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パーキンソン病に対する外科治療
-脳深部刺激療法 Q & A-

山口大学医学部附属病院手術部・脳神経外科
准教授 藤井正美

Q. パーキンソン病とは?

A.パーキンソン病は脳の黒質で作られるドパミンという神経伝達物質が何らかの原因で低下することにより引き起こされる病気です。この病気は1817年学会に初めて報告したイギリスの医師James Parkinsonにちなんで名付けられました。わが国におけるこのパーキンソン病患者さんの割合は約1000人に1人といわれています。そうすると国内に約12万人の患者さんがいることになり、全国で多くの患者さんがこの病気と戦っているわけです。

Q.パーキンソン病の症状は?

てのふるえ、筋肉が硬くなる、動作緩慢A. 症状はふるえ、筋肉が硬くなる(固縮)、動作緩慢および姿勢保持障害といった運動機能の障害が中心ですが、その他に排尿障害、便秘、立ちくらみなどの自律神経障害や気持ちが落ち込むといった気分障害が認められます。

Q. 治療方法はあるのですか?

A. パーキンソン病に対する治療はまず薬物治療より開始されるのが基本です。脳内のドパミンを増加させるような薬剤(L?ドーパ製剤、カバサール、ペルマックスなど)が単剤もしくは多剤併用で使用されます。しかし薬剤が長期に使用されると、症状の日内変動が激しくなったり、異常運動(ジスキネジア)や幻覚が出現したりすることがあります。また便秘、嘔気、食欲低下、不眠などの副作用に悩まされることも少なくありません。このように薬物療法での調整がうまくいかない場合、外科治療の適応となります。

Q. 外科治療とはどんな方法ですか?

A. 手術は定位脳手術という方法を用いて行います。まず局所麻酔下に定位脳手術装置を頭蓋骨にピンで固定します(図1)。続いて両側前頭部に3cm程度の皮膚切開を行い、直下の頭蓋骨に1cmの小さな穴を開けます。

そして脳室造影(脳の中央にある液体の貯留した空間に造影剤を注入すること)またはあらかじめ撮像したMRIおよびCT画像から目標点を計測し、先に述べた定位脳手術装置(誤差が0.2-0.3 mmと精密な装置です)を用い、電極を正確に目標地点に留置します。留置する場所は視床下核と呼ばれる部位でアズキ大の大きさしかありません。ここに正確に電極を留置するためには、熟練のテクニックが要求されますので、特定の脳神経外科医にしかできない手術といっても過言ではないでしょう。電極を留置した後は、創部を閉鎖し、体外にコードを誘導し手術を終了します。

図1:定位脳手術装置を頭蓋骨に固定
図1:定位脳手術装置を頭蓋骨に固定

術後4日から1週間かけて病室で体外からの試験刺激を行い、効果が確認された場合、全身麻酔下に脳深部刺激装置一式の体内埋め込み手術を行います(図2)。患者さんの中には、丸坊主がいやと言う方がおられますが、手術では部分的にしか髪の毛を剃りませんのでご安心下さい。また体内に金属を埋め込むので、不安になられる方がおられるかもしれませんが、外見からは埋め込んだことはほとんどわかりません。

図2:脳内に埋め込んだ電極および前胸部に埋め込んだパルス発生器(電池)
図2:脳内に埋め込んだ電極および前胸部に埋め込んだパルス発生器(電池)

2回目の手術後はプログラマーという装置を用い刺激条件を設定します。埋め込んだ電極は4極あり、それらの中から1極または2極を選んで単極もしくは双極で刺激をします。刺激条件は刺激強度1-4V、パルス幅(1回の刺激時間)60-120マイクロ秒、周波数130-170Hzの範囲で調整します。条件設定は患者さんの調子を見て担当の医師がおこないます。また患者さんにはコントローラという装置をお渡しします。この装置によってスイッチを入れたり、切ったりすることが可能です。また脳深部刺激療法は薬物療法と併用して行われますので、手術後は薬剤が減量になるかもしれませんが、全く服薬しなくてもよいわけではありませんので、その点ご注意下さい。

Q. 合併症はありませんか?

A.手術を希望される患者さんの一番の不安は、ひどい合併症がおこるのではないかということだと思います。我々は今までに40例近くの手術を行いましたが、重篤な合併症は起こしておりません。ただ刺激が強くなると副作用として言語障害、異常感覚、異常運動(ジスキネジア)などを生じる場合があります。

Q. 手術の効果はありますか?

A. 脳深部刺激療法はパーキンソン病患者さんの振戦(手及び頭部のふるえ)、無動症状、固縮、歩行障害、ジスキネジアに著明な効果を示します。しかし便秘などの自律神経障害、精神症状および痴呆には効果がありませんので、ご了承下さい。

Q. 埋め込んだ装置は安全ですか?

A. さらに脳深部刺激療法にも短所があります。まず5-6年毎に埋め込んだバッテリーの交換が必要なことです。しかし交換は心臓のペースメーカーを埋め込んだ方と全く同じやり方で、簡単に局所麻酔下に行うことができます。次に高磁場の機械(大型コンピュータ等)に近づくと、電源がオフになり、動けなくなることがあります。これはコントローラでスイッチをオンにすれば元通り動きが良くなります。しかし自宅で使用される電化製品の影響は受けませんし、飛行機などの乗り物も影響を与えませんのでご安心下さい。ただ病院のリハビリで用いる機器で使用してはいけない物がありますので、その点だけご注意下さい。さらに異物を埋め込みますので、感染の危険性がありますが、きちんと対処すれば問題ないと思います。

Q. 信頼できる治療法ですか?

A. 先日、69才の主婦の方が、脳深部刺激療法により家事や買い物が出きるようになったことを、また60才の男性も畑仕事ができるようになったことを大変喜んでおられました。脳の手術は怖いし危険だとお感じになる患者さんは多いのではないでしょうか。しかし最近の医療技術は大変進歩しております。近代の脳神経外科医を信じて頂けませんか?きっとパーキンソン病患者さんのお役にたてるものと確信しております。

 

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