教授挨拶
令和元年9月1日付で、山口大学大学院医学系研究科薬理学講座教授を拝命しました朝霧成挙と申します。謹んでご挨拶申し上げます。薬理学講座は、山口大学医学部の前身である山口県立医学専門学校の開校翌年の昭和19年に開講。歴代教授の山口弘孝先生、伴隆志先生、乾誠先生らが掲げられた教育と医学研究の精神を、教室員一丸となって令和の時代も発展的に継続する所存です。
私は、山口県と同じく、瀬戸内海と日本海に面した海岸線を有する兵庫県に生まれ、姫路城を仰ぎ見ながら育ちました。進学した慶應義塾大学では生物化学教室に籍を置き、天然物由来低分子薬剤の研究を行い、東京大学医科学研究所病理学教室と同大学院免疫学教室では、ヒトB細胞やT細胞の腫瘍化メカニズム、ならびに微生物刺激によるサイトカイン産生メカニズムの解析を行いました。大学院修了後、東京大学医科学研究所、東京医科歯科大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校などで動物モデルを用いた薬理学研究に携わったことがきっかけで、平成23年より京都大学医学研究科に設置された新しい枠組みの産学連携部門、ならびに名古屋市立大学薬学研究科において創薬研究を推進して参りました。
この間、ヒトゲノム計画の完了、タンパク質・脂質などの質量分析技術の発展、イメージング技術の向上、データサイエンスの一般化など、医学研究に加速度的な変化がありました。これにより、古典的薬理学が想定した様々な標的分子や、コンパートメントなどの薬理学概念の実態が明確となり、従来の薬理学が「薬物作用の仕組みを記述する」学問であったのに対し、現代では「標的に直接作用する薬物を、理解・デザインする」実行型の学問に大きく変わりつつあります。顕著な例として抗体医薬品の勃興があり、ゲノム情報を利用したテーラーメイド医療や、細胞療法も実現しつつあります (ゲノム計画では、ヒト1人のゲノム解読に約30億ドルと15年の歳月がかかりましたが、現在では10万分の1の費用、1日以内の解読が可能です)。
このような変革期に、伝統ある講座を引継ぐことは、チャレンジングかつ大変光栄なことと存じます。先端的な成果を社会に還元できるよう日々の研究に邁進しながら、学生への薬理学教育を通じて、世界的な技術革新に対応できる医療人の育成を目指し、地域と世界の医療の発展に貢献できるよう尽力いたす所存です。温かいご支援お力添えを賜われますと幸いです。
専門分野
- 生命原理と疾病メカニズムの解明、薬物の作用機序の解析
- 新規薬物開発のための創薬標的の導出とヒト病態モデルを用いた実証研究
主要な研究テーマ
- 運動器疾患の病態形成メカニズムと治療標的の解明
- 自己・非自己の生体認識、ならびに移植免疫に関する基礎研究
- 組織や個体の老化にかかわる免疫現象の解明
- 間葉系幹細胞から多彩な細胞への分化メカニズムの解明とその臨床応用
- 免疫制御剤などに関する創薬研究
応用分野
- 身体的フレイルに関するバイオマーカーと医療介入法の探索
- 心不全治療薬、創傷治癒促進薬、抗皮膚炎症化合物などの開発
- 上述の主要研究テーマ/応用分野記載のプロジェクトに関する数理生物学的考察
- 希少・難治性疾患に対するドラッグリポジショニング等での対策研究
- 天然物由来物質の生理活性の探索と医薬品・化粧品・健康食品などへの応用
- 医学研究・臨床試験における患者・市民参画 (PPI) 推進事業