最大前屈位で呼吸含め麻痺の悪化ないことを確認しC1-2後方除圧を施行した。

【症例2】70歳女性。38歳時、C3-7除圧固定術(Robinson法)施行。術後31年目に四肢麻痺出現。C2前方亜脱臼に伴うC1-3高位での脊髄圧迫を認めた。ハローベスト装着し牽引、麻痺の改善を確認後C1-2後方除圧を施行。術後ハローベスト除去後に麻痺の再悪化を認めベスト再装着。一部残存したC2椎弓による除圧不足と判断し、後頭骨-Th4後方固定を追加した。

【考察】 CP-CSMでの中下位頚椎の固定は、長期経過を経て残存した上位頚椎のアライメント異常を来す可能性が示唆された。アライメント不良例では再手術に難渋するため注意を要する。

*6.軸椎下のDSAに対して固定術を行った後にC2辷りを起こし後頭頚椎固定術を要した一例

 

香川大学医学部附属病院*1さぬき市民病院*2

 

藤原 龍史(ふじわら りゅうじ)*1、岡 邦彦*1、小松原 悟史*1、有馬 信男*2、山本 哲司*1

 

64才男性。35才時に血液透析導入され、55才時にL3/4PLIFを施行された既往がある。62才時にC3/4での不安定性と脊髄圧迫に対して、C3/4後方固定とC3-7椎弓形成術を施行した。術前は箸使用・歩行は困難であったが、術後は箸使用・独歩ともに可能となった。術後1年8ヵ月より再び痙性歩行が悪化し、術後1年9ヵ月には歩行不能となった。画像所見は、C2すべりとC2/3でPLL肥厚と思われるmassがあり、脊髄を圧迫していた。C3/4は骨癒合が得られていた。術後1年10ヵ月で、後頭頚椎固定術とC2両開き式椎弓形成術、腸骨移植術を行った。後頭頚椎固定術後1ヵ月で、軽介助での歩行器歩行が可能となった。本症例は初回固定術前よりO-C1での破壊性変化を認めていた。C3/4の骨癒合は得られたが、O-C1での動きがなくC2/3での負荷が多くなったと考えられた。DSAなどの多椎間に障害を及ぼす病態においては、O-C1の評価を術前にするべきであると考えられた。

7.透析患者の上位頸椎病変に対する手術治療

 

九州病院 整形外科

 

宮崎 幸政(みやざき こうせい)、土屋 邦喜、幸 博和、末田 麗真

 

【目的】上位頸椎手術を施行した血液透析(HD)患者の特徴と術後成績を検討した。

【対象および方法】2007年以降当院で上位頸椎手術をおこなったHD患者は7例、男性4例、女性3例、平均年齢は65.1歳、平均透析歴23.4年であった。病態は歯突起偽腫瘍2例、環軸関節亜脱臼4例、C2椎体内骨嚢胞を伴う脊髄症1例であった。術式は4例にMagerlスクリューを用いたC1/2固定(うち3例は椎弓形成を追加)を施行、C1LMS+C2PSを用いたC1-6固定、O-C3固定+C1後弓切除、C2椎体形成+椎弓形成が各一例であった。

【結果および考察】全例で神経症状は改善した。周術期の重篤な合併症は見られなかった。HDにおける上位頸椎病変は長期HDに伴い増えてくることが報告されている。長期HD患者は全身予備能が低く骨脆弱性を有しているため、手術には侵襲の判断に加え固定アンカーの選択等に対し十分な注意が必要である。手術により明らかなADLの向上が得られるものも多く、適切に選択施行されれば手術は有効であると思われた。