「卒業生・太田智喜さんが語る大学時代と今」
「とにかく挑戦を!―ダートトライアルリーグ優勝を果たした太田さんが語る言葉とは―」インタビュー
モータースポーツに感じた魅力
親が電気物好きで、兄が車好きという家で育った太田さんは、自身も機械好きで車の整備に興味を持ちました。そして、山口大学進学後、自動車部に入部し、モータースポーツと出会いました。太田さんは、モータースポーツの中でも、ダートトライアルという競技を行っています。モータースポーツの魅力は「繊細さ」にあると太田さんは語ります。繊細な操作と丁寧なセッティング、自分自身の感覚と車の動きとを合わせていくことで、思い描いたように車を操作できるとき、「気持ちよさ」を感じると言います。そして、ダートトライアルは、未舗装の道を走る競技であるため、1度車が通るだけで路面の状況が変わります。その状況の中で、どうやったら速く走ることが出来るのか、というところにこの競技の魅力があると言います。
自分の志望と向き合い、選んだ大学
太田さんが、モータースポーツと出会った学生時代を振り返ります。太田さんは、高校生の時、大学は工学部に進みたいと考えました。出身地が奈良県であるため、関西圏を中心に大学の情報を集めているときに、ある新聞で、大学の科学技術の研究力ランキングを目にします。そのランキングにランクインしていた大学で、自分の学力と合う大学、という事を考え選んだのが山口大学でした。工学部電気電子工学科に入り、その後大学院まで進学したそうです。この在学中に所属していたのが、山口大学自動車部でした。
太田さんはもともとパンフレットで自動車部の存在を知り入部を決めたそうです。
部活での経験、学び
太田さんは、高校まで野球部に所属していたこともあり、野球部も選択肢の1つだったそうですが、自動車部に入部することを決めました。そこで、車の運転はもちろんですが、ジムカーナやダートトライアルといった競技に出るための準備として車の整備方法を学んだそうです。太田さんが所属していた頃は、1学年に5人くらいの部員がいたといいます。部活での活動は、学生だけの関わりでなく、走りに行った時に初めて出会う社会人の方達に車の事やその整備について教えてもらうことが多かったそうです。
太田さんは自動車部に入ることで、学生だけでなく、部外の社会人や車屋さんとの関わりを通じて、社会性やコミュニケーション力を身に付けたといいます。
部活の後輩との関わり、心がけていること
現在でも、山口大学自動車部との交流を行っています。自動車部OB会を発足し、コロナ禍の現在は出来ていませんが、年に1回OBと現役の部員たちが交流できる時間を作ったり、支援が必要な時には、後輩たちに支援が行えるようにしたりしています。太田さんは後輩たちに対する姿勢として「積極的な支援はしない、後輩たちから言ってきたら支援できるように動く」という事を決めているそうです。その理由は2つあるといいます。一つは、後輩たちに息苦しさを感じさせないためだそうです。OBの支援が多いと、設備等は豊かになるかもしれないが、OBの目を後輩たちが意識しすぎて、のびのびとした活動がしにくくなるのではないか、と太田さんは考えています。
もう一つは、後輩たちに支援があるのが当たり前だと思ってほしくないと考えているためです。後輩たちが自分たち自身で目標を掲げ、そのために必要なことを考え、動き、その上で頼ってきて初めて支援をするという形でないと、自分たちで考えることや動くことを辞めてしまい、支援がある状況に有難さを感じなくなってしまうからです。そのような状況は、意味がないと考えているそうです。そのため、たまに練習を見に行ったり頼ってきたら支援するというスタンスで、後輩たちとの距離感を保ちながら、応援していると語っていました。
仕事、そして趣味との両立
大学卒業後、「マツダE&T」という会社で働いています。奈良県出身の太田さんですが、実家から通える範囲での就職を考えていたわけではなく、車に携わる仕事という面から就職活動を行い、入社したそうです。現在は、エンジンの制御システムや電力制御に関する仕事に携わっており、直接ダートトライアルに役に立つことはないけれど、間接的に運転のイメージがつきやすいところもあるかもしれないと話されていました。ダートトライアルのレースは全国各地で行われているため、遠征が必要になることもあると言いますが、仕事をおろそかにしては一緒に働く仲間に嫌な気持ちを抱かせてしまうし、自分自身も趣味をやりにくくなってしまうため、両立できるように心がけているそうです。休日出勤をしなくて済むように残業して仕事を早めに終わらせるようにしたり、どうしても終わらない時にはチームに相談するようにしたりして業務調整をしていると言います。
日頃の生活からレースを意識している
太田さんに練習の方法について尋ねたところ「機会があればレース場で練習をしているが、毎日の運転の中で意識することが一番の練習」だと話されていました。ダートトライアルで使用している車は、公道も走ることが出来るため、通勤や日常生活でもその車を使っているそうです。ダートトライアルのレースは、「スピード域が違うだけで、特別な操作はいらない」と太田さんは語ります。
レースは未舗装の道で行われるため、横滑りを抑える練習は練習場で行う必要があるけれど、基本的な操作は日常にあると言います。普段の運転の中で、どういうハンドリングを行えば車が思ったように動いてくれるのか、丁寧な運転を心がけることが練習となっているそうです。車の挙動の感度を高めて、フィードバックを行い、理論立てて車を動かせるように、と考えているそうです。その時に、優勝できないわけではないから、どうやったら勝てるようになるのか、という風に考えるようになったそうです。
その結果、勝つためにはやはり丁寧な運転が必要であるという結論にたどり着いたと言います。パワーがない車にとって有利になる雨の日の運転ですがタイヤが滑るので腕勝負なところがあります。しかし、このように丁寧な運転を心がけた結果、太田さんに得意な条件になったといいます。地道な努力を続けることによって、太田さんは自身の感覚と車の動きを合わせることが出来るようになり、全日本ダートトライアルのシリーズ優勝を手にすることが出来たそうです。
後輩へのメッセージ
太田さんに在学生へのメッセージをお願いすると、「やりたいと思ったことに挑戦して欲しい」と語られていました。やりたいことをやった結果、成功することも失敗することもあり、場合によっては後悔になるかもしれません。しかし、その出来事は後に振り返ったときに学びになります。挑戦しないという事は、その経験が伝聞のままになってしまうことを意味しています。在学生の皆さんには、伝聞のままにせず、自分の教訓になるようにしてほしいと太田さんは言います。振り返ったときに学びになるように、大学生である今、興味を持ったことに挑み続けるような人であってほしい、と話されていました。
(取材:広報学生スタッフ 五十川さん 2022年1月25日)