第87回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題1)

1.脊椎脊髄疾患における周術期硬膜外血腫


総合せき損センター 整形外科 

 

金山 博成(かなやま ひろなり)、森下 雄一郎、前田 健、山本 卓明、芝啓 一郎

 

【目的】脊椎脊髄変性疾患における周術期硬膜外血腫は、急性もしくは亜急性に神経性疼痛と麻痺にて発症する。今回、当院での周術期硬膜外血腫を来した症例について考察した。

【対象】2013年から2016年の過去4年間に、2550例の脊椎脊髄変性疾患手術(頚椎:527例、胸椎:106例、胸腰椎:76例、腰椎:1841例)が施行された。手術時平均65.1歳であった。うち、周術期硬膜外血腫を認め血腫除去術を必要とした23例を対象とした。ドレーン抜去前の早期群と抜去後の遅発群にわけて、その発症形態について検討した。

【結果】周術期における硬膜外血腫発症頻度は0.9%であった。部位別では頸椎:0.76%、胸椎:4.71%、胸腰椎:0%、腰椎:0.76%であった。血腫発症早期群は14例(60.9%)で遅発群は9例(39.1%)であった。

【考察】ドレーン抜去後も高頻度で血腫形成に伴う神経脱落症状を認めた。周術期硬膜外血腫管理に関しては、少なくとも術後4日間は細心の注意を払う必要があると思われる。

2.脊椎手術後、硬膜外血腫による麻痺を来した10例の背景

 

鳥取大学医学部 整形外科

 

谷田 敦(たにだ あつし)、谷島 伸二、三原 徳満、武田 知加子、小川 慎也、永島 英樹

 

脊椎手術後に硬膜外血腫による麻痺を来し、緊急再手術を要する患者をときに経験する。多くの症例は術後数時間で発症し、数日後に発症する症例は少ない。リスクファクターとして、多椎間手術、高齢、凝固能異常などが知られている。今回、我々の経験した10例の背景を調査した。

【症例】術直後発症が5例、術後3日以上経過した遅発性発症が5例であった。全例が胸椎、腰椎手術後で、頸椎はなかった。術直後発症は多椎間手術が多かったが、遅発性発症では単椎間手術が多かった。抗凝固薬、抗血小板薬を服用している症例は2例のみであった。ほぼ全例が異常な創部の疼痛や違和感、下肢痛を自覚しており、発症までの間に高血圧を認めた。術直後発症5例のうち4例に創の上層出血やドレナージ不足が見られた。遅発性発症では、全例ドレーン抜去後に発症していた。

【結語】術直後は創部やドレナージの状態が血腫による麻痺を来し得る兆候として認識されるが、遅発性発症の場合、痛みや高血圧の存在が麻痺を来し得る兆候として有用と思われた。

3.脊椎術後硬膜外血腫のピットフォール

 

久留米大学医学部 整形外科 


山田 圭(やまだ けい)、佐藤 公昭、井上 英豪、横須賀 公章、松原 庸勝、岩橋 頌二、永田 見生、志波 直人

 

【はじめに】脊椎術後硬膜外血腫で麻痺がない場合、診断、手術決定が苦渋する症例があり調査した。

【対象と方法】対象は当科で脊椎手術を施行した861例中、脊椎術後硬膜外血腫で再手術した6例で、年齢は平均69.3歳(46〜89歳)であった。疾患、手術時間、術中出血量、再手術に至った原因、術後から麻痺出現した時間、初回手術から再手術までの時間を調査した。

【結果】疾患は腰部脊柱管狭窄症が3例、腰椎椎間板ヘルニア(4回目の手術)、頚髄症、胸椎OPLLが各1例で、5例は麻痺、1例は痛みのため手術した。手術時間は280.2分(112〜664分)、術中出血量は平均412.4g(15〜1797g)で、麻痺出現までの時間は平均40.5時間(7.5〜72時間)、再手術までの時間は平均53.2時間(20〜105時間)であった。麻痺は3例で改善したが2例は残存した。

【考察】脊椎硬膜外血腫は急激な麻痺進行例では診断・手術決定は容易だが、麻痺が発生していない場合でも患者の症状により鑑別に挙げ手術検討するべきである。

4.mini-open PLIF術後硬膜外血腫の中期的影響の検討

 

公立学校共済組合九州中央病院 整形外科

 

有薗 剛(ありぞの たけし)、井口 明彦、濱田 貴広、西田 顕二郎、今村 隆太、中村 公隆、吉武 孝次郎、江崎 克樹

 

【【目的】mini-open PLIF術後の中期臨床成績から固定術における術後硬膜外血腫の影響について検討した。

【対象と方法】2006年から2013年までにmini-open PLIFを行い、術後硬膜外血腫によると思われる麻痺のなかった症例で3年以上経過観察可能であった51例をretrospectiveに検討した。術後3-4日に撮像したMRIにて椎間板レベルの硬膜管の横断面積が75o2未満をグループ1、それ以上をグループ2とした。術中、術後の出血量、術前後、術後3-4年のMRIの硬膜管の横断面積、術後臨床成績について検討した。

【結果】グループ1では術中出血量が多く、術後出血量は少ない傾向にあった。また、グループ1では術後24時間の坐薬の使用量が有意に多かったが(p<0.05)、術後1年以降はグループ間の差が認められなかった。

【考察】除圧術の血腫形成例では成績不良との報告があるが、固定術では超短期的には術後血腫による硬膜管圧迫が強い群の疼痛は強かったものの、中期的影響はないと思われた。

5.ダブルドレーンは術後硬膜外血腫による再手術を予防できるか?

 

山口大学大学院医学研究科 整形外科学

 

舩場 真裕(ふなば まさひろ)、寒竹 司、鈴木 秀典、西田 周泰、田口 敏彦

 

【目的】術後硬膜外血腫は脊椎手術における重篤な合併症である。2012年より当院では予防目的にドレーンを基本的に2本挿入している。ドレーン1本とした症例と比較し予防効果があるか後ろ向きに検討した。

【対象】2010年から2015年までの脊椎手術1049例のうち除圧を行った926例を対象とした。ドレーン1本挿入は346例で2本挿入は580例である。

【方法】術後に血腫による麻痺をきたし再手術を必要とした症例を硬膜外血腫群(A群)とした。疼痛のみあるいは麻痺が改善し保存的治療を行った症例は除外した。ドレーン本数が血腫発生を抑制する因子となるかχ2検定を行った。P<0.05を有意とした。

【結果および考察】A群は5例ですべてドレーン1本で発生し、ドレーン2本の症例 では再手術が必要な硬膜外血腫は発生していなかった。(P=0.003)A群の術中出血量は平均952g(385-1615)であった。ダブルドレーン挿入は術後硬膜外血腫による再手術の予防に有用な手段の一つと考えられた。

6.脊椎脊髄術後硬膜外血腫発症における術前高血圧の影響−単一施設における顕微鏡視下腰椎1椎間後方除圧術2468例の検討−

 

広島市立安佐市民病院 整形外科 

 

藤原 靖(ふじわら やすし)、泉文 一郎、原田 崇弘、志摩 隆之、中崎 蔵人、中尾 和人、真鍋 英喜

 

【目的】今回術前高血圧が術後硬膜外血腫発症に与える影響を1椎間の顕微鏡視下腰椎後方除圧例に限定して検討したので報告する。

【対象と方法】2002年から2015年8月までに当院で施行した1椎間の腰椎後方除圧2468例のうち術後血腫除去術施行症例は15例0.6%で、ランダムに抽出した対照群46例と比較検討した。 高血圧については、術前高血圧治療の有無と入院時、術中(抜管前・直後)、帰室後血圧高値の有無(140 / 90mmHg以上)、抜管前後の血圧上昇(50mmHg以上)について検討した。

【結果】両群間に年齢、性別、BMI、術前抗凝固薬の使用、術中出血量、手術時間には有意差はなかった。また、術前高血圧治療の有無と抜管前の血圧には有意差は無かったが、入院時の血圧高値(血腫群66.7%,対照群6.5%)と抜管直後の血圧上昇(53.3%、17.4%)に有意差を認めた。さらに術後ドレナージ量にも優位差を認めた。多変量解析では入院時の血圧高値と術後ドレナージ量が有意であった。

【考察】術後血腫発症群では未治療あるいはコントロール不良の高血圧症例が発症に関与している可能性が示唆された。

7.複数回の処置が必要だった術後血腫の検討

 

鹿児島共済会南風病院 整形外科

 

富村 奈津子(とむら なつこ)、川内 義久

 

【2005年1月〜2016年12月に当院で行った脊椎手術は頚椎627件、胸椎182件、腰椎2830件の計3639件で、このうち術後血腫のために再手術を行なったのは頚椎10例(1.6%)、胸椎6例(3.3%)、腰椎45例(1.6%)の61件(1.7%)である。頚椎は2例が前方除圧固定術後で、8例は後方除圧術後であった。胸椎は後方除圧固定術後が3例、後方除圧術後が3例で、腰椎は後側方固定術後が18例、後方進入椎体間固定術後が3例、後方除圧術後が24例でいずれの部位でも固定術後が多いわけではなかった。このうち複数回の処置が必要だったのは頚椎2例(後方除圧術後)、胸椎1例(後方除圧術後)、腰椎7例(後方除圧術後5例、後側方固定術後2例)の10例で、2回血腫除去を行なったのが8例、3回行なったのが1例、4回行なったのが1例であった。これらの術中出血量は頚椎の1例で900mlと多かったが、その他は決して多くなく、3回処置した症例の初回出血量は85ml、4回処置した症例の初回出血量は80mlであった。

8.頚椎椎弓形成術後に血腫を繰り返した1例

 

大分整形外科病院

 

井口 洋平(いぐち ようへい)、大田 秀樹、松本 佳之、中山 美数、巽 政人、瀧井 穣、木田 浩隆、竹光 義治

 

術後血腫による麻痺を繰り返し、治療に難渋した症例を報告する。

症例は75歳男性。頚椎症性脊髄症の診断で椎弓形成手術を施行。既往に、骨髄異形成症候群疑い、再生不良性貧血疑いがあった。

初回C3-7椎弓形成手術は、硬膜外から出血が多かったが許容内と判断。

術後3時間で左上下肢麻痺が出現し1回目血腫除去を施行。硬膜外静脈層と筋層からの出血あり、止血剤をパッキング。

術後5日目ドレーン抜去、その2日後に麻痺再燃し2回目血腫除去。硬膜外静脈層、筋層、ドレーン孔からの出血を認めた。

術後3日目でドレーン抜去後、同日夜に麻痺再燃し、3回目血腫除去。ドレーン孔、筋層、静脈層から出血あり、ドレーンは創部に挿入。

術後3時間で麻痺再燃し4回目血腫除去。硬膜外静脈層の止血を確実にするため、C5./6椎弓を切除すると外側静脈層から大量出血、サージセルを詰め込んで止血を確認。

術後1時間で麻痺再燃し、5回目血腫除去。開創すると出血点はなく、麻酔の影響と、閉創による環境変化で出血する可能性を考え、無麻酔で血腫除去し、開放創とした。

14日目に再度出血量増量あり、血小板輸血を試みると出血が著明に改善した。

結果的には開放創、血小板輸血のみが有効な手段であった。

9.止血に難渋した巨大硬膜外嚢腫の1例

 

熊本大学医学部附属病院 整形外科学分野

 

藤本 徹(ふじもと とおる)、谷脇 琢也、岡田 龍哉、中村 孝幸、水田 博志

 

【目的】止血に難渋した巨大硬膜外嚢腫の1症例を報告する。

【症例】23歳女性で平成26年12月頃より腰痛自覚し近医にて加療するも両大腿部痛認め看護の仕事が出来なくなり当科初診となる。腰椎後屈制限あってKemp陽性、SLRT30度であったが下肢筋力・触覚は保たれていた。MRIにてT12-L3に及ぶT1低輝度T2高輝度の硬膜外病変認め,Cinematic-MRIにてL1高位の硬膜欠損部を確認し巨大硬膜外嚢腫の診断にて手術施行した。L1椎弓切除後に硬膜欠損部を確認し縫合のために硬膜を内側に剥離した際に噴出する出血を認めた。出血源を同定するために硬膜剥離すると出血はさらに強くなった。椎体後壁の出血源を確認し止血剤充填を試みたが止血できず、椎体からの出血を止める目的で経椎弓根的に椎体に骨セメントを注入すると出血は止まった。硬膜欠損部の縫合は可能であったが手術は7時間で総出血量は3,498gであった。現在MRIにて嚢腫は消失している。

【考察】硬膜外出血のコントロールに難渋する事はあるが通常は止血可能である。今回は椎体よりの出血に対し経椎弓根的椎体骨セメント挿入にて止血可能であった。

10.頚椎後方手術時にソノペット使用で生じた椎骨動脈損傷の1例

 

徳島大学 整形外科

 

高田 洋一郎(たかた よういちろう)、手束 文威、酒井 紀典、加藤 真介、西良 浩一

 

【はじめに】ソノペットは超音波振動によって骨や腫瘍組織を削りながら吸引除去する医療機器である。今回、ソノペットで椎骨動脈損傷を来した症例を経験した。

【症例】58歳、男性 主訴は歩行障害 C2/3右側のEden type3のダンベル腫瘍に対して腫瘍摘出術を行った。ソノペットを用いて出力50%で腫瘍をdebulkingしている際に動脈性出血が認められ、右椎骨動脈損傷と判断した。右椎骨動脈径は左に比較して太く、dominant sideと考えられ、小脳梗塞の危険性もあったが止血を優先し、脳外科医に依頼し、腹臥位で橈骨動脈アプローチで椎骨動脈コイル塞栓術を行い、止血が得られた。術野から腫瘍に圧迫され菲薄化した椎骨動脈が確認でき、椎骨動脈内のコイルも視認できた。残存していた腫瘍を可及的に切除した。術後、神経症状は改善し、小脳症状はなかった。術後1年経過時には明らかな小脳症状は認められず、経過良好であった。

【考察・結語】腫瘍などにより圧排され菲薄化した動脈壁はソノペットでも容易に損傷するため注意が必要である。