第86回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題2)

8.胸腰椎移行部脊髄髄内腫瘍摘出術のポイント−索路障害と髄節障害の違いを含めて−


広島市立安佐市民病院整形外科

 

藤原 靖(ふじわら やすし)、真鍋英喜、泉文一郎、志摩隆之、中崎蔵人、原田崇弘、中尾和人

 

【目的】今回髄内腫瘍手術症例において胸腰椎移行部の特殊性を検討した。

【対象および方法】2008年1月から2012年3月までの髄内腫瘍摘出術32例を、T9以上の頸胸椎(CT)群とT10以下の胸腰椎移行部(TL)群に分けて、下肢電位振幅低下70%未満を“低下なし”、70%以上低下を“70%低下”、波形が散乱化し不明瞭となった群を“ほぼ消失”に分けて検討した。

【結果】32例中16例は全摘、4例は亜全摘、8例は部分摘出、4例は生検のみであった。手術高位ごとの全摘率は中下位頚椎67%、上中位胸椎で80%、胸腰椎移行部25%と胸腰椎移行部で低かった。下肢電位低下なし21例には運動麻痺悪化はなかったが、70%低下でCT群では麻痺がなかったのに対し、TL群では3例中2例は麻痺を呈した。ほぼ消失群では全例麻痺を生じた。

【考察】胸腰椎移行部(T10-L2)では下肢髄節障害を生じる可能性があるため、純粋な索路障害のT9以上と異なるアラームポイントが必要となり、全摘出も難しいと考えられる。

9.胸髄腫瘍性疾患の診断―腰椎疾患との鑑別―

 

大分整形外科病院

 

中山美数(なかやま よしかず)、大田秀樹、松本佳之、井口洋平、巽 政人、瀧井 穣、木田浩隆、竹光義治

 

【目的】胸髄腫瘍性疾患は腰椎疾患との鑑別が時に困難で診断が遅れることがある。当院にて手術的治療を行った胸椎部腫瘍性疾患を調査し腰椎疾患との鑑別について検討した。

【対象】対象は19症例で男性6例、女性13例、平均手術時年齢は67.9歳。発症から手術までの平均罹病期間は16.6か月。症状が進行悪化してから手術までの平均期間は1.7か月であった。診断は髄内腫瘍2例、硬膜内髄外腫瘍16例、硬膜外腫瘍1例であった。

【結果】術後病理診断では髄膜腫8例、神経鞘6例、転移性腫瘍2例、上衣腫・血管腫・悪性リンパ腫がそれぞれ1例であった。19例中13例が他疾患と診断、もしくは原因不明にて保存的加療を受けていた。

【考察】胸髄腫瘍性疾患は症状発現から急速に進行していることが分かった。そのきっかけとなる症状は歩行障害が最も多く、理学所見としてはPTRの亢進や知覚障害の範囲拡大、MMT低下が胸椎病変の発見に繋がっていた。

【結語】下肢のシビレの拡大、下肢深部腱反射亢進、歩行困難、急速な症状の進行等が腰椎疾患との鑑別に重要な所見と思われた

10.胸椎浸潤肺癌に対して腫瘍脊椎骨全摘術(Total en bloc spondylectomy;TES)を施行した3例

 

産業医科大学 整形外科


荒川大亮(あらかわ だいすけ)、中村英一郎、山根宏敏、邑本哲平、竹内慶法、徳田昂太郎、酒井昭典

 

肺癌の胸椎浸潤例に対し肺切除とともにTES(Total en bloc spondylectomy)を施行した3例を経験したので報告する。

症例1:35歳、男性。

主訴は咳と左背部痛。胸部X腺で左上肺野に結節影、CTでは左肺上葉内から第3胸椎に浸潤する腫瘤を認めた。左肺癌、T3浸潤(cT4N0M0,stage IIIA)と診断し、当院呼吸器外科と共同で左肺上葉切除と共に第3胸椎TESを施行した。術後5年半経過した現在、無病生存経過中である。

症例2:63歳、男性。

主訴は背部痛と左上腕尺側の異常感覚。CTでは、左肺尖部腫瘍有りT2浸潤、左鎖骨下動脈浸潤を認めた。左肺癌、胸壁、T2、左鎖骨下動脈浸潤(pT4N0M0, Stage IIIA)と診断。術前放射線化学療法後、左肺上葉切除、胸壁合併切除、鎖骨下動脈切除再建、T2 TES、大網充填術を施行。しかし、術後、左肺尖部への局所再発を認め、17ヶ月後死亡。

症例3:73歳、男性。

主訴は左肩甲部痛、左腋窩と上腕尺側部のしびれ。CT, MRIで左肺癌、T2,3浸潤(cT4N0M0,Stage IIIA)と診断。左肺上葉切除、T2,3 TES施行。術後4ヶ月リハビリ経過観察中である。

【結語】肺癌の胸椎浸潤例でN0-1であれば手術適応があり長期生存も期待できる。

11.脊髄硬膜動静脈瘻に対する電気生理学的な運道路機能評価の試み

 

広島大整形*1、廣島総合病院整形*2、広島市民病院整形*3

 

中西一義(なかにし かずよし)*1、田中信弘*1、藤本吉範*2、西川公一郎*3、亀井直輔*1、越智光夫*1 、安達伸生*1

 

脊髄硬膜動静脈瘻(SDAVF)は胸腰椎部に好発するまれな疾患であり、多彩な下肢症状を呈するため診断が困難な場合がある。そこで胸腰椎のSDAVF 12例(男性9例、女性3例、年齢44-75歳)を対象とし、電気生理学的な運道路の評価を行った。経頭蓋磁気刺激筋誘発電位 (Br(M)-MsEP)、後脛骨神経電気刺激による複合筋活動電位およびF波を短母趾外転筋(AH)より導出し、末梢潜時、中枢運動伝導時間(CMCT)を算出してコントロールと比較したところ、末梢潜時、CMCTともにSDAVFで遅延していた。また、SDAVFの2例にCMCTのみの異常を、3例に末梢潜時のみの異常を、5例にCMCTと末梢潜時の異常を認めた。JOAスコアで下肢運動点数が4点であった2例ではいずれも正常範囲内であった。胸腰椎移行部のSDAVFにおいて、運動誘発電位およびF波測定は臨床症状の程度を反映し、本症に対する有力な機能診断となりえるものと考える。

12.腰椎疾患と鑑別を要した胸椎dural AVFの2例

 

大分整形外科病院

 

瀧井 穣(たきい ゆたか)、大田秀樹、松本佳之、中山美数、井口洋平、巽 政人、木田浩隆、竹光義治

 

【目的】胸椎病変は下肢のしびれが主体の場合腰椎病変として見逃される場合がある。今回は稀なdural AVFの2例を経験したので報告する。

【症例】症例1 67歳 男性。両下肢のしびれと脱力、歩行困難が徐々に出現。ミエロ、MRIにて胸椎レベルに異常血管像があり胸髄内T2 highを認め、血管造影にてT9肋間動脈をfeederとするdural AVFを認めた。動静脈結紮凝固術を施行した。術後異常血管像の消失し症状も改善した。症例2 53歳 男性。長距離運転をした翌日より両臀部より下肢のしびれが出現。その後徐々に両下肢の脱力、膀胱直腸障害が出現した。腰椎の手術歴はあったが再狭窄はなく、腰椎から胸椎にかけて異常血管像を認め、胸髄は腫大しT2 highを呈した。血管造影にてL3レベルの硬膜外静脈叢にシャントを有するepidural AVFがあり塞栓術を施行した。術後徐々に両下肢の筋力改善を認めている。

【考察】dural AVFは根動脈の硬膜枝がfeederとなり脊髄表面の静脈へと直接血液が流入することで脊髄静脈圧が上昇しvenous congestionを起こすことで症状が出現する。治療には血管内塞栓術、観血的手術とあるが、早期診断が重要となる。

13.胸腰椎に生じた嚢胞性病変の3例

 

地域医療機構(JCHO)九州病院 整形外科

 

土屋邦喜(つちや くによし)、宮崎幸政

 

【目的】胸腰椎に生じた嚢胞性病変の病態、術後経過を検討した。

【対象および方法】胸腰椎レベルに生じた嚢胞性病変に対し手術的加療を施行した3例を検討した。年齢は71歳から86歳、全例男性であった。 手術は全例後方除圧術が施行され2例が顕微鏡下、1例が内視鏡で施行された。

【結果】病理組織診断は2例が黄色靭帯内嚢胞、1例がガングリオンの所見であった。術後全例歩行機能は改善し、上肢機能を除く11点満点で評価したJOAスコアの術後3ヶ月における平均改善率は46.7%であった。1例で不安定性の増強およびヘルニアを伴う下肢不全麻痺を生じ2回の再手術を要した。

【考察および結論】胸腰椎レベルの嚢胞性病変は比較的頻度は少なく、腰椎疾患と誤認されやすいため注意が必要である。 手術による改善は比較的良好であるが1例で硬膜周辺の比較的強い癒着を認めた。一例で不安定性が関与する続発性病変を来たし、不安定性の評価には注意が必要であると思われた。