北九州市立美術館 連続美術講座
講座 現代美術史

3-2.到達不可能な他者
 

"こうして脱構築は、決定不可能なものの経験における決定の思考として、アポリアの思考であると言える。脱構築は単に、所与の言説の自己矛盾を暴露し、それを自壊に導くことを目的とするのではなく、肝心なのは、固定化し、自明化した既成の言説的・制度的構築物を決定不可能な他者の経験(アポリアの経験)へと開き、その経験の中で決定の責任を問いなおすことである。アポリアの経験のないところには他者との関係がない。他者との関係はアポリアである。他者を他者として知るためには他者を知ってはならない。他者を知るためには他者を私の世界の一部とし、私の理解可能な地平に他者をとりこみ、他者の他者性を内化、同化しなければならないが、そのとき他者はまったき他者ではなくなってしまう。他者は到達不可能なものとして到達されねばならない。"

『フランス哲学・思想事典』(編集委員:小林道夫、小林康夫、坂部恵、松永澄夫)、弘文堂、1999年1月、541頁。

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