2)タマネギについて

タマネギ(Allium cepa L.)は天山山脈西部の中央アジアの
山岳地帯が原産と考えられる野菜です。タマネギの原種は
発見されていませんが、トルクメニスタンとイランの国境付近に
自生する野生種 Allium vavilovii M. Pop. et Vved. が現存
する種の中でもっともタマネギに近い生理・生態ならびに
形態特性を示します。現在、タマネギの起源解明に関する
研究が世界のいろんな研究機関でなされています。


上の写真は大きい方がタマネギで、小さい方がシャロットです。

タマネギと近縁な植物として知られるシャロットは、東南
アジア地域の分球性タマネギとしてよく知られています。
シャロットは分球により栄養繁殖が容易ですから、同じ個体
を長いスパンで実験に用いる事ができます。タマネギは
栄養繁殖で維持すると、2〜3年で枯死しますので、実験
植物としてはシャロットを用いる方が何かと都合がいいです。

タマネギの栽培の歴史は、エジプトのピラミッドでの壁画にも
記載があったことから類推すると、少なくともBC3200〜2800年
にさかのぼります。その後、タマネギ栽培はBC600年頃にインド
に伝播し、ギリシャやローマにはBC400〜300年に伝わったと
されています。このようにタマネギが古くから人類に利用されていた
背景には独特の内容化学成分特性が深く関っていると思われます。
その特性を私なりに、まとめると以下の図のようになります。
私見となりますが、これらの成分はタマネギの食味を形成する
四つの要素と関係があるようです。


現在、我々の研究室では、上記の内容成分を定性・定量分析することが
可能となっており、以下に示すような手法を駆使して植物試料の内容成分
特性を検証しています。
1.含硫黄化合物
俗にいう‘タマネギ臭’のもとになる物質は、システインスルホキシド
(cytein sulphoxide, CSO) という一連の含硫黄化合物です。
この化合物は根から吸収・同化された硫黄が化学的に変化していくとこに
より合成されます。合成経路はまだ未知の部分が多いですが、代謝経路は
ある程度理解されており、簡単に示すと以下のようになります。

2.アミノ酸(含硫アミノ酸)
タマネギを煮込むと、独特の旨味をかもし出す事は経験的によく理解され
ていることだと思います。特に、ヨーロッパ諸国ではオニオンスープは
日本でいう味噌汁のようなもので、独特の旨味をもつ品種を調理する
ようです。旨味成分といえば、有名な調味料の主成分となっている
グルタミン酸ナトリウムを思い出します。植物生体内のグルタミン酸は
調理のどこかの段階でナトリウム塩となりグルタミン酸ナトリウムに変化
すると思われます。しかし、タマネギの鱗茎内には他のアミノ酸、特に
含流アミノ酸が多く存在しており、それらのどれかがタマネギ独特の
旨味を形成しているようにも思えます。そこで、我々は現在、アミノ酸
分析用HPLCを用いてタマネギが生産するアミノ酸を網羅的に調査
しています。勿論、改良したタマネギやネギ系統を用いた分析も行って
います。将来的には、濃くのきいた、独特の香りをもつタマネギスープ
を生み出したいと考えています。

3.ポリフェノール(ケルセチン)

(続く)