第85回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題4)

21.感染性腹部大動脈瘤破裂、腹部大動脈瘤破裂の初期診断における整形外科の関与


佐賀大学 整形外科

 

村中 一喜(むらなか かずき)、森本 忠嗣、前田 和政、塚本 正紹、吉原 智仁、園畑 素樹、馬渡 正明

 

【目的】感染性腹部大動脈瘤(以下、IAAA)と腹部大動脈瘤以下、AAA)の初期診断における整形外科の関与について調査すること。

【対象と方法】当院にて(切迫)破裂のために手術を行ったAAA37例(男:女=24:13、平均年齢72歳)、IAAA3例(男性3例、平均年齢70歳)を対象とし、初期診断における整形外科の関与、主訴・随伴症状について比較した。

【結果】初期診断に整形外科が関わったのはAAA1例(3%)、IAAA3例全例であり、正診率はそれぞれ100%と0%であった。AAAの主訴・随伴症状は腰痛43%、腹痛60%、意識障害16%、血圧異常46%、既往歴は高血圧54%、糖尿病5%であった。IAAAでは腰痛3例、腹痛1例、意識障害0例、血圧異常2例であった。

【考察】AAAは重篤な症状を伴うことが多く初期診断における整形外科の関与は3%のみであった。一方で、IAAAは初期には重篤な症状に乏しく、全例腰痛が主訴であり初期対応は整形外科が担っていたが全例誤診されていた。

22.化膿性脊椎炎に合併する感染性心内膜炎の検討

 

佐賀大学 整形外科*1 、独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター*2  

 

村山 雅俊(むらやま まさとし)*1 、森本 忠嗣*1、前田 和政*1、塚本 正紹*1、吉原 智仁*1、小河 賢司*2、秋山 隆行*2、古市 格*2、園畑 素樹*1、馬渡 正明*1

 

【背景】化膿性脊椎炎(VO)における感染性心内膜炎(IE)の合併は稀ではないことが報告されているが、内外のIE診療ガイドラインにVOは触れられていない。また、併発例の整形外科領域からの報告も多くない。

【対象と方法】VO入院治療例107例を対象として、基礎疾患、起炎菌、合併感染症、IE症例の患者背景と治療転帰を調査した。

【結果】IE合併例は6例(6%)であり、全例血液培養陽性(MSSA1例、S.capitis1例、E.faecium1例、MRS1例など)であった。基礎疾患は糖尿病2例、ペースメーカー挿入術後1例、大動脈弁置換術後1例、大動脈閉鎖不全1例であった。転帰は、開心術3例、難治性菌血症移行例1例、死亡例1例、改善例1例であった。

【考察】IEの危険因子として、血液培養陽性、好発起因菌(Enterococcus、staphylococcusなど)、心(弁膜)疾患、糖尿病などがあり、本研究でのIE例でも認められていた。IE例の多くは予後不良であり、上記危険因子を有するVO例では、IEの合併を念頭におき積極的に心エコーを行うことが推奨される。

23.腰臀部痛を主訴に受診された化膿性仙腸関節炎の2症例

 

宮崎大学医学部 整形外科


比嘉 聖(ひが きよし)、濱中 秀昭、猪俣 尚規、永井 琢哉、李 徳哲、帖佐 悦男

 

化膿性仙腸関節炎は稀な疾患でありXPで異常所見を認めないことも多く診断に難渋する疾患である。腰臀部痛を主訴に紹介された化膿性仙腸関節炎の2症例を報告する。

症例1:61歳女性、特に誘因なく腰臀部痛が出現し近医整形を受診。その後数カ月間抗生剤投与を継続するも右仙腸関節の破壊が進行したため当科紹介受診。CT、MRIでは右仙腸関節の破壊と膿瘍形成をあり骨盤内に巨大子宮筋腫を認めた。産婦人科にて子宮筋腫摘出術を施行し抗生剤治療を継続したところ症状改善し最終的には骨癒合も得られた。

症例2:14歳男性、腰痛と微熱が出現した数日後より腰痛増悪し38℃台の発熱を認め近医整形を受診するもXPで異常を認めず経過観察。発症から5日目より歩行困難となり当院紹介受診。入院時XPは特に異常なく採血にてCRP:16.5、WBC:9700と高値であった。MRIにて右仙腸関節の前面に膿瘍を認め、骨シンチでも仙腸関節に集積を認めた。手術にて膿瘍部の洗浄・デブリードマン、抗生剤投与を行った結果、術後2週間で炎症反応は陰性化し臨床症状も改善した。

24.感染性疾患による腰痛の診断と治療

 

福岡東医療センター 整形外科

 

幸 博和(さいわい ひろかず)、井上 三四郎、吉田 裕俊

 

【はじめに】腰痛を来たす疾患は多岐にわたる。今回、速やかな対処が必要な腰痛を呈する化膿性脊椎炎について、その診断と治療、症状の推移について検討を行った。

【対象と方法】当科にて2015年4月から2016年3月までに治療を行った化膿性脊椎炎15例(結核菌5例、一般細菌8例、鑑別不可2例)を対象とした。これらの症例において、確定診断に至るまでの検査とその有用性、抗菌薬投与および手術治療による症状の推移について評価した。

【結果】入院後の血液検査所見、発熱、罹患椎体のMRI所見からは、一般細菌による化膿性脊椎炎と脊椎カリエスの鑑別は困難であった。確定診断には経椎弓根的骨生検が有用であり、11例に対し生検を施行した。脊椎の不安定性や強い腰痛を呈する9症例に対して、脊椎固定術を行い、前後方固定2例、後方固定7例であった。

【考察】化膿性脊椎炎と脊椎カリエスの鑑別には経椎弓根的骨生検による培養、病理検査が有用であった。また、支持性が低下した脊椎カリエスには、前後方脊椎固定術を考慮すべきと考えられた。

25.化膿性脊椎炎に対する低侵襲治療法の検討  −腰痛の改善を中心に−

 

久留米大学 整形外科*1、聖マリア病院 整形外科*2

 

松原 庸勝(まつばら つねまさ)、佐藤 公昭*1、神保 幸太郎*2、山田 圭*1、井上 英豪*1、横須賀 公章*1、佐々木 威治*1、井手 洋平*1、後藤 雅史*1、溝上 健次*1、永田 見生*1、志波 直人*1

 

【背景】化膿性脊椎炎の主症状は発熱と腰痛であり、治療の目的は感染の沈静化と腰痛の改善である。同疾患に対して当院では主に経皮的病巣掻爬ドレナージ(以下PSAD)を行っており、関連病院では高圧酸素治療(以下HBOT)を行っている。

【対象と方法】対象は2010年1月から2015年6月まで当院でPSADを施行された31例(以下P群)と、関連病院でHBOTを施行された22例(以下H群)とし、これらに対して後ろ向き研究を行なった。治療のoutcomeを1)CPR<1までの日数、2)疼痛の改善の有無とし、両群間で統計学的解析を行った。

【結果】年齢、性別、基礎疾患は2群間で差を認めなかった。1):P群で平均21.6日、H群で平均26.7日であり、有意差を認めなかった(p=0.22)。 2):P群で26例(83.4%)、H群で16例(89.7%)改善し、有意差を認めなかった(p=0.20)

【考察】両治療法の共通の治療概念は感染部位の血流を増加させ抗生剤の効果を上げることである。治療成績に差はなく、患者の状態、それぞれの治療法の長所を考慮して治療を選択することが望ましい。

26.化膿性脊椎炎に対し側方アプローチで治療を行った3例

 

高知医療センター 整形外科

 

多田 圭太郎(ただ けいたろう)、時岡 孝光、枦元 佑大郎、田所 佑都、山本 次郎、田村 竜、林 隆宏、沼本 邦彦、大森 貴夫、松本 俊之

 

当院では化膿性脊椎炎に対する治療戦略として、CTガイド下ドレナージと抗菌剤の点滴投与を主軸とし、保存療法での沈静化が得られない症例や椎体・終板の破壊により不安定性が生じた症例に対して、経皮的椎弓根スクリューによる後方固定術をオプションとして行ってきた。

2015年3月から経腸腰筋アプローチによるXLIFでの椎間固定の治療経験を重ねている。2015年7月以降、3例の化膿性脊椎炎に対し、XLIFアプローチを使用して椎間操作・前方固定術を経験したので報告する。

27.脊椎インストゥルメンテーション手術後感染症に対するインプラント温存した外科的治療の検討

 

兵庫医科大学 整形外科

 

川口 貴之(かわぐち たかゆき)、橘 俊哉、圓尾 圭史、有住 文博、楠山 一樹、吉矢 晋一

 

脊椎インストゥルメンテーション手術後の手術部感染症(SSI)に対してインプラントを温存した外科的治療を行った連続13例を後ろ向きに検討した。 平均年齢70.5歳。男性6例、女性7例。経過観察期間は平均17.0(2-46)ヶ月であった。全例胸腰椎固定術後であり初回手術での固定椎間数は平均3.8(1-9)椎間。初回手術からSSIに対する手術までの期間は平均7.4 (1-52) 週であった。表層感染4例、深部感染9例、不明1例であった。治療前のWBCは平均111.0+/-37.5 (x102 μl)、CRPは平均14.6+/-9.9 (mg/dl)であった。起因菌はMSSA 6例、MRSA 5例、不明2例であり、他菌との混合感染が3例あった。行った処置は洗浄デブリードメントのみ8例(複数回1例)、緩んだインプラントを入れ替えたもの4例、前方固定を追加したもの1例であった。抗生物質の静脈投与は平均6.9+/-4.5 (2.2-19)週。全例創は治癒し、6ヶ月以上経過観察できた10例中7例 (70%)で骨癒合が得られた。