第86回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題1) |
*1.胸椎後縦靭帯骨化症の後方除圧固定術後に生じた麻痺に対し安静臥床にて改善が得られた1例
森本忠嗣(もりもと ただつぐ)、前田和政、吉原智仁
【はじめに】胸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)に対する後方除圧固定術後に胸髄症の悪化をきたした1例を経験したので報告する。 【症例】74才、男性。T5/6高位に嘴状のOPLL、T5-12高位の黄色靭帯骨化を認め、後方除圧固定術を実施した。術中モニタリングは低下なく手術を終了。術後、神経症状の悪化はなく術後4日目で歩行可能。術後6日目より下肢麻痺、膀胱直腸障害が出現したが、明らかな画像異常は認めなかった。安静臥床で麻痺は改善したために経過観察とした。術後2週より麻痺は回復し、術後2ヶ月で杖歩行で自宅退院。 【考察】本症例の特異な点は、術後6日目の離床訓練後より麻痺を生じていた点である。加藤らが同様の症例を報告し、長期の安静臥床のみで神経症状は改善したこと、機序として後方除圧固定を行ったが後弯頂点部の嘴状のOPLLによる前方からの圧迫は遺残し、わずかなRodのしなりで脊髄の動的圧迫が生じたと推察している。胸椎OPLLでは術後に一過性の麻痺もおこりうることも念頭におき原因検索、適切な治療選択を行う必要がある。 |
*2.末端肥大症に伴う胸椎黄色靭帯骨化症の1例
浜脇整形外科病院
真野洋佑(まの ようすけ)、大石陽介、村瀬正昭、谷本純一、浜脇純一
【はじめに】末端肥大症に胸椎黄色靭帯骨化症を合併した1例を経験したので報告する。 【症例】28歳男性。腰痛、両下肢痛、左下肢痺れ、脱力感を主訴に来院。精査の結果、Th1/2高位の黄色靭帯骨化、後縦靭帯骨化が脊髄圧排の主因と診断し、Th1/2高位の黄色靱帯切除を行った。術後下肢の痺れ、筋力低下は改善した。6年後、腰部から両下肢の痺れが増悪し、精査にてTh8/9/10/11 高位の黄色靭帯骨化および後縦靭帯骨化による脊髄圧排が主因と診断し、Th8/9/10/11の黄色靱帯切除、Th8−L1までの後側方固定術を行った。術後痙性歩行、痺れはほぼ消失した。現在術後約2年経過しているが、自覚症状なく経過は良好である。 【考察】末端肥大症は、脊椎においては椎体前後径の増大や脊柱靭帯骨化など様々な変化を来すことが報告されている。本症例は、頸椎、胸椎、腰椎の広範囲に脊椎靭帯骨化を来しており、末端肥大症による成長ホルモンの過剰分泌がその一因と考えられた。 |
3.後方除圧固定術が胸椎後縦靭帯骨化の形態に与える影響
総合せき損センター 整形外科
【はじめに】胸椎後縦靭帯骨化症に対する後方除圧固定術は、固定効果と間接除圧効果により短期成績は良好であるが、さらに長期的には骨化の厚みの減少や骨化癒合がみられるという報告が散見される。 【目的】後方除圧固定術後の骨化形態の変化を調査し、その意義を考察すること。 【対象と方法】術前および術後にMPR-CTの矢状断像にて骨化の形態を観察し得た17例(男性3例、女性14例)を対象とした。手術時平均年齢56.5歳(35〜73歳)であった。術前と経過観察時における骨化の厚みの変化と骨化癒合の有無を調査した。 【結果】手術から最終CT撮影までは4ヶ月〜8年1ヶ月(平均3年1ヶ月)であった。骨化の厚みは術前7.42mm(5.14〜9.32mm)が最終経過観察時6.56mm(4.03〜9.10mm)と減少していた。厚みを増した例はなかった。骨化癒合は13例に認められ、癒合が認められなかった4例はCT撮影が術後1年未満の症例であった。 【結論】インストゥルメント固定により、脊髄障害部位の骨化進展が抑制され骨化の減退や骨化癒合が得られるため、長期的にもさらなる脊髄機能回復が期待できる。 |
4.胸椎後縦靭帯骨化症に対する後方除圧(後弯矯正固定術)の治療成績
大分整形外科病院
巽 政人(たつみ まさと)、大田秀樹、松本佳之、中山美数 、井口洋平、瀧井 穣、木田浩隆、竹光義治
【目的】当院では胸椎OPLLに対し上位胸椎では椎弓切除、中下位胸椎では椎弓切除・後方矯正固定を行っている。今回、術後成績を調査し、問題点を検討した。 【対象】2005年より当院で手術施行し半年以上経過観察可能であった18例を対象とした(男性8例、女性10例、上位胸椎3例、中下位胸椎15例)。平均年齢は56.1歳、平均観察期間は27.4ヶ月であった。手術部位での黄色靭帯骨化症合併、手術部位以外の脊柱管狭窄症の合併の有無、JOA score(上肢機能を除いた11点満点)で臨床症状の変化、中下位胸椎では後弯角の変化を調査した。 【結果】手術部位での黄色靭帯骨化症合併は12例、手術部位以外で脊柱管狭窄症は全例合併しており、頸椎14例、胸椎5例、腰椎12例認めた。JOA scoreは術前平均5.7から術後平均8.6と改善した。中下位胸椎の後弯角は術前平均11.4度が術直後平均11.2度と変化した(有意差なし)。術直後と最終経過観察時の後弯角の変化は平均0.1度であった。 【結語】胸椎OPLLの術後成績は概ね良好であった。後弯矯正については有意差なく再考を要する。しかし、後弯の戻りはなく維持されていた。 |
5.胸椎黄色靭帯骨化症の手術成績
鹿児島共済会南風病院整形外科
山下芳隆(やました よしたか)、川内義久、富村奈津子
【目的】胸椎黄色靱帯骨化症(以下OYL)の手術成績について報告する。 【方法】2006年3月から2016年6月までに胸椎OYLに手術を行った66例(男性43女性23)を対象とした。術式は罹患椎間の椎弓切除を基本としたが椎体骨折を伴った3例に椎体形成+後方固定術もしくは椎体形成術を、OPLLを合併した1例に後方固定術を追加した。年齢、罹病期間、経過観察期間、手術椎間数、手術部位、術前後JOAスコア(上肢項目を除く11点満点)、術中術後合併症を調査した。 【結果】年齢は39〜87歳(平均69.2歳)、罹病期間は1〜96ヶ月(平均16.5ヶ月)、経過観察期間は1〜116ヶ月(平均24.4ヶ月)であった。手術椎間数は1〜5椎間(平均1.8椎間)で手術部位はT9/10 以下の下位胸椎で全体の7割強を占めた。JOAスコアは術前1〜8.5点(平均5.9点)、術後3.5〜10.5 点(平均7.5点)で1例で悪化していた。術中合併症は硬膜損傷9例、術後合併症は術後血腫による下肢運動麻痺を1例、創離開を2例認めた。 |
6.胸椎後縦靱帯骨化症に対する手術成績−福岡脊椎外科グループによる多施設共同研究−
九州大学 整形外科
林田光正(はやしだ みつまさ)、播广谷勝三、前田 健、河野 修、大田秀樹、白澤建藏、土屋邦喜、寺田和正、加治浩三、有薗 剛、齊藤太一、藤原将巳、土井俊郎、岩本幸英、中島康晴
【目的】胸椎後縦靱帯骨化症(以下胸椎OPLL)に対し福岡脊椎外科グループにおいて、多施設共同研究を行ったので報告する。 【対象と方法】2000年から2010年に福岡脊椎外科グループにエントリーした施設で手術が施行された57例(男性25例、女性32例、手術時平均年齢56.0歳)。以下の項目について検討した。 【結果】術前罹病期間は平均2.0年、BMI25以上の肥満が38例だった。後方除圧術14例、後方除圧固定術31例、後方進入前方除圧術10例、前方除圧固定術2例だった。改良Frankel分類で1段階以上改善34例、悪化10例、不変13例だった。術後合併症は髄液漏14例、術後血腫5例。除圧術単独よりも固定を追加した方が良好な成績が得られた。JOA改善率に有意な影響を与える因子は、instrumentの使用、髄液漏であった。固定範囲<除圧範囲群に比較し、固定範囲≧除圧範囲群では有意に術後成績が良好だった。 【結語】固定範囲は除圧範囲と同範囲以上に設定する必要があると思われた。髄液漏は術後成績に影響を与える因子だった。手術時は合併症の中でも特に髄液漏の出現に留意する必要があると考えられた。 |
*7.除圧術後14カ月後に固定術追加し独歩可能になった胸椎黄色靭帯および後縦靭帯骨化症の1例
那覇市立病院 整形外科*1、中頭病院 整形外科*2
勢理客 久(せりきゃく ひさし)*1、屋良哲也*1、奥間英一郎*2
【症例】45歳 女性。主訴: 背部痛および歩行障害。身長155cm、体重115kg。当院受診3カ月前より背部痛生じ、その後、歩行障害も出現したため近医受診した。MRIでTH8.9高位に後縦靭帯および黄色靭帯骨化を認めたため当院紹介され受診。同日入院とし、リハビリテーションを行いないながら手術待機していたが、起立困難生じたため、当院初診24日目にTH8、9椎弓切除術を施行した。除圧術後39 日目にリハビリテーション目的に転院し、その後、持ち上げ式歩行器歩行(10m程度)まで改善した。しかし誘因なく徐々に歩行障害再増悪し、除圧術後6カ月で起立困難となった。背部痛や下肢痙縮にたいして薬剤および運動療法を施されながら経過観察された。主治医変更とともに本人と相談のうえ、除圧術後14カ月目にTH6−11後方固定および腸骨移植術を施行され、固定術後5カ月には独歩行可能となった。 |