1)ワケギについて

ワケギはネギを母親に、、シャロット(南方系分球性タマネギ)を父親にもつ栄養繁殖性
野菜です。ワケギは種間雑種に由来した植物なので、強い不稔性を示します。
したがって、種子をつけません。しかし、鱗茎が多数に分球することを利用した
栄養繁殖がなされています。手軽に繁殖できることから近代に入り大量生産が始まり、
広島県等に大きな産地が形成されました。小さな産地は福岡県、佐賀県をはじめとする
西日本地方に点在しています。しかし、独特のノウハウを必要とする栄養繁殖は
一般的な栽培にはなじます、産地が爆発的に広がることはありませんでした。

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2)ワケギの成立起源について

ワケギがネギとシャロットの雑種第一代に起源すると最初に結論つけたのは佐賀大学
の田代洋丞教授でした。田代教授はゲノム分析手法によりワケギの成立起源を明らか
にし、そのプロセスを1984年に刊行した御自身の論文中(下のリンクを参照)
で詳細に述べています。

田代洋丞 ワケギの起源に関する細胞遺伝学的研究 佐賀大学農学部彙報 Vol.56 p.1 -63

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3)執行研究室におけるワケギの育種目標

ワケギの成立起源が明らかにされたことにより、同種の育種にネギやシャロットを利用
すればよいことがわかり、交配育種技術による品種改良が始まりました。佐賀県では、
ワケギの染色体を倍加して稔性を回復させた複二倍体ワケギにネギを戻し交雑して
三倍体を作出し、その中の優良個体を新品種として世に出しています(下のリンクを参照)。

ワケギの新育成系統「佐賀2号

一方で、学生時代に田代教授の研究指導を受けた執行は、ワケギの両親種である
ネギとシャロットがもつ遺伝子の解析をそれぞれ進めました。その研究の流れの
中で作出した‘八種類のシャロット由来単一異種染色体をそれぞれ添加したネギ
系統のシリーズ’は園芸植物において初めて完成した添加系統シリーズとして
注目を集め、研究成果は日本農学進歩賞の受賞課題となりました。(下のリンクを参照)。

課題:単一異種染色体添加系統シリーズを用いたAllium cepa の遺伝子分析

しかし、添加系統に関する研究はワケギ研究の通過点にすぎません。ワケギの
ゲノム中に存在するネギとシャロット由来の遺伝子を詳細に解析してワケギの
食感・食味形成に関与する因子を同定し、原因となる遺伝子を現代のネギ品種に
導入して新たな種子繁殖性品種を生み出すことが本研究室の重要なテーマ
なのです。研究のイメージは以下のようになります。