私の研究紹介
高分子の秩序構造と構造形成の分子ダイナミクス

- コンピュータ・シミュレーションと実験的研究
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 物質の構造や性質を原子レベルから解明すること、これは現代の科学や工学に共通する最も根源的なテーマである。 計算機を用いた物質研究には古い歴史が有るが、近年の計算機技術の驚異的な進歩は、従来は扱えなかった非常に複雑な系の計算や非経験的(量子力学的)手法による厳密な計算を可能にしつつある。各種のスペクトロスコピーやミクロ・プローブ法などに代表される新たな実験技術と並んで、大規模な計算機実験(コンピュータ・シミュレーション)による研究が、21世紀の物質研究の鍵を握るものとして大きな期待を集めている。

 巨大分子あるいは高分子と呼ばれる物質群は、汎用プラスチックから各種の電子材料や人工臓器、 更には我々の体を構成する様々な生体高分子も含めて、我々の身の回りに隈なく広がっている。これら巨大分子の研究の歴史は意外に新しい。大きな分子内自由度(形の変化)と独特な相互作用(絡まり合い)を持つ巨大分子、その構造やダイナミクスは従来の低分子物質のそれらとはかなり異なった様相を示し、 物理・化学・分子生物学・工学などに跨った独特な境界領域を形成している。

 我々の研究室では、高分子物質の示す様々な構造−特にその動的構造−を、コンピュータ・シミュレーション (モンテカルロ法、分子動力学法)と実験的手法(X線回折、熱分析、光学観察、赤外吸収)などを用いて研究している。我々の現在の関心は以下のように幾つかに大別できる。

高分子秩序系の動的構造 
 高分子秩序系(結晶、膜など)は高温で大きな構造的ゆらぎを示し、それが様々な機能とも深く関連している。生体膜が見せる高度な生体機能においてもこの様な大きな構造的ゆらぎが重要な役割を演じる。

高分子系の表面および界面の構造と役割
 物質の表面は外界との相互作用の最前線であり、外界への応答、摩擦や濡れ、構造形成と構造制御、などにおいても重要な役割を演じている。 これらは工学的に極めて重要なテーマでもある。

構造形成の微視的機構

 巨大な分子が、無秩序な状態から独特の秩序構造を形成していく過程は、神秘的でもあり極めて興味深い。単純な構造を持つホモポリマーのコラプスや結晶化、ヘテロな共重合体や独特なトポロジーを持った各種の重合体、さらには蛋白質など究極的な複雑性を示す高分子の構造形成は、これからの科学の大きな研究テーマである。

大変形と破壊の機構
 物質が破壊する時の微視的過程は現在大変ホットな研究テーマである。各種構造材料の強度の問題は言うに及ばず、各種の電子材料においても破壊過程は大きな問題である。また、地球科学的なスケールにおいてもその意味は明らかである。高分子物質の破壊過程は低分子では見られない独特の込み入った問題があり、精力的な研究が成されているが、その微視的過程は込み入っていて難解である。

様々なsoft-molecules の自己組織化過程のモレキュラー・ダイナミクス
 
高分子に限らず、大きくて柔らかい分子には、興味深い多様な自己組織化とそれによる高次の機能構造の発現が観測される。これらの分子過程は非常に興味深い研究対象である。