第88回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題4) |
21.上位頚椎化膿性脊椎炎に対して下顎骨舌縦割法を行った1例
佐賀大学 整形外科
前田 和政(まえだ かずまさ)、森本 忠嗣、馬渡 正明
【はじめに】上位頚椎化膿性脊椎炎に対して、下顎骨・舌縦割法により前方固定術を行った1例を経験したので報告する。 【症例】63歳、男性 【既往歴】当院耳鼻科で下咽頭扁平上皮癌の診断で、咽頭喉頭食道摘出・遊離空腸再建術+術後放射線治療を実施され、気管切開での呼吸管理、経鼻栄養での栄養管理がなされていた。 【現病歴】術後3か月ごろから頚部痛を訴え、炎症反応の上昇を認めた。MRI・造影CTでC2/3化膿性脊椎炎の診断で、当科紹介。後頚部痛のため、頚椎は前屈位で伸展不能であった。頚椎の安定を図るために、ハローベストを装着するも、徐々に麻痺が進行した。耳鼻科と口腔外科との協力の元に、下顎骨舌縦割法にて前方固定術行い、術後8日目に、後頭頚椎固定術を行った。麻痺は術前と同程度までに改善し近医へ転院。周術期の感染、呼吸トラブルなどの合併症はなかった。 【考察】下顎骨舌縦割アプローチは、上位頚椎の腫瘍切除での有用性に関する報告が多く、感染例の報告は少ない。正中から広い術野が確保可能であり、感染による上位頚椎破壊例でも有用なアプローチであった。 |
22.頚椎から胸椎レベルに発生した広範囲硬膜外膿瘍の3例
高知大学 整形外科
葛西 雄介(かさい ゆうすけ)、喜安 克仁、田所 伸朗、川ア 元敬、武政 龍一、池内 昌彦
【はじめに】頚椎に発生する硬膜外膿瘍はまれな疾患であるが、とくに頚椎から胸椎にいたる広範囲の硬膜外膿瘍の報告は少ない。当院で経験した広範囲硬膜外膿瘍の3例について報告する。 【症例】症例は平均77歳、男性2例女性1例、糖尿病やステロイド使用の既往があった。術前の症状は頚部痛や背部痛に加え、術前の麻痺の程度は3例ともFrankelBであった。MRIで膿瘍は頚椎から胸椎レベルの脊柱管背側に広範囲に連続し、罹患範囲は頚椎レベルから7椎体が1例、9椎体が1例、18椎体が1例であった。いずれの症例も緊急手術を行った。 【まとめ】広範囲に及ぶ硬膜外膿瘍は症状が激烈といわれるが、我々の症例はいずれも当初の症状は軽微であり、経過をみている間に急速に症状の進行をきたした。3例とも膿瘍は脊柱管背側に位置しており、このような膿瘍は脊柱管内をより尾側へ進展しやすく、症状の変化が急速かつ重篤となった可能性がある。手術は感染の中心巣のみの椎弓切除あるいは椎弓形成を行い、麻痺の改善を得られた。 |
23.頸椎化膿性脊椎炎に対する前方固定術後の局所後弯角の検討
大分大学 整形外科
石原 俊信(いしはら としのぶ)、宮崎 正志、金崎 彰三、津村 弘
頸椎化膿性脊椎炎に対する前方固定術後の局所後弯角の変化について検討を行った。 【対象および方法】対象は頸椎化膿性脊椎炎に対して1997年5月より2010年9月に、単椎間の前方固定術(国分法)を施行し、1年以上経過観察し得た5例で、男性2例, 女性3例, 平均年齢は63.4歳であった。評価項目として単純X 線にて骨癒合と、術前、術直後、術後1年時における、固定上下縁での局所後弯角と高さ、C2-7前弯角を検討した。 【結果】骨癒合は5例いずれにおいても認められた。局所後弯角は術前5.0°、術直後3.8°、術後1年時12.2°、固定上下縁での高さは術前28.4mm、術直後29.4mm、術後1年時25.6mm、C2-7前弯角は術前10.4°、術直後12.0°、術後1年時7.6°であった。 【結語】頸椎化膿性脊椎炎に対する前方固定術においては、術後局所後弯の進行と、移植骨の沈下を認める傾向にあり、感染に伴う骨母床の脆弱化が要因として考えられた。 |
24.椎体破壊が高度な頚椎化膿性脊椎炎の治療戦略
高知医療センター 整形外科
林 隆宏(はやし たかひろ)、時岡 孝光
【はじめに】頚椎化膿性脊椎炎は治療に難渋する病態である。当院で頚椎化膿性脊椎炎を手術する際の治療戦略を検討した。 【対象と方法】対象は当院で加療した頚椎化膿性脊椎炎7例であった。超急性期で、後咽頭膿瘍が呼吸状態に影響を及ぼす場合は、前方のドレナージを行い、同時に後方固定を行った。硬膜外膿瘍で麻痺が出現している場合はまず後方除圧を行い、全身状態が落ち着いてから後方固定を行った。超急性期を脱している1椎間の椎間板炎の場合は、前方からの病巣掻爬を行った。椎体破壊が高度な症例で麻痺の出現や気道症状がない場合はまず後方固定を行い、必要あれば二期的に前方固定を行った。 【結果】感染は全例治癒した。 【考察】化膿性脊椎炎の治療は救命が優先される。気道圧迫や麻痺の出現に応じて除圧が優先される。救命を得たのちの固定方法については、当院では後方固定を最初に選択した。 【結語】頚椎化膿性脊椎炎に対し、多くの症例では適切な抗生剤と後方固定のみで治癒できた。 |
25.当院での咽後膿瘍の治療経験
久留米大学整形外科・永田整形外科
溝上健次(みぞかみ けんじ)、佐藤公昭、金崎克也、山田 圭、井上英豪、横須賀公章、吉田龍弘、後藤雅史、松原庸勝、岩橋領二、中江一郎、小倉友介、永田見生、志波直人
【目的】高齢者やcompromised hostの増加により成人に発症する咽後膿瘍の報告が増加している。今回当院を受診した咽後膿瘍7例について検討したので報告する。 【対象および方法】2013年から2017年の5年間に本症と診断した7例を対象とした。男性6例、女性1例で平均年齢は70.4歳であった。全例で手術療法(前方固定4例、後方拡大1例、前方+ 後方固定1例、掻爬ドレナージ1例)が施行された。平均観察期間は246日であった。 【結果】化膿性脊椎炎を全例併発し、硬膜外膿瘍を4例に認めた。起炎菌は6例で同定し、黄色ブドウ球菌が2例と最も多かった。術前は歩行可能3例・歩行不能4例で、最終調査時は歩行可能5例・歩行不能2例であった。6例は感染が鎮静化したが1例は術後短期間で死亡した。 【考察および結語】咽後膿瘍は、化膿性脊椎炎・硬膜外膿瘍を併発する症例が多く、重篤な機能障害を残すだけでなく敗血症のため生命までも脅かすことがあり早期診断が重要である。麻痺の進行・敗血症を来す前に手術療法が必要と考える。 |