第85回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題1)

1.年代別に評価した腰椎椎間関節及び椎間板におけるMRI T2値の基準値作成の試み


鳥取大学医学部 整形外科 

 

榎田 信平(えのきだ しんぺい)、谷島 伸二、永島 英樹 

 

【はじめに】MRI T2 mappingは、関節軟骨中のプロテオグリカンや水分量の変化を、T2値を算出することで定量的に評価できる撮像法である。同撮像法を用い、腰椎疾患の既往のない対象の腰椎椎間関節、椎間板におけるT2値を年代別に算出することで、同組織におけるT2値の基準値作成を試みたので報告する。

【方法】20〜50歳代の男女に腰椎MRIを撮像し、作成したL4/5 T2 map像を用いて、両側椎間関節と椎間板(前方、後方線維輪、髄核)のT2値(ms)を各年代別に計測した。

【結果・まとめ】T2値は年齢が上がるにつれ、椎間関節で上昇し、椎間板で低下していた。諸家の報告では、腰椎変性疾患患者の椎間関節T2値は上昇し、椎間板T2値は低下するとされるが、健常者であっても、加齢に伴う組織変性のために、年代別のT2値は異なると考える。本研究で得られた年代別のT2基準値を用い、今後腰痛を有する変性疾患症例のT2値と比較することで、腰痛の程度の定量化や、変性と腰痛の関係を評価できる可能性がある。

2.腰椎MRIにおける年齢階層ごとのHigh Intensity Zone (HIZ)発現頻度と変性所見との関連

 

三豊総合病院 整形外科 *1、徳島大学 運動機能外科*2 

 

竹内 誠(たけうち まこと)*1、阿達 啓介*1、井上 和正*1、玉置 康晃*1、大道 泰之*1、長町 顕弘*2

 

【目的】本研究の目的は年齢階層ごとのHigh Intensity Zone (HIZ)発現頻度、HIZと腰痛や他の変性所見との関連を調査することである。

【対象と方法】腰痛、坐骨神経痛を主訴として受診し、腰椎MRIを撮影した305例、1525椎間板を対象とした。男性139例、女性166名であった。20歳未満(19例)、20歳以上40歳未満(38例)、40歳以上60歳未満(69例)、60歳以上80歳未満(145例)、80歳以上(36例)の5つの年齢階層にわけ、HIZ発現頻度を調査した。椎間板変性度はPfirrmann scaleに準じて5段階に分類し、grade4と5を変性椎間板とした。

【結果】年齢階層ごとの発現頻度は若年から、それぞれ、13,3%、47,4%、52,2%、42,8%、50,0%であった。20歳未満の発現率は他の年齢層に比較して優位に低かった。HIZと腰痛の関連は認められなかった。HIZが認められた椎間板はHIZを認めなかったものに比較して有意に変性が進行していた。

3.腰椎症例における脊椎骨盤パラメーターと脊椎すべりとの関連

 

広島大学大学院 整形外科学


中西 一義(なかにし かずよし)、田中 信弘、亀井 直輔、古高 慎司、越智 光夫、安達 伸生

 

【目的】脊椎骨盤パラメーターと脊椎すべりの程度との関連を調査すること。

【方法】腰痛を訴え外来を受診した104例(女性59例、平均年齢69歳)を対象とし、立位側面全脊椎レントゲン撮影を行った。脊椎骨盤パラメーターとL1からL5各高位の%Slip との関連を調査した。%Slip は前方、後方すべりとも評価し、後方を負として表した。

【結果】%Slip の絶対値が0.05以上の椎体すべりはL1で12例、L2で28例、L3で28例、L4で45例、L5で23例に認めた。脊椎骨盤パラメーターのうち、PIはL3、L4の%Slip と相関を認め、SSはL4、L5と、LLはL4、L5とそれぞれ有意な相関を認めた。各高位の%Slip は隣接高位の%Slip とそれぞれ有意な相関を認めた。

【考察】PI、SS、LLは椎体すべりの程度と関連しており、椎体すべりの原因であることが示唆された。

4.腰部脊柱管狭窄症除圧術における脊椎矢状面バランスと腰痛スコア

 

広島鉄道病院 整形外科

 

藤岡 悠樹(ふじおか ゆうき) 、佐々木 正修

 

【目的】腰部脊柱管狭窄症(LSS)の後方除圧術後の脊椎矢状面バランス改善が、腰痛改善の要因であるかを明らかにすること。

【対象と方法】LSSに対し後方除圧術を行い1年以上経過観察した33例(男性15例、女性18例)、手術時平均年齢71,7歳。単純X線立位全脊柱側面像でSVA (Sagittal Vertical Axis)と、腰痛スコアとしてODI(Oswestry Disability Index)、腰痛VASを、術前、術後1ヵ月、術後1年で調査した。

【結果】術前/術後/最終調査時のSVAは75,1/49,2/55,4mmであった。腰痛スコアはODI:22,9/10,2/5,7%、VAS:4,5/ 2,6/ 1,5であった。

【考察】LSSに対する後方除圧術後に脊椎矢状面バランス、特にSVAは著明に改善し、腰痛スコアも改善した。ただしSVAは術直後に50mm未満を示した後、最終調査時には再増大した一方で、腰痛スコアは経時的に改善し、両者は異なる挙動を示した。LSSの後方除圧術後の脊椎矢状面バランス改善と、腰痛改善には直接の相関はないと考えられた。

5.腰椎椎間孔内における腰髄神経根の生理学的病態についての検討

 

総合せき損センター 

 

森下 雄一郎(もりした ゆういちろう)、前田 健、植田 尊善、芝 啓一郎

 

【はじめに】近年、腰椎変性疾患に対する手術療法として腰椎椎体間固定術が多用されているが、適応に悩むケースも多い。 今回、腰髄神経根の腰椎椎間孔内における生理学的病態について解剖学的考察を加えて検討した。

【対象と方法】L4変性辷り症に対するL4-5後側方固定術中に、圧測定カテーテルを脊柱管除圧後にL4-5椎間孔(19椎間孔)内に挿入し、固定前後の椎間孔内圧の肢位による変化を計測した。腰椎椎間孔内圧変化と椎間孔解剖学的構造、さらにinstrumentationによる内固定の腰椎椎間孔内での腰髄神経根に及ぼす外的影響について検討した。

【結果】L4-5椎間孔内圧は、腰椎伸展に伴い統計学的有意に内圧が上昇していたが、固定後は有意な圧変化は認めなかった。 また、固定前の椎間孔内圧および肢位による内圧変化と、椎間孔解剖学的構造とに有意な相関は認めなかった。

【考察】腰椎変性辷り症症例に対して、椎体間固定・椎間孔除圧(椎間関節切除)でなく、後側方固定のみで十分に腰椎椎間孔内における腰髄神経根の動的外的ストレスは減少し、満足のいく臨床結果が得られると考える。 

6.Lateral recess stenosisの画像診断はどこまで可能か

 

白石共立病院 脳神経脊髄外科*1、伊万里有田共立病院 脳神経外科*2

 

本田 英一郎(ほんだ えいいちろう)*1、宮原 孝寛*1、大石 豪*1、田中 達也*2、内山 拓*2、桃崎 宣明*2

 

【はじめに】今回術前にlateral recess stenosis(LRS)の診断にて開窓神経除圧した45例についてretrospectiveに検討した結果を報告する。

【症例】臨床症状は腰痛、臀部から下肢外側への放散痛が起座、立位で症状が発現したり、増悪する場合もある。 MRIでは明らかな高度な変性腰部脊柱管狭窄症に伴うlateral recess stenosisは除外しているが、若年者でのcongenital lumbar canal stenosisに伴うtrefoil型のlateral recess stenosisは含まれた。 まず手術効果を示したのは45例中41例(91%)であった。画像所見で臨床症状側と一致したのはKubo line(下関節の内側より上関節内側が管内に張り出す場合)(35%)、CTMで神経根の描出欠損(28%)、facetの変性(42%)、congenital narrow spinal canalの合併(17%)造影による神経根の造影(3/3例)100%、周辺組織の造影効果(2/2例)100%を示した。上記の2つ以上陽性を示した例は88%で全例手術効果を認められた。

【考案】私どもの他覚的な画像所見でも88%で手術効果を得ている。一方でMRIでは無症状のlateral recess stenosis所見を呈する例も多く、MRI、CTのみでの判断にも限界があり、臨床症状、特に起座、起立で体位の変化における症状発現状況を観察することも重要と思われた。