2.機械工学へのNewton力学の応用U
2.1 運動の発生,決定要因:一般的には,作用力,作用モーメント
台車が斜面を下る現象を見て,物体が何故,台車が斜面を下る運動を起こすのか?というと,どう答えるのであろうか?物体には重力が作用し,下向きに”力”が作用しているので,斜面上にものを置くと斜面に沿って働く力も発生するので,斜面に平行な方向に運動を始める,というのはすぐにわかる事であろうか?
ローラーが斜面を転がりながら,下って行くという場合には,(多分)斜面とローラー間に滑りが生じていない(ことを実は仮定している)ので,ローラーに作用する重力に対して発生する斜面の反力に比例した斜面からの力(摩擦力)による(力の)モーメントにより,ローラーは,重心回りに転がり落ちる,という解釈は正しいであろうか?

図2-1 斜面を下る2つの物体に作用する力とは?
こういった力と運動,あるいは,モーメントと回転運動を理解するという事は,Newtonの法則を理解するのと同じ作業ということになる.機械システムに動作(運動)を開始させるためには,力,あるいは,モーメントを加える,作用させることが必要になるが,そこに,何か力が働いたどうかは,実際には,運動を始めるか,とか,変形を起こしたかという結果を見る以外に確認できないのが通常である.なので,力をイメージしてみたり,力が作用している状態や力の作用による物体が運動するというイメージを持つことがまず必要である.ところで,ここでいう”力”をどういう風に理解したら良いだろうか?辞書を調べてみると,
ちから【力】(新明解国語辞典)
動物が自分で動いて何かをし,他を動かして何かをさせる働きの基として備えているもの.[文脈により能力・学力・精神力・体力・暴力・権力・勢力・威力・資力などの意に用いられ,物理学では重力・引力・圧力などのように物体の位置・状態を変化させる作用として規定される]
英語の辞書で調べてみると,力,モーメントについては,
【force】PHYSICAL POWER(CAMBRIDGE(International dictionary))
“physical, esp. violent, strength or power”
【force】The HUTCHINSON(Dictionary of science)
“any influence that trends to change the state of rest or the uniform motion in a straight line of a body. The action of an unbalanced or resultant force results in the accelelration of a body in the direction of action of the force, or it may, if the body is unable to move freely, result in its deformation. Force is a vector quantity, possessing both magnitude and direction; its SI unit is the newton.”
【moment of a force】The HUTCHINSON(Dictionary of science)
“in physics, measure of the turning effect, or torque, producted by a force acting on a body. It is equal to the product of the force and the perpendicular distance from its line of action to the point, or pivot, about which the body will turn. Its unit is the newton metre.”
と記載されており,力自体もNewtonの法則との関連付けで理解するのが,一般的のように思われる.そこで,Newtonの法則に立ち戻ってみる.
Newtonの第1法則(慣性の法則)
物体に力が働いていないとき,物体は等速直線運動を続ける.
$\Rightarrow$ どんな種類の外力も働かない物体の運動を(静止している場合も含めて)等速直線運動として記述できる座標がつねに存在する.
$\cdots$ 慣性の法則が成り立つ座標系:慣性系
Newtonの第2法則(運動の法則)
力が働くと速度は変化し,このときの加速度は力の大きさに比例し,方向・向きは力の方向・向きと同一である.
$\Longrightarrow$ 力の定義:物体の運動状態を変化させる作用
Newtonの第3法則(作用・反作用の法則)
二つの物体が互いに力を及ぼしあうとき,作用と反作用は大きさが相等しく,同一直線状にあり,向きは互いに反対である.
機械工学が関わる殆んどの対象に対して,これらの法則が成り立つことを認めたうえで”ものづくり”が行われるので,これらは,正しいとして認める(信じる)必要がある.そのためには,これらの法則で想像(妄想)すべき運動状態や運動に作用している作用力,作用モーメントをイメージすることも一助となる(と思われる).図2−2に示すテーブル上に置かれた教科書は,何もなくそこに留まってはいるが,実際に力が作用ていると考えられる.そこに作用している力をイメージすることはできるであろうか?

図2-2 テーブル上にある本
物体に作用する力をイメージ化する方法として,Free-Body Diagramがある.これは,単独な一つな物体に作用する力及びモーメントを書き記した図であり,この物体に連結するもの,あるいは,つながっている箇所との間には,ニュートンの第3法則に基づく,作用力,作用モーメントをイメージすることになる.ニュートンの第3法則は,物体同士だけでなく,物体内部で切断面を考えた場合も成立する概念である.Free-Body Diagramを理解するために,機械工学分野で容易に想像できる(と思われる)自動車の運動を考えてみる
【Quiz1】加速度$\alpha$で加速している自動車に作用する力は?
図2-3は,自動車の側面から見た自動車に作用している重力と自動車の前輪,後輪で作用している力をイメージしたものである.

図2-3 自動車に作用する重力とそれに伴う反力
地球上に居る”人”,あるいは,地球上にある”もの”には,鉛直下向きに(地球の中心に向けて,あるいは,上下方向の下向きに)重力$F_G$が作用する(ことは事実として認めることにする:万有引力の法則).図のようにこういった重力は重心に作用すると一般には考える.この重力により自動車は下向きに力を受け,もし,前後輪タイヤが地面と接しているとすると,タイヤ接触面で地面を押す力が,発生する(ように思われる).そこで,図に示すように,重力と同じ方向,即ち,
鉛直(上下)方向下向きの力$F_1$,$F_2$:自動車の質量によって発生する重力に起因して前後輪のタイヤを介して路面に作用する力
を想像(妄想)することができる(かもしれない).前後輪のタイヤ接触点を考えると路面は,この力を直接受けるが,一般には路面は堅く変形することは無く,また,移動することも無い.図2−2で示した”テーブル上にある本”と同じことであるが,これをどのように考えたらよいだろうか?タイヤ前後輪で路面に対する作用は,先ほど考えた$F_1$,$F_2$なので,この作用が打ち消されるような現象が発生している,と考え,力はベクトルという概念から,作用点が同じなので,この点に,大きさが同じで方向が反対の力が作用しているとすると,現象の説明ができる(ように思われる).即ち,ニュートンの第3法則:作用・反作用の法則を認めれば,こういった現象を説明することができ,図に示す次のような力$N_F$,$N_R$を考える.
鉛直(上下)方向上向きの力$N_F$,$N_R$:自動車タイヤの前輪,後輪接地面において,路面がそれぞれ,前輪,後輪を鉛直上向きに押す力
ここで,$F_1$,$F_2$は,路面への作用力で自動車自体が路面に加えている力であるのに対し,$N_F$,$N_R$は,タイヤを介して,路面が自動車に加えている力,ということができる.
更に,水平方向右側に加速度$\alpha$で加速走行する場合に発展させる.自動車が加速する現象を詳しく説明しようとすれば,エンジンやトランスミッションなど多くの伝達系(機械要素)のしくみについて語ることもできるが,ここではアクセルを踏むとタイヤが回転する,位に留めておく.即ち,図2-4左図に示すように,加速しようとしてアクセルを踏むとタイヤが回転を始める.タイヤの回転方向とと路面の水平方向の間に力を伝達する現象(摩擦など)があるとすれば,タイヤが路面を水平方向後ろ向き(左向き)に押す(路面を後ろ側に押し出す)ような力$F_R$が発生する(ことはイメージできるであろうか?).ここでも,作用・反作用の法則を認めれば,路面は,逆に,タイヤを大きさが同じで方向が逆,即ち,水平方向前向き(右向き)に押す力$F$を考えることができる(とかもしれない).図2-4右図は,後輪駆動を仮定して,この作用力$F$を含め,”自動車に作用している力”をイメージ化したもので,作用力$F$は,自動車走行において”駆動力”と呼ばれ,自動車の加速を発生させる力ということになる.

図2-4 自動車加速走行時に想定される力
図2-4右図が,所謂,Free-body Diagramであり,自動車全体の運動を加速度$\alpha$で表し,その時に自動車に作用している力を作用点や方向を考えて記述したイメージを表したものである.今回の場合,運動と関係ないので記述していないが,路面に作用している力をイメージして,路面に対するFree-body Diagramを書くこともできる(が,路面の場合はFree-bodyとは言えないかもしれない).
【機構系】
機械システムには様々な力を伝達する機械要素が使用されている.図2-5は,ベルトを使ってローラーに回転運動を伝えるベルト―ローラー系である.

図2-5 ベルト‐ローラー系
【Quiz2】ベルトで回転するローラーに作用する力は?
ベルトに発生する張力やローラー軸を軸受が押す力(支えている,支持している力)を考えてみよう.
2.2 運動の力学的表現:ニュートンの第2法則
机の上に置かれた本の鉛直(上下)方向の運動(挙動)について考える.本の重心位置に質量が集中しているとし,本を質点で考える.本の質量を$m$とし,上向きに$x$座標系を取り,加速度を$a_x$,速度を$v_x$とする.

図2-6 机の上に置かれた本に作用する力
図2-6において,重力$f_G=mg$,机が本を垂直上向きに押す力,垂直抗力を$f_N$と置いて(想定,あるいは,仮定して)おり,Newtonの第2法則より,次式が成り立つ.
\begin{eqnarray*}
\frac{d}{dt}\left(mv_x\right)=f_N-f_G=f_N-mg
\end{eqnarray*}
質量$m$が時間変化しない(と想定している)ので,
\begin{eqnarray*}
m\frac{dv_x}{dt}=ma_x=f_N-mg
\end{eqnarray*}
ここで,$v_x=\dot{x}$,$a_x={dv_x}{dt}=\ddot{x}$おり,次式の運動方程式を得る.
\begin{eqnarray*}
m\ddot{x}=f_N-mg
\end{eqnarray*}
本が静止している,あるいは,当速度運動している場合は,$\ddot{x}=0$とおけるので,
\begin{eqnarray*}
f_N=mg
\end{eqnarray*}
となり,垂直抗力はと重力は釣り合う,あるいは,大きさが同じで方向が逆の力であることが分かる.
次に,本自体に加速度が生じる状態として,本が置かれている机が地震などで上下に揺れている場合を考える.

図2-7 地震時の机の上に置かれた本の挙動br>
机が床にしっかり固定されていて,机自体非常に頑丈にできているとすると,地面が揺れ,机が揺らされると机の上に置かれている本も,まずは,机と同じように揺れるはずである.図2-7に示すように地面が上下方向に$u=u(t)$で揺れると仮定すると,本も同じように揺れるので,
\begin{eqnarray*}
x=x(t)=u(t)
\end{eqnarray*}
となる.ここで,地震の揺れを振幅$A$[m],振動数$f$[Hz]の正弦波で表現できると仮定すると
\begin{eqnarray*}
u(t)=A\sin2\pi ft
\end{eqnarray*}
と置くことができる.よって,本の”変位”は次式となる.
\begin{eqnarray*}
x=x(t)=u(t)=A\sin2\pi ft
\end{eqnarray*}
時間微分して,加速度を求める.
\begin{eqnarray*}
&& \dot{x}=\frac{d}{dt}\left(A\sin2\pi ft\right)=2\pi fA\cos2\pi ft \\
&&\therefore \ddot{x}=-\left(2\pi f\right)^2A\sin2\pi ft
\end{eqnarray*}
これを運動方程式
\begin{eqnarray*}
m\ddot{x}=f_N-mg
\end{eqnarray*}
に代入し,垂直抗力$f_N$を式で表すと,
\begin{eqnarray*}
f_N=m\left(g+\ddot{x}\right)=m\left\{g-\left(2\pi f\right)^2A\sin2\pi ft\right\}
\end{eqnarray*}
即ち,地震が発生すると,物体に作用する垂直抗力は,一定ではなくなることが分かる(当たり前かもしれないが).ここで,
\begin{eqnarray*}
\left|\sin2\pi ft\right|\leqq 1
\end{eqnarray*}
おり,垂直抗力$f_N$は,次の関係を持つことになる.
\begin{eqnarray*}
m\left\{g-\left(2\pi f\right)^2A\right\}\leqq f_N\leqq m\left\{g+\left(2\pi f\right)^2A\right\}
\end{eqnarray*}
ここで,$f_N$の符号について考えてみる.$f_N$は,本に作用する重力により,本自体が机を押すという作用力に対して,反作用力として,机が本を押し返している力である.重力に起因しているため,下側に押すという力しか生み出さないので,その反作用力である$f_N$は,逆に上側に押し返すことしかできない.そのため,$f_N$が負の値を取ることは無い(はずである).即ち,$f_N$が物理的に意味を持つのは,
\begin{eqnarray*}
f_N\geqq 0
\end{eqnarray*}
の時となる.逆に,計算上$f_N<0$となった場合は,机が押し返しているのではなく,机が本を引っ張ることになる.しかしながら,それは,現象として起こりえず,$f_N=0$で机から本が離れ始める(浮き始める)ことを意味する.即ち,
\begin{eqnarray*}
&& \quad f_N<0 \\
&& \quad m\left\{g-\left(2\pi f\right)^2A\right\}<0 \\
&& \therefore \left(2\pi f\right)^2A > g
\end{eqnarray*}
の条件を満たすと,本は机上で跳ねはじめ,宙に浮いたような状態も起こりえることになる.
【Quiz3】地震の周波数が60Hzのとき,物体が飛び跳ねる振動振幅は?
2.3 その他の運動の表現:仕事,エネルギー,運動量,力積

図2-8 質点と見なした物体$m$の運動と作用力
仕事とエネルギー
質量$m$の物体が力$\overrightarrow{f}$を受けて,速度$\overrightarrow{v}=\frac{d\overrightarrow{r}}{dt}$で運動するとき,Newtonの第2法則より
\begin{eqnarray*}
\frac{d}{dt}\left(m\overrightarrow{v}\right)=\overrightarrow{f}
\end{eqnarray*}
$\overrightarrow{v}$との内積を取ると
\begin{eqnarray*}
\frac{d}{dt}\left(m\overrightarrow{v}\right)\cdot\overrightarrow{v}=\overrightarrow{f}\cdot\overrightarrow{v}
\end{eqnarray*}
よって次のように変形することができる.
\begin{eqnarray*}
&& \quad \frac{m}{2}\frac{d}{dt}\left(\overrightarrow{v}\cdot\overrightarrow{v}\right)=\overrightarrow{f}\cdot\frac{d\overrightarrow{r}}{dt} \\
&& \therefore \frac{1}{2}md\left(\overrightarrow{v}^2\right)=\overrightarrow{f}\cdot d\overrightarrow{r}
\end{eqnarray*}
ここで,物体が$\overrightarrow{r}_1$から$\overrightarrow{r}_2$に移動したときに速度が$\overrightarrow{v}_1$から$\overrightarrow{v}_2$に変化したとすると
\begin{eqnarray*}
&& \quad \frac{1}{2}m\int_{\overrightarrow{v}_1}^{\overrightarrow{v}_2}d\left(\overrightarrow{v}^2\right)=\int_{\overrightarrow{r}_1}^{\overrightarrow{r}_2} \overrightarrow{f}\cdot d\overrightarrow{r} \\
&& \therefore \frac{1}{2}m\left(\overrightarrow{v}_2^2-\overrightarrow{v}_1^2\right)=\int_{\overrightarrow{r}_1}^{\overrightarrow{r}_2} \overrightarrow{f}\cdot d\overrightarrow{r}
\end{eqnarray*}
右辺は,力$\overrightarrow{f}$がなす仕事であり,左辺は系の運動エネルギー変化となる.この式は,作用力による位置の変化を考え,
「物体に力を加えて仕事をすると,物体の運動エネルギーは変化する」
と解釈することができ,熱力学第1法則の考え方に対応する.
力積と運動量
Newtonの第2法則より
\begin{eqnarray*}
&& \quad \frac{d}{dt}\left(m\overrightarrow{v}\right)=\overrightarrow{f}\\
&& \therefore d\left(m\overrightarrow{v}\right)=\overrightarrow{f}dt
\end{eqnarray*}
この場合は,$t_1$から$t_2$に時刻が経過したときの速度が$\overrightarrow{v}_1$から$\overrightarrow{v}_2$に変化したとすると
\begin{eqnarray*}
&& \quad \int_{\overrightarrow{v}_1}^{\overrightarrow{v}_2}d\left(m\overrightarrow{v}\right)=\int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow{f}dt \\
&& \therefore m\left(\overrightarrow{v}_2 - \overrightarrow{v}_1\right) = \int_{t_1}^{t_2}\overrightarrow{f}dt
\end{eqnarray*}
即ち,この場合は,作用力の作用時間を考え,
「物体にある時間($t_1\sim t_2$),力が作用すると物体の運動(量)が変化する」
という意味と解釈できる.
2.4 例題

図2-9 ねじ山を押し上げる場合(ジャッキ)に発生する力
ジャッキを用いて,重いものを持ち上げる際にジャッキのねじ山に発生する力について考察する.ジャッキで物体を持ち上げる場合,ジャッキのねじ山のピッチ$p$と回転軸の有効直径$d$で定まる図2-9に示す斜面上を物体重量(荷重)$W$に抗して水平方向力$P$で押し上げていく状態と考えることができる.この押し上げ力$P$と荷重$W$に対して,斜面上の接触点においては,斜面に垂直な方向の垂直反力と斜面に平行な抗力(摩擦力)が発生すると考えられる.図2-9に示すとおりであり,この場合の力の釣合は,
\begin{eqnarray*}
&& P=N\sin\alpha + F\cos\alpha \\
&& W=N\cos\alpha -F\sin\alpha
\end{eqnarray*}
となる.ゆっくり斜面を押し上げ,ほぼ速度零であると仮定し,静止摩擦係数を$\mu_s$とすると,次式を得る.
\begin{eqnarray*}
P=W\frac{\tan\alpha+\mu_s}{1-\mu_s\tan\alpha}
\end{eqnarray*}
実際には,この力を使って,有効直径を腕の長さとして,モーメントを使ってねじを回すことになる.$\tan\alpha=\frac{p}{\pi d}$を考慮すると,作用させるモーメントは次式のように表現できる.
\begin{eqnarray*}
P\cdot\frac{d}{2}=\frac{W\cdot d}{2}\frac{p+\pi d\mu_s}{\pi d-p\mu_s}
\end{eqnarray*}
2.5 演習
(1) 鉛直な面内で正弦曲線$y=a\sin\frac{x}{l}$に沿って一定速度$v$で動いている質量$m$の質点が最低点,最高点を通過するときの反力を求めよ.
(2) 鉛直方向に振動数$4$Hzで調和振動を行う台上に置かれた物体が台から離れないためには,台の振幅はいくら以下でなければならぬか?