第88回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題1)

1.軸椎骨折に合併したBrown-Sequrard syndromeの一例

 

香川労災病院 整形外科

 

荒瀧 慎也(あらたき しんや) 、渡邉 典行

 

 軸椎骨折により生じるBrown-Sequard syndromeは極めて稀である。その病態生理や臨床経過、治療予後などについてはあまり議論されていない。今回我々は手術加療を行い極めて良好な神経学的回復を見せた症例を経験したので報告する。症例は20歳、男性。自動車を運転中にハンドル操作を誤り車は横転した。左僧帽筋・上下肢の運動麻痺(MMT0)、左C2以下の触覚脱失・深部感覚障害、右C4以下の温痛覚低下を認めた。右上下肢の運動は保たれていた(MMT 5)。左胸郭は運動が見られなかったが自発呼吸は維持されており挿管管理は不要であった。CTでは歯突起から関節突起間部にかけて転位を伴う骨折を認めた。MRI ではC2レベルで脊髄内高輝度変化を認め、MRAで左椎骨動脈の閉塞が疑われた。全身麻酔下に整復し、C1-2後方固定術を施行した。術後運動機能、触覚は回復が見られ、術後1ヶ月で片松葉杖歩行可能となった。術後3ヶ月で独歩可能となり、上肢の動きも順調に回復が見られているが、対側の温痛覚障害は軽度残存している。

2.高度後頭部痛に対して上位頚椎固定術を施行した3例

 

那覇市立病院 整形外科

 

勢理客 ひさし(せりきゃく ひさし)、屋良哲也

 

【症例1】82歳、男性。誘引なく左乳様突起部から頭頂部にかけての疼痛が生じ、頚椎回旋制限および睡眠障害をきたすほどの高度になってきたため受診。神経学的異常所見は認めなかったがMRIでは環椎および軸椎左外側塊にSTIRで高輝度像を認めた。頚椎装具および鎮痛剤による保存療法を行ったが改善せず、受診2 カ月後に環軸椎後方固定術を行った。術後症状は速やかに改善した。

【症例2 】64 歳、男性。C3-6 椎弓形成術術後4 年頃より右乳様突起部から前頭部にかけて疼痛が生じ、徐々に増強。頚椎回旋も制限され睡眠障害をきたすほどの疼痛となった。MRI では環椎および軸椎両側外側塊かつ右後頭顆にSTIRで高輝度像を認めた。保存療法を行ったが改善せず受診3 カ月後に後頭軸椎後方固定術を行った。術後症状は速やかに改善した。

【症例3 】76 歳、女性。誘引なく右乳様突起部から頭頂部にかけての疼痛が生じ、頚椎回旋制限および睡眠障害をきたすほどの高度になってきたため受診。MRI では環椎および軸椎右外側塊にSTIR で高輝度像を認めた.保存療法を行ったが改善せず、受診2 カ月後に環軸椎後方固定術を行った。術後症状は速やかに改善した。

3.不安定性のない環軸関節亜脱臼に対する除圧固定法の治療成績

 −Magerl screw 固定にC1 後弓切除と両側骨移植を併用した方法−

 

愛媛大学脊椎センター

 

見崎 浩(みさき ひろし)、尾形 直則、森野 忠夫、日野 雅之

 

【はじめに】環軸関節亜脱臼に対するMagerl 法(Magerlscrew + 後方Wiring)は確立された方法であり、不安定性のある環軸関節亜脱臼に対してよい適応である。しかし、不安定性のないものはC1後弓切除による除圧が必要なため適応し難く、後頭頸椎固定もしくはGoel-Harms法にfacet fusion 追加が行われてきた。しかしいずれも侵襲的であるため、Magerl screw 単独に外側の骨移植を工夫することで良好な成績が得られたため報告する。

【方法・結果】平成26年2月から平成29年6月までに治療した6例につき、手術時間、術中出血量、骨癒合率、合併症を検討した。いずれも良好な成績を示し、術後3か月で全例に骨癒合が得られた。

【考察】環軸関節の固定力はMagerl screw単独で十分であり、骨移植を工夫することで骨癒合は得られると考えられる。後頭頸椎固定に比べ椎間可動性が温存でき、さらに椎間関節を展開する必要がないことから手術時間短縮、出血量低減、C2根障害のリスク低減など、より低侵襲に治療を行うことができる。

4.頭蓋頸椎後方固定手術の治療経験

 

大分整形外科病院*1、群馬脊椎脊髄病センター*2

 

井口 洋平*1(いぐち ようへい)、大田 秀樹*1、清水 敬親*2、松本 佳之*1、巽 政人*1、塩川 晃章*1、瀧井 穣*1、木田 浩隆*1、竹光 義治*1

 

 関節リウマチに伴う環軸椎変形の減少で、環軸椎病変に対する手術機会は減少傾向にあるが、環椎軸椎関節症、歯突起骨、歯突起後方偽腫瘍、外傷など、固定手術の必要性は依然存在する。手術方法は、screwが刺入不能、矯正が必要、アンカー強度が必要などの理由で環軸椎のみでなく、後頭骨までの固定が必要な場合がある。当院で経験した、後頭骨頸椎固定4例について症例報告する。

【症例1】53歳女性。歯突起骨の前方亜脱臼に伴う脊髄症の症例。前方からの脊髄圧迫を解除するために、O-C3固定で歯突起骨の矯正固定を行った。

【症例2】34歳男性。歯突起骨の前方脱臼により軸椎と環椎後弓間で脊髄が高度に圧迫された症例。O-C4固定で脱臼した歯突起骨を整復し脊髄圧迫を解除した。

【症例3】50 歳男性。脳性麻痺による脊髄症に対しC2-T1固定後20年。環軸椎亜脱臼による脊髄症を発症した症例。整復の上、O-Th1再固定を行った。

【症例4】78歳女性。OPLLに対し頸椎椎弓形成手術後9年。上位頸椎以外が自然骨癒合した結果、O-C1-C2の関節症と偽腫瘍による脊髄症を発症した症例。O-C4固定を行った。

5.点状軟骨異形成症に合併した環軸椎脱臼の手術成績

 

鳥取大学 整形外科

 

三原 徳満(みはら とくみつ)、谷島 伸二、谷田 敦、武田 知加子、小川 慎也、永島 英樹

 

 点状軟骨異形成症に合併した環軸椎脱臼を2例経験したので報告する。

【症例1】3カ月の女児。胎児除脈により緊急帝王切開となり、当院NICUに緊急入院した。点状軟骨異形成症に伴う環軸椎脱臼の診断で当科紹介となった。6カ月時点でO-C2後方固定( 肋骨+wire 固定)+C1椎弓切除を行ったが骨癒合が得られず、1歳3カ月でO-C3固定術(肋骨+インプラント)を再度行った。術後2週で創部から膿の流出あり(MSSA)。まずは洗浄・デブリのみを行ったが、インプラントがbackoutして皮膚を突き破ったため抜去した。成長を待って再度固定術の予定としていたが、動態撮影である程度制動されたため手術中止とした。

【症例2】生後20日の男児。普通分娩で出生したが呼吸状態が不安定で当院NICUに紹介入院。点状軟骨異形成症にともなう環軸椎脱臼の診断で当科紹介となった。生後半年頃に手術を考えていたが、両親の同意が得られず待機した。3歳時に手術の同意が得られたのでO-C2固定術(肋骨+ インプラント)+C1 椎弓切除を行った。術後経過は良好で、術後半年のCTで骨癒合を確認した。

6.当院での軸椎骨折の治療経験

 

長崎労災病院 整形外科

 

吉田 周平(よしだ しゅうへい)、馬場 秀夫、奥平 毅、山口 貴之、田丸 満智子、小西 宏昭

 

【背景】軸椎骨折に関しては過去、保存的治療が行われていたが近年、骨折型により手術が有用との報告がある。

【目的】当院で手術を行った軸椎骨折を検討すること。

【対象】2009年11月から2017年1月までの手術を行った32例(男性17例、女性15例、平均年齢:67.7歳、経過観察期間:平均11.5カ月)に対し、骨折型、術式、合併症、術後経過について検討した。

【結果】骨折型:歯突起骨折21例(Anderson typeU:4例、typeV:17例)、Hangman骨折2例(LevinetypeU:2例)、軸椎椎体骨折8例(Benzel type1:7例、type2:1例)。術式:後方椎間固定22例、骨接合8例(C2椎弓根スクリュー:5例、歯突起スクリュー:3例)。合併症:嚥下困難1例、喉頭浮腫1例、硬膜損傷1例、大後頭神経痛1例、術後経過:ロッド折損1例、その他の症例ではインプラントの脱転や感染を含め大きな問題はなく、おおむね良好であった。

【考察】軸椎歯突起骨折は、保存的治療が行われてきたが、画像検査の発達や高齢化で以前の治療法では対応しがたい症例も出現している。症例毎に治療法を検討する必要があると思われる。