第83回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題3)

9.腰仙椎部における巨大神経鞘腫の3例


愛媛大学脊椎センター

 

山岡慎大朗(やまおかしんたろう)、堀内秀樹、森野忠夫、尾形直則愛媛大学 整形外科 三浦裕正

 

【はじめに】腰仙椎部における巨大神経鞘腫は比較的まれであり、治療方針も一定の見解は得られていない。今回、当院で経験した腰仙椎部の巨大神経鞘腫3例について報告する。

【症例】症例1は、67歳女性で約25年前より腰痛下肢痛を自覚していたが放置、その後下肢麻痺が出現した。腫瘍はL4~S2椎体に広がり、神経圧迫所見も認めた。後方より腫瘍を全摘し、人工骨セメントを椎体欠損部に充填した。病理検査はneurinomaであった。術後下肢筋力低下は残存しているが独歩可能となった。術後8年現在、腫瘍の再発は認めない。症例2は64歳女性で、約10年前より腰痛を自覚、徐々に下肢のしびれと膀胱直腸障害が出現した。腫瘍はL4からS2椎体に広がり、神経圧迫所見も認めた。手術は後方より腫瘍を全摘出し、後方支持の再建にInstrumentationを使用した。病理検査はneurinom(a Ki-67 index=1.6%)であった。術後5年現在、腫瘍の再発は認めない。症例3は、60歳女性交通外傷を契機に検査をうけ巨大腫瘍を指摘された。腫瘍はL4~S2椎体レベルに進展しているが症状は軽度で麻痺等も認めないため、経過観察中である。

【考察】巨大神経鞘腫は、神経症状や痛みなどの臨床症状が手術決定の要因の一つとなる。今回、一例は臨床症状を認めないため経過観察としているが、臨床症状を認めた二症例のうち比較的後方支持組織が保たれていると判断した一症例は椎体欠損部への骨セメント充填のみとし、後方支持組織の再建が必要と判断した一症例には、腫瘍摘出後にInstrumentation による再建を行った。

10.仙腸関節固定を行った神経線維腫症1型の2例

 

鹿児島大学大学院 運動機能修復学講座 整形外科  

 

河村一郎(かわむらいちろう)、山元拓哉、田邊 史、あべ松昌彦、冨永博之、井内智洋、石堂康弘、米和 徳、小宮節郎

 

【はじめに】神経線維腫症1 型(:NF-1) においてDystrophicchange による骨破壊が問題となる。NF-1症例の仙腸関節破壊性病変の報告は少なく、今回仙腸関節固定を行った症例を経験したので報告する。

【症例】症例1:20歳 女性 主訴:腰痛 Cobb 角:35度(L3-5)側彎と仙腸関節の破壊も認めたため、後方前方矯正固定術(T12-腸骨)を行った。同種骨も併用し仙腸関節にも骨移植を施行した。初回手術後1年、2年で追加骨移植を施行した。症例2:40歳 女性 主訴:右仙腸関節痛 右S1の硬膜管拡張と仙腸関節の破壊を認め、後方固定術施行。(L3-腸骨)骨移植には自家腓骨と同種骨を用いた。本症例では追加骨移植は行わなかった。両症例とも十分な骨癒合の獲得は、最終手術後4年を要した。

【考察】NF-1固定術においては偽関節が危惧され、追加骨移植が必要となる症例も多い。本症例の仙腸関節病変では腰仙椎― 骨盤の強固なinstrumentation と同種骨も併用した十分な骨移植が必要であり、骨癒合が得られるまでの十分なフォローが必須である。

11.当科における仙骨脊索腫の手術成績

 

宮崎大学整形外科 


濱中秀昭(はまなかひであき)、猪俣尚規、黒木修司、比嘉 聖、永井琢哉、平川雄介、横江琢示、帖佐悦男

 

【はじめに】今回、我々は当科にて仙骨脊索腫に対して仙骨切断術を施行した9例の手術成績について検討したので報告する。

【対象と方法】対象は平成11年10月から平成26年10月までの15年間に仙骨切断手術を行った9例(男性6例、女性3例)とした。平均年齢68.3歳、術後経過観察期間は4ヶ月〜 14年5ヶ月(平均6年7ヶ月)であった。腫瘍高位、切断高位、術中出血量、手術時間、手術方法、術後合併症、膀胱直腸障害の有無、予後について検討した

【結果】腫瘍高位上端は、S2:3例、S3:1例、S4:2例、S5:3例であり、その上位の椎間板レベルで全例切断されていた。手術時間は平均8時間58分(3時間7分~20時間)、出血量は平均1511ml(100~5450ml)であった。手術術式は、前方後方同時手術が3例、後方手術が6例であった。膀胱直腸障害は、S3神経根以下を温存できた5例(S4温存:3例、S3温存:2例)では認めなかったが、S3神経根を温存できなかった4症例(S1温存:3例、S2温存:1例)では、自己導尿や摘便が必要であった。再発は4例に認め、うち3例は切断部位はS2以上であった。

【考察】S2以上の脊索腫では、膀胱直腸障害が出現し、再発率も高いことより重粒子線による治療を考慮すべきと考えた。

12.仙骨脊索腫術後の合併症で難渋した2症例

 

高知大学 整形外科

 

葛西雄介(かさいゆうすけ)、川崎元敬、喜安克仁、田所伸朗、南場寛文、武政龍一、池内昌彦

 

仙骨脊索腫術後の合併症の報告は散見される。今回仙骨脊索腫の術後に、骨盤の破綻をきたし、治療に難渋した症例を経験したので報告する。

 (症例1)76歳男性。仙骨脊索腫に対して、S1/2仙骨切断術施行し問題なく経過したが、術後1 年で両仙骨翼の骨折をきたした。偽関節化したためL5-S1instrumentaion および腸骨仙骨間の内固定を行った。さらに術後6年でL4/5の隣接椎間障害をきたし、L4/5TLIFを追加した。

(症例2)70歳女性。仙骨脊索腫に対して、拡大仙骨全摘出術を施行した。3年後に転倒によってrod の破損を認め、instrumentaion を一部抜去した。8年後に再度転倒により移植腓骨骨折と右臼蓋骨折ときたし、偽関節化とインプラントの緩みも認めたため、後方再固定を行った。しかし骨癒合は得られず複数回の手術でも骨癒合が得られず、現在も治療中である。

今回の症例のように仙骨摘出術における固定方法、サルベージ手術に関しての更なる検討が必要である。

13.坐骨結節部にダンベル様を呈して発生した骨軟部腫瘍の臨床的特徴

 

九州大学医学研究院整形外科 

 

松本嘉寛(まつもとよしひろ)、播广谷勝三、林田光正、岡田誠司、岩本幸英

 

【背景】骨軟部腫瘍が坐骨結節部にダンベル様に発生し坐骨神経を圧迫する場合、坐骨神経痛を来しうる事は教科書的には知られているが、これまでまとまった症例の報告はない。今回、坐骨神経を主訴とし、骨盤内外に発生した骨軟部腫瘍の臨床的特徴について検討した。

【症例】平均年齢35才, 男性1例女性6例、組織型は未分化多形性肉腫3例、原発不明癌、孤立性線維腫、Ewing 肉腫、神経鞘腫各1例であった。全例に坐骨神経痛様の下肢痛を認め、2例に臀部腫脹を伴っていた。2例に手術施行、5例に放射線治療、4例に化学療法を施行した。最終経過観察時、AWD5 例、NED、CDF各1例であった。

【考察】坐骨結節をまたいでダンベル様に発生した腫瘍は根治的切除が困難である症例が多く、今回も外科的切除は2例のみに施行された。1例は前方、後方アプローチにより広範切除縁が得られた。一方、高悪性度腫瘍においても放射線治療、化学療法の組み合わせで長期生存が得られている症例もあり、早期の適切な診断、治療開始が予後改善の為に必要であると考えられた。