第12回日本涙道・涙液学会総会 学会報告
M先生
この度、2024年7月27日~28日に愛知県名古屋市で開催された第12回日本涙道・涙液学会総会に参加させていただきました。従来、スリーサムやフォーサムとして他の学会と合同で開催されていましたが、今年は単独での開催となりました。涙道・涙液学会総会の総会員数は500人以上だそうですが、その約3分の2が出席したそうで、講演後の質疑応答や議論が活発で大変刺激を受けました。講演会場は1会場のみでしたので、全講演を拝聴することができ充足感を得ることができました。
様々なトピックスがありましたが、中でも興味を惹かれたのは抗がん剤であるTS-1内服に伴う涙道閉塞についてです。TS-1の副作用による涙点や涙小管の硬化、閉塞は不可逆的な変化のため、強固になると涙道内視鏡を用いた涙管チューブ挿入術の成功率が大きく低下してしまいます。また、TS-1投与後3~6ヶ月で10~35%と比較的高率に涙道閉塞を合併するという報告があります。TS-1は消化器癌や肺癌等、多くの治療レジメンに組み込まれているため、その副作用である涙道閉塞・流涙症に対してもより効果的な治療法の確立が求められています。そんな中で、ジョーンズチューブを用いた結膜涙嚢鼻腔吻合術以外にも、涙嚢移動術に涙湖形成を組み合わせた手法や、涙腺切除術などが今後の治療選択肢の一つになる可能性が示され、議論が盛り上がりました。
涙道疾患に関連する最新の知見に触れることができたのはもちろんですが、特別講演では「医療補償制度創設に向けて」という題目で医師・弁護士両方の国家資格を持ち、両者に精通する立場から、現在の医療制度の問題点について浜松医科大学の大磯義一郎先生の講演を聞くことができました。日本においては産科領域のみで診療行為に対する無過失補償制度が導入されています。この制度が上手く機能している背景について、今後は他領域でも同様の制度創設が望まれることについてお話頂き、大変興味深く拝聴させていただきました。
今回の学会で得た知識やインスピレーションを普段の診療に活かし、より質の高い医療を提供できるよう精進して参りたいと思います。