第87回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題3)

17.高速回転ドリルの摩擦熱は実際にはどのように上昇するのか


九州記念病院 脊椎外科

 

吉田 正一(よしだ まさかず)

 

【目的】MELの安全な手技を確立するために黄色靭帯(LF)付着部の解剖を報告した。高速回転ドリルでのdry drillingが骨切除の主であるが、神経に近接した部位、特にLFのカバーがなく神経根の直上をdrillingする椎間孔入口部では摩擦熱が危惧される。

【方法】予備実験:Cadaverの摘出標本にて脊柱管側のLF付着部に熱測定センサーを刺入した状態で骨を貫くまでdrillingし摩擦熱を計測した。術中測定:椎間孔の神経根直上へセンサーを挿入し椎間孔入口部をLF付着部でdrillingした。

【結果】予備実験から骨とLFの断熱性の高さが判った。14例の術中測定からは骨を貫く直前から急速に熱が伝わり、蛋白変性の臨界点である60℃を超え得ることが判った。

【考察】LF付着部でのdrillingにより安全で確実な除圧が可能だが、直下に硬膜が存在する部位、特に椎間孔入口部では骨を貫くまでdrillingしたのでは神経根の熱損傷が危惧される。Paper shinまでのdrillingが肝要である。

18.脊椎手術における高位誤認

 

琉球大学 整形外科

 

比嘉 勝一郎(ひが しょういちろう)、金城 英雄、六角 高祥、金谷 文則

 

脊椎は体表からはみえないため、脊椎の手術において目的とする高位に確実にアプローチすることは、四肢の手術と比べ正確性が劣る。脊椎手術における手術高位の誤認は、脊椎外科医の半数が生涯で1度以上経験するという報告があり、また注意深く術中に複数回の単純X線撮影や透視撮影を行っても誤認を確実に回避することはできないともいわれている。一方で脊椎手術の高位誤認は、患者や家族のみならず他の医療スタッフからも単純なケアレスミスだと思われることが多く、患者が不要な部位に手術を受ける肉体的侵襲だけでなく、精神的苦痛から訴訟や賠償に発展することがある。また術者にとっても不本意に患者に侵襲を加えたという自責の思いの中、厳しく責任を追及されるため精神的ダメージは大きい。今回、脊椎手術に伴う高位誤認の発生について検討した。

【対象】過去5年間に県内5施設での脊椎手術を対象とした。

【結果】総手術件数は3047例、術者は計17人であった。手術高位誤認は計14例(0.46%)、頚椎3例・胸椎2例・腰椎9例で、8人の術者が誤認を経験していた。100万円の賠償を支払った症例が1例あったが、訴訟になった例はなかった。

19.可動性馬尾腫瘍に対する術直前脊髄造影検査の有用性に関して

 

宮崎大学 整形外科


比嘉 聖(ひが きよし)、濱中 秀昭、黒木 修司、永井 琢哉、川野 啓介、李 徳哲、帖佐 悦男

 

当院では最近まで馬尾腫瘍に対して術前に造影MRIと脊髄造影検査を行い手術を行なってきた。しかし馬尾腫瘍摘出術の際に椎弓切除を行い、硬膜を切開する直前になってエコーで腫瘍を確認することができず移動していることに気づき、1椎間遠位まで椎弓切除を追加し腫瘍摘出した症例を経験した。その教訓をもとに現在では術前MRIと脊髄造影検査にて可動性のある腫瘍を認めた際には術直前に脊髄造影検査を行い透視下で腫瘍の場所を確認しマーキングを行うようにしている。馬尾腫瘍が移動することは知られているが移動に気づかぬまま腫瘍を摘出したり、術中になって初めて移動していることに気づくこともある。馬尾腫瘍は3椎体以上可動するとの報告もあるため可動性のある腫瘍に気づいた際には術直前に脊髄造影検査を行うことが術中のレベル間違いをなくし侵襲を減らす有用な方法と思われる。

20.併存疾患のある患者の脊椎手術と術後合併症の検討

 

愛媛大学医学部附属病院 脊椎センター*1 市立大洲病院整形外科*2 愛媛大学整形外科*3  

 

日野 雅之(ひの まさゆき)*1、尾形 直則*1、森野 忠夫*1、山岡 慎大朗-*1、堀内 秀樹*2、三浦 裕正*3

 

【目的】近年、糖尿病、心疾患などを併存する患者に対し手術加療を選択する機会が増えてきた。今回、当院の脊椎手術10年間のカルテから併存疾患を有する患者の脊椎手術の動向をretrospectiveに検討した。

【方法】当院で過去10年間に手術を施行した脊椎手術1379例を対象とした。平均年齢61歳(5-93歳)、男性737例、女性642例。頸椎415例、胸椎(側弯症を含む)189例、腰椎718例、仙椎5例、そのほか(同時手術など)54例。このうちインストルメントを使用した手術は480例で全体の35%であった。

【結果】術前に継続的な治療を要する併存疾患のある患者は836人(60.6%)であった。疾患の内訳は、高血圧604例、糖尿病146例、脳神経疾患95例、消化器疾患50例、腫瘍性疾患45例、呼吸器疾患38例、関節リウマチ・膠原病72例であった。術後214人(15.5%)に何らかの合併症がみられた。そのうち手術に起因する合併症は86例で硬膜損傷32例、外側大腿皮神経痛14例、創癒合不全や感染29例、C5麻痺11例を認めた。追加の治療を必要とするような全身合併症は128例に起こり、術後せん妄25例、呼吸器疾患(肺炎・胸水貯留など)14例、消化器疾患10例、尿路感染症8例、心疾患(不整脈など)5例であった。併存疾患のある患者は、ない患者にと比較して術後合併症を起こす確率は有意に高く(p=0.0007 χ2検定)、インストルメントを使用した患者はしなかった患者と比較して術後合併症を起こす確率は有意に高かった(p=0.0003 χ2検定)。 【考察】術前併存疾患を有する患者、インストルメント手術では術後合併症が起きやすい傾向があり、術前計画、術後管理に注意を要する。

21.電気生理学的にみた頸椎後方除圧術後C5麻痺の病態と予後

 

山口大学大学院医学研究科 整形外科学

 

舩場 真裕(ふなば まさひろ)、寒竹 司、鈴木 秀典、西田 周泰、田口 敏彦

 

【目的】電気生理学的手法からC5麻痺の病態と予後について検討すること

【対象と方法】2007年〜2015年まで椎弓形成術(+後方固定)を行った227例のうち術後MMTが2以下となった8例を対象とした。術中に脊髄誘発電位(SCEPs)による障害高位診断を行った。術前後三角筋より複合筋活動電位(CMAPs)記録を行った。

【結果】発生確率は3.5%であった。MMTが4以上となった回復群は4例で不良群は4例であった。SCEPsによる障害高位は8例中6例でC4/5高位を含んでいた。C3/4が1例、C6/7が1例であった。回復群のCMAPsは1.2〜4.8mVで、不良群は0.7mV〜3.4mVであった。後日神経内科疾患と診断された症例は経過中に悪化した。

【考察】C4/5障害が多くC6髄節障害が存在するところにC5神経根障害が加わると代償が失われ麻痺をきたしやすいうえに回復しにくくなる。神経内科疾患ではない典型的なC5麻痺ではCMAPsが1mV以上あれば回復が期待できるものと考えられた。

22.アテトーゼ型脳性麻痺に合併した頚髄症に対する手術療法の治療成績・合併症の検討

 

広島大学 整形外科

 

大田 悠貴(おおた ゆうき)、田中 信弘、中西 一義、亀井 直輔、古高 慎司、安達 伸生

 

【はじめに】アテトーゼ型脳性麻痺患者では頚部アテトーゼ運動により、 頚髄症や神経根症を高頻度に発症する。 今回我々はアテトーゼ型脳性麻痺に合併した頚髄症に対して外科的治療を行った症例について検討したので報告する。

【対象と方法】対象は平成15年12月から当院で手術加療を行ったアテトーゼ型脳性麻痺に合併した頚髄症の男性5例、 女性5例で手術時平均年齢は56歳であった。手術方法, JOAスコア, C2-7椎体角,術後合併症について検討した。

【結果】初期の2例には後方除圧術のみを行い、その後の8例に後方除圧固定術に加えて筋解離術を行った。JOAスコアは術前平均7点、術後平均9点であった。C2-7角は術前-17度(後弯)で術後-15度であった。 術後合併症として術後神経麻痺を2例、右外耳道損傷を1例、創感染を1例に認めた。

【考察】アテトーゼ型脳性麻痺に合併した頚髄症に対して手術療法を行った症例について検討した。術後合併症を4例に認めたが、JOAスコアは改善傾向であった。 。

23.頚椎椎弓形成術後に拡大椎弓の落ち込みによって脊髄症が再発した1例

 

国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター 整形外科

 

濱崎 貴彦(はまさき たかひこ)、濱田 宜和、下瀬 省二、蜂須賀 裕己、泉田 泰典、藤森 淳、森 亮、大川 新吾、井上 忠

 

【はじめに】今回われわれは、頚椎椎弓形成術後に拡大椎弓の落ち込みによって脊髄症が再発した1例を経験したので,若干の考察を加え報告する。

【症例】61歳男性 主訴は歩行障害、巧緻運動障害。既往歴として、胃潰瘍を認め、職種はペンキ塗りであった。理学所見上、手指の伸展障害 (MMT 4程度)、深部腱反射は腕橈骨筋腱反射より末梢で亢進、MRIにてC5-6高位での脊髄圧迫を認め,JOAスコアは10/17点であった。頚椎症性脊髄症の診断で,頚椎椎弓形成術(C3-6左オープン (伊藤・辻変法))、骨移植術(C4,6;自家骨)を施行した。術後経過良好で脊髄症状も改善していたが、術後6か月頃より歩行障害が再燃した。CTにてC5、6高位の拡大椎弓はヒンジ側で落ち込みを認め、C6椎弓はヒンジ部で骨癒合が得られていたが、C5椎弓はfloatingとなり脊髄を圧迫していた。再手術施行し、C5椎弓を切除して、術後脊髄症状は改善した。

【考察】今回頚椎椎弓形成術の際の拡大椎弓の落ち込みの原因として、腹側骨皮質を削開しすぎていたことや、削開部位が内側に寄りすぎていたことが考えられた。 。

24.頸椎椎弓形成術の術中に生じた脊髄梗塞の一例

 

下関市立市民病院 整形外科

 

島田 英二郎(しまだ えいじろう)、白澤 建藏、山下 彰久、渡邊 哲也

 

【66歳男性。半年前から徐々に増悪する左上肢の筋力低下を主訴に当科受診。歩行は正常。左三角筋、上腕二頭筋、手根伸筋に筋力低下および筋萎縮を認めた。頸椎症性筋萎縮症と診断し、片開き式椎弓形成術および左椎間孔拡大術を施行した。術中、椎弓の片開きによる除圧が終了した時にSEP、MEP波形が消失した。血腫などの異常がないことを確認して手術を終了したが術中および術後も波形は消失したまま改善を認めなかった。麻酔覚醒後、高度の四肢麻痺を生じていた。経時的に撮像したMRIで除圧部のC5/6レベルを中心とするT1 iso、T2 highの髄内輝度変化が灰白質に限局して存在し脊髄梗塞と診断した。現在、患者はリハビリ継続中であり徐々に麻痺は改善傾向にある。脊髄の除圧によって生じたと思われる脊髄梗塞は極めて稀でこれまで渉猟し得た範囲では報告はなく、文献的考察を加えて報告する。 。