第89回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題2)

5.脊椎発生軟骨肉腫に対する再手術の限界と初回手術の重要性

 

九州大学医学研究院 整形外科

 

松本 嘉寛(まつもと よしひろ)、川口 謙一、林田 光正、岡田 誠司、松下 昌史、幸 博和、中島 康晴

 

【背景】脊椎原発軟骨肉腫の生検を含めた診断法、治療方針の決定には様々な問題点がある。特に初回に掻爬された症例が再発を来した場合に、再手術後どのような経過と辿るかについては不明な点が多い。今回、当科における脊椎発生軟骨肉腫の治療経験と、現在の治療方針について報告する。

【症例】男性3例、女性2例、組織型はGrade T : 4例、Grade U:1例であつた。初回手術にて掻爬であつた2例に局所再発を認めた。再発後に、1例では広範切除を、1例では再度掻爬を行つたが、いずれも再々発を来たし、重粒子線治療を追加したが、現在AWD の状態である。直近の3例では初回手術時より広範切除を行い、最終経過観察時CDFであった。

【考察】軟骨肉腫は化学療法、通常の放射線治療に対する反応性が乏しく、外科的切除が治療の基本である。今回の経験から、初回に掻爬された場合には再手術によるリカバリーは極めて困難であり、初回手術で可能な限りの根治的広範切除を行うことが、治療成績向上のためには重要であると考えられた。

6.背髄髄膜腫に対する手術成績の検討

 

広島市立安佐市民病院 整形外科

 

泉 文一郎(いずみ ぶんいちろう)、 藤原 靖、大田 亮、古高 慎司、真鍋 英喜

 

【目的】当院でこれまで経験した脊髄髄膜腫の5年以上の長期成績を検討した。

【方法】1987年から2013年までに当科で手術を施行した脊髄髄膜腫は50例あり、このうち5年以上経過観察可能であつた42例(84%)を対象とした。男性9例女性33例,手術時平均年齢は63歳,平均経過観察期間は10.1年(5年〜21年)であつた発生部位、腫瘍局在、WHO分類に基づく組織学的悪性度およびMRIによる再発の有無について検討した。手術は腫瘍全摘出を基本とし,硬膜母床を全層切除行った症例(T群)が7例、腫瘍摘出後、母床焼却をした症例(C群)が16例、硬膜内層を追加切除した症例(I群)が17例、硬膜外腫瘍が2例であつた。

【結果】WHO分類では、組織学的悪性度はgrade1が41例,grade3が1例であつた。腫瘍の局在は脊髄の背側11例、側方が19例、腹側が12例であった。MRIによる画像評価ができた34症例(81%)でC群に画像的再発を1例、症状再発を1例に認めた。

【考察】今回の検討で再発した症例はいずれもC群であった。I群では再発はなく、腹側発生例も多く存在する髄膜腫では硬膜内側切除も有用と考える。

7.転移性脊椎腫瘍に対する脊椎全摘術後に再手術を行った2症例

 

山口大学 整形外科*1、山口労災病院 整形外科*2

 

今城 靖明(いまじょう やすあき)*1、寒竹 司*1、鈴木 秀典*1、船場 真裕*1、西田 周泰*1、田口 敏彦*2

 

【はじめに】転移性脊椎腫瘍に対しては、姑息的手術と脊椎全摘術に大別される。われわれは単発の転移性脊椎腫瘍に対し脊椎全摘術(TES)を行ってきた。再手術を要した2症例について報告する。

【症例1】60歳男性、2年前に胆管癌に対し摘出術施行されたが、T10に転移性脊椎腫瘍認め放射線治療50Gy後にTES施行された。術後2週で創部離開し再縫合、術後7カ月でcage周囲にclear zone、screwの緩みを認め一本杖歩行困難となったが、安静にて改善した。術後約8年で左下肢脱力出現し再固定術を行った。

【症例2】68歳男性、4年前に腎細胞癌で右腎摘出術施行された。特に誘因なく腰痛出現しL1に転移性脊椎腫瘍を認めた。他に転移病変ないこと確認しTES施行した。術後7日目で病棟内歩行器歩行可能となったが、術後14日ロリハビリで体幹トレーニング中にゴッキと音がした後から腰痛出現、Xpにてscrew緩み、cageの傾きを認め術後5週で再手術施行した。術後3年独歩で生活されている。

8.脊椎後方手術術後深部感染に対する高濃度抗生物質注入療法

 

高知大学医学部 整形外科

 

喜安 克仁(きやす かつひと)、川崎 元敬、田所 伸朗、葛西 雄介、武政 龍一、池内 昌彦

 

【はじめに】脊椎後方手術術後深部感染が発生した場合、再手術による洗浄デブリードを行うが、感染が鎮静化しないときは複数回の手術が必要となる。我々は、洗浄手術後創部にドレーンを留置し、持続吸引と1日2回間欠的に抗生剤を注入する方法を行っている。今回はその成績をまとめた。

【対象】対象は7例(男4例、女3例)、手術時年齢 42〜 91歳であつた。手術部位は頚椎2例、胸腰推移行部2例、腰仙椎3例で、起因菌はMRSA2例、Pseudomonas aerginosa 2例、その他3例であり、急性・亜急性感染6例、遅発性感染1例であつた。

【結果】抗生物質注入期間は平均19.1日 (5-33日)であつた。急性期・亜急性翔6例は、再洗浄や再燃はなく、インプラントも温存できていた。遅発性感染1例は皮下組織が痩せたために約半年〜2年の間隔で感染を繰り返し、計3回の手術を行つたが、インプラントを温存できた。

【考察】本法は、長期間ドレーンを留置する必要はあるが、少ない病巣掻爬回数でインプラントを温存でき、深部感染に対して有用な方法の1つと思われた。

9.化膿性脊椎炎PSAD不応例に対する術式選択の検討

 

久留米大学 整形外科学教室

 

松原 庸勝(まつばら つねまさ)、佐藤 公昭、山田 圭、横須賀 公章、吉田 龍弘、岩橋 頌二、永田 見生

 

【背景】我々は化膿性脊椎炎に対してまずは経皮的病巣掻爬ドレナージ(PSAD)を施行しているが、不応例も存在する。そのような症例に対しての術式選択について検討を加えた。

【方法】2000年1月から2017年12月までにPSAD後に二期的手術を必要とした17例について検討を加えた。調査項目は再手術までに日数、術式、臨床成績(Modyfied MacNab分類)とした。

【結果】男性11例、女性6例、平均年齢は70.3歳であつた。再手術までの日数は平均80.5日(21〜418日)であり、術式はPSAD12例、前方掻爬+ドレナージ1例、PPS固定3例、前方固定+PPS固定1例であつた。PSAD施行例は6例に再度手術を必要としたが、その他の術式は全症例で鎮静化を認めた。臨床成績はExcel lent:1例、good:4例、fair:8例、poor:4例であった。

【考察】化膿性脊椎炎の感染の主座は椎体終板、椎間板であるため、椎間板腔を掻爬するPSADは理に適っている。しかしその後不安定性や椎体破壊を認めた場合は再度PSADでは限界があるため、病態の応じた術式選択が必要と思われた。

10.化膿性脊椎炎後インストルメント設置の指標として術中病理検査を用いた一例

 

鹿児島大学 整形外科*1、鹿児島大学 保健学科*2

 

冨永 博之(とみなが ひろゆき)*1、河村 一郎*1、田邊 史*1、米 和徳*2、谷口 昇*1

 

【はじめに】感染後脊椎にインストルメントを設置する必要な症例があるが、感染沈静化の判断は困難である。

今回我々は後方組織まで感染が広がった化膿性脊椎炎術後症例に対し、感染沈静化の指標として術中病理を施行しインストルメントを設置したので報告する。

【症例】71歳女性、糖尿病、HCV併存。化膿性脊椎炎(T5-6)、硬膜外膿瘍、右化膿性肩関節炎に対し他院で胸椎椎弓切除術施行。一時症状改善するも術後2日で下肢運動完全麻痺となり当科搬送。同日胸椎前方固定を行なつた。

右肩関節、胸椎組織よりMSSA検出され抗生剤投与、体幹ギプス、安静臥床施行。 麻痺兆候改善するも移植骨の後方シフトが見られた為感染沈静化後、インストルメント設置を予定した。

後方手術時、術中迅速病理検査を施行し好中球検出されずインストルメント挿入した。術後起立歩行訓練を行い術後2年以上経過し独歩可能で感染の再燃は見られていない。

【考察】術中病理検査を指標として感染後脊椎部位にインストルメントを設置した。 病理検査は有効な一つの方法であると考えられた。