基礎研究
1.肺悪性腫瘍に対する局所抗癌剤治療
切除不能な肺悪性腫瘍に対して全身抗癌剤治療が行われるが強い副作用が問題となる。我々は、抗癌剤を肺動脈から注入して肺静脈から抜き取る新しい局所抗癌剤治療の研究を行っている。小動物においてその有効性を証明し、最近では大動物において前臨床試験を行い良好な結果を得た。
2.肺気腫と肺癌
肺気腫と肺癌はともにタバコに含まれる有害物質による肺傷害が原因となりうる疾患である。しかし肺気腫と肺癌との関係についてこれまで調査されてこなかった。我々は喫煙歴を有する肺癌患者を調査することにより、肺気腫のある人に発生した肺癌は治りにくいことを見つけた。その一つの理由として、肺気腫がある人とない人との間で肺癌遺伝子異常に違いがある可能性が考えられる。さらに、肺気腫自体が肺癌の進行に有利に働いている可能性が考えられる。これまでに当科で切除された肺癌標本を使用して、肺癌細胞と肺癌周辺細胞とを同時に検査することで肺癌と肺気腫との関係について検討中である。
3.癌と血管新生
癌の転移、浸潤には様々な血管新生因子が関係している。それらの因子のなかには腫瘍自身が生成しているものがある。日常診療においても癌を切除するとすぐに転移・再発がでてくることがある。この現象はある種の血管新生因子により引き起こされていることを証明した。癌手術の後にはこのような血管新生因子を抑える薬物療法を行うことにより癌の再発を抑えられるかもしれない。同様の方法で、抗癌剤治療における血管新生因子の影響を調べることが現在の課題と考えている。
4.腫瘍内におけるDNA damage responseと腫瘍悪性度との相関
生体細胞は常に内外からストレスを受けてDNAの損傷が発生する。このときにDNA damage responseのpathwayが活性化して、DNA損傷部位を認識し正確な修復を行う。このpathwayが活性化しないと、DNA mismatchが集積して発癌が起こると仮定されている。すなわち、このpathwayに関与するタンパクの発現が低下していれば、DNA damage responseは正常に機能していないことが想定され、そのためにますますDNA mismatchが集積し腫瘍の悪性度が増すことが予想される。このpathwayにあるいくつかのタンパク発現を見ることで、腫瘍の悪性度を評価できるかについて検討中である。
5.CGH(Comparative genomic hybridization)法、LSC(Laser Scanning Cytometry)による肺癌の染色体遺伝子異常の解析
肺癌の染色体遺伝子異常の解析をもとにさまざまな癌遺伝子が発見されてきた。我々はこれまで肺癌切除標本から本法を用いて染色体遺伝子異常の解析を行ってきた。これにより癌の進行、悪性度に関係する異常を同定した。同時に特に喫煙患者では肺癌発見時にすでに多くの染色体遺伝子異常があることが分かった。現在タバコによる生体毒性と染色体遺伝子異常との関係について解析中である。
臨床研究
1.胸腔鏡下肺癌手術
胸腔鏡の普及に伴い肺癌に対する胸腔鏡下手術の適応が拡大されつつある。しかし小さい傷の手術により体への負担を軽減することの代償として癌の根治性が損なわれることは許されない。当施設で行われた手術患者さんについては一人一人アフターケアを綿密に行い、その結果を手術にフィードバックしている。肺には再生能力がないため、肺癌の手術は常に機能障害を残す可能性をもつ。従って手術後の肺機能を正確に推定することは手術を決める上で極めて重要である。我々はコンピューターソフトを用いたCT画像のデジタル解析や、肺血流イメージとCTとの合成画像を用いた新しい画像解析により手術後の肺機能をシミュレーションしている。肺の機能が悪い場合に、このような画像によるシミュレーションは手術合併症の危険性や手術後の社会復帰の時期の推定にも有用であることを証明した。肺気腫の合併などにより術後肺機能が思わしくない場合は個別的にインフォームド・コンセントを行うことにより、より小範囲の肺切除を行っている。2cm以下の早期肺癌では肺切除範囲の縮小でも根治性が損なわれないことが証明されつつある。
2.肺気腫と肺癌
肺気腫と肺癌はともにタバコに含まれる有害物質による肺傷害が原因となりうる疾患である。しかし肺気腫と肺癌との関係についてこれまで調査されてこなかった。我々は喫煙歴を有する肺癌患者を調査することにより、肺気腫のある人に発生した肺癌は治りにくいことを見つけた。その一つの理由として、肺気腫がある人とない人との間で肺癌遺伝子異常に違いがある可能性が考えられる。さらに、肺気腫自体が肺癌の進行に有利に働いている可能性が考えられる。これまでに当科で切除された肺癌標本を使用して、肺癌細胞と肺癌周辺細胞とを同時に検査することで肺癌と肺気腫との関係について検討中である。肺気腫を合併した肺癌では、たとえ早期の癌であっても再発の可能性が高いことから、手術後に抗癌剤治療が必要となることが考えられる。さらに、肺気腫を合併した進行肺癌と、肺気腫を合併しない肺癌とでは、抗癌剤の効き目に違いがある可能性もあり、今後解明すべき課題である。
3.慢性閉塞性肺疾患症例に対する術前臭化チオトロピウム水和物(長時間作用型吸入抗コリン薬)投与の周術期管理における有用性
肺癌で手術を受けられる方の多くは喫煙歴があり、ある程度の肺機能障害を伴うことが多い。肺癌の手術では約20%の正常肺の切除の必要があり、さらに全身麻酔による一時的な肺機能低下を伴うことになる。このため手術後に肺炎や無気肺を合併した場合に社会復帰が遅れたり、重篤化して呼吸不全に陥り致命的な転機をたどることもある。手術後の残存肺機能を正常に保つことは術後合併症を予防するために重要である。臭化チオトロピウム水和物(長時間作用型吸入抗コリン薬)はタバコによる肺傷害が原因で起こる息ぎれに対して有用性が証明された吸入薬である。本薬剤を肺癌手術の前後に使用することで残存肺機能を正常に維持し、早期社会復帰を可能とし、結果的に術後合併症を予防できる可能性がある。