第90回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題4)

18.頚髄腫瘍に対し前方アプローチにより腫瘍摘出術を施行した1 例

 

久留米大学 整形外科1、済生会福岡総合病院 整形外科2

 

吉田龍弘(よしだ たつひろ)1、井手洋平2、佐藤公昭1、山田 圭1、横須賀公章1、松原庸勝1、岩橋頌二1、島ア孝裕1、永田見生1

 

 84歳女性。平成29年6月ころより誘因なく両下肢に痛みが出現。徐々に下肢の脱力感が出現したため神経内科に入院し精査。8月15日頃より右大腿に激痛が出現し、歩行困難となった。両手尺側および体幹以下にしびれあり。同部に5/10の知覚低下を認めた。腸腰筋以下MMT2レベルであり歩行は不能であった。膀胱直腸障害を認めた。MRIにてC7高位に、T1、T2強調画像で等信号、Gdにて均一に造影される硬膜内髄外腫瘍を認め、9月4日頸椎前方除圧固定術および腫瘍摘出術を施行した。術後は合併症なく経過し、現在しびれもなく独歩可能となっている。

 頸髄腫瘍を摘出する際、主として後方侵入で椎弓切除、椎弓形成を行い摘出することが多く、前方法では視野とワーキングスペースの確保が困難とされ、前方侵入はまれである。髄膜腫は再発を予防するため、発生母床である硬膜の処理が必要である。今回発生母床が硬膜腹側であり、後方からの処理が困難と判断し前方手術を選択した。

19.胸腰椎移行部に発生した明細胞髄膜腫の一例

 

鹿児島大学 整形外科1、鹿児島大学 保健学科2

 

井出貴之(いで たかゆき)1、冨永博之1、河村一郎1、米 和徳2、谷口 昇1

 

【はじめに】脊髄髄膜腫は硬膜内髄外腫瘍の内神経鞘腫についで多い腫瘍である。中高年の女性で胸椎に多発し、多くがWHO Grade1 の腫瘍であるが今回我々は非常に稀な明細胞髄膜腫を経験したので報告する。

【症例】52歳女性。特記すべき既往歴はなし。5ヶ月前より腰痛、左大腿部前面から外側にかけての疼痛が出現し両大腿の筋力低下を認めたため近医を受診し、MRI施行されT12 〜 L1椎体レベルに硬膜内髄外腫瘍を認めた。腫瘍はT1、 T2強調像で共に等信号、Gd造影にて均一に造影された。 腫瘍切除術を施行し、術後病理組織検査の結果、 明細胞髄膜腫の確定診断が得られた。切除後術前症状消失し現在定期観察継続中である。

【考察】脊髄明細胞髄膜腫は硬膜とのattachmentを持たない稀な腫瘍で、我々が渉猟しえた中で21例の報告のみである。当科で手術施行した髄膜腫60例中明細胞腫は1例であった。WHO分類のgrade Uに分類され、通常の髄膜腫と比べ再発率の高い腫瘍であり今後注意深い経過観察が必要である。

20.Anaplastic meningiomaが縦隔リンパ節に転移した一例

 

山口大学 整形外科

 

西田周泰(にしだ のりひろ)、今城靖明、鈴木秀典、舩場真裕、寒竹 司

 

 脊髄にはWHO分類GradeU、Vの髄膜腫は発生しにくいとされるが、我々は、頸胸椎移行部の脊髄レベルに発生したanaplastic meningiomaが縦隔リンパ節に転移する症例を経験した。

 68歳男性で、4か月前に背部痛出現するも日常生活には問題なかった。左下肢運動麻痺が出現し、MRIにてC7-T1に髄内腫瘍を認めたため、入院となった。PETでは髄内腫瘍と縦隔リンパ節に集積を認め、転移性脊髄腫瘍や悪性リンパ腫を疑い、リンパ節生検を施行した。悪性度の高い腫瘍であったが原発を診断するには至らず、複数科による全身精査も異常は認めなかった。入院30日目に左下肢麻痺が増悪し、MRI上も腫瘍が増大していたため、椎弓形成・切除及び、腫瘍摘出術を施行した。腫瘍はanaplastic meningiomaで、縦隔リンパ節組織と類似しており、他部位に腫瘍性病変がないことから、anaplastic meningiomaが縦隔リンパ節に転移したものと考えられた。放射線治療を行うも効果乏しく、転院となった。

21.多数回手術を要したnon-benign meningioma の1例

 

兵庫医科大学 整形外科

 

楠川智之(くすかわ ともゆき)、橘 俊哉、圓尾圭史、有住文博、楠山一樹、木島和也、吉矢晋一

 

 初回手術から20年後に髄内播種に対して手術を行ったnon-benign meningiomaの1例を報告する。

 症例、71才男性。20年前に初回手術 T2/3の腫瘍摘出術と硬膜内層焼却を受けた。その後15年前に再手術(T2/3再発腫瘍摘出術と硬膜内層焼却)、9年前に再々手術(T2/3再々発腫瘍切除術および母床の硬膜切除、人口硬膜での硬膜形成術)を受けた(手術は全て当科で行った)が、T2/3に腫瘍の再発と、C6とT1/2の2ヶ所に腫瘍の播種を認めた。症状は時々の背部痛のみで経過観察を行なっていたが、2ヶ月前から左上肢しびれが出現し、1ヶ月前から背部の激痛痛と左手指筋力低下、歩行障害出現した。C6腫瘍の増大を認め、C6腫瘍に対しC5-7後方固定術および腫瘍切除術を行った。腫瘍は脊髄背側に癒着していた。術後2ヶ月で麻痺の増悪、歩行不可、Frankel Cとなり、術後3ヶ月でT1-2 腫瘍に対しT3への固定の延長とT1/2左facet切除、瘢痕切除、腫瘍切除術を行った。腫瘍は硬膜左内側に生着していた。術後6ヶ月で独歩可能、Frankel Eに改善した。病理診断は常にAtypical meningioma (WHO class U)であった。頚胸椎への放射線治療を予定している。

22.当院における髄膜腫再発に対する治療経験

 

大分整形外科病院

 

井口洋平(いぐち ようへい)、大田秀樹、松本佳之、巽 政人、塩川晃彰、真田京一

 

 髄膜腫は再発が危惧される腫瘍で、再発時の治療に難渋する場合がある。髄膜腫の術後再発に対し、腫瘍再切除を施行した2 例を経験したので報告する。

【症例1】75才女性。平成18年、第8.9胸椎レベルの髄膜腫を切除。術後11年、両下肢不全麻痺で再発が確認された。腫瘍は広範囲に広がっており、癒着の強い部位は硬膜を含めて可及的に切除した。術中脊髄電位にて左下肢電位消失を認め、術後左優位の下肢麻痺が出現したが、術後3か月で立位可能なレベルに改善した。

【症例2】66才女性。平成6年、第3.4胸椎レベルの髄膜腫を切除。術後24年、脊髄症による歩行障害が出現し再発が確認された。腫瘍が脊髄全周を取り囲んでおり、腫瘍切除時に術中脊髄電位が消失した。硬膜をバイポーラで焼灼し硬膜は温存した。術後両下肢麻痺を認めたが、徐々に改善を認め術後2か月で2本杖歩行が可能なった。

 髄膜腫は再発までの経過が長いためフォローアップが難しく、神経症状の悪化で再発が発見され腫瘍が広範囲に広がっていることがある。治療に難渋するため、定期MRIフォローでの早期発見が大切である。

23.脊髄髄膜腫の長期術後成績

 

鹿児島大学 整形外科1、霧島整形外科2、湯之元記念病院3、鹿児島大学 保健学科4

 

冨永博之(とみなが ひろゆき)1、河村一郎1、井尻幸成2、d松昌彦3、米 和徳4、谷口 昇1

 

【はじめに】硬膜内髄外腫瘍の中で脊髄髄膜腫は中高年女性の胸椎レベルに好発する。今回当科における脊髄髄膜腫の手術症例をretrospectiveに調査し摘出方法と再発に関して検討したので報告する。

【対象】2001年から2018年7月まで当科で手術を行った脊髄髄膜腫48例中10年以上経過観察可能であった15例である。年齢中央値は67歳で女性は12例であった。

【結果】摘出方法はSimpson1 3例 内膜切除5例 Simpson2 3例 Simpson3 4例であり病理はpsammomatous 9例、meningothelial 4例 transtional 1例 fibrous 1例内再発は1例に認めた。再発はSimpson3 切除例であった。

【考察】Soleroら髄膜腫摘出後硬膜焼灼のみで問題ないと述べており、斎藤らは硬膜内層切除術が有効と報告している。一方Levyらや中村らは硬膜全層切除の場合再発は見られなかったことを報告している。しかし脊髄前方に生じた場合硬膜全層切除は困難であり、脊髄の愛護的操作目的で当科では硬膜焼灼、あるいは内層切除を行ってきた。術後10年以上の本報告でも再発率は6.6%であり比較的良好な成績であった。

24.脊髄髄膜腫に対する齊藤法の適応と限界

 

総合せき損センター

 

小早川 和(こばやかわ かず)、 河野 修、前田 健

 

 脊髄髄膜腫の再発には手術による切除範囲が影響し、Simpson gradeTで最も再発が少ないとされるが、近年、腫瘍の全摘と硬膜の凝固・焼灼を行うSimpson grade Uでも成績良好との報告が散見される。腫瘍と腫瘍発生母地の硬膜内層を一塊として切除する齊藤法は、Simpson IとUの中間的切除法と考えられており、腫瘍根治と髄液漏等の術後合併症予防の観点から徐々に普及している。しかしながら、腫瘍の発生部位によっては、齊藤法の施行が困難である症例を経験する。そこで今回我々は、手術記録と術中記録を振り返ることにより、斎藤法がどのような症例に可能であったかを検討した。2007年〜 2018年に当院で手術を行った脊髄髄膜腫の初発例は26例で、平均年齢 65.7才、男性4例、女性22例で、硬膜付着部位はそれぞれ腹側9例、背側7例、右側4例、左側5例で、うち1例で付着部が不明であった。これらの症例に関して、斎藤法が可能であった症例と斎藤法を試みたが完遂できなかった症例について検討を加え、斎藤法の適応について考察し、報告する。

25.脊椎髄膜腫術後長期経過観察例(5年以上)における予後調査

 

九州大学 整形外科

 

幸 博和(さいわい ひろかず)、林田光正、川口謙一、岡田誠司、松下昌史、松本嘉寛、中島康晴

 

【目的】脊椎髄膜腫は術後長期経過観察によって再発を生じることがある。しかし、腫瘍摘出+硬膜合併切除は手術侵襲が大きいことから、硬膜内層を腫瘍と一塊として切除する方法を2001年に報告した。今回、硬膜内層合併切除による脊髄髄膜腫術後の長期予後成績について報告する。

【対象と方法】1997年から2012年に当院・関連施設において脊椎髄膜腫に対して切除術を施行し、5年以上経過観察可能であった37名を対象とした。手術法は硬膜内層合併切除13例、腫瘍切除+硬膜焼灼処置26例であった。

【結果】今回の39症例中、再発は3例(8.1%)に認められ、2例は腫瘍切除に硬膜焼灼処置を行った症例(7.6%)、1例は斎藤法の症例(9.1%)であった。

【考察】腫瘍切除と硬膜焼灼処置を行った症例と齋藤法にて再発率に有意差はなかったが、今後、より症例数を増やすとともに、さらに長期的な観察を行い、齋藤法の再発予防に対する有効性について評価していく必要があると思われた。