第90回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題5)

26.硬膜外くも膜嚢腫の1例

 

産業医科大学 整形外科

 

山根宏敏(やまね ひろとし)、中村英一郎、邑本哲平、山田晋司、酒井昭典

 

【はじめに】神経症状を伴った比較的稀な硬膜外くも膜嚢腫の1例を経験したので報告する。

【症例】61歳女性。主訴は、間歇的な両下肢の痺れと歩行障害。1年前より間歇的に両下肢の痺れが出現。徐々に症状悪化し、歩行しにくくなってきたため当科受診。既往歴は乳癌。神経学的所見は、右下肢後面の痺れあり、両大腿四頭筋、前脛骨筋は、MMT:4と低下していた。MRIで、Th12椎体上縁からL1椎体中央にかけて脊髄背側に嚢腫を認めた。ミエロCTでは、MRIと同様に硬膜外に嚢腫を認め、嚢腫内は均一に造影剤にて充満されていた。手術は、Th12〜L1 椎弓切除後、嚢腫を硬膜から剥離し、切除した。右Th12神経根の腋窩付近に交通孔を認め結紮はできなかったため、嚢腫を一塊で切除した後、交通孔を縫合した。術後、筋力は改善、痺れはほぼ消失した。

【考察】神経症状を伴った硬膜外くも膜嚢腫の1例を経験した。嚢腫切除と交通孔閉鎖を行い、良好な結果を得た。

27.脊髄障害をきたした脊髄くも膜病変に対するくも膜のう胞切除・癒着剥離術の有効性の検討

 

熊本大学 整形外科

 

中村孝幸(なかむら たかゆき)、藤本 徹、谷脇琢也、岡田龍哉、中村英一

 

【目的】脊髄くも膜嚢胞および癒着性くも膜炎は脊髄の圧迫や脊髄空洞症の合併により脊髄障害の原因になることが知られている。今回、脊髄障害をきたしたくも膜病変に対するのう胞切除・癒着剥離術の有効性を検討した。

【方法】2016年4月から2018年7月までに当科で手術を施行した脊髄くも膜病変による脊髄障害と診断し、くも膜のう胞切除・癒着剥離術を施行した。4例(男性3例、女性1例)を対象とした。

【結果】MRI画像で脊髄周囲に隔壁や索上構造を認めない2例について術後は症状改善し、術後1年のMRIでも再発は認めず、脊髄空洞の縮小を認めた。脊髄周囲に隔壁や索上構造を認めた2例はくも膜の癒着剥離が困難であった。術後は症状やや改善したものの、3か月以内に症状、画像所見上も再燃・再発を認めた。

【結論】MRI上隔壁や索上構造を認めない症例については高度な癒着はないと考えられ、のう胞切除・癒着剥離術のみで良好な成績が期待できる。一方、脊髄周囲に上記陰影を認めるものは同術式のみでは限界があり初回からシャントチューブを併用した術式が良いと考えられた。

28.硬膜外ダンベル型神経鞘腫の摘出術症例における腫瘍進展について

 

熊本大学 整形外科

 

藤本 徹(ふじもと とおる)、谷脇琢也、岡田龍哉、中村孝幸、中村英一

 

【目的】硬膜外ダンベル型神経鞘腫手術例の腫瘍進展に関する検討を行った。

【方法】2009年4月より2018年8月まで当科にて行った脊髄腫瘍摘出術136例のうち硬膜外ダンベル型神経鞘腫例で、術前に1年以上の間隔をおいてMRIを2回以上撮像し得た5症例を対象とした。T2強調像にて腫瘍最大径を示す冠状断像の頭尾側と横径および横断像の前後と横径を初回と最終で比較した。

【結果】初回MRI冠状断像頭尾側径は1.48±0.65(Mean±S.D.)cmで最終は1.66±0.71cm、初回冠状断像横径は1.82±0.58cmで最終は2.53±0.76cm、初回横断像前後径は1.57±0.81cmで最終は2.30±1.13cm、初回横断像横径は2.02±0.76cmで最終は3.1±1.21cmと全パラメーターとも有意に増大していた。年間発育速度は冠状断像頭尾側径は0.09±0.07cm/yearで、冠状断像横径は0.35±0.27 cm/yで、横断像前後径は0.2±0.1 cm/y で、横断像横径は0.32±0.18 cm/y であった。年間発育率は冠状断像頭尾側径が6.48±3.95%/year で、冠状断像横径は23.04±21.26%/y で、横断像前後径は15.63±10.7%/y で、横断像横径は20.15±18.92%/y であった。

【考察】腫瘍拡大の指標として発育速度や発育率は重要な項目となる。本研究から腫瘍は椎間孔に沿って進展し水平方向への発育速度は約0.34cm/yで発育率は21.5%/yであった。

29.当院における硬膜内髄外腫瘍摘出術の片側椎弓切除の安全性と有効性

 

高知大学 整形外科1、土佐市民病院2

 

柳川祐輝(やながわ ゆうき)1,2 、川崎元敬1、田所伸朗1、葛西雄介1、喜安克仁1、澤本 毅2、上岡禎彦2、武政龍一1、池内昌彦1

 

【目的】硬膜内髄外腫瘍摘出術の際、可能な限り片側椎弓切除で侵入しているが、腫瘍摘出に難渋する例も経験する。今回、椎弓切除と比較して片側椎弓切除の安全性と有効性を検証した。

【対象および方法】2003年6月から15年間にC2〜L5高位に発生した硬膜内髄外腫瘍(神経鞘腫、髄膜腫)手術症例84例の内、ダンベル型や再発例等を除外した47例を対象とした。片側椎弓切除(片側群):36例、椎弓切除(両側群):11例であり、硬膜最大横径に比した腫瘍最大横径(腫瘍/硬膜)と椎弓切除幅(切除幅/硬膜)、手術時間と出血量、合併症を比較した。

【結果】腫瘍/硬膜と切除幅/硬膜(平均±標準偏差)は、片側群:0.72±0.09、0.76±0.20、両側群:0.77±0.09、0.91±0.17であり、切除幅は両側群より片側群が有意に狭いが、腫瘍横径より広い傾向であった。また、手術時間と出血量は片側群で少ない傾向であり、合併症に有意差はなかった。

【考察および結語】硬膜内髄外腫瘍手術の際の片側椎弓切除は腫瘍摘出が可能な切除幅を獲得でき、安全で有効な手術アプローチと考えられた。

30.Dumbbell scoring system: 画像所見による脊髄砂時計腫の良悪性判定スコアリング法の開発

 

九州大学医学研究院 整形外科

 

松本嘉寛(まつもと よしひろ)、川口謙一、林田光正、岡田誠司、松下昌史、幸 博和、中島康晴

 

【背景】脊髄砂時計腫は、神経鞘腫をはじめとする良性腫瘍の頻度が高いが、時に悪性神経鞘腫腫瘍(MPNST)などの原発性悪性脊髄腫瘍が発生する。

【対象および方法】脊髄砂時計腫59例を対象とし、CT、MRIを用いた画像所見の特徴の抽出を行い、単変量解析で有意差のあった腫瘍径、形態、境界、骨破壊の有無を各1点として合計、良悪性鑑別のためのスコア(Dumbbell scoring system score: DSS)を作製し、統計学的解析を行った。

【結果】39例が良性、20例が悪性(MPNST 11例、悪性リンパ腫 3例、Ewing肉腫 、血管内皮腫、血管周皮腫、形質細胞腫、悪性筋上皮腫各1例) であった。DSSの平均は良性群0.5点、悪性群3.1点であり、3点をcut off値とした場合、良悪性鑑別は感度90%、特異度84.6%で可能であった。

【結論】DSS 3点をcut off値とすることにより、高い確率で良悪性の鑑別が可能であった。