1「気楽に生きる」「好きなことだけをして生きる」ことの代償の増大
いま、「出世より趣味に生きたい」、「出世よりものんびり生きたい」、「好きなことだけをして生きたい」という若い人は多い。そういう生き方をするのも一つの選択であり、そのような選択自体が悪いとは言えない。しかし、そのような生き方をするために支払わなければならない代償、つまり犠牲にしなければならないものは、これからは、これまでよりもずっと大きなものになるかもしれない。
村上龍は、人生の成功者の定義として、「生活費と充実感を保証する仕事を持ち、かつ信頼できる小さな共同体を持っている人」という仮説を提唱している。この定義でも、生活費の確保は、必須条件とされていることを忘れてはならない。
2 セイフティネット -------- 自己の能力向上こそベストなネット
バブル期までの日本の社会では、終身雇用制度と年功序列制度とが最大のセイフティネットだった。セイフティネットとは、綱渡りをする人の下に張る網のことである。あの網があるから、綱渡りをする人は、例え綱から落ちても大けがはしない。同様に、終身雇用制度があったから、不況になっても解雇されなかった。年功序列制度があったから、普通にやってさえいれば、年齢と共にポストも上がったし、給料も上がった。これらがあれば安心していられる。しかし、今や、世界的な競争の激化で、企業には、もはやそんなことをやれる余裕がなくなった。いま、これまでのセイフティネットがなくなりつつある。
では、今後のセイフティネットは何か。それは、自分の能力を高めること、自分の競争力を高めること、例え解雇されても次の職場を見つけられる技能をもつことであろう。
後で述べるように、企業は、新入社員の教育に時間をかけることを、引き合わないことと考えるようになってきている。だから、教育に手間のかかる人は企業から歓迎されない。企業が望むのは、短い時間で企業が望む分野のスペシャリストになれる人だ。諸君は、在学中に、その要請に応えられる準備をしなければならない。
求人倍率が高い職種
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求人倍率が低い職種
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職種
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倍率
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職種
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倍率
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営業(法人新規)
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9.95
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医療事務
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0.05
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管理職(営業)
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7.09
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商品開発
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0.07
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営業(個人新規)
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5.31
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商品企画
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0.08
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セールスエンジニア
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4.75
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管理職(サービス系)
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0.10
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業務
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3.15
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マーケティング
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0.11
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電気回路設計
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3.04
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家政婦・ホームヘルパー
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0.18
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機械設計
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2.88
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管理職(技術系)
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0.18
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CAD設計
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1.89
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CGデザイナー
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0.18
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研究開発(機械)
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0.21
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企画
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0.22
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日経 2001/7/20
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3 専業主婦 ―― ますます贅沢なものになる職業
「女子学生は真面目であるが、その真面目さと努力の程度が中途半端である」との意見もある。もし、その見解が正しいとすれば、それは、女性には「適当な職場がなければ専業主婦になってもよい」との意識があるからであろう。ここで、職業としての専業主婦業について考えてみよう。 近年、勤労者の賃金は低下傾向にある。特に非正規雇用者の収入は低い。今後は、現在並み、または親並の生活水準を維持するためには、共稼ぎをしなければならない世帯が大部分になっていくであろう。
今も、専業主婦願望をもつ女性の数は多い。あるアンケート調査によると、現在専業主婦である女性の 64 %が、専業主婦であることに満足している(2000)。この満足度は、他の職業でよりも高い。
しかし、現在でも、専業主婦の配偶者は、たいてい高収入の人だ。専業主婦業は、既に贅沢な職業であるといえる。しかし、これからは、収入の格差が大きくなるであろうし、収入の大幅な伸びが期待できる人の割合は低いであろうから、今後は、専業主婦業はますます贅沢な職業になっていくであろう。
◎ 夫の所得(横軸)と妻の有業率(縦軸)との関係

4 職業を考えるに当たって--------「夢」ではなく「目標」を
諸君は勉強のために大学に進学した。では、諸君は何を目的に勉強すべきだろうか。また、教員は何を目的に諸君を教育すべきだろうか。
僕は、君達に対する教育の第一の目的は、君達が社会人・職業人になった時に、肩身の狭い思いをしないで済むための準備をすることであろう、と考えている。多くの人は、一生のうちのかなりの時間を職場で過ごす。その職場で、肩身の狭い思いをするようでは、充実した人生とは言えない。
諸君の専門は、就職した時点でほぼ決まると考えた方がよいであろう。職業(専門)を決めることと結婚とは、人生の2大選択と言える。
諸君は自分の職業選択については、漠然と考えてはいけない。自分がなぜその職業を希望するのか、また希望していることはどれくらいの確率で実現しそうかなどを、突き詰めて考えるよう努力することが必要であろう。職業を考えるに当たっては、社会が求めているものと自分自身がもつ能力と好みとを客観的に分析することから始めるべきであろう。
職業は趣味とは違う。あることを趣味にするには、それを好きだというだけで十分だが、それを職業にするには、好きであることは、満たすべき条件の一部分に過ぎない。他に様々な条件がある。例えば、音楽や絵が好きな人は多い。しかし、音楽家や画家として、それだけで一生生活するには、1万人に1人の才能でも不十分であろう。
よく夢をもつべきだ、という。しかし、「夢」という言葉の語感は、あまりにも漠然としている。諸君がもつべきものは、「夢」ではなくて、「目標」であろう。「目標」には、それを実現するための「戦略」がいる。諸君の場合には、「戦略」とは、諸君が生きる時代の特色を予測した上で、「何をどのように学ぶべきか」を考えて、それを実践することであろう。
多くの学生諸君は、就職活動で初めて社会の現実と向き合い、自分の能力向上の必要性と社会の厳しさを痛感するらしい。
求職活動ではライバルに勝たねばならない。どの競争も似た面をもつが、就職・職業活動においても、社会的需要が高く(求人数が多く)、ライバルの数が少なく、ライバルのレベルが低い分野ほど有利である。これも、希望職種を決めるときに、考えるべきことの一つであろう。
一般論としては、特定の職業分野を目指すのはよいとしても、ある狭い分野のことしかやりたくないと思うのは、リスクが大きい。在学中からやってもよいと思う分野を複数もつべきである。

5 フリーターの危険性 ------- 「自分の技術」をもてるか?
(付:留年のコスト)
いま、フリーターの数が急増しつつある。国が統計を取るときのフリーターの定義は「定職についていない35歳以下の人」である。35歳以上では、単に「失業者」として分類される。
フリーターが急増している原因として、就職難(15歳ー25歳の失業率は、平均失業率の約2倍)と共に、「無理して働かなくてもよい」などという若い人の意識の変化があげられている。フリーターには様々な危険性がある。
(1) 一定の技術を身に付けるには、数年(5年位)かかる場合が多い。短い周期で転職を繰り返すと、フリーターの定年(35才)までに、技術が身に付きにくい傾向がある。「自分の技術」がないと、評価も低いし収入も少ない。
(2) 就職の際にも、フリーターであることが不利であることが多い。フリーターは、「やる気がない」「責任感がない」「能力が低い」「規則的な生活ができない」などと思われることが多いという。
(3) 35才を過ぎると、年齢的にも再就職も難しくなる。そのころまでフリーターをやっている人には、ずっと定職に付かない傾向があるという。若い時は伸びる能力が高い時期だし、若い時に身に付けた能力は長い間見返りを与えてくれる。その貴重な時期を有効に過ごさないことによる損失は大きい。
(4) UFJ総研によると、15-34歳の人の平均年収は、正社員では387万円、パートやアルバイト(フリーター)で105万円と約4倍の差がある。生涯賃金も2億千5百万円と5千2百万円と4倍の差があるという(2003)。また、フリーターの収入は、20代を頂点に、年齢が上がるほど減る逆年功序列型である。若い独身のときは低賃金でもかまわないかもしれないが、結婚をして社会的責任が重くなると、低賃金は負担になる。
(5) フリーターはフリーターどうしで付き合うことが多いという。フリーター仲間の付き合いだけでは、相互に学べることが少なく、人脈も広がらない。そのようなことで、未来への展望を持てないフリーターも多いと言う。
フリーターには、「夢追求型」「モラトリアム型」「やむを得ず型」の3つの型があるという。フリーターはやるなら目的意識をもってやるべきである。
本来は、最も将来のことを考えなければならないのがフリーターである。フリーターは、5年後の自分の姿を考えておく必要がある。日本の社会では、1歳年をとるごとに選択肢が狭まっていくからである。とにかく、フリーターは続ければ続けるほど、就職が難しくなり、抜け出せなくなるという。
ここで、ついでに、フリーターになることと共通する面もある留年することについても見てみよう。平均的に見れば、4年間大学で学ぶためには約1200万円かかる。国立大でも、授業1コマ1回当たりの授業料は3千円強だという。
1年留年すれば、生涯には1千万円以上の減収になるという(授業料+生活費+定年1年前の年間収入+(年金、退職金への影響))。アルバイトで月に10万円稼いでも、年間120万円に過ぎないから、アルバイトをしたために留年してしまうことなどは、経済的にみれば、論外である。
◎ 就職時のフリーターの評価

6 「スペシャリストの時代」に必要な教育(1)
―― 大学での専門と就職先での専門との関連性の希薄化
―― 基礎的知識、幅広い知識の必要性
今は、「スペシャリストの時代」だと言われる。他人に負けない専門知識や専門技術をもったスペシャリストでないと評価が低い場合が多い。IT機器の発達は、事務職、特に補助的な事務職の需要を激減させた。
では、大学はスペシャリストを養成するための教育を行えるだろうか。諸君の先輩は多様な分野に就職している。その多様な就職先でも、スペシャリストとして行う仕事の内容はさらに多様である。それだけでなく、企業は、変化する社会の需要に合わせて、業務内容を変え続けなければ生き残れない。
いま、経営者が最も口にする言葉は「スピードと選択」だ。だから、企業が必要とするスペシャリストの種類と内容は、同じ企業であっても、時代と共にかなりの速さで変わっていく。特にIT革命が始まってからは、「ドッグイヤー」「マウスイヤー」と言われるほど変化が速まっていて、かつての7年間の変化が今の1年間の変化に相当するという。狭くて深い先端的な専門的知識は、すぐに使いものにならなくなってしまう。これからは、今まで以上に、基礎的で幅広い知識と能力とが求められる時代になると思われる。
その多様であって、しかも早い速度で変化していく専門分野に対応したスペシャリスト養成のための教育を、大学で行えるはずがないし、企業も必ずしもそのような教育を望んではいない。専門学校卒業生だけが歓迎されるわけではない。即戦力になりうると企業が考えているのは、転職してくる人の場合である。
大学新卒者として企業が望んでいるのは、入社してから短い時間で企業が望む分野のスペシャリストになれる能力をもった人である。そして、情勢の変化に対応して、自分の専門分野を変えていける人である。言い換えれば、必要とされる分野についての詳しい知識が今はなくても、基礎的な学力をもっていて、その分野の専門書を読めば、それを理解できる人と言ってもいい。
そのような能力をもつには、なるべく基礎的なことを、幅広く勉強しておくことが望ましい、と僕は考えている。将来の仕事はスペシャリストとして行うことが望ましいが、大学教育の段階では、狭い分野を深く行う教育は効率が悪いし、リスクが高い。幅広い分野の職業に対応できるような教育の方が効率がいい。このことは、文系でも理系でも同じであろう。
諸君は、与えられた仕事にスペシャリストとして対応できなければ、低い評価しか得られない。変化への適応力を生み出すものは、幅広い基礎学力と幅広い経験である。それに、幅広く学んでみないと、自分の本当の職業的適性は分からないであろう。
◎新卒採用時に重視する能力 (ディスコ(就職調査会社・2004))
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