ACTce-CCM
 クリティカルケアの臨床倫理分析・調整ツール

ACTce-CCMとは


クリティカルケアでは、突発的な事故や重篤な疾病、身体的侵襲の大きい手術などによって生命の危機的状況に陥っている対象に集中的なケアが実施されます。生と死に直接対峙する現場では、心肺蘇生を施すか否かというDNAR(do not attempt resuscitation)、予期し得ない状況で訪れる突然死、脳死患者からの臓器提供、救えない命への終末期ケア、家族の代理意思決定、医療職が個々に抱く価値観の相違から生じる医療チーム内のコンフリクトなど、クリティカルケアではさまざまな倫理的問題が生じます。
ACTce-CCMとは、こうしたクリティカルケアで生じる倫理上の問題についてアセスメントし、問題志向型システムに沿って問題とケアプランを適切に導くことができる臨床倫理分析・調整ツールです。


ACTce-CCM活用手引き


1. ACTce-CCMによる分析から看護実践の流れ
 ACTce-CCMは、問題志向型システム(POS)に則って倫理的問題への対応を支援するツールである。そのプロセスは、6分割表による情報の整理、分析と統合(アセスメント)、問題リスト(看護上の問題)、医療チームの目標(目標設定)、ケアの実践と倫理調整(ケアプランと実践)である。

2. 6分割表による情報整理の視点
【病態と治療】
1) 病態、2) 治療の実際、3) 治療方針、4) 治療の影響
【QOLとQOD】
1) QOL、2) 身体的苦痛と緩和、3) QOD(Quality of Death)、4) 心理社会的状況
【患者の意思】
1) 患者の病識、2) 理解力と判断能力、3) コミュニケーション、4) 治療への要望、5) 代理意思、6) 意思決定の背景
【家族の心理・社会的状況】
1) 家族構成と患者への関わり、2) 家族の認識、3) 家族ニーズと心理状態、4) 家族コーピング、5) 家族へのサポート、6) その他
【医療チームの状況】
1) 医療チームの目標、2) 患者/家族との関係、3) 医療チームの関わり、4) (代理)意思決定支援
【周囲の状況】
1) 入院環境、2) 法律と倫理指針、3) 社会・経済的状況、4) 宗教と慣習、5) その他

3. 分析と統合
6分割の側面毎に分析(アセスメント)する。統合では、全体像を把握するために6側面毎に分析したものを統合し、総論的アセスメントをする。統合は、次の問題リストを導くものであり、その根拠として位置づけられる。

4. 問題リスト
問題は、@患者の問題、A家族の問題、B医療者の問題の3つで構成される。
患者の問題は、倫理的側面だけで無く、医学的問題を含めて明らかにする。「病態と治療」「QOLとQOD」「患者の意思」などから導かれる問題が主となる。
家族の問題は、家族の心理・社会的問題と代理意思決定上の問題を明らかにする。「家族の心理・社会的状況」「患者の意思」などから導かれる問題が主となる。
医療者の問題は、チーム内のコンフリクト、個々の医療者の専門的関わり、連携・補完状態などにおける問題を明らかにする。「医療チームの状況」「周囲の状況」などから導かれる問題が主となる。

5. 医療チームの目標
目標は、@医療チームの目標、A患者/家族にとって期待される成果の2つで構成される。
医療チームの目標は、チーム内で共有・協働して対応すべき目標、看護が果たすべき目標を明示する。
患者/家族にとって期待される成果は、問題解決のための実践によって、患者/家族がどのように変化すれば良いのかを、期待される成果として明示する。

6. ケアの実践と倫理調整
ケアの実践と倫理調整は、@患者への直接的ケア、A家族への直接的ケア、B医療チーム調整の3つで構成される。これらは、3つの問題に対応するケアの3側面でもある。
患者への直接的ケアは、患者の権利擁護、情報提供、身体的ケア(苦痛緩和)、こころのケアなどがある。
家族への直接的ケアは、信頼関係構築、家族ニーズへの対応、代理意思決定支援、心のケア、家族間調整などがある。
医療チーム調整は、治療方針・問題・目標の共有、医療者間調整、(倫理)カンファレンスの開催などがある。
情緒的ケア、コーピングの促進、家族ニードを満たす、緩和ケア、危機介入、意思決定支援、悲嘆ケアなど、さまざまなアプローチ方法を参考にする。

<手引きの詳細と各シート>
→ ACTce-CCM活用手引き(PDF)
→ ACTce-CCMの臨床倫理の6分割表(PDF)
→ ACTce-CCMの臨床倫理の分析と統合(PDF)
→ ACTce-CCMの臨床倫理の問題目標実践(PDF)


ACTce-CCMの開発過程


 本ツールは、科学研究費基盤研究(C)「クリティカルケアにおける臨床倫理分析・調整システムツールの開発」(2017-2021年)によって開発した。既存の倫理分析方法と各指針の検討による構成概念の設定とプロトタイプ版の作成、プロトタイプ版による架空事例への適用、フォーカスグループインタビューに基づく構成概念の明確化、倫理的問題と倫理調整等に関する実態調査の4段階で実施した。

1.構成概念の設定とプロトタイプ版の作成
 現在臨床の場で実施されている既存の倫理分析方法に基づき、原則論、物語論、手順論の側面から構成概念を検討した。次に、関連学会の倫理と対応に関する指針について精査し、ACTce-CCMの構成概念を設定した。その結果、手順論による手法を採用し、情報の整理、分析と統合、問題のリスト、目標設定、ケアの実践と倫理調整で構成するプロトタイプ版を作成した。
 情報整理は、Jonsenらの4区分で周囲の状況に入っている家族と医療チームの情報を別区分として設定し、QOLには死の質としてQuality of Death(QOD)を加えた。よって、「医学的適応」、「患者の意向」、「QOL/QOD(Quality of Death)」、「家族の心理・社会的状況」、「医療チームの状況」、「周囲の状況」の6区分とした。ケアの実践と倫理調整の枠組みは、「集中治療領域における終末期患者家族のこころのケア指針」の中核的要素を取り入れ、「権利擁護」、「苦痛緩和」、「信頼関係の維持」、「情報提供」とした。

2.プロトタイプ版による架空事例への適用
 倫理的問題がある紙上架空事例を作成し、プロトタイプ版による分析と計画立案までを研究者内で実施した。事例は、「慢性心不全の急性増悪の加療目的にて緊急入院した事例」、「急性心筋梗塞後に蘇生後脳症、DIC、多臓器障害を起こした事例」とした。各事例の情報を整理し、アセスメントである分析と統合、看護上の問題の抽出、医療チームの目標設定、ケア実践と倫理調整の看護計画を立案した。一連の作業により、情報整理上の漏れ、分析視点の不足、問題抽出と目標設定の難易性、ケア立案の簡便性などを検討した。その結果、情報整理における統一性に問題点があることがわかったため、下位項目の修正をした

3.フォーカスグループインタビューに基づく構成概念の明確化
 クリティカルケアで生じる倫理的問題とそれに対する看護師の倫理調整などの実際をフォーカスグループインタビューにて調査した。調査内容は、臨床で経験した倫理的問題、その時の情報収集と整理方法、アセスメントの内容、目標設定、倫理調整とケアの実践とした。対象者は、急性・重症患者看護専門看護師、救急看護/集中ケアのいずれかの認定看護師の資格を持つ看護師、看護系大学でクリティカルケア看護を専門とする教育研究者とした。インタビューは2つのグループに対して各1回行い、1グループ目は13名を対象に実施し、2グループ目は1グループとは異なる7名を対象に実施した。インタビュー後に内容を分類整理し、その内容がACTce-CCMの構成概念に適合するかを研究者内で検討し、構成概念の妥当性と臨床倫理分析および実践計画立案が可能なことを確認した。

4.倫理的問題と倫理調整等に関する実態調査
 クリティカルケアで生じる倫理的問題とそれに対する看護師の倫理調整等の実際に関する質問紙調査を実施し、ACTce-CCMによってその倫理的問題が整理され、倫理調整等の対応が可能であるかを分析した。調査内容は、所属部署と経験年数の基本属性、倫理的問題の実際、問題分析上の困難と工夫、倫理調整の実際とし、自由記述で回答を求めた。対象は、日本看護協会の専門看護師登録者ホームページで急性・重症患者看護専門看護師であることを公表している216名とした。その結果、実際に対応している倫理的問題は、ACTce-CCMの6区分によって整理し分析をすることが可能であることを確認した。問題分析上の困難性は、医療チームとしての統一した取り組みが不十分であることが主として取り上げられたが、医療チームの状況を分析し医療チームの目標を指向できる本ツールで網羅できることを確認した。

→ 作成過程の論文(PDF)


著作権および研究でACTce-CCMを使用される場合


ACTce-CCMは、無料公開されている測定ツールで、使用目的が臨床実践なのか看護研究なのかを問わず自由に使う事ができます。従って、研究のための使用許諾は不要です。

但し、著作権は開発者にありますので、無断で内容や題号を改変する場合などは著作権を侵害することになりますのでご注意下さい。また、営業目的での使用はしないで下さい。書籍等に転載する場合は、開発者の許諾を得て下さい。論文等で引用する場合は、本サイトのURLを引用元にして下さい。

研究報告時には、「開発者が使用許諾が不要である旨を明記しているため、許諾を申請すること無くACTce-CCMを用いた」などの文章を付けることによって、研究倫理上は問題ありません。

<問い合わせ先>

 
Copyright(C)2018 ACEN.yu