第85回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題5)

28.除圧術が著効した腰痛の検討


J佐田厚生会佐田病院 整形外科*1、秋山とおる整形外科*2  

 

藤原 将巳(ふじわら まさみ)*1、斎田 義和*1、宮岡 健*1、近間 知尚*1、秋山 徹*2

 

腰部脊柱管狭窄症(辷りを含む)は下肢症状が主体である場合が多い。重症の腰痛で下肢症状はほとんど無い非典型的な4症例を経験したので報告する。

【対象】腰部脊柱管狭窄症3例(2例は固定後隣接障害)、変性すべり症1例である。男性3例、女性1例。年齢は60歳〜84歳。術前腰痛VAS 70mm以上 臀部・下肢痛20o以下であった。全例、MRI Myelo-CTで高度な脊柱管狭窄があった。術前に神経根・椎間板ブロックなどで責任病巣の検索をおこなった。患者に除圧固定術を勧めた症例が多かったが、最終的には、高齢、合併症、患者希望などを加味して全例顕微鏡下椎弓拡大開窓術(1椎間3例、2椎間1例)を施行した。

【結果】腰痛VAS20o以下となり、最終観察時点でも成績は保たれている。

【考察】腰痛のみの症例への手術適応の是非、手術方法(固定vs除圧)など議論の余地が残る経験であった。臨床症状の特徴として、間欠性腰痛(歩行後悪化)があった。神経根・馬尾の圧迫が腰痛の主因と思われた。腰痛主体の狭窄症には第1選択として除圧術で良いのでは?

29.経皮的内視鏡を用いた脊柱管狭窄症除圧術(Percurtaneous Endoscopic Laminotomy, PEL)における成績不良要因とその防止に関する検討

 

JCHO九州病院 整形外科 

 

土屋 邦喜(つちや くによし)、宮崎 幸政

 

【目的】当院では2014年より経皮的内視鏡を導入し、一椎間のヘルニアおよび脊柱管狭窄症に対して適応を開始した。今回経皮的内視鏡を用いた脊柱管狭窄症手術(Percutaneous Endoscopic Laminotomy, PEL)の成績、問題点を検討した。

【対象および方法】PELは47例に施行され、基本的な術後成績は良好であったが6例で追加処置を要した。これらの改善不良要因を検討した。

【結果】術後血腫による疼痛再悪化と考えられたものは4例であった。全例MRIにて術後血腫の関与を推察し、MEDによる血腫除去術を施行した。

【考察】血腫に対する再手術の所見では血腫はほぼ脊柱管内に限局して存在しており、軟部組織にはほぼ認められなかった。この所見よりPELでは軟部組織の侵襲が少ない分、術後の出血が脊柱管内に限局し出血量の割には高度な神経圧迫を起こしていた可能性が考えられた。PELは術後創部痛が極めて少ないが、その死腔の少なさから血腫を生じた場合症状が強く、また遷延するため注意が必要である。今回これらの症例の背景、術中所見を検討し、再手術に至った要因および術後血腫を防ぐための今後の工夫等に関して考察する。

30.腰部脊柱管狭窄症の除圧術後に腰痛が遺残する患者の術前因子の解析

 

愛媛大学医学部附属病院脊椎センター*1、 愛媛大学大学院医学系研究科整形外科学*2


日野 雅之(ひの まさゆき)*1、森野 忠夫*1、尾形 直則*1、山岡 慎大朗*1、三浦 裕正*2

 

【目的】腰痛のある腰部脊柱管狭窄症の除圧術後に腰痛が遺残する患者の術前因子を解析したので報告する。

【方法】術後1年で術前よりも腰痛VASの改善が20以下の症例を遺残群(20例)、50以上改善が得られた症例を改善群(32例)とし比較した。因子は年齢、性別、除圧椎間数、X線所見(Cobb角、辷り度、不安定性)、CT所見(椎間関節角度、L4/5レベルの傍脊柱筋・腸腰筋筋肉量)、MRI所見(椎間関節水腫数、椎間板変性度・椎間孔狭窄度・脊柱管狭窄度)とし、多変量解析を行った。

【結果】術前MRI画像で腰椎椎間関節水腫の数が多ければ術後腰痛が改善しにくく(オッズ比:4.64)、術前脊柱管狭窄が強ければ術後腰痛が改善しやすい(オッズ比:8.01)という2点が有意な因子であった。

【考察】術前に椎間関節変性が多い症例では椎間関節性腰痛の可能性が高く、術後も腰痛が遺残することが予想され、脊柱管狭窄が強い症例では神経因性腰痛の可能性が高いため、除圧術により腰痛の改善が得られると考えられた。

31.腰部脊柱管狭窄症における除圧術の手術成績とBS-POPによる精神医学的問題評価

 

福島県立医科大学医学部 整形外科 

 

加藤 欽志(かとう きんし)、矢吹 省司、大谷 晃司、二階堂 琢也、渡邉 和之、小林 洋、菊地 臣一、紺野 慎一

 

【背景】腰部脊柱管狭窄の患者において、精神医学的問題評価のための簡易質問表(以下、BS-POP)と手術成績との関係を検討した。

【方法】腰部脊柱管狭窄に対して後方除圧術を施行した189例を対象とした。対象を術前のBS-POPで、「正常群」と「異常群」に分けて前向きに比較検討した。

【結果】術前にBS-POPが異常を示した患者のうち、約7割は術後1年でBS-POPが正常化していた。一方で、術前にBS-POPが正常の患者のうち、約1割は術後1年でBS-POPが異常化していた。BS-POPの異常が術後も残存する、あるいは正常から異常へ悪化する患者は、術前・術後ともにBS-POPの正常を維持した患者と比較して、手術成績が不良であった。

【考察】BS-POPによる評価は、手術前後で変化しうる。腰部脊柱管狭窄患者において、術前に指摘された精神医学的問題の約7割は、術前の症状が原因となって、引き起こされている可能性があり、さらに、その精神医学的問題は手術治療によって改善する可逆的な問題である可能性がある。

32.腰部脊柱管狭窄症に対する顕微鏡視下後方除圧術(Semi-circumferential decompression; SCD) −術後約10年間の追加手術から見た問題点−

 

広島市立安佐市民病院 整形外科 

 

藤原 靖(ふじわら やすし)、泉 文一郎、志摩 隆之、古高 慎二、真鍋 英喜 

 

【はじめに】我々は、1991年から顕微鏡視下に椎間関節を温存しつつ黄色靱帯を一塊摘出する独自の後方除圧術(SCD)を行っており、その追加手術を検討した。

【対象および方法】2002-2004年施行のSCD329例(平均68,8歳)を対象とした。原疾患は脊椎症132例、変性すべり症150例、椎間板ヘルニア44例、変性側彎21例であった。当院手術データベースにて2012年10月までの追加手術を調査した(平均経過観察期間9年3ヶ月)。

【結果】要追加手術症例は35例10,6 %で、内訳は腰椎同部位再狭窄7例2,1%(再狭窄4例、椎間関節嚢腫1例、椎間板ヘルニア2例)、腰椎他椎間狭窄手術28例8.5%(隣接椎間が24例)であった。また、腰椎他椎間除圧の頻度は、初回1椎間除圧220例中27例12,3%に対し、2椎間除圧は100例中6例6,0%であった。

【考察】術後同椎間再狭窄の頻度よりも腰椎他椎間手術の頻度が高く、特に初回手術時1椎間除圧群で多かった。除圧椎間選択基準の再検討を要すると考える。

33.腰椎分離すべり症に対する顕微鏡視下分離部除圧術の術後成績

 

広島市立安佐市民病院 整形外科

 

泉 文一郎(いずみ ぶんいちろう)、藤原 靖、志摩 隆之、原田 崇弘、真鍋 英喜

 

腰椎分離すべり症に対する観血的治療として、脊椎インストゥルメンテーションを使用した後方除圧固定術が一般的であるが、我々は、以前より腰椎分離すべり症に対して分離部除圧術を実施してきた。今回、腰椎分離すべり症に対する術後成績を検討したので報告する。

対象は当科にて、2004年から2012年までに顕微鏡を使用し分離部除圧術を行った32例を対象とした。男性30例、女性8例、手術時平均年齢は62.8 歳で、手術高位はL4が7例、L5が31例であった。術前のすべりは辷りなしが5例、Meyerding grade 1が23例、grade 2が9例、grade3が1例で術後経過観察期間は平均42.7ヵ月であった。以上の症例の臨床成績の経過を術前、術後1年、最終診察時の経時的変化を調査した。%slipは術前平均22.7%が最終診察時に平均27.6%と若干の進行を認めたが、腰痛、下肢痛は最終診察時にもおおむね保たれていた。1例に表層感染を認め、同部位再除圧を追加した症例が4例、他部位の除圧術を追加した例が8例あった。

34.腰椎椎弓切除術後に後方要素に生じた骨折について

 

香川大学 整形外科*1、 さぬき市民病院 整形外科*2

 

藤原 龍史(ふじはら りゅうじ)*1、小松原 悟史*1、有馬 信男*2、山本 哲司*1

 

【はじめに】腰椎椎弓切除術の術後に骨折を生じた症例について検討したので報告する。

【対象と方法】2013年1月から2014年12月までに、腰部脊柱管狭窄症に対して棘突起縦割式椎弓切除術を施行した34例の内、術後1年以上経過観察可能であった21例を対象とした。男性13例、女性8例、平均年齢75才であった。術後骨折の部位、危険因子について検討した。

【結果】術後に骨折をきたした症例は3例であり、術後3カ月のCTにて確認できた。骨折部位は2例が両側関節突起間部で、1例が棘突起であった。関節突起間部骨折の2例では、全椎弓切除を施行した椎弓において骨折が生じていた。棘突起骨折の1例は、除圧範囲の最尾側の棘突起基部に骨折が生じており、本症例では除圧に際して棘突起頭側を一部切除していた。部分椎弓切除を施行した椎弓においては、関節突起間部の骨折が生じた症例はなかった。

【考察】腰椎椎弓切除術後の経過中に腰痛が増悪した際には後方要素の骨折を疑う必要がある。術後骨折の予防のためには、骨組織の温存が重要と思われた。