[学位論文] 回転円筒殻の振動に関する研究

東京工業大学 1990年



「研究背景とその意義」
 高出力航空機エンジン内部の圧縮機を駆動する円筒軸壁が振動によって破損するという事例が報告されて以来,回転する薄肉円筒,即ち,回転円筒殻 の振動問題に関する研究が行われるようになった.また,我国では原子力発電の燃料となる濃縮ウランの生産を遠心分離法により行っているため, 安全性の問題から遠心分離機の回転部分である薄肉円筒部の高速回転時の挙動, 特にその振動特性を調べる研究が盛んに行われるようになった. しかしながら, それらの研究においてはその円筒部分を有限長さとして取り扱っておらず, 長さを考えない円環モデルあるいは境界条件の存在しない無限長の円筒, 即ち円環モデルと同等と見なせる円筒殻モデルとして研究が行われていた. また, 物体が回転する場合は, 遠心力あるいはコリオリ力が作用するが, その物体が弾性体の場合にはさらにそういった力により変形を生じ, 内部に初期張力が発生する. この回転によって発生する初期張力が回転円筒殻の振動現象を議論する場合に非常に重要な要素となることが円環モデルによる実験あるいは解析により明らかに されたが, 無限長の円筒殻モデルにおいて, それらの円環に対する実験結果あるいは解析結果を説明しうる結果は存在しなかった. これは, それらの円筒殻モデルにおいて回転によって発生する初期張力の影響が正しく評価されていなかったためである. 従って, 回転円筒殻に対する基礎方程式は確立されておらず, さらにその振動現象に関しても的確に把握されていなかったといえる.
 本研究では, 回転円筒殻に対する基礎方程式の確立を行い, その正しい基礎方程式に基づく回転円筒殻の振動特性, 特に, 固有振動数と振動モードについて調べている. 基礎方程式の導出は, 円筒殻の歪に関してグリーンの歪テンソルを用いて回転によって発生する初期張力の影響を考慮した歪エネルギーを計算し, 回転運動を考慮することにより求められる遠心力, コリオリ力の影響を考慮した運動エネルギーを求め, さらに回転運動以外ににより作用する可能性のある種々の初期外力による仕事を計算し, それらにエネルギー原理であるHamiltonの原理を適用するという一貫した手順で行った. この為, 実際問題との対応においてもさらに考えるべき要素が発生した場合にはそこにその要素を付加するだけで同様な手順で解析を行うことができる.
 本研究の独創性と研究により得られた新たな知見は以下のようなものであると考えられる.
(1) Flugge型殻理論(薄肉円筒殻理論, 古典理論)に基づき回転円筒殻に対する基礎方程式の定式化, 確立を行ったこと.
(2) Timoshenko梁理論に基づき回転円筒殻の梁状モード(振れ回りのモード)に対する基礎方程式の定式化, 確立を行ったこと.
(3) Flugge型殻理論に基づき, 初期トルク, 初期外圧及び初期軸圧縮力が作用している回転円筒殻の基礎方程式の定式化, 確立を行ったこと.
(4) Timoshenko型殻理論(一次剪断変形理論)に基づき回転円筒殻の基礎方程式の定式化, 確立を行ったこと.
(5) 二次元弾性理論(厚肉円筒殻理論)に基づき回転円筒殻に対する基礎方程式の定式化, 確立を行ったこと.
(6) Timoshenko型殻理論に基づき, 初期トルク, 初期外圧及び初期軸圧縮力が作用している回転円筒殻に対する基礎方程式の定式化, 確立を行ったこと.
(7) 以上により得られた基礎方程式に基づき, 回転円筒殻の固有振動数と固有モードの解析を行ったこと.
(8) 初期トルク, 初期外圧及び初期軸圧縮力などの初期応力が作用しているいないにかかわらず, 薄肉の回転円筒殻の固有振動数と回転数を円筒殻の非回転時の固有振動数で正規化して表示すると, その関係が円環に対するものとほぼ一致することを示したこと.
(9) 回転円筒殻の梁状モードに関して, Timoshenko梁理論の適用範囲を数値によって示したこと.
(10) Timoshenko型殻理論との比較により, Flugge型殻理論に基づく回転円筒殻に対する基礎方程式の適用範囲について定量的に評価したこと.
(11) 二次元弾性理論に基づく解析結果との比較により, Timoshenko型殻理論に基づく回転円筒殻の基礎方程式の適用範囲について定量的に評価したこと.
(12) 円周方向波数が2以上の場合には, 円筒殻に初期トルク, 初期外圧及び初期軸圧縮力が作用している以内に関わらず, 回転によって発生する不安定は存在しないことを明らかにしたこと.


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