微生物の代謝とロバスト性に関する研究

微生物は環境に応じて代謝、特にエネルギー代謝を選択もしくは改変し、細胞のエネルギー効率を最適化していることから、様々なストレスに対応する微生物のロバスト性には代謝が大きく関わっているのではないだろうか。このような命題に関わる下記プロジェクトを過去および現在実施している。


高温での大腸菌の代謝

微生物が高温で必要とする遺伝子は生育条件により異なると考えられるが、大腸菌が高温で生育に必要な遺伝子数はこれまでの解析によって72推定されている(Murata et al., 2019)。これらの遺伝子は、genes for energy metabolism, outer membrane organization, DNA double-strand break repair, tRNA modification, protein quality control, translation control, cell division and transporters といった8つのカテゴリーに分類された。これらのうち、energy metabolism に分類された遺伝子数は21と全耐熱性遺伝子の30%を占めており、大腸菌では代謝に関わる遺伝子の欠失によって耐熱性が失われることが示唆されている。ただ、これら遺伝子のスクリーニングにLB培地を用いている為、中温(37°C)と高温(45°C)において代謝がどのように異なっているか明快にすることは難しい。そこで、グルコースを基質として中温および高温で大腸菌がどのような代謝を行なっているか、そして大腸菌の高温代謝において重要な因子が存在するかどうかについて研究を行っている。


微生物の耐熱性機構を探る

微生物の耐熱性および耐熱化機構を理解する為に、二つの異なるアプローチを試みてきた。一つは微生物のもつ遺伝子を網羅的に破壊することによって高温での生育に必要な遺伝子、つまりは耐熱性遺伝子を明らかにする事と、それにより見出された耐熱性遺伝子の機能分類と異なる微生物間での比較である。この解析により、耐熱性遺伝子はバラエティがあること、そして菌株間で共通性があるということが明らかになった(Murata et al., 2019, Charoensuk et al., 2017)。もう一つのアプローチでは、対象微生物が生育限界とする高温環境下において生き延びる細胞には変異が遺伝子に導入されている。そこで、高温に適応させて育種した微生物において細胞が耐熱化を果たした際にどのような遺伝子にどのような変異が起こるかを解析した。変異は主に細胞膜に関連する遺伝子や転写、翻訳に関わる遺伝子に起こり、それら変異遺伝子には異なる微生物間で類似性が見られたことから、耐熱化に一般性がある可能性が示唆された(Kosaka et al., 2021)。これらの解析で、幾つかの疑問が残された。耐熱性遺伝子の菌株での偏りと、耐熱性と耐熱化の違いである。