講座の歴史


     
1944年(昭和19年)  山口県立医学専門学校の開校とともに医化学教室として開講 
1947年(昭和22年)  専門学校が山口県立医科大学に昇格  
   中村正二郎氏が初代主任教授として京都帝国大学より着任
1964年(昭和39年)   国立移管されて山口大学医学部 生化学講座となる
1974年(昭和49年)  竹尾和典氏が主任教授となる
1977年(昭和52年)  講座の複合化がされ、生化学第一講座と名称変更される
1992年(平成4年)  中村和行氏が主任教授となる
2000年(平成12年)  大学院大講座制に基づいて山口大学大学院医学研究科・分子制御系専攻・分子感知医科学講座・生化学と名称変更される
2006年(平成18年)  大学院部局化に伴い、現在の大学院医学系研究科 情報解析医学系専攻 生体情報医科学講座 プロテオーム・蛋白機能制御学分野の名称となる
2015年(平成27年)  9月1日 清木‐古谷 誠氏が主任教授となる


  • 中村正二郎:昭和19年4月に、中村正二郎が本講座の初代主任教授として京都帝国大学医学部から着任しました。当時は、実験に必要な装置や 器具が乏しく、「必要なものは自分で作れ」でまさしく手作りの実験でした。中村正二郎は、当時全く新しい生体物質の分析法であるチゼリウス(A.W. K. Tiselius: 昭和23年ノーベル化学賞受賞)の電気泳動装置をいち早く導入し、生体内の蛋白質の分析を開始しました。一方で、独自に新しい電気泳 動法の開発を行い、生体物質同士の特異相互作用の検出のために開発した交叉泳動法(Cross Electrophoresis)を用いて、酵素・基質複合体や抗原・抗体複合体の検出に成功しました。この成果は、世界に先駆けるものでした。自然科学 分野での研究において理論や技術の多くが欧米から輸入されていますが、交叉泳動法は日本で独自に開発されたものとして特筆すべきものです。その後、交叉泳 動法は親和電気泳動法(Affinity Electrophoresis)として発展し、生物特異結合反応の反応速度論的解析法として有用な方法論になりました。
  • 竹尾和典: 昭和49年1月に、竹尾和典が山口大学医学部生化学講座の主任教授となり、酵素・基質複合体(とくに、グリコーゲン ホスホリラーゼの研究)に優れた業績をあげました。当時、この酵素のリン酸化による活性調節機構が、E.H.Fischer博士とE.G.Krebs博士 (平成5年ノーベル医学・生理学賞受賞)らにより提唱されて注目を浴びていました。竹尾らは、中村正二郎らが開発した電気泳動法を用いてこの酵素とグリコーゲンとの複合体形成の 反応速度論的解析を解析し、親和電気泳動法の理論的基礎を確立しました。さらに、昭和50年にはP. O’Farrell博士が報告した2次元電気泳動法(Two-Dimensional Gel Electrophoresis: 2-DE)の原理を用いて、2次元親和電気泳動法(Two-Dimensional Affinity Electrophoresis: 2-DAEP)を開発し、体液中の多様な蛋白質の分析を行いました。とくに、極めて多様性の高い抗原特異抗体の完全分離をめざし、ウサギ血清中の抗DNP ハプテン抗体の分離とDNPハプテン・抗体複合体の反応速度論的解析に成功しました。その後、2-DAEPを用いてマウス血清中の抗原特異ポリクロナール 抗体を単一なモノクロナール抗体に分離することに成功し、さらに抗原刺激による抗体の多様性発現や親和性成熟の解析に成功したのは次代主任教授の中村和行でした。
  • 中村和行:平成4年8月に、中村和行が山口大学医学部生化学第一講座の主任教授となり、2-DEを用いてヒトの生命現象の維持に連座する蛋白質の網羅的な研究(ヒト プロテオミクス)を行った。特に、疾患に連座する蛋白質同士の相互作用と機能制御およびそれらの情報の細胞内伝達に関わる分子の研究を進めました。当時、田中耕一氏やJ.B. Fenn博士(平成14年ノーベル化学賞受賞)が質量分析法を用いて生体高分子の解析への応用を試み、蛋白質の網羅的な解析の可能性を提唱していました。 中村らは、2-DEと質量分析法を用いて熱刺激による白血病細胞のアポトーシス誘導やC型肝炎ウィルスなどの感染による細胞の癌化に関わる蛋白質の研究に 優れた業績を挙げてた。また、プロテオミクスの超微量化と高速化を目指してプロテインチップと多重質量分析計の融合技術の開発を目指してきました。平成 13年2月にポストゲノム計画として提案されたヒトプロテオーム計画(Human Proteome Project)を推進するために、ヒトプロテオーム研究の国際諮問機関であるヒトプロテオーム機構(Human Proteome Organisation: HUPO, http://www.hupo.org )の設立と運営にあたり、HUPO理事としてヒトプロテオミクスの教育・訓練の指導を行ってきました。