第86回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題3)

14.転倒後に両下肢麻痺を生じた脊髄係留症候群の2例


福岡東医療センター 整形外科

 

幸博和(さいわい ひろかず)、井上三四郎、吉田裕俊

 

【はじめに】転倒後に両下肢麻痺を呈した脊髄係留症候群の2例を経験したので報告する。

【症例】@20歳男性。14歳時に遊戯中に腰部から勢いよく転倒後、両鼠径部以下の感覚運動麻痺出現し、安静加療にて1か月で自然軽快。その後症状なかったが、20歳時に再度腰部から勢いよく転倒し、その後から両鼠径部以下の感覚障害、歩行困難が出現した。A16歳男性。自転車運転中に転倒し、その後から両鼠径部以下の感覚障害、歩行困難が出現。2症例ともに腰椎MRIおよび血液検査にて異常所見なく、理学所見より脊髄係留症候群と診断し、保存的加療にて麻痺は回復した。

【考察】脊髄係留症候群は様々な発症様式があるが、腰痛、下肢痛、下肢筋力低下、膀胱直腸障害が徐々に進行するケースと外傷後に急激に両下肢麻痺を呈する症例がある。外傷を契機に急性発症した脊髄係留症候群は、今回の2症例のように保存的に軽快する場合が多い。治療開始に当たっては、脊髄損傷、胸腰椎椎間板ヘルニア、脊髄変性疾患などとの鑑別を慎重に行う必要がある。

15.弛緩脊髄(仮称;Slack spinal cord)の病態について

 

JCHO 宇和島病院 整形外科

 

藤田 勝(ふじた まさる)、河野宗平、友澤 翔、冨永康浩、藤井 充、松田芳郎、渡部昌平

 

【はじめに】圧迫性脊髄症では狭窄部位にくびれや偏位を生じることが一般的であるが、稀に狭窄部の頭側で脊髄が蛇行し、あたかもロープが弛んだような像を呈することがある。この弛緩脊髄(仮称;slack spinal cord)についての報告はなく、その病態について検討した。

【対象】7例(男5例、女2例)、平均年齢は67.7歳。全例胸腰椎移行部の狭窄を認め、最頭側の狭窄高位はL1/2が4例、Th12/L1が3例であった。臨床症状は脊髄症が2例、馬尾神経症状が5例であった。狭窄部の除圧で弛緩脊髄は改善した。

【考察】脊髄は歯状靭帯により硬膜と固定されているが、下位胸椎ではひも状のために固定性が弱いと報告されている。脊髄下端に狭窄が生じた場合、redundant nerve rootsと同じような機序で、ひも状の歯状靭帯が引き伸ばされて脊髄の固定性が減弱し脊髄が頭側に移動することで脊髄の弛緩が生じるのではないかと推測した。弛緩した部位そのものは主病因ではなく、脊柱管狭窄に伴う二次性の変化と考えられるので狭窄部の除圧が治療の基本になる。

16.当院における特発性脊髄ヘルニアの治療経験

 

岡山医療センター整形外科


廣瀬友彦(ひろせ ともひこ)、辻 寛謙、篠原健介、竹内一裕、中原進之介

 

【はじめに】特発性脊髄ヘルニアは比較的まれな疾患であり、また進行性の脊髄障害をきたし手術となることがある。今回我々は当院で加療した特発性脊髄ヘルニアの症例を検討した。

【対象と方法】1995年以降、当院で加療した3例(男性1例、女性2例)、平均年齢52.0歳(43-58)を対象とし、平均フォロー期間は92.3か月(1-222)であった。ヘルニアの高位、症状出現から手術までの期間、手術方法、手術時間、出血量、術前後のJOAスコアを調査した。

【結果】ヘルニアの高位はT1/2、T6/7、T3/4レベルに認められた。症状の出現から手術までの期間は平均49.7か月(48-65)、手術方法は縫合術が1例、硬膜形成術が2例、平均手術時間は158.7分(112-184)、平均出血量は365ml(75-720)であった。術前平均JOAスコア6/11、術後平均JOAスコア7.5/11であった。

【考察】高位は中高位胸椎レベルに多く、症状の出現から手術までの期間は49.7か月と比較的長かった。術後は感覚障害や筋力など改善はしているものの、症状は残存し、歩行時に杖を必要としていた。脊髄レベルの障害であり、遅延のない診断と手術の判断が必要であると考えられた。

17.胸椎病変の診断と治療

 

徳島市民病院 整形外科 

 

西殿圭祐(にしどの けいすけ)、千川隆志、松村肇彦、鹿島正弘、吉岡伸治、中村 勝、中野俊次

 

【目的】当院で治療した胸椎病変について、症状の特徴と、疾患別の手術方法、予後を調査したので報告する。

【対象および方法】2010年から2015年の間、当院で胸椎病変に対して手術を行った70例を対象とした。主訴、症状の特徴、疾患名、手術方法を調査し、術前後の成績をFrankel分類で評価した。

【結果】症状は、下肢筋力低下34例、下肢痛・しびれ31例、腰痛・背部痛29例、歩行障害21例、脊椎骨折9例、痙性跛行6例、腹部以下の知覚鈍麻、直腸膀胱障害がそれぞれ3例であった。疾患名は、陳旧性破裂骨折15例、OLF 11例、陳旧性圧迫骨折8例、OPLL7例、硬膜内髄外腫瘍(髄膜腫5例、神経鞘腫2例)透析性破壊性胸椎症と腰椎固定後PJKがそれぞれ3例、特発性側弯症、胸椎椎間板ヘルニア、多発性骨髄腫がそれぞれ2例であった。手術方法は、後方固定術43例、後方除圧術19例、BKP8例であった。Frankel分類による手術成績は、38例が改善、30例が維持、2例が悪化した。早期手術例、若年例は良好な成績であった。

18.腰部脊柱管狭窄症を合併した胸椎高位での脊髄症に対する治療方針の検討

 

産業医科大学 整形外科

 

宮良 俊(みやら しゅん)、中村英一郎、山根宏敏、邑本哲平、竹内慶法、徳田昂太郎、酒井昭典

 

【背景】腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)を合併した胸椎高位での脊髄症は、責任高位を絞りにくく診断治療に難渋することが多い。

【目的】本研究の目的は、腰椎疾患を合併した胸椎高位での脊髄症の治療方針を検討することである。

【方法】対象は、2007年から2016年に当科で腰部脊柱管狭窄症を合併した胸椎高位での脊髄症に対して手術をした9例である。 男5例、女4例、平均年齢は、70.1歳であった。脊髄症状を認め、かつ間歇跛行や下肢の痛みを伴うものは、胸椎と腰椎を同時に手術した。胸椎のみを手術した群(胸椎群)と胸椎腰椎同時手術した群(胸腰同時群)の2群に分けて検討した。

【結果】胸椎群は5例、胸腰同時群は4例であった。紹介状の病名は、LCSが5例、LCS+胸髄症が1例、胸髄症が1例、その他が2例であった。所見ではSpastic gait5例、Paralytic gait4例、下肢の痺れ8例、間歇跛行3例、下肢痛4例であった。PTR亢進は8例。術前腰椎JOAは、胸椎群が11.2点、胸腰同時群が6.7点で、胸椎群の方が高い傾向にあった。術前・後JOA、改善率は2群間に有意差を認めなかった。

【考察】LCSを合併した胸椎高位での脊髄症はLCSと紹介されることが多かった。間歇跛行、下肢痛を伴う症例には胸腰椎同時に手術をすることを検討した方が良いと考えられた。

19.胸椎ならびに胸腰椎移行部圧迫性脊髄障害の術中脊髄モニタリングの有用性の評価

 

久留米大学医学部 整形外科

 

山田 圭(やまだ けい)、井手洋平、佐藤公昭、井上英豪、横須賀公章、後藤雅史、溝上健次、松原庸勝、永田見生、志波直人

 

【はじめに】胸椎ならびに胸腰椎移行部は脊髄の易損性のため脊椎手術操作に伴う術後麻痺のリスクが高い。本部位での術中脊髄モニタリングの有用性を評価した。

【対象と方法】対象は胸椎ならびに胸腰椎移行部圧迫性脊髄障害に対する手術で術中脊髄モニタリングを施行した84例(男51例、女33例)、平均年齢60.1歳で疾患は脊髄腫瘍38例、脊椎腫瘍6例、脊柱靭帯骨化症22例、脊椎外傷6例、その他12例であった。術中モニタリングは経頭蓋電気刺激筋誘発電位を使用しアラームポイントはコントロール波形の70%以上の低下とした。アラート発信頻度、術後麻痺の有無を調査項目とした。

【結果】アラートは33例(39.3%)で発信された。アラート発信頻度は疾患別で有意差はなかった。術後一過性麻痺を5例(6.0%)に認め、発生頻度は脊柱靭帯骨化症に多い傾向があったが、疾患別に有意差はなかった。

【考察】脊柱変形手術に比較するとアラートの発信頻度、術後麻痺の発生も高いが、いずれも一過性でありモニタリングの有効性は認められた。 。

20.下肢中枢運動伝導時間を用いた胸腰椎移行部黄色靭帯骨化症の診断

 

山口大学 大学院 整形外科*1、萩市民病院 整形外科*2

 

藤本和弘(ふじもと かずひろ)*1、2、寒竹 司*1、今城靖明*1、鈴木秀典*1、茶川一樹*2、舩場真裕*1、西田周泰*1、田口敏彦*1

 

【目的】下肢中枢運動伝導時間(CMCT)がどの高位までの胸腰椎移行部圧迫性脊髄症に有用か検討すること。

【対象と方法】胸腰椎移行部単椎間黄色靭帯骨化症32例(男23、女9)を対象とした。平均年齢は67歳、平均身長は159cm、脊髄圧迫高位はT10/11群11例、T11/12群19例、T12/L1群2例であった。下肢CMCT正常値を11.8±1.1msとし、+2SD以上を遷延とした。

【結果】下肢CMCTはT10/11群19.7±1.9ms、T11/12群17.8±3.0msであった。遷延はT10/11群11例(100%)、T11/12群17例(89%)であった。T11/12群で下肢CMCT非遷延2例はいずれも+1SD以上の遷延であった。T12/L1群では、2例ともMEPs導出不能であった。

【考察】T11/12高位まで下肢CMCTは有用である。しかし、高位円錐部症例や、知覚障害、特に後索障害が主病態の症例では、下肢CMCT非遷延例も存在するため注意を要する。 。