第84回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題1)

1.骨粗鬆症性椎体骨折の受診状況


坂出市立病院整形外科*1、香川大学医学部整形外科*2 

 

山本修士(やまもと しゅうじ)*1、小松原悟史*2、松下誠司*1、藤原龍史*2、山本哲司*2

 

【はじめに】坂出市立病院(当院)で骨粗鬆症性椎体骨折患者の経過について検討したので報告する。 【対象と方法】2012年4月から2015年3月まで当院で骨粗鬆症性椎体骨折と診断した177例のうち、3 カ月以上経過観察が可能であった113例を後ろ向きに調査した。平均年齢78.0歳、男性45例、女性68 例、経過観察期間は4.0カ月であった。罹患椎体数は1椎体97例、2椎体14例、3椎体1例、5椎体1例であった。これら133椎体について、骨折型、入院の有無、神経症状の有無、骨癒合の有無、骨癒合までの期間について検討した。骨折型は、圧迫骨折C群(107椎体)と破裂骨折B(26椎体)群に分類した。

【結果】平均年齢はC群、B群に有意差はなかった。神経症状は8例で神経根症状、2例で軽い馬尾症状があったが、いずれも保存療法を行われた。骨癒合はC群で104椎体、B群で25椎体に得られた。C 群で2椎体偽関節となった。骨癒合の時期はB群で有意に長かった。

【考察】3カ月以上経過観察が行われたのが63.8%と低く、加療内容も各担当医の裁量で異なっていた。今後はクリニカルパスの導入など、治療の標準化を行う必要がある。

2.骨粗鬆症性椎体骨折手術症例の受傷から手術にいたる経過についての検討

 

鳥取大学整形外科 谷島伸二(たにしま しんじ)、谷田 敦、永島英樹 

 

松江市立病院整形外科 三原徳満

 

【はじめに】骨粗鬆症性椎体骨折症例について受傷から手術に至るまでの経過を検討した。

【対象と方法】2008 〜2015年の間、骨粗鬆症性椎体骨折で手術を行った19例を対象とした。男性5例、女性14例、平均年齢は80.0歳(59〜93歳)であった。受傷機転、受傷から手術に至るまでの経過、術後経過について検討した。

【結果】受傷機転は転倒13例、誘因無しが6例であった。転倒例のうち5例は初診時に骨折が見落とされていた。これらはDISHに伴う骨折であった。残り8例は初期治療に軟性3例に軟性コルセット固定、3例に硬性コルセット固定が行われ、外固定無しが2例であった。誘因無く骨折を生じた症例は腰痛がありながら医療機関を受診せず、下肢麻痺を生じてから受診していた。 手術は18例にHAブロックによる椎体形成術を併用した後方固定、1例に後方固定術が行われた。下肢麻痺を生じていた症例は11例で、7例が改善し、4例は不変であった。

【結語】DISHを伴う骨折の見落とし、患者の自己判断で受診が遅れた例が目立った。

3.骨粗鬆症性椎体骨折に対する地域連携パスの検討

 

公共社団法人 鹿児島共済会 南風病院 整形外科 


井内智洋(いうち ともひろ)、川内義久、富村奈津子、廣田仁志

 

【はじめに】我々は、大腿骨頚部骨折と同様に骨粗鬆症性椎体骨折に対する地域連携パスを平成23 年8 月より運用している。今回、その効果および問題点を検討したので報告する。

【方法】運用後より当院に入院した骨粗鬆症性椎体骨折の症例は200例であり、そのうち地域連携パスを使用した症例は128例であった。さらに転院先である回復期病院からのフィードバックがあった症例は57 例であった。調査項目は急性期、回復期での在院日数、回復期病院でのBIとFIMの推移および予後とした。

【結果】急性期病院での在院日数は2日から31日、平均15.6日であり、これはパス導入前の平均在院日数21日より短縮していた。回復期病院での在院日数は6日から161日で平均58.4日であった。回復期病院でのBIは入院時46.8点から退院時78.8点、FIMは入院時79.6点から退院時105.9点と改善を認めた。

【まとめ】骨粗鬆症性椎体骨折に対する地域連携パスは急性期病院での在院日数短縮と回復期病院での治療方針の統一による良好な治療成績に貢献した。しかし、パス使用率やフィードバック率の低さなど問題点も挙げられた。

4.副腎皮質ステロイド投与患者における骨粗鬆症予防投与についての実態調査

 

川崎医科大学附属病院 薬剤部*1、川崎医科大学附属病院 整形外科*2

 

吉田友紀*1(よしだ ゆき)、山根有未*1、矢吹晃宏*1、渡辺公美子*1、北川誠子*1、二宮洋子*1、玉井恭子*1、大成和寛*2 、中西一夫*2

 

【背景・目的】骨粗鬆症は副腎皮質ステロイド(合成糖質コルチコイド;以下GC)治療において起こりうる最も注意すべき重要な副作用の1つであり、長期GC治療を受けている患者の30〜50%に骨折が起こるとの報告もある。2014年5月に「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」が改訂されて以降の、当院でのGC治療における骨粗鬆症予防薬投与の有無や種類を調査した。

【方法】2015年1月1日〜2015年6月30日に当院の入院診療または外来診療で、経口プレドニゾロンを処方開始された18歳以上の患者を抽出し、患者毎に骨折危険因子をスコア方式で評価(既存骨折、年齢、ステロイド投与量、腰椎骨密度(%YAM))を行い、骨粗鬆症予防薬投与の有無、薬剤の種類を調査した。

【結果・考察】調査実施期間に経口プレドニゾロンが処方開始となった患者で、3ヵ月以上継続処方のある患者159名、および3ヵ月以上使用予定患者(転院等で追跡困難)5名の計164名を調査対象とした。そのうち、スコア≧ 3に該当した患者は152名であり、骨粗鬆症予防治療薬の処方があった患者は93名(61.2%、経口プレドゾロン処方開始以前より内服している骨粗鬆症薬も含む)であった。処方薬剤はビスホスホネート製剤80名、活性型ビタミンD製剤19名、SERM2名、ヒト副甲状腺ホルモン製剤1名であった(2種類以上の併用薬剤9名あり)。経口プレドニゾロン開始後、腰椎骨折の診断がついた患者が4名(未治療患者のうち6.8%)おり、この4名は骨折後より骨粗鬆症治療薬処方が開始となっており、長期GC治療時の早期に骨粗鬆症予防薬を投与しておくべきだと思われる。今回の調査は後方視的観察研究であり、実際の処方薬の内服遵守率は不明である。今後薬剤師として、長期GC治療時の骨粗鬆症予防処方の提案や、GCの副作用や予防投与薬の必要性についての患者教育により服薬遵守率の向上に努め、適切なGC治療かつ骨粗鬆症予防へ介入していきたいと思う。

5.当院における既存椎体骨折を有する患者抽出の試み −体幹CT を用いた抽出方法−

 

川崎医科大学 脊椎・災害整形外科学 

 

大成和寛(おおなるかずひろ)、中西一夫、長谷川 徹

 

【目的】脆弱性骨折の既往を有する高齢者は新たに脆弱性骨折を起こすリスクが高く、骨粗鬆症治療を行うことによって、新規骨折の予防が可能である。しかし、実際は脆弱性骨折の既往があっても、骨粗鬆症の治療が行われていない場合が多い。今回、当院で何らかの検査目的で体幹部CTを施行された症例の画像を用いて椎体骨折の有無を評価した。

【対象・方法】2014年11月17日から2015年3月30日の期間、当院で体幹部CTを撮像した症例のうち、60歳以上の女性を対象とした。脊椎矢状断再構築画像を作成後、椎体骨折の有無を評価した。椎体骨折の診断は、単純X線に準じてSQ法を用い、grade1以上を骨折ありと判断した。

【結果】調査期間中に施行された体幹CT検査はのべ4,652例で、そのうち60歳以上の女性が1229例で、平均年齢は74歳(60〜105歳)であった。266例に椎体骨折を認め、椎体骨折数は最も多い症例で10椎体であった。

【考察・結論】住民コホートの調査では椎体骨折の10年間の累積発生率は60歳代女性で14%、70歳女性で22.2%との報告がある。今回の調査では60歳代では8.4%、70歳代では23.2%であった。椎体骨折は受傷機転を考慮する必要があるものの、脆弱性骨折の存在をもって骨粗鬆症と診断することが出来る。この体幹CTを利用して脊椎矢状断再構築画像を作成・評価する方法は被曝やコストの面からも有効な椎体骨折のスクリーニング方法と思われる。

6.胸腰椎圧迫骨折と骨盤骨折のDXA 法による比較

 

長崎三菱病院 整形外科 依田 周(よだ いたる)、崎村俊之、野口智恵子、西 亜紀、矢部 嘉浩

 

長崎大学病院 整形外科 安達信二、田上敦士

 

【はじめに】骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは脊椎圧迫骨折や大腿骨近位部骨折があれば骨粗鬆症治療開始が推奨されており、またこれらの骨折は手術やコルセット装着などの治療を要するため重視されている。一方、骨盤骨折(恥坐骨、仙骨)はそういった治療を要することは少なく、骨粗鬆症治療も骨密度の結果で推奨されており軽視されがちである。しかし、再度転倒などで脊椎圧迫骨折や大腿骨近位部骨折など加療が必要な状態となることも稀ではない。

【目的】胸腰椎圧迫骨折と骨盤骨折患者の骨密度を比較検討すること。

【対象】2014年6月〜 2015年1月までに脆弱性骨盤骨折(以下P群)で入院した20名(男性1例、女性19例、平均年齢82.3歳)と同時期に入院した胸腰椎圧迫骨折(以下V群)の連続20名(男性4例、女性16例、平均年齢77.2歳)。

【方法】DXA法による腰椎および大腿の骨密度(YAM値)を比較した。

【結果】DXA平均値はP群が腰椎59.2%、大腿59.5%であったのに対してV群は腰椎66.3%、大腿 72.1%でありP群が有意に低かった(P<0.05)。また骨粗鬆症の治療歴はP群が6例(30%)でV群が7例(35%)であった。

【考察】脆弱性骨盤骨折に対しても骨粗鬆症治療開始の契機と考え積極的に介入治療すべきである。