第82回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題6)

32. 頚椎歯突起後方偽腫瘍に対する治療経験


鳥取大学整形外科*1松江市立病院 整形外科*2

 

谷島 伸二(たにしま しんじ)*1 、三原 徳満*1 、武田 知加子*1 、吉田 匡希*1 、永島 英樹*1 、濱本 佑樹*2

 

【はじめ】頚椎歯突起後方偽腫瘍に対する手術成績を報告する。

【対象と方法】症例は7例。男性6例、女性1例、平均年齢は77.6歳(67〜85歳)であった。 Atlantodental interval(以下ADI)、手術方法、日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOA score)、偽腫瘍の経過について検討した。

【結果】ADI が3mm以上の症例は5例であり、このうち3例に固定術、2例に椎弓切除術が行われた。ADI が3mm未満の2症例は椎弓切除術が行われていた。術前のJOA scoreは平均9.1点、最終観察時は12.6点、改善率は平均39.1%であった。偽腫瘍は固定術の症例で全例縮小していた。椎弓切除術の症例では3例で縮小し、1例(ADI 3mm未満)は不変であったが、症状は改善していた。

【考察】腫瘍の縮小の観点から考えると固定が望ましい。しかし、除圧のみであっても腫瘍が縮小化すること、また偽腫瘍が残存しても脊髄症状が改善することから、除圧術も選択肢に成り得る。

33. 軸椎歯突起後方偽腫瘍の治療経験−頚椎椎弓形成術後合併例−

 

水俣市立総合医療センター 整形外科 

 

井上 哲二(いのうえ てつじ)、中島 三郎、宮ア 信、沼田 亨祐、平山 雄大、酒本 高志、寺本 周平

 

【目的】頚椎椎弓形成術後に歯突起後方偽腫瘍により脊髄症を合併した3例を経験したので報告する。

【対象と方法】症例は男3例、平均年齢は79.7歳、全例とも頚椎椎弓形成術が施行されていた。頚椎動態撮影を行い、頚椎可動域と環椎歯突起間距離を計測した。術前後の頚髄症評価はJOA scoreを用いた。偽腫瘍の経時的サイズの変化はMRIを用いた。

【結果】頚椎可動域は平均4度、ADIの最大値の平均は2.3mmであった。症例1に後弓切除に環軸椎後方固定術施行したが、looseningのため後頭頚椎後方固定術の追加を要した。残り2例は後弓切除のみ施行した。JOA scoreは術前平均6.2点、術後平均7.7点であった。後頭頚椎固定術を行った症例1のみ腫瘤サイズの縮小を認めた。

【結論】全例とも軸椎以下の可動域は著しく減少し制限されており、可動性の残存する環軸関節に機械的ストレスが集中し歯突起後方偽腫瘍形成に関与したと考えられた。

*34.歯突起後方偽腫瘍を伴い遅発性脊髄症を呈した高齢者歯突起骨折の2例

 

広島鉄道病院 整形外科


藤岡 悠樹(ふじおか ゆうき)、佐々木 正修、井上 忠、中村 精吾、村尾 保、堀 淳司

 

【目的】歯突起後方偽腫瘍を伴い遅発性脊髄症を呈した高齢者歯突起骨折の2例を経験したので報告する。

【症例1】99歳女性。自宅で転倒後に後頭部痛をきたしたが近医で診断がつかなかった。受傷4週後に次第に歩行困難が出現し、内科でCT撮影時に歯突起骨折を指摘され当科紹介入院となった。ハローベスト固定後に後頭頸椎固定術を行い、術後3ヵ月で両4点杖歩行可能となった。

【症例2】82歳女性。自宅で転倒後に項部痛をきたし、4週後に四肢不全麻痺となり当科紹介入院となった。ハローベスト固定後に後頭頸椎固定術を行い、術後1ヵ月でシルバーカー歩行可能となった。

【考察】高齢者では軽微な外傷でも中下位頸椎の変性の影響で上位頸椎に応力集中することが指摘されている。今後高齢人口増加に伴い同様の症例が増加する可能性がある。高齢者でのインストゥルメンテーション手術にはリスクを伴うが、自験例では超高齢者であっても手術によって歩行能力を再獲得可能であった。

*35.環椎後弓骨棘により頚髄症を来した1例

 

県立広島病院 整形外科

 

西田 幸司(にしだ こうじ)、井上 博幸、村上 祐司、延藤 博朗、坂 英樹、森永 絵里、望月 由

 

【目的】環椎後弓の骨棘により頚髄症を来した症例を経験したので報告する。

【症例】70歳、男性。明らかな外傷の既往はない。10年前より時々、左手のしびれを自覚していたが、3ヵ月前よりしびれが増悪。1ヵ月前より左手巧緻運動障害も出現したため、当院神経内科受診.頚椎の狭窄を指摘され当科紹介となった。MRI上、左C1/2で狭窄を認め、手術目的で入院となった。 入院時所見では左SHR陽性及び左RR、両側TTR以下の深部腱反射が亢進.左手知覚低下あるものの、明らかな筋力低下は認めなかった。頚椎JOAスコアは14.5/17であった。全身麻酔下に後方アプローチにてC1/2を展開すると左椎弓間には関節様変化を認めた。顕微鏡視下に左環椎後弓および左C2椎弓骨棘を切除した。術後より速やかに左手巧緻運動障害の改善を認め、術後3ヵ月ではJOAスコアも16.5/17に改善した。

【まとめ】上位頚椎での頚髄症の原因として環軸椎亜脱臼や外傷によるものが多い。今回、我々は比較的まれな骨棘によるC1/2高位での頚髄症を経験した。

*36.脊髄症を合併した軸椎二分脊椎の1例

 

嶺井第一病院 整形外科 

 

根間 直人(ねま なおと)、新垣 勝男

 

【目的】我々が渉猟し得た範囲では、軸椎二分脊椎に脊髄症を合併した症例の報告は少ない。今回我々は、軸椎二分脊椎の陥入によって脊髄症を発症した稀な症例に対して、手術療法を行った1例を経験したので報告する。

【症例】86歳、男性。1年前の転倒後から、右下肢脱力が出現していた。半年前に再転倒して立位困難となり、当院紹介となった。初診時、両手のしびれ、巧緻運動障害、四肢の筋力低下と痙性を認め、MRIでC2,3の奇形とC1/2,2/3で後方からの高度の頚髄圧迫所見を認めた。CTでは軸椎二分脊椎と椎弓変形・骨棘による脊柱管狭窄を認め、Xpでは、環軸椎亜脱臼や機能写による不安定性はなかった。手術はC1-C3上縁まで椎弓切除を行った。軸椎は全体的に低形成で、硬膜外腔の癒着と瘢痕形成も高度であったが、除圧後は硬膜の拍動を認めた。術後3ヵ月で、箸を使って食事が出来るようになり、杖歩行も可能となった。

【考察】軸椎二分脊椎の診断にはCT検査が必要であり、脊髄症を合併した場合は除圧術が有効と思われた。

37.Crowned dens syndrome の診断・治療経験

 

大久保病院  

 

二宮 直俊(にのみや なおとし)

 

 Crowned dens syndrome (以下、CDSとする)は急性の著明な頚部痛と頚椎可動域制限、CT上で軸椎歯突起周囲の石灰化(crowned dens)像を認め、さらに炎症反応の上昇によって診断される疾患である。高齢の女性に多いといわれている。今回我々は、2009年1月から2014年1月までの間で、当科においてCDSと診断された15症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。男性6症例、女性9症例。平均年齢は81.5歳(71−91歳)。全ての症例において、著明な頚部痛と頚椎可動域制限を主訴として当科を初診していた。レントゲンでは明らかな異常所見を認めなかったが、CTで軸椎歯突起周囲の石灰化を認めた。採血結果で炎症反応の上昇を認めた。以上より、CDSと診断した。全例、NSAIDs 投与で改善した。佐藤らは、激しい後頭部、頚部痛がみられ頭部CT、MRIで異常所見がみられない場合、髄膜炎を疑って髄液検査を行う前にCDSを念頭に置いた環軸関節のCTを考慮すべきである、と述べている。我々も、頚椎可動域制限を伴う急性頚部痛では、本疾患を念頭に置いた頚椎CTを撮影することで診断の一助になると考えた。

38. 石灰沈着性頚長筋炎の検討

 

岩国市医療センター医師会病院 整形外科 

 

貴船 雅夫(きふね まさお)、土田 聖司、清水 元晴

 

過去2年の間に当科を受診した石灰沈着性頚長筋炎3例について検討した。年齢は38、58、63歳 (平均53.0歳 )、全例女性で、急激に発症する項部痛、頚部運動制限、咽頭痛や嚥下障害が共通した症状であった。また全例で発熱やCRP上昇などの炎症所見があった。全例初診時よりカラー装着指示し、NSAIDsを投与した。疼痛消失までには3週間以上要した例もあったが激しい頚部痛は全例1週間以内に軽減していた。 本疾患の画像的特長は単純X線やCT撮影での第2頚椎前面の石灰化像であるが、3例ともこの所見がみられた。炎症所見を有し急激な頚部痛を来たす疾患としては化膿性脊椎炎や咽後膿瘍などの感染性疾患が挙げられ、その鑑別にはMRIが必要となる。しかしながら、本疾患ではMRIでは頚椎椎体前面の均一な軟部組織の炎症による腫脹(T2high)がみられるものの石灰化所見の診断は難しい。結論:本疾患の除外診断にはMRIが必要となるが確定診断にはCTが有用と思われた。